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1000文字小説 作者:折坂勇生
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12・「やつ」が来る


 夜が来た。私は目を瞑っていた。
 眠ってはいない。聞き耳を立てて、外から聞こえてくる様々な音を感じていた。風の音。虫の音。動物たちの鳴き声。
 普段と比べても、一層大きく、不安のある音だった。盛大に鼾を鳴らす人間には分からないだろうが、私には分かっている。
 遠くからジジジと震えた音を感じる。音の呻きは、以前と比べて、だいぶ大きくなり、さらに大きくなる予感があった。
 もうじきだ。
 もうじき「やつ」がやってくる。
 人間を除いた生き物たちは「やつ」が近づいてきている事に怯えていた。
 忍ぶような静かな音が、私に近づいてきた。知った匂いだ。たまに私の犬小屋にやってきて、私のエサや水を食べていく、ぶちネコだった。
「だんな」
 ネコは、私の前に立つと声を掛けてきた。
「いくのか?」
「今からじゃ遅すぎるぐらいでさ。早いとこ安全な場所に行かなきゃ、オイラの命はお陀仏だ」
 別れの挨拶をしに来たようだ。
「他の動物や鳥たちも、危険を察知して、逃げている所だぜ」
「飼われた奴らを除いてな」
「そうだな。あいつらは本能なんて忘れてるからな。嘆かわしいことだよ」
「人様に飼われた犬や猫は、何もせずともエサを十分にくれる。本能など無用で暮らせるのさ。だから、危険が来ようと、分からないままだ」
「だんなは違うようだな。やつに気付いている」
「年の功だ」
「だんなは行かないのかい? この場所は最高にヤバイぜ」
「私が行けるわけないだろう。おまえだって、これが見えないわけじゃあるまい」
 首輪に繋がれた鎖のことを言った。それのお陰で、私は自由がなく、動ける範囲が定まれていた。
「それを外してやろうか。俺にはそれができるぜ、どうだ」
 顔を上げて少しの間、考えてみるが、再び顎を地面につけて寝る体勢に戻った。
「その必要はない。運命を受け入れるよ」
「いいのかい?」
「逃げるのは、ご主人さまに申し訳ない」
「だんなを奴隷のように扱っている奴らじゃないか。そんなのほっとけよ」
「そうはいかないさ」
「犬ってのは義理堅いねぇ」
「私は十分に生きてきた。満足しているよ。おまえは若い。早く行け」
「そうさせてもらうよ」
 ネコは後ろを向いた。
「だんな、無事でな」
「あんたもな」
 ネコは去っていった。もう二度と会うことはない。
 もうじき大地震がやってくる。この辺りは滅茶苦茶となるだろう。
 そのことをご主人様に知らせたいが、犬は人間と話すことができない。
 何もできない。
 「やつ」が来るのを待つだけだ。

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