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1000文字小説 作者:折坂勇生
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48・まんじゅう娘


 神社の近くに10人近くの人が列を作っていた。小さな店がオープンしたらしく、売っているなにかを買おうとしているお客だった。
 なんの店だろう?と近寄ってみると、おまんじゅう屋さんだった。
 人の少ない場所でこんなに並んでいるのだ。さぞ美味しいに違いない、と興味を引かれて、並んでみることにした。
 おまんじゅうは、親指と人差し指で輪っかを作ったほどのサイズで、だいたい二口か三口ほど、男の人なら一口で食べ終えるほど小さかった。
 できたてほかほかの温かいおまんじゅうを食べながら歩いていく。控えめの甘さで、ほのかに柚の香りがする。小さくて手頃に食べれるので、ついついもう一つ、また一つと取ってしまい、家に着くころには、夫に食べさせようと買った分まで平らげてしまった。
 これは、父が喜ぶだろうなと思った。
 おみやげにしようと、実家に行った時に10個ほど持っていったら、思った通り、父は「これは美味い!」と大喜びでぱくぱく食べていた。
 お母さんがひとつ食べているうちに、父は全てを平らげて、おまんじゅうの箱はすっからんになるほどの気に入りようだった。
「また買ってきてくれ。10個じゃ少ない。30個、いや50個はあった方がいい」
 と、父は大喜びだった。
 その日から、父は会うたびに「まんじゅうは?」と聞くようになった。お目当てのまんじゅうを見せると「これだ、これだ」と喜んで、娘なんかほったらかしにまんじゅうに夢中になっている。
 そんなに気にいったのか、たまたま会った時でも、電話の時だろうと「まんじゅうは?」と聞いてくるのでさすがにムッとしてしまった。
 それほど食べたければ、自分で買いにいけと言いたかったけど、「ついでに」と毎日のように私の家にお邪魔しそうだったので「はい、はい、今度買ってくるからね」と適当に返事をするだけにした。
 ある日、夫とハワイ旅行に出掛けたので、そのおみやげを渡しに実家に来たら、父は私を見るなりいつもの一言、
「まんじゅうは?」
「ハワイで買ったTシャツやチョコレートがあるんだよ。そんなの買ってきてないよ」
 と言ったら、 
「なんだ、まんじゅうはないのか」
 ハワイのおみやげなんか見向きもせず、しょんぼりとしてしまった。
「ねぇ、お父さん。私に会うのと、まんじゅう食べるのと、どっちが嬉しいのよ?」
 腹が立ってきてそう聞いたら、父は悩みもせずに、
「そりゃ、まんじゅうに決まっている」
 と返してきた。
 実家に帰るのが嫌になった。
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