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1000文字小説 作者:折坂勇生
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14・変わるバカ


 闇のなか気配がした。後ろから女が歩いてくる。
「ついてきたのか?」
 知っている女だ。尾行しているのに気付いてほしかったのだろう。俺が声を上げようとも驚かなかった。
「心配したんだ」
 言葉とは裏腹に顔は冷静だ。いつものことだ。表情を見せることは滅多にない。だからこそ、ベッドの上では激しく燃え上がり、夢中にさせてくれる。
「俺が死ぬと思ったか?」
「逆だ。おまえなら相手を殺しかねん」
 殺人犯の彼女になるのはごめんだ、と口にする。
「安心しろ。手加減はする」
「できるのか?」
「さぁな」
 日野原武。俺が会いに行く男だった。元暴走族のリーダー。傷害事件を起こして少年院に入れられ、二週間前に出てきたばかりだった。
 早々に、ヤクザの世界に踏み入れようとしている。
 日野原の元恋人から、やめるよう説得してくれと、懇願されたのだった。
「なぜ、引き受けた?」
「断る理由が無かった」
「人ごとじゃないか。おまえがやらなくてもいいだろ」
「性分なんだよ」
「バカだ」
「そんなバカに惚れた、あんただってバカだ」
「ああ。自分でも嫌になる」
 ため息をついた。本気で心配している。いい彼女を持ったと思った。
「人の面倒よりも、自分の事を考えろ。デビュー戦もうすぐだろ。それなのに、余計な事を……」
 ぶつぶつと不満を口にする。
 日曜日に、ボクシングのデビュー戦が行われる。今回の喧嘩が表沙汰になれば、即座に中止させられるだろう。
「あんたが黙っていればバレやしない」
「日野原という奴が黙らないだろ。怪我をさせれば、おまえにアキレス腱ができる」
「黙るさ。絶対に」
「その確信はなんだ」
「俺には分かる。そいつは、本気でヤクザに入りたいわけじゃないんだ。誰かに止めて欲しがっているんだよ」
「そうなのか」
「見栄を張ってるだけさ。暴走族のリーダーがムショから出た途端に真面目になった。道徳に忠実だ。かっこ悪いと思わないか?」
「思わない。普通だろ、それ」
「不良やってた奴は、そうは思わないんだよ。真面目になるのが、かっこ悪いのさ」
「バカな奴らだな」
「そんなもんだ」
 男は、な。
「そんなバカを止めるおまえも大バカだ」
 大バカか。俺に似合っている。
 彼女は肩を並べて歩きはじめた。
「見届ける。大バカだけではなにするか分からん」
 俺は、心の中で笑った。
 日野原を変えるのは、俺ではない。依頼してきた元彼女だ。
 それを気付かせてやるだけで良かった。
 俺は、俺を変えた彼女と共に、日野原に会いに向かった。
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