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1000文字小説 作者:折坂勇生
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60/82

60・8年ぶりの再会


「お久しぶり」
 愛する人の眠るお墓を丹念に掃除をし、花立ての水を取り替えてから、仏花を供えていると、すぐ近くから若い女の声がした。
 清楚なワンピースを着こなした、美しい少女が笑っていた。私の知る8歳の時とは違った、大人へと何歩か近づいた娘の姿だった。
「小夜花か。大きくなったな」
「綺麗になったでしょ。お母さんに似てきてる?」
「ああ。私に似ないでほんと良かった」
「お母さん似で、神さまに感謝してます」
「あと4、5年すればとびっきりの美人になるな」
「ありがとう。でも娘が美人だからって、好きにならないでよ」
「ははは、あやまって告白しそうだ」
「その時は、ふってあげるわ」
「そりゃ傷つく」
 柄杓を手にして、祈りを込めながら墓石にそっと水をかけた。その様子を、小夜花は黙って見ている。
「元気にしてたか?」
「うん」
「学校は楽しいか?」
「うん」
「友達はいるか?」
「いっぱいいるよ。今度みんなと海水浴に行くんだ」
「それはなりよりだ」
「夏休みの宿題がたくさんなの。それを片付けるのがたいへん」
「そっか、もう夏休みなのか」
「お父さん。宿題、代わりにやってくれる?」
「ダメだ、自分でやりなさい。分からない問題があればちゃんと教えてやる」
「そういえばさ。お父さんに勉強を教えてもらった事って、なかったよね……」
「ああ。教えてやりたかった」
 仕事の鬼になっていた私は、娘の相手をする余裕がなかった。妻に任せきりだった。家族のためだ。それで良いと思っていた。
 自分が間違っていると気付いたのは、なにもかもが手遅れになってからだ。
「小夜花。すまない。私は、おまえの死に立ち会えなかった」
 娘が事故にあった日。私は仕事を優先した。事故といっても軽いものだと思い、亡くなることを想像してなかったのだ。
 急いで病院に駆けつけていれば、生きた小夜花に会えていた。
 なのに、それをしなかった。
「すまない」
「…………」
 私の謝罪に、許しはなかった。娘の姿は消えていた。
 いるわけがない。今までのは全て、私の空想の中での会話だ。生きていれば16歳になる、娘の成長を見届けたいと願った、哀れな父親の空想でしかない。
 墓の前で、謝罪をこめた深い祈りをした。いくら謝ろうと、小夜花は許さない。
 それ以上に私自身が、私を許せなかった。
「お久しぶりです」
 女の声がした。顔を上げると、かつての妻が立っていた。
「おまえ、老けたな」
「あなたこそ」
 妻は、小夜花と同じ笑みを浮かべていた。
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