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1000文字小説 作者:折坂勇生
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33/82

33・バラの家


 柴原さんの家はバラの花園である。
 家そのものがバラの花束となったように、正門、垣根、玄関、家の壁にまで、レッド、ピンク、オレンジ、ホワイト、と色とりどりの様々な種類のバラがびっしりと咲いていた。
 無個性の住宅街の中に彩色豊かな色で塗られたバラの家が一件あるのだから、その自己主張の激しさにひときわ目立っている。
 私は来客に住所を教えるとき、大雑把に道を教えてから「バラの家を探すといい。その前が私の家だ」と伝える事にしている。
 それだけで大抵の人は道に迷わない。
 そして、
「凄いバラですね。びっくりしました」
 と、必ずバラの家を話題にする。
 それほど驚かされるバラの家だった。
 通行人が思わず立ち止まり、バラを凝視して、ケータイで写真を撮っている姿を良く見かける。テレビや雑誌で紹介されたこともある。噂を聞きつけて、わざわざ見物に来る人がいるほどだ。
 自慢のバラが注目を集めているのだ。柴原さんは鼻を高くしていることだろう。
 彼は元々ガーデニングに凝っていた人だったが、2年前に定年を迎えてから、奥さんと共に本格的にガーデニングに取り込んだ。
 はじめは小さい庭で様々な花を植えて楽しんでいた。
 しかし、それでは飽き足りなくなっていった。
 正門を入って狭い通路を進んだ先にある庭の範囲でのガーデニングは、家の裏まで連れて行かなければ誰も見て貰えない。
 私が庭を見せて貰ったとき、花と緑に囲まれた綺麗な庭を誉めたら、
「この美しい庭を、多くの人に見せてあげたいですよ」
 と柴原さんは残念そうにしていた。
 庭が良くなるにつれ、自己満足では物足りなくなっていった。
 これ以上に凄いものを、もっともっと多くの人が見てくれるようにしたい、という要求が強まっていった。
 その結果がバラの家だ。
 やりすぎだ、とは思うものの、元インテリアデザイナーである柴原さんのセンスが上手く活かされている。
 文句を言えぬほどの圧倒的な美しさだ。近所の私ですら綺麗に咲き誇る大量のバラに、つい観賞してしまっている。
「こんな綺麗な家がすぐ近くにあるなんて、素敵ですね」
 来客者はリビングの窓から見える柴原さんのバラを眺めながら、いつも言うのだけど、私は苦笑いするしかない。
 確かにバラは美しい。
 しかし、その美しさを保つために、害虫を駆除する農薬を大量に使われているのだ。それが、私の家まで飛んできてしまっている。
 困ったことに、バラの家になってから洗濯物を干すことができないでいる。
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