ファンタジーものの表現について(その2)
ファンタジーものの表現について
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と、類似のテーマで、思い出したことがあったので、追加します。
江戸時代に勃興したジャンルに「戯作」というものがあります。
平和な世の中が続いた江戸時代に、急速に力をつけた町人(=中流の一般大衆)に向けられた、エンターテイメント小説のことです。
その中のサブ・ジャンルに「読み本」というのがあって、これ、早い話が「多数のイラストが挿し込まれた伝奇小説」なんですな。
つまり、今で言う、ラノベ。
……で、その江戸時代版ラノベの、そのまた、ご先祖様というのが、「西遊記」や「水滸伝」なんかの中国の講談と、それを文字に起こして印刷した「章回小説」です。
江戸時代の「読み本」といえば、代表作は曲亭馬琴の「南総里見八犬伝」ですが、昔、それを読んだときに、思わず、ひっくり返った記憶があります。
上に述べたとおり「江戸時代のラノベ」である「読み本」はイラストが必須だったわけですが、大抵は侍と、妖怪が闘っているシーンか、派手な着物を着た姫君の挿絵。
……で、里美八犬伝のある回を読んでいたら、ゴージャスな着物姿のヒロイン伏姫の絵がババーンと載っていた訳ですよ。
そこまでは良かったのですが、なんと滝沢馬琴先生、何を血迷ったか、そのヒロインの描かれたイラストについて解説しだしたんですよ。
しかも、小説の途中で、いきなり地の文でですよ?
「このシーンは夏なのに『何でイラストのヒロイン、冬服を着てるの?』と、不審に思われた読者の方も居るとは思うが、これ、絵師の○○さんが『伏姫メインのイラストなら、やっぱゴージャスな冬用の着物のほうが良いべ』と、気を利かしてくれたからなんです。ツっこまないように。読者の皆さんのほうで脳内変換してください」
……的なことが、書いてあるんですよ。
繰り返しますが、ストーリーの途中で、いきなり、地の文でですよ。
つまり、これ、江戸時代のラノベの書き方として普通にオッケーだったんです。作者的にも、読者的にも。
ラノベを、ヨーロッパから輸入された近代小説の末裔と考えるか……
中国の講談小説→江戸時代の戯作→近代の時代劇小説→架空の時代劇小説としてのファンタジー・ラノベという流れで考えるか……
前回 http://ncode.syosetu.com/n7543cr/ 書いた諸星大二郎の件も、時代劇小説にいきなり地の文で解説が入る件も、こういう流れで考えると、面白いんじゃないかと。