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1000文字小説 作者:折坂勇生
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38/82

38・予言を外す


「おまえは34歳にならずして死ぬ」
 と予言者に言われた。
 明日、俺は34歳となる。
 今は23時55分。
 あと5分過ぎれば、予言は外れることとなる。
 だが俺はもうじき死ぬ運命だ。
 一週間もの残虐な拷問によって、ズタボロになったこの体は限界がきていた。傷口から流れ出る大量の血が、俺の命を放出しかけている。
「いい加減吐けやっ」
 イバラの鞭を打たれた。背中に激痛が走った。もはや、呻く力すら持っていない。
 俺が無言を通すと、次々に鞭の攻撃がやってくる。サディストが。俺が吐かないことぐらい分かっている。拷問しなくても、俺はもうすぐ死ぬ。すでに死の扉が開かれていて、軽く押すだけでその中に入れる状態だ。それなのに、死の瞬間を観賞するのを目的のように、拷問を続けている。
 俺は一流のスパイだ。敵国に潜入して、極秘情報を手にいれるのが任務だった。それを手に入れた。敵さんの国家を滅亡できるほどの特大のネタだ。
 しかし逃走中に捕まった。女に裏切られたのだ。情けなくも、俺らしい理由だ。
 俺は拷問室に連れてこられた。
 そしてこの有様だ。
 奴らは俺から情報を聞き出そうとしていた。どうせ吐いても、吐かなくても、死ぬ運命だ。俺は無言を通した。敵が喜ぶ情報を吐けば、楽に死なせてくれるのだろう。だがスパイとしてのプライドがそれを許さない。俺の握った情報は、とある場所に隠した。仲間がそれを手に入れるはずだ。
 だから俺は負けたと同時に勝利者でもある。
 壁に立てかけた時計。
 11時58分。
 あと2分で、34歳の誕生日だ。
 絶命に近い俺の唯一の楽しみは、死の予言を外して、予言者をニセ者とあざ笑うことだ。
 もうすぐだ、もうすぐ、予言は外れるのだ。
 死にそうだ。命が消えかけている。だが、たった2分だ。
 それまで命を持たせてみせる。
 一分前になった。もうじきだ。針が一秒一秒と動いている。それが永遠のように長く感じられた。
 気絶しそうになった。だが、出来ない。意識を失うのは、永遠の眠りとなるのだから。
 残りは十数秒だ。堪えてみせる。
 10秒前になった。
 9秒。8秒。7秒。6秒。
 5、4、3、2、1……。
 12時の鐘が鳴った。
 ハッピーバースデー。
 誕生日を迎えた。
 ざまあみろ。予言は外れたのだ。
 幸福だった。これで俺は精々して死ねる。
「おかしいな。時間がずれてるじゃないか」
 拷問していた兵士がそう言って、時計の針を動かした。
 11時55分に戻った。
 俺は絶望のあまり絶叫して、全てを吐いた。

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