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1000文字小説 作者:折坂勇生
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24・物思いの終着駅


 今日、両親が離婚した。
 いずれそうなると思っていたし、遅すぎるぐらいだ。互いに不倫の相手を見つけて、お互いにそのことに気付いていながら、知らない振りをしていた。
 二人の関係を繋いでいたのは、息子の惇司の存在だ。
 その糸が切れたのは、父の不倫相手が妊娠したからだった。父はその女性と結婚しようと決意するも、流産してしまい、あげくに不倫相手から捨てられた。
 母のほうは、とっくに男とは別れていて、待遇のよい仕事を得ていた。むしろ男を利用して、父抜きで生活できる環境を得た感じだ。
 離婚を敦司に告げたとき、死の宣告を受けたような父と、宝くじを当てたような母の、対照的な顔が印象的だ。
 仮面夫婦の両親をリアルタイムで見てきたおかげで、恋愛に不信感を持っていた。
 結婚なんてするものじゃない。したくもない。
 なのになんで僕は……。
 物思いにふけていた敦司が足を止めたのは病室の前だった。
 プレートの名前を確認して中に入っていく。
 女性のみの六人部屋。興味ありげにじろじろ見られて、少し恥ずかしかった。
 浦内美佳は窓際のようだ。仕切られたカーテンの前で、彼女を呼んでみるけど返事はない。
 そっと中を覗いてみると誰もいなかった。
「浦内さんなら、散歩にいきましたよ」
 後ろのベッドにいる患者が、声を掛けてきた。20代の若い女性で、本を膝に置いていた。
「いつ戻るか、聞いてませんか?」
「すぐじゃない。この病院なにもないから」
 と軽く笑ってから、
「美佳ちゃんの彼氏でしょ?」
「俺が浦内の?」
「彼氏がいるって聞いているけど?」
「付き合い始めたばかりで、まだ実感ないです」
「やっぱり。あなたが、なのね」
 色々と聞いているらしい。
「それ、大きいわね」
 両手で持っている花束のことを言う。
「メッチャ高かったです」
 一日のバイト代が消えてしまったほどに。
「でしょうね。私も大きな花束をくれる彼氏が欲しいな。美佳ちゃんが戻るまで座ってたら?」
「そうします」
 ベッドの傍にある椅子に座った。花束をどこに置こうかと見回すけど場所が無いので、両手で持ったままになる。
 さっきの女性は読書の続きをしている。話しかける様子もなかった。惇司は黙っていた。
 携帯電話の電源は切れている。何もすることもない。窓からの景色を眺めながら、ジッとしていた。
「敦司くん?」
 浦内が入ってきた。驚きの表情を見せるも、歓迎の笑顔に変わった。
 結婚なんてしない。なんて感情は、彼女を見ただけで消え去っていた。
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