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1000文字小説 作者:折坂勇生
50/82

50・インパクト


 歌声が聞こえてきた。深夜2時という寝静まった時間帯に、隣の部屋から大地震のように唐突に響いてきた。キンとした甲高い声が、強い眠気を阻害させていき、不愉快な感情をわき上がらせる。
 大学のレポートの提出期限は8時間と迫っている。なのに用紙は真っ白だ。イメージがわかず、一文字として言葉が出てこない。参考書とレポート用紙を睨んでいただけだ。眠気だけが順調に進行していっている。一行も書けない頭の悪い自分に腹立たしくなってくる。
 ヘタな歌が、そんな私をバカにしているかのようだった。
 隣の女は、マイクを持つ真似をして、アイドル気分で踊りながら歌っているのだろう。バタバタした足音まで聞こえてきていた。
 引っ越しの挨拶にした時、彼女は声優を目指していると言っていた。デビューしたら応援してくださいね、と張り切っていたが、癒しもクソもない騒音状態の歌声に、プロデビューできるはずがない。
 気分転換にシャワーを浴びて、戻ってきても、歌は終わっていなかった。
 文句を言ってこようと外出用の上着を着たら、急に歌声が止まった。直ぐに、うるさい!男の怒鳴り声が聞こえた。同じアパートの住民が怒鳴り込んだようだ。
 オーディション明日なんです!と女の張り裂ける声が聞こえてきた。
 こっちは疲れてるんだ寝かせてくれ!と男は女に負けじと叫んだ。
 落ちたらどうするんですか!そうなったらあなたの所為ですよ!と女はさらにキィーキィー叫ぶ。
 そんなヘタクソじゃ落ちるに決まっているだろ!と男は返す。
 がんばってるのになんてこというんですか、酷いじゃないですか!と女は叫び、ぎゃんぎゃん泣き出し、ぐじゃぽらばがぁらぼかぁらずが!デタラメでわけのわからない言葉で喚き散らした。
 さすが声優を目指しているだけあって、ドア越しでも耳を塞いでしまうほどの凄い音量だ。
 男も、女の叫喚に圧倒されてしまい黙ってしまった。
 女が叫び疲れてすすり泣きになっていく。
 世の中は、おまえ一人が中心じゃないんだ、人の迷惑を考えろ、と、男は忠告をして帰っていった。
 女は畜生!と叫んで、部屋に戻っていった。
 私は、握っていたドアノブを放した。
 しんと静かになったが、眠気は吹き飛んでいた。コーヒー以上の効果ありだ。真っ白なレポートと向き合うと、長いこと沈黙していた一行目が閃いた。今までなんで気付かなかったのかと拍子抜けするほど簡単に浮かんできた。
 私は二人に感謝して、レボートの作成に取りかかった。
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