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1000文字小説 作者:折坂勇生
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73・甘えと現実


 生徒たちの笑い声が、俺の悪口のように聞こえてきる。
 気のせいなのは分かっていた。
 分かっているだけマシだ。一時は、本当に俺のことを嘲笑っていると思いこみ、感情を抑えるのに必死だった。
 人が、他人の事を意識することなんかない。どいつも自分のことしか考えず、大事にすることを要求してきて、甘やかすのが当然のように思っている。
 俺だって、人のことは言えない。
 俺は俺を嫌っている。
 しかし、俺が可愛いのも事実だ。
「おい、静かにしろ」
 授業中。
 教師である俺は、うるさくなってきた生徒たちに向かって、声を荒らげた。俺の声は凄みがない。怒鳴り声にならない。泣いたような情けない声なので、小学生のガキどもの騒音によって、呆気なくかき消されてしまう。
 生徒は俺の授業など聞いちゃいない。
 うちのクラスは学級崩壊に一歩一歩と近づいていた。授業らしい授業など、成立しない。厳しく制裁しようとしても、自分の子供だけが可愛くてしかたない保護者たちが、ヒステリックに罵詈雑言を浴びて俺を非難してきてしまう。今でも、罵倒だらけで、ストレスで胃に穴が空くほどだ。
 好きでなった職業だ。俺の力の見せ所だと、色々とアイデアを練ってクラスを立て直そうと努力してきた。なのに、親が割って入るので何もできなくなる。
 今のように、授業が成り立たない状態の方がマシなぐらいだ。
 躾けなんかろくにされず、ペットのように甘やかすバカ親を上手く利用してきた子供たちは、俺のような大人など恐くはなく、自分勝手なことばかりしていた。
 限界だった。俺は教科書を投げ捨てた。
「遊ぶんじゃない!」
 茶髪に染めて、スマホでゲームする生徒の前にやってくる。子供はガムを噛みながら、俺のことを睨み付ける。
「はぁ。なにいってんの、あんた」
 子供の顔面が飛んだ。
 血が噴き出た。
 もう一発、殴りつけた。
「ちくしょう!」
 そいつは俺に向かってきた。
 しかし体格が違う。子供の力などたいしたことはない。俺は殴り返す。子供は倒れた。その体を蹴りあげた。
 気絶したのか、動かなくなった。
 教室は、恐怖の悲鳴と泣き声で阿鼻叫喚になった。

「おまえ、自分が何をしたか分かってるのか」
 警官が、俺に怒鳴りつけた。
「分かってますよ」
「子供になんてことを……」
「だからですよ。甘ちゃんな子供に、現実を見せてやったんです。子供だから甘やかして、嘘をつくのが嫌になったんですよ。ヤツらだって気付いたでしょ、世の中はそう甘くないってことがね」
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