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1000文字小説 作者:折坂勇生
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62・彼女を疑うということ

 彼女から告白されて三年が経っている俺たちの仲は未だ熱が上がることも下がることもなく、上々とした形で一段一段順調に階段を登って行っている。半年前から同棲生活を送るようになってからも、意見の食い違いや生活の価値観による喧嘩など起こることなく、だからといって浮かれたり溺れたりせずに、互いを知り尽くした銀婚式の夫婦のような素朴な関係を築いていた。就職したばかりの仕事が順調にいってくれれば、一年後ぐらいにはプロボーズとなりそうだと、つきあい始めの時は想像すらしていなかった未来が、手に届く距離まで到達していた。
 結婚という文字が頭にちらつくにつれ、俺たちの3年間に疑問が浮かんできた。俺は彼女と付き合って満足している。だけど、彼女の方は満足しているのだろうか。平凡な付き合いに馴染んでいたから、そんな彼女の気持ちを疑ったことがなかった。
 告白されたときは、そろそろ交際相手が欲しかったし丁度良い機会だと適当な気持ちで了解したのだけど、付き合ってみると、そんないい加減な気持ちで交際したのが申し訳なくなったほど出来の良い彼女だった。控えめで自己主張は少ないけれど、笑顔が似合う明るい性格をしていて、家事全般が得意で俺に面倒を押しつけない遠慮さを持った非常に家庭的な女性だった。
 あどけなさが抜けてない可愛い顔付きは、男にモテないわけがない。仕事先で、彼氏がいるのを知りながらアプローチしてくる男がいると文句を言っていたことがある。口ぶりから、その男が初めてというわけではなさそうだ。言い寄ってくる男は多い。女の嘘は、男には見破れない。男によっては、誘いに乗っているのかもしれない。実は隠れて浮気してるんじゃ?と考えたら、次々に思い当たる野郎が浮かんできて、顔面蒼白になってきた。
 彼女を信じているけど、俺に愛想を尽かして、別の男と関係を持っているのではとの不安は、根拠がなくても強くなってきてしまった。
「なあ、俺のこと本当に好きなのか?」
 料理をする彼女はシチューをかき回す手を止めて、顔をこっちに向けた。俺の質問が冗談でないと分かると、不思議そうに目をパチクリとさせる。
「なに言ってんの、そんなの決まってるじゃない」
 俺に「べーっ」と声を出しながら舌を見せる。
「そんなこと言うあんたなんて大嫌いです」
 無邪気に笑ってから、料理に戻っていった。
 俺は俺に向かって、こんな彼女を少しでも疑うなんて相当のバカだと言いたくなった。
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