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1000文字小説 作者:折坂勇生
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56・今宵、母とディナーを。


 人を殺してきた。
 1人、2人、3人、4人……。
 依頼された相手と金額によって、どんな人でも殺し続けた。
 つまり殺し屋だ。
 公には清掃業ということになっている。間違ってはいない。人間を掃除しているのだから。
 初めて人を殺した時、亡霊がつきまとった。誰かが私の背中を見つめている気配がした。振り向いても誰もいない。けれど、つねに誰かの視線を感じてしまう。人を殺すごとに、その数が増えていった。そいつらは恨めしげに、私のことをじっと見つめる。ぐっすりとは眠れない。私は何度も悪夢で飛び起きることとなった。
 だが、殺した数が20を超えた辺りで全てが消えた。
 そして私は一人前の殺し屋になった。
「これはなにかの間違いだよ、私を殺すなんてそんなのありえないよ、なんで私がこんな目にあわなくちゃいけないのさ」
 殺害の相手はおばあさんだった。ほっとけば、すぐにくたばりそうな干からびた体をしている。
 80歳に見えるが、実際は64歳だ。20歳も老けるほどの苦労をしたのだろう。しかも、息子に裏切られて死ぬ運命となっっている。
 不遇な女だ。彼女が死ねば、大金が転がってくる。それ目当てで、私に殺害を依頼してきた。
「神様がゆるしちゃくれないよ、私には分かっているんだ、あんたは悪い人じゃない、ちょっとの間違いでこんなことになったんだよ」
 つばきを吐きながら叫んでいる。殺さないでくれと懇願する。愉快だった。この口うるさいおばあさんも、人形のように沈黙することとなる。その変わりようが楽しみだ。
 最後の悪あがきだ。私は猿ぐつわをさせず、喚くだけ喚かせていた。
「おまえは分かっていない、私を殺せばどうなるのか、そんなことしてはいけない、だって、だって…」
 気を狂わせた声を荒らげた。
「私はあんたの実の母親なんだ。本当は私が産んだんだよ、おまえはお母さんを殺したいのかいっ!」
 母親の顔が浮かんできた。
 架空の姿だ。捨て子の私は、産みの母を知らない。誰なのか、どんな女性なのか、分からない。
 その母親が、この人だというのか。
 体がカッと熱くなった。
 気がつけば、私はおばあさんを殺していた。
 普段殺すのと別の、きわめて感情的な殺害だった。おばあさんの死体は、誰なのか分からないほど変形していた。
 おばあさんの死体を食卓の椅子に座らせた。そして彼女の耳元で優しく囁いた。
「ディナーをしよう、母さん。今夜はごちそうだ」
 私はやっと、一番殺したかった人を殺すことができたのだ。
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