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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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6-10.魔導回路と薔薇の彫刻

※8/13 誤字修正しました。

 サトゥーです。社会人になってからはご無沙汰ですが、大学時代は色々と生基板から電気回路を作ったりしたものです。
 ファンタジーな異世界でまで作る羽目になるとは……。





 ニセ勇者が実在するかは判らないが、男爵の城を定期的にマップ検索で調べて、怪しそうな候補を絞り込んだ。
 ニセ勇者の名前はハウト――勇者ハヤト・マサキと一文字違いだ――片手剣と盾スキル有りの7レベルの青年だ。
 他に仲間らしき、レベル10の剣士に、レベル8の火魔法使い、レベル9の神官なんかが居た。バランスのいいパーティーなんだから、迷宮で稼げばいいのに。

 やっぱり、魔族も絡んでいそうだ。ニセ勇者ハウトの近くにいる事が多い。
 ただ、この魔族なんだが、夜になると城を抜け出して近隣の森にいる盗賊団の所にも顔をだしているような動きをしている。

「マスター、充填完了です」

 しまった、朝の至福の時間に、よけいな事を考えていた。
 魔力の補給が終わったナナが、服を直している。

 サトゥー、君には次の休憩時間がある。

 ……そう自分に言い聞かせた。





 今日は、揺れる馬車の上で、木剣の作成中だ。
 盗賊のレベルが低いせいか、ポチとタマの戦い方が雑になっている気がするので、練習用にと思って用意している。油断して痛い思いをして欲しくないからね。

 木剣は、安全のために革を何重にも巻いて、怪我をしないように配慮した。

「こんなのがい~?」
「ポチのにも入れて欲しいのです」

 そう言ってポチとタマが持ってきたのは、ナナの細剣(レイピア)だ。鍔から柄へ可愛らしい意匠が施してある。鍔の所にある薔薇の彫刻と同じものを入れて欲しいらしい。2人とも、意外に可愛いもの好きだよね。

 これを作れと?
 2人の目は期待に満ちている。

「もうちょっと簡単な図案でいいかな?」
「これダメ~?」
「ダメなのです?」

 うう、今度は上目遣いか。

「わかった、一度やってみるよ」
「やった~」
「ご主人さまなら大丈夫なのです」
「頑張ってね~ ご主人さま」

 オレの安請け合いに、アリサの無責任な応援が入る。アリサめ、面白がっているな。
 既に完成している木剣の鍔の所に意匠を入るのは強度的に無理があるので、新しく木材から削り直す事にした。

 その後、9本を削り、ようやく2本ほど満足の行く彫刻が刻めた。鍔から握りまでの範囲だけを削っていたので刀身部分は棒状だ。2本だけなら、昼休憩までに刀身部分も削れるだろう。

>「彫刻スキルを得た」





「獲物いないのです」
「木の実取って来た~」

 この領地に入ってから、ポチ達の戦果は少ない。街道沿いに、獲物になる鳥や獣が少ないのだ。タマは、そんな時でも、ちゃっかりシイの実やドングリなんかを集めてくる。何かのサバイバルマンガで、ドングリとかと虫を炒めていたが、当分は食料の不足もないので、タマの収穫は死蔵させて貰っている。

 さて、そろそろ昼御飯の準備だ。横にいるルルの服装がいつもと違う。髪を纏める青い組紐は昨日と同じだが、エプロンにフリルが付いて可愛らしさが50%アップしている。

「下拵えができました」
「よし、それじゃ、フライパンに脂身を乗せて火に掛けて」
「はいっ!」

 今日はルルにステーキの極意を伝授中だ。緊張しているのか体に余計な力が入っている。顔も真っ赤になっている。

「ニンニクは、それくらいでいい。こっちの皿に移して」

 ルルのその指示に従って、フライ返しをぎこちなく使って皿に移していく。フライ返しは木製だ。ステーキを焼くときに、不便だったので自作した。

「音に耳をすまして。目を瞑ったらダメだよ」

 ルルはオレの指示をこなしてくれるんだが、どうも顔が近いと緊張してしまうみたいだ。男性に慣れていないみたいだったので、肩越しに指示を出している。

「この音がし始めたら余熱は十分だから、肉を入れて」

 緊張してても、ちゃんとこなしてるな偉いぞ。

「片面に軽く焦げ目が付くまでガマンだ。この匂いがしたら裏返す。音と匂いを利用すると加減がつけやすいんだ」

 偉そうに言って居るが、スキルのお陰だ。

 ルルが焼き終わったステーキを切り分けて試食する。うん、オレが作ったのよりは少し落ちるが十分金を取れるレベルだ。ルルも試食して、自分の焼いた肉に驚いている。
 横で、ポチとタマがダラ~っとよだれを垂らして見てたので、大きめに切った肉を口に入れてやる。リザとアリサまで順番待ちをしていたので試作のステーキはすぐになくなった。君達、食欲に忠実すぎ。





 離れた場所では、ポチとタマが木剣で訓練をしている。

 いつものオチャラケた雰囲気はカケラも無く、真剣そのものだ。
 ポチが直線で突っ込んでくるのを、タマがやんわりと受け流したり、避けたりしている。ポチの動きが止まったスキを突いて、タマが小さくチクチクと攻撃を当てている。
 たまにタマが避けそこなって、重たい一撃を食らっているので、ダメージは同等だ。

 それにしても、訓練なのに本気すぎないか?
 洗い物をしていたリザが、心配して2人の審判役を買って出てくれたようだ。

 ちゃんと練習前には、2人に寸止めを教えておいたのに、すっかり忘れていそうだ。後でもう一度教えないと。





 食後の詠唱練習はお休みだ。

 今日は、魔法道具の試作をしている。今やっているのは、作成の前段階の準備作業だ。

 魔法道具は、大雑把に言うと特定の魔法効果を呪文の詠唱無しに再現する装置だ。魔法道具には魔導回路(サーキット)というパターンを埋め込む事で呪文の代わりにするらしい。簡単な回路なら大した設備が無くても作れるが、複雑な回路を作るには専用の工房が必要になる。「豆電球と銅線と電池」と「半導体を使った電子回路」の違いと言えば判りやすいかもしれない。

 魔導回路(サーキット)を構成するためには、回路液(サーキット・リキッド)を特定パターンで引くだけでいい。目的に応じて魔力抵抗の違う回路液(サーキット・リキッド)を使う必要があったりするが、最初はオーソドックスに行こう。

 木板にインクで丸い円を書く。

 次にピックを使って円を軽く彫る。

 後は、ここに回路液(サーキット・リキッド)を流し込んで完成だ。

 回路液(サーキット・リキッド)の作り方だが、トラザユーヤが書いたのか、エルフ語の言い回しが難しい。仕方ないのでエルフ語スキルを最大まで上げる事にした。もう少し簡単な言葉で書いて欲しいものだ。

 今回作成している回路液(サーキット・リキッド)は、溶かした銅に魔核(コア)の粉と安定剤の混合物を投入するだけの簡単なモノだ。

 まず、銅を溶かす。これには彫金の工房で買った魔法道具を使った。魔力を込めるとバーナーのように高温の炎を吹き出す仕組みになっている。燃料もなしに燃えるとは、さすが魔法道具だけはある。

>「彫金スキルを得た」

 これからお世話になりそうなのでポイントを割り振って有効化(アクティベート)しておく。

 坩堝で溶かした銅に、魔核(コア)の粉と安定剤の混合物を投入する。
 ポンッと軽い音がして赤い煙が小さく上がる。匂いはしなかった。

 次に木板の溝に回路液(サーキット・リキッド)を流し込んでいく。熱い回路液(サーキット・リキッド)が木板を焦がす匂いと煙が上がる。
 もう少し冷ましてからやった方が良かったかな。

>「魔具作成スキルを得た」

 練成と別枠だったのか。
 もちろん有効化(アクティベート)した。

「何作ってるの~」

 洗い物が終わったアリサが、肩越しに声を掛けてきた。

「魔法道具1号だ」
「えっ? 自作できるものなの?」
「みたいだな、試してみるか?」
「いいの?」

 アリサが魔力を注ぐと、赤銅色の魔導回路(サーキット)が朱金色を帯びる。

「オッケー、もういいぞ」
「で、何がどうなるの?」
「魔力を注ぐと、魔導回路(サーキット)に魔力が流れる」
「うん、うん、それで?」
「それだけだよ、魔力が消費されるまで巡回して終わり」
「え~~~」
「はじめて作った魔法道具に、高度なものを期待するな」

 アリサは凄く不満そうだ。
 だいたい、丸い円を書いただけの魔導回路(サーキット)が複雑な機能を持つわけがないだろうに、期待のしすぎだ。
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