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1000文字小説 作者:折坂勇生
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44/82

44・わたしはだれ?

「ここはどこ? わたしはだれ?」
 若くて美しい女性がぼんやりと、裸足のまま、きょろきょろと辺りを見回して歩いていた。
「どうかしたんですか?」
 帽子を被った男が、どうしようか迷いながらも、その美しさに惹かれて声をかけた。
「わたしはだれでしょうか?」
 女はそう言った。自分に向かって質問するような言い方だった。
「え?」
「分からないんです。自分が誰なのか、ここがどこなのか、どこに行こうとしてるのか、なにもかも、分からない」
「ええと、記憶喪失なのかな?」
 帽子の男は困った顔をする。
「記憶喪失……ですか?」
 女は「きおくそうしつ」と小さな声で何回か呟いた。
「なにも覚えてないんですか?」
「はい、なにも分かりません。わたしは一体だれでしょうか?」
 女は悲しそうに首を振った。
「いたいた、こんな所にいたのか」
 サングラスをかけた男がやってきた。
「まったく、探したんだぞ」
 記憶を失っているという女の手を掴んだ。
「あなたは?」
 女は、サングラスの男に聞いた。
「なに言っている、俺はあんたのマネージャーだ」
「あの、この方をご存じなんですか?」
「ああ。彼女は須藤ミキだ。覚えておいても損はないぜ」
「記憶喪失だって言ってるけど。嘘なのですか?」
「記憶が……? なるほどねぇ」
 マネージャーはにやりと笑った。
「いや、ある意味では本当だ。ミキは女優でね。これから記憶喪失になった女の役をやるんですよ」
 笑いながら、マネージャーは記憶喪失の女性を連れて行った。


 スタジオの中。
 記憶喪失の女性は、パルプ椅子に腰掛けている。
「ここはどこ、わたしはだれ?」
 ぼんやりと床を見つめながら、分からないと、呟いていた。
「ははは、役になりきってるなぁ」
「本当に記憶を失っているように見えますよね」
 スタッフたちは、彼女の演技の熱の入れように、感心していた。
「遅れてしまってごめんなさい!」
 そんな時、若い女性が慌てながら入ってきた。彼女は、記憶喪失の女性とうり二つだった。
「え? ミキさん」
 一同は唖然とする。
「すみません。つい、うとうとと眠っちゃって」
 女優はもう一度「ごめんなさい」と、無邪気に謝った。
「ええと、須藤ミキさんですよね?」
「はい。須藤ミキです」
「じゃ、じゃあ、そこにいる……あの女性は?」
 スタジオにいる全員が、椅子に座っている女性を見た。
「ここはどこ、わたしはだれ?」
 女はうつろとなって、そのセリフを何度も呟いている。
 その問いに、答えられる人は誰もいなかった。
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