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1000文字小説 作者:折坂勇生
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51・やっかいな能力


 頭を殴られて気絶をし、目を醒ました時は、世界が変わっていた。
 誰もいない住宅街のはずなのに、子供やら、老人やら、若者やら、様々な人間がうようよといるのだ。
 数としては、年寄りが圧倒的に多かった。
 普通とは違う奴らだった。うっすらと透けていて、膝から下の部分が消えていた。足がないのに立っているし、中には空を飛んでいる人も見られる。
 一体何だこいつらは、と唖然とする。
 信じられない光景に、殴った奴への怒りは消えてしまった。
「やっと目覚めたみたいだねぇ。あんたを殴った奴は、とっくに行っちゃったぜ」
 塀の上に座っている若い男が、私のことをニヤニヤと眺めていた。
 今のは、私に声を掛けたのだろう。不思議な連中だが、ちゃんと言語が通じるようだ。
「ふん。これで縁を切ったようなものさ」
 殴ったのは、私の相棒だ。コンビを組んで5年経っていたが、仲が良かった訳でも悪かったわけでもない。単なる仕事仲間以上の関係にならなかった。
 それでだろう。
 報酬の分担でいさかいがあって、喧嘩沙汰になってしまい、私に暴力を振るってきたのだ。
「おや、あんた。俺のこと見えるのか?」
 俺が奴に向かって口を開いたので、目を大きくさせて驚いていた。
「見えるのがそんなに不思議か? というよりも、おまえらは一体なんなんだ」
「見てわかんねぇか? ピンと来るだろ」
「幽霊?」
「ぴんぽーん」
 予想通りだった。
 私は煙草の火を付けた。煙をゆっくりと吐いていくと、幽霊の姿が揺れて、白い煙が消えるとはっきりと見えだした。
「ちっ、殴られた衝撃で霊感が強くなっちまったのかよ」
「初体験か。それにしちゃ、あんま驚いてないな」
「感情を表に出すのが苦手なだけだ」
 煙草を地面に捨てて、クツの裏で消した。小さな子供がズボンをひっぱっているのが見えた。
「どけ」
 頭を殴ってみたが、すかっと拳が通り抜けてしまった。子供はあっかんべーをして、ほかの子供たちと一緒に走って行った。
「ちっ、うようよいやがる」
「生きている奴よりも多いぜ」
「成仏しないのか?」
「定員オーバー。順番が来るのを待っているのさ」
「その間、生きた奴らを観察してるのか?」
「そうそう、幽霊は暇でね。そこのアパートの203号室のまどかちゃんが着替えるときはパァーって群がるぜ」
 ご一緒したいものだ。
「まいったな。仕事がしにくいじゃないか」
「あんたの仕事って、なんだい?」
「泥棒だ」
 幽霊に見られながらの生活だ。悪いことなど出来そうにない。
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