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1000文字小説 作者:折坂勇生
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58/82

58・青い空


 ご飯を食べる気がしない。何かを口に入れると想像するだけでぞっとする。風呂に入るのもうんざりだ。一週間、入らないのが当たり前になった。
 眠りが地獄だった。嫌な事を考えたり、不安感が支配して、頭がパニックになる。眠りにつけるのに2時間以上かかるし、起きたとしても眠ったという気がせず、体力は返って消費していた。
 海外ドラマを見る、洋楽を聴く、ミステリー小説を読む、ジムで運動をする、と言った私が平素楽しんでいるはずの娯楽に嫌悪感を覚えるようになっていた。だからといって、他の趣味を見つけた訳ではない。ぼうっとするだけで、軽く何時間も経ってしまう。頭が働かず、まともな行動ができない。いつもなら5分で片づくことが、1時間も掛かってしまっていた。
 人と会えない。だべるのが嫌だ。今の私は普通の会話ができなくなっている。親しい人でも遠慮願いたい。外を歩こうとも、知り合いに出くわすのでは?と怯えるようになった。
 なので家に籠もるようになった。最小限の動きしかせず、惰眠を貪る毎日なので、冬眠中のクマになったかのようだ。ひきこもりやらニートやらの単語が浮かんでくる。かつての私が甘ったれるなとバカにした軽蔑するべき存在だ。それがブーメランとして自分に跳ね返っている。
 医師から、うつ病と診断されて一ヶ月半が経っていた。毎日薬を飲んでいるが、治ったという気がしないし、薬が効いているとも思えない。副作用として始終睡魔を感じるぐらいだ――だからといって、眠れるようになった訳でもないが。焦らないでください、ゆっくりいきましょう、と言われても、返って焦ったり、落ち着かなくなってしまうものだ。
 しかし、これだけ何もせず、社会に貢献しないでいると、世間様に申し訳なくなってくる。
 病院帰りに背広姿の男性が見えた。それはかつての私の姿なのもあって、自分が暇をしていることに悪い様な気がした。
 いつも私は忙しくしていた。平日なのにスーツではなく、だれた普段着で歩いているなんて、未だかつて無かったことだ。
 空を見上げて、そのまま顔が動かなくなった。
 透き通った青空に、水彩で描いたような雲が浮いていた。
 美しかった。
 そんな空の模様を、芸術性のある景色として見たことなど、忙しかった当時の私には出来なかった。
 私は時間に追われすぎていた。だから療養が必要になったのだろう。今のような時期があるのも大切な事ではなかろうか。
 青い空を見ながら、そう思った。
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