挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
1000文字小説 作者:折坂勇生
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

37/82

37・運の良い男


「わたしね。運が良いのよ。運の良さは日本一ね。いやいや、世界一って自信あるのよ」
 競馬場。罵倒と激励が入り交じった歓声の中で、十数匹の競走馬が一位を目指して必死に走っていた。
 男が買ったのは5ー12。
 常識ある人なら買わない大穴の万馬券だ。今は、3番と9番が優勢だ。5番と12番は後方で走っている。
 こりゃ駄目だ。男の運の良さはインチキかもな。
 ルポライターの私は、軽い失望を覚えながら、試合の成り行きを見守っていた。
「見てごらん。奇跡がおきる」
 男が言った矢先に、先頭を走っていた3番が足を挫いて、突然転倒してしまった。思わぬアクシデントに直ぐ後ろを走っていた馬たちは、避ける余裕もなく次々と転んでいった。
 1、2着に付いたのは、事故に巻き込まれずに済んだ5番と12番だ。
「すごい。大穴だ」
 強運に驚いていると、男はからからと笑って、上の前歯二本を失った歯を見せる。
「わたし。職業ない。無職。だけど、お金困ったことないの。お金。くさるほどある。宝くじ。買えば当たる。パチンコ。1000円で10万円が入っちゃう。運がいい。とても運が良い」
 世界一運の良い男。
 その噂を聞いて取材を申しいれてみた。彼は顔出しNGを条件に引き受けてくれた。
 そして私は、彼の運の良さに驚かされることになった。
「そういや宝くじ。買ってましたよね。あなたは5億円が当たると断言しました」
 私はさりげない様子で口にする。
「うん。買ったね。5億円。でも、まだ調べてないの。あなたと会った時に見る。約束してたからね」
「ここに、番号を控えてあります。私が用意したホテルに行きませんか。シャンパンを用意しました。そこで確認しましょう」
「おお、酒ですか。行きましょう、行きましょう」
 男は喜んでついてきた。
 私が予約したホテルの一室。
 テーブルには前もって準備してあったシャンパンとグラスが置かれてあった。
 それを飲みながら私たちは、宝くじの番号を確認する。
 男が買った一枚の宝くじ。
 番号は一致していなかった。
「わたし運が良い。外れた。外れた。とても運が良い」
「大外れじゃないですか! それのどこが運が良いんですか!」
 怒鳴りつけると、男は私の目を凝視する。
「宝くじ、当たった。そしたらあなたどうした? わたし殺してた。殺して、当たりクジを盗んでた」
 私は怯んだ。背中に隠したナイフがひやりとする。
「わたし、外れた。あなた、わたし殺さない。運が良い。わたし、世界で一番運が良い」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ