父、毛利小五郎の憂鬱。PDFで表示縦書き表示RDF


これは、10月4日の蘭満会という蘭ちゃん企画に投稿させていただいた小説です。11月4日までの期間だったのですが、それが終了ということで、こちらにてアップさせていただきました。

見たよっていう人も、見てないっていう人も。
それでも見ていいよって方がいたら、読んでいただけると光栄です。それではどうぞー!
父、毛利小五郎の憂鬱。
作:こつぶ


 
 秋、10月。葉っぱが赤に黄色にと色づく季節。
 たまたま通った寺院の何本もの紅葉が美しく彩る様に目を細めながら、毛利小五郎は帰路についていた。
 商店街を差し掛かり、コロッケの揚げた匂いに、焼き鳥の焦げた匂い。それから路上に駐車された屋台車からは、美味しそうに煮えたおでん・・・。そんな匂いたちに誘われて思わずおなかがぐぅと鳴り、苦笑いを浮かべた矢先−−−。
冷たい風がぴゅうと 頬を撫で、途端、小五郎はヒックシュンとひとつくしゃみをする。

「お父さん、大丈夫?」

 振り返れば、制服姿の蘭がスーパーの袋を片手に心配そうに立っていた。どうやら学校帰りに寄ったのだろう。派手なくしゃみを聞かれたことにちょっとした照れ隠しをしながら、小五郎はずずっと鼻を啜る。

「あぁ、ちょっと風邪ひいちまったのかな・・・。ま、こんなもん、あったかいもんでも食って、うまい酒でも飲んで、沢山寝たら風邪なんてあっという間に治るだろ。だから、な?」
「『だから、な。』、何よ。お酒はいつでも呑んでるでしょ、今日は缶ビール1本だからね」
「・・・なっ!かかか、缶ビール、い、いぃ1本?!」

 1本なんて飲んだうちに入らない。いつもは、4.5本は軽く開けているというのに。
 思わず抗議しようとしたら、 さらりと先手を打たれた。

「そうよ。当然でしょ、病人なんだから。本当はあげなくてもいいくらいなんだからね?
どうせお父さん、隠れて呑んじゃうだろうから」
「・・・ん、んなことしねーよっ」
「そうかしら」

 不審そうな目で蘭が小五郎の顔を睨んだ。目で威圧されている。こういうところは英理にそっくりで。やっぱり母子だなぁ、なんて。英理がいないのに、いるような気がするのはやっぱりこういうところからなのだろう。
 口調も、仕草も、まったくよく似ていて、思わず微苦笑を浮かべた。

「わかったよ。・・・1本な?・・・じゃあせめて、メシぐらいあったかいもん食わせてくれるんだろうな?」
「勿論。いっぱい食べてね?美味しいもの作ってあげるから。今日はねー」
「おでん」
「え?」
「さっき通った屋台のおでん、うまそうだったんだ。・・・だから」
「ごめん」

 続きを言われる前に遮られ、思わず目を丸くした。申し訳なさそうに蘭がスーパーの袋を掲げる。

「ごめん、もう夕食の材料買っちゃったわよ。今日はカレー」
「何っ・・・!?カレー!?風邪なのにカレー!?・・・普通こういうときは和食だろ!せめて煮込みうどんか、鍋だろ?粥だろ。今からでも間に合うだろ、買いにいけねーのか?」
「えー?そこまで熱、あるの?」

 そっと背伸びし、蘭の手が小五郎のおでこに伸びる。細く、柔らかく、白いその手。
 一瞬どきり、とした。すぐにその手が離れ、にっこり蘭が笑う。

「ないじゃない。ないない。大丈夫、カレー決定♪」
「え・・・」
「だって今から買いなおしなんて出来ないわよ、準備が遅くなっちゃう。もうすぐ模試がある
んだから、少し勉強の時間増やさないといけないんだよ?テストで悪い点数取って、受験がうまくいかなかったらどうするの?」

 ちょっと困ったような顔をすると、蘭は小五郎をゆっくりと追い越し、そして振り返って小五郎の方へ180度向いた。

「少しは協力してよね、お父さん!」

 ったく。・・・可愛げがねーんだから。
 そんな娘の態度に思わず口を尖らせて娘の後姿を軽く睨むと、またひーっくしゅんと派手なくしゃみをした。

「ねぇねぇ、お父さん、ちょっと来てみてよ」

 鼻を啜り上げながら、もう30メートル近く先にいる娘の後を追いかける。
 蘭が立ち止まっているのは、 古びた写真屋。
 今は子供専用で、いろんな服やアイテムを取り揃え、女優のように、俳優のように着飾って写真を撮るような店も多いが、ここは正真正銘の 昔ながらの写真屋だ。
 現像したり、フィルムを売ったりする業務も行う傍ら、別室にあるスタジオで店主自ら写真を撮る。そうしてその中から月ごとに いくつか客の許可を得て、宣伝用に表のショーウインドウに貼られるわけだけれど、今回新しく写真が貼りなおされたようで。
 新しい写真の数々に、蘭は嬉しそうに目を細めていた。
 まだ生まれて1年も経っていない子どもだったり、七五三を迎えた男の子だったり。成人式を迎えた女性だったり、ウエディング姿の女性だったり中には家族4人で映っている写真、老夫婦の写真まである。
 全てが普通のサイズより3倍、4倍は大きく拡大されていて・・・。皆が幸せな顔をしていた。時を刻んだ人たちの、その時その時を生きた満足そうな顔。
 このスタジオで、記念日を祝って、一体どんなにか幸せだったろう。
 
 しかし、かくいうこの自分も、蘭や英理と何度か家族写真なるものを撮ったことがあって。
 幾分マメな方ではないので、こういう場所での写真も他の家族よりは少ないかもしれない。
 けれど、蘭が生まれた日と、7歳の七五三、それと・・・。それとあともう一つだけ写真を
ここで撮ったのだ。

 ・・・あぁ。蘭は、覚えているだろうか。

 ちょうど目の前にあった、黄色いドレスを着て映る3,4歳くらいの女の子の写真。
 少しお澄ましして、笑窪をきゅっとへこませて、可愛らしいポーズを取っている。
 そんな少女の写真を見ながら、自然とあの日のことを思い出し、思わず目を細めれば、ぽつり、彼女が言った。

「ねぇ。・・・あたしも確か撮ったよね、ここで・・・。この子みたいに、こーやって白い綺麗なドレスを着てさ」
「あ、あぁ。覚えていたのか」
「・・・ん、前にアルバム整理してるとき、この写真も見つけたのよ。吃驚しちゃった。私も
こんな服着たことあるんだ、って」

 嬉しそうに頬を緩ませる娘の姿に、小五郎も思わず目を細め、あの日のことを思い出していた。

 白いふわふわのドレスを着た小さな蘭。天女のような白い羽衣を着て−−−。

「おとうさんv」と嬉しそうに裾をひらひらさせてドレスを見せに来たときは、まるで天使のようだと正直思った。目を離せば、その羽衣を着て空高く飛びたち、自分たちのもとからいなくなってしまうんじゃないかと本気で思った・・・。
 あのときの嬉しくて、けれども少し不安な気持ちが、まるで昨日のことのようにまじまじと浮かんでくる。蘭にとっては物心もまだついていない幼稚園に入る前のことだから、覚えていないは当然だ。しかしあんなに特別な日を何も覚えていない当事者に、なんだかちょっとだけ物足りない。

 小五郎はそんな自分に気づき、思わず苦笑した。

 そうだ、あの日。
 親戚に呼ばれて初めて蘭を連れて結婚式に行った。目を真ん丸くさせて、ウェディングドレスを着ている花嫁を齧りつくように見ては「綺麗だねぇ」と何度も言っていた。


『らんちゃんもお姫様みたいになりたい〜!白いの着たいぃ!らんちゃんもお嫁さんするぅぅぅ!』


 結婚式会場に行ったときも蘭によく似合うピンクの可愛らしいワンピース参加していたというのに。そのウェディングドレスを見た瞬間、急に欲しくなったのか、ホテルのロビーでじたばたと足をばたつかせて駄々を捏ねていた。
 そんな状況にほとほと困っていたとき、そこに居合わせた女性スタッフが蘭のためにドレスを持ってきてくれたのだ。30代半ばの女性。名を確か『目黒さん』といったか・・・。

 それが、その白いドレス。
 新郎新婦と一緒に撮った集合写真では、花嫁と負けじ劣らじの純白に輝くレースのドレスに零れんばかりの満面の笑みで写っていて。そしてその日はそのまま家に帰り、あまりに気に入って脱がないものだからと、英理の提案でこの写真屋に撮りにいったのがその時の写真だ。
 ・・・一体誰の記念日だ、なんてあとで考えたら笑ってしまうことだけれども。

 それから数日後−−−。

 ショーウインドウには、白いドレスを着た蘭が一人お澄ましをして撮っている写真が並んでいた。あまりに可愛らしい姿をしていたので、店主が気に入って額縁に飾って、ショーウインドウとは別に、店先のど真ん中にどどんと置かれていた。許可もなく飾ったことは少しだけ腹を立てたが、それでも『特別』に扱われたということはとっても嬉しくてあまりに怒れなかったというのは親のエゴだろうか。

 ちなみに、後日そのドレスを返しに行ったときは、蘭の寝ているときを見計らって返したという逸話があって。目を覚ましてないことがわかったときのあの蘭の狂ったように泣くその顔は、今でも胸に焼き付いている。










「あのころにしては随分イマドキの服着てたよね・・・。今これ小さい子に着せても絶対可愛いと思ったもん。・・・写真の中の自分の姿を見てすごくうらやましくなったんだよ。あんな綺麗なドレスを着て。まるで小さな花嫁さんじゃない」
「花嫁ねぇ・・・そんな風には思えんかったが」
「えー?」

 そんな会話をしながらゆっくりと写真屋の前を通り過ぎようとしたとき、ガラリと店のドアが開いた。
 
「あ・・・」

 その顔に見覚えがった。店主だ。そこで彼女と小五郎の目が合う。
 50代半ばに見られる白髪まじりの女性。確か山本という苗字だったような気がした。
 蘭の七五三以来だから、小五郎にとって10年ぶりで。懐かしさを覚え、その女性を見て顔を浮かべながら軽く会釈した。

「お久しぶりです、山本さん」
「・・・あれ、毛利さん?・・・で、隣が・・・。あれ、まぁ。・・・蘭ちゃん?」
「あ、は、はい。こんにちは。蘭です」
「なんてタイミングいいんだろ、・・・ちょ、ちょっと待ってね!」

 挨拶もそこそこに、何やら意味深な言葉を残して奥の部屋に消える店主に、首をかしげ、蘭と顔を見合わせる。しかし数分も経たずして、すぐに何か箱を奥から持ってきて、はい、と蘭にそれを手渡した。

「はい?何ですか?これ」
「何だと思う?開けてみて」

 10年ぶりだというのに、まるで毎日会っているような、蘭のことは何でも知っているような言い方で店主はにっこり笑ってみせた。蘭も小次郎も戸惑いを隠せない。
 それでも徐にその箱を開けると、出てきたのは10年前の白いふわふわのドレスだった。
 蘭が無理に着せてもらったドレス。小五郎が人目その姿を見たとき、まるで天使のようだと思ってしまったドレス。そしてどうしても放したくないと最後まで駄々を捏ねていたドレス。
 それを、どうして彼女が持っているのだろう。だってそれは確かこれはホテルの所有物だったはず。この店のものじゃない。

「どうして・・・?」

 信じられないという表情をする蘭に、店主は再び笑みを浮かべ、蘭と小五郎の顔を見比べる。

「これ、私の友達から預かったものなの。友達、ブライダルスタッフで何百もの式を取り計らってきたんだけど、旦那さんの都合で転勤になり、23年間勤めていたところを先月退職することになってね。そのときに記念として、これをもらってきたっていうの。いつかこれの似合う、まるで天使のようなお嬢さんに 渡すために、って。話を聞いていればどうも蘭ちゃんのことみたいで。思わず、昔撮った写真を取り出して確認しちゃったわよ」

 手をひらひらとさせて店主は大口を開けて豪快に笑った。が、すぐに何とも言えない表情になって。そんな店主の様子に小五郎が怪訝に思ったときだった。

「けど、その後その人、ちょっと体調崩しちゃってねぇ。あ、全然大したことないんだけど。
引っ越す直前に1週間ほど入院してて。直に手渡しできないまま行っちゃったんだよねぇ。・・・。もし会ったとき、そのときはあんたの手から渡しておいて、って頼まれて・・」

 あぁ、そういうことか・・・。
 それなら仕方ない、そう思ってしまったとき。隣で娘が何か言ったような気がして振り向いた。
  
「どうして・・・」

 確かに蘭が泣き出しそうな表情で、躊躇いがちにその言葉を呟いていた。それから、キッと顔を上げ、店主を強く見据える。

「もう、どうして教えてくださらなかったんですか?!解っていたらお見舞いにだっていけたのに・・・」

 珍しく身内や親しい人以外の人に浴びせた強い詰問に、困ったように眉をハの字にして弁解した。

「だって・・・まさか10年前に1度しか会っていない人に・・・。そんなこと言ってくれるとは思ったから・・・ごめんね・・・」

 




★★★





 茜さす夕日を背に、小五郎と蘭は家路を急ぐ。きっとそろそろコナンも帰ってきているころだろう。蘭は手に一つの紙袋、小五郎は彼女の買ったスーパーの袋を持って、毛利探偵事務所へと続く一本道を並んで歩いていた。

「悪いこと言っちゃったな・・・」

 ぽそりと呟く蘭に、小五郎は何とも言えない表情を浮かべ、タバコをくゆらせた。
 確かに蘭が店主に浴びせた言葉は、100パーセントいいものではなかったかもしれない。けれど、蘭の気持ちは痛いほどわかるから。けれど、別れ際にきちんと感謝の言葉を伝え、また、自分が言った言葉を他人から諭されずに反省できる娘にかける言葉は、もはや必要ないとも思ったから。
 蘭も特に小五郎の言葉を期待していたわけでもないらしく、俯き、ただただ何か考えこんでいるようにも見えた。それから、ふっと顔を上げ、小五郎の顔を見上げる。今までの暗い顔とは違う表情で。

「・・・思わぬ収穫だったね・・・。まさか今頃こんな物をもらえるなんて思わなかった。心残りは直接お礼が言えなかったことだけど」
「別に死んでねーんだ。手紙でも電話でもいいじゃねーか」
「うん、そだね。住所も教えてもらったし」

 嬉しそうに目を細め、蘭は紙袋を胸の方まで掲げて見せた。そんな娘に少しだけ安心して、憎まれ口を叩く。

「まったく現金なやつだぜ。顔も、何されたかすらも覚えてなかったくせに」
「しょうがないでしょ、まだ3歳になったばかりっていうんだから・・・覚えている方が不自然じゃない」

 口を尖らせて反論する娘に、小五郎は思わず微苦笑した。

「でもさ、感謝したいんだ。こんな心遣いしてもらって。・・・だって、私は花嫁さんじゃないんだよ?結婚式に招待された両親の付属のようなものなんだよ?なのに、優しくしてくれて。10年経っても覚えていてくれて。・・・すっごく嬉しかったんだから。顔も、どんな人かも覚えていなくてもさ」
「あぁ、そうだな・・・」
「・・・その人にさ・・・。目黒さんていったけ?その人の担当してくれた結婚式ってすごく素敵なモノになったんだろうなーって思う。コーディネートのセンスとかだけじゃなくて・・・人に対しての心遣いっていうのかな・・・。きっとその人にしてもらったらすごく幸せになれるんじゃないかなーって思うんだ」

 気がつけば、蘭の目はキラキラ輝いていて。そんな娘に、小五郎はなんとなく目を虚ろにさせた。

「で?何がいいたいんだ?」
「だから・・・。いつかはその人に担当してもらいたいなーって。押しかけ女房みたいに、おいかけちゃうんだからv」
「まだまだ先のことだけどな・・・」
「そうだね」

 蘭の考えていることはわかっている。
 きっとあいつの頭の中はあの探偵ボウズの顔が浮かんでいるんだろう。そうしてあのスタッフの仕立てた2人の式を妄想しているんだろう。

 −−−そうはまだまださせねーぞ。

 さっきまではお腹があんなに空いていたはずなのに、メニューについてあれほどこだわりを見せていたのに、今はそれどころじゃなくなって。

 白いドレスの入った紙袋を胸に抱きしめてニコニコしている娘の横で、小五郎は苦虫を潰したように唇を強く、強く、噛み締めた。


11月4日。奇しくも天使の日企画終了の日に(ていうか合わせたと思う・笑)、新蘭オンリー行ってきました。皆々様の新蘭愛にモエモエさせていただきながらも、これからも私も新蘭小説もがんばらなくちゃ!と思った次第でありました。あ、レポはサイトの方で・・・(哀ちゃん贔屓のサイトなのに・・・!)

・・・コ哀も哀ちゃん小説ももちろん頑張ります。連載ホント最近手をつけてないです。サイトの方も、それから・・・。
夏コミに哀ちゃんアンソロジーに参加しようかと迷っていたりして・・・。(できるのか!

いろんなジャンル(カップリング)に手をつけまくってて、もうあたふたしていますが(笑)
絶対全てのもの完結させますので、末永く見守ってください。

それから、小説感想もありがとうございます。全てのコメントを読ませていただいています。レス必ずいたしますので・・・!




それでは、こつぶでした!













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