挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
1000文字小説 作者:折坂勇生
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

54/82

54・ペット


 マンションにある友理香の部屋に入ると、玄関でキスをされた。唇が離れて、今度は僕の方からキスしようと顔を近づけていったら、
「続きは後でね」
 おでこに指をつけて、お預けされた。
「晩ご飯作るわ、何が食べたい?」
 僕の肩に手を置いて、ハイヒールを脱ぎながら、友理香は聞いていた。
「なんでもいいよ、それより今は……」
 キスの続きをして、激しく求め合いたいと、友理香を抱きしめようとした。
「だーめ」
 友理香は軽くあしらって、コートを脱ぎながら廊下を歩いていく。
「汗かいてるでしょ、先にシャワーをあびちゃってね」
 Tシャツ姿に着替えてから台所に入った彼女は、思い出したように顔だけを覗かせる。
「一緒に入ろう」
「あたしは料理が先よ。入りなさい。着替えは後で持ってくるわ」
 僕をからかうような友理香の顔は消えた。換気扇を回す音と、とんとんとん、と包丁でまな板を叩いた音が聞こえてくる。
 しょうがない。
 ソファに座ってテレビを付けて適当になにか見ようとした僕は、立ち上がって浴室に歩いていった。
 友理香と僕は同じ会社で働いていて、その縁で付き合うようになった。
 彼女の方が5つ年上なので、僕は子供のように扱われていた。こっちからリードしたいと願っても、あっさりとリードされてしまっている。
 情けない彼だった。
 シャワーから戻ってくると、夕食の良い匂いがやってきた。タオルで髪の毛を拭きながら、食卓の椅子に座った。
 テーブルに犬の表紙を飾った雑誌があった。僕はそれを手にとってみる。
 ペットの雑誌だった。愛犬の育てかたや、しつけのしかたなどが色々と書かれてある。
 このペットの育成法を読んでいたら、なんだか僕と友理香の関係が浮かんでしまった。
「ほら、ご飯の時間ですよーっ」
 料理を手にして、彼女はやってきた。
「ねぇ、友理香ってペットいたっけ?」
「いないわよ。わたしってほら、世話好きでしょ? 飼いたいとは思うけど、一人暮らしだしね。それにこのマンションはペット禁止なんだ」
 残念そうにしながら、熱々のポトフを僕の前に置いた。とても美味しそうだ。
「ねぇ、僕ってペットなのかな?」
「ん、なにが?」
「僕と付き合ってるのって、ペットの代わり?」
「そんなわけないじゃない」
 友理香は可笑しそうに笑った。
「だって、あなたは首輪してないもの」
 やっぱり僕は、彼女にとってペットのようなものなのかもしれない。愛犬にエサをやるように差し出された料理を見ながら、そんなことを思った。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ