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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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1-8.悪魔と騎士と魔法使い

※2015/7/19 誤字修正しました。
 サトゥーです。まったり路線が突然終了して呆然としているサトゥーです。


 ◇


 悪魔としか表現できない存在が降ってきた。

 雄羊の角、赤黒く光る眼光、てかてか光る漆黒の肌。四本の腕、コウモリの翼、毒針のついた二股の尻尾。まさに悪魔だ。

 悪魔は騎士や兵士を鎧袖一触で薙ぎ払っている。

 広場は何両もの馬車が横転し人と馬と何かの死体が転がっている……。

 それは平和な昼下がりに突然現れたんだ。


 ◇


 内壁の中は貴族や富裕層の邸宅が殆どを占め、店舗は内壁から城への主道沿いにしか無いらしい。

 内壁に入った所で馬車を降りてナディさんの案内で散歩しつつ高級店を見て回る。

「このお店が騎士さま御用達の高級武具を置いている店です。金属鎧はこの店しか置いてません。たまに魔法の武具が入荷してたりするそうです。金貨が何十枚もするそうですよ~」

「こちらは数ある宝石店の中でも最大手です。特にサファイアやルビーの取り扱いでは王国随一です。庶民にも手がでるような宝石は通りの反対側のリズー宝飾店がオススメです」

「ローブを仕立てるなら、このお店。ちょっと落ち目でしたが、去年、王都で修行してきた息子さんが後を継いでからはすごく評判です。もっとも1着金貨2~3枚はかかるので庶民には手が出ませんが、商人なら大きな取引をするときに着ていると箔がついていいかもしれません」

 ナディさん、wiki認定したいほど詳しいな。さすが何でも屋なのか?
 城前の広場には辻馬車や高級そうな馬車が行きかうが、広さに比べて交通量がまばらなので道の途中で平気で止まっていたりする。

 ナディさんはあんなに喋って喉が渇かないんだろうか?

「ここの喫茶店のオープンテラスでお茶とお菓子を頂くのがセーリュー市の女の子の憧れなんですよ~」

 ナディさん目がキラキラしてる。特に強請(ねだ)ってるわけじゃなく純粋に憧れているみたいだ。

「ナディさん、喉も渇きましたし、せっかくだから休憩していきましょう」
「はい、わかりました。ここで待っていますのでごゆっくりどうぞ」

 ……あれ~?

 いきなりのボッチ確定?!

「ナディさんは入らないんですか?」

「すみません、さすがにこのお店でお茶できるほど高給取りじゃないので……」

「お茶しながらこの城や広場のお話を色々聞かせてください。もちろんお茶やお菓子は私が持ちます」

 ナディさんの目が輝く……がすぐに曇る。そんなに高いのか?
 ここは強引に!

「さあ行きましょう」

 柔らかく手を引いて店に入る。


 ◇


 ちょっと覚悟したが、お茶とお菓子のセットで銀貨1枚でした。安いじゃん? と思ったが、それなりに高い宿の5泊分と考えると、一般市民には高いのかもしれない。

 オープンテラスなのに大理石を使ったお洒落なテーブルが置かれている。ティーカップやポットも高そうな品だ。
 お茶はアッサムティーっぽい感じ。砂糖やミルクなんかは付かないみたい。
 変わりに甘味としてクッキーぽい焼き菓子が置かれ、カッテージチーズやジャムを付けて食べるようだ。

 そんなに憧れるレベルなのか? 周りの女の子を見ると、みんな蜂蜜とクリームのたっぷりかかったホットケーキっぽいものを食べている。

 なのでウェイターを呼んでホットケーキを2人分追加注文する。銀貨3枚でした。

「美味しいぃぃ~~~」

 たしかに美味い。……ナディさんの蕩ける様な幸せな表情が! 特に。

 ナディさんはスイーツを楽しみつつも職務はわすれていないみたいで、お城やセーリュー市開拓の話などを色々話してくれた。

 そんな平和な午後のお茶会は長く続かなかった……。

 初めは広場を通り過ぎる黒い大きな影。

 つづいて重低音の叫び声。

 広場を横切って城に突き刺さる巨大な火球。
 手前にあった尖塔が1つ崩れ落ちる。

 尖塔が崩れる音と土煙を見て、凍りついたように動けずにいた広場の人が再起動する。あがる悲鳴、避難を促す兵士の怒声。

 広場の上空には黒い翼を広げた四本腕の悪魔が浮かんでいる。

「この街の午後には悪魔が遊びに来る習慣があるんですか?」

「そんなわけありません、早く! 早く避難しないとっ」

>「韜晦(とうかい)スキルを得た」

 我ながらバカな事を言っている。ナディさんもオレの腕を引っ張って逃げようと訴えかけるが腰が抜けているのか立ち上がれないで居る。

 恥ずかしながらオレも周りの状況がちゃんと見えてるにも関わらず、行動を起こせないでいた。どうも入力された情報を上手く咀嚼できないのだ。頭と体が別物のように動いてくれない。

 2つめの火球が城壁を越えようとした時、青い半透明の障壁が空に伸び、火球は障壁に阻まれる。

 障壁が出る直前に騎士や魔法使いらしき団体が城から出てきた。

 篭城しろよ! なぜ城の守りを利用しつつ戦わない!
 イスから立ち上がれないヘタレな自分を棚に上げ騎士たちに悪態をつく。戦いの知識なんてゲームやマンガくらいしかないのにね……。

 悪魔は広場の中心にある花壇に着地する。有利な空からわざわざ地上で戦うのを選んだようだ。

 重装兵の後ろから弓矢が放たれる。雨音のような激しい音を立てながら広場に突き刺さる。残念ながら悪魔の黒い肌にすべて弾かれてしまったようだ。

 3騎ずつ編隊を組み左手からランスを構え騎上突撃を掛ける騎士達。悪魔の口から吐き出された紫色のブレスが騎士達を削る。酸の息なのか、直撃を受けた馬の顔や騎士の装備が酷い事になっている。勢いを殺された落馬した騎士たちは悪魔の足蹴りで仲間の方に無造作に飛ばされる。

 その騎士達の反対側から、さらに3騎の騎士が突撃する!
 先頭の2騎は悪魔の尻尾で薙ぎ払われたが、遅れていた1騎は悪魔の体に槍を突き立てるのに成功した。
 尻尾に薙ぎ払われた片方の騎士も立ち上がり悪魔に剣を振るう。

 悪魔は鉤爪のついた手で騎士の攻撃をいなし、咆哮を上げる!
 悪魔の漆黒の体躯の中心に千切れた草や小さな屑が浮かび上がり、だんだん速度を上げながら周っていく……。

 背筋に危険な予感が這い上がる!
 体を跳ね上げるようにイスから立ち上がらせる。脱兎の如く逃げようと思ったが、未だ腰が抜けて立ち上がれないナディさんが視界にはいる。

 もう時間がない。逃げるのは無理。

 ナディさんをイスから引き倒し、分厚い大理石の机を盾のように悪魔の方に向ける。
 オレの位置からはあいにく見えなかったが、このとき悪魔が全方位に真空の刃と衝撃波を放ったそうだ。

 ギリギリのタイミングだったがナディさんを大理石の机の影に抱え込むのに成功する。
 ズンッと重い衝撃が机にかかるが耐える。大理石の一部が真空の刃に切り飛ばされる。オープンテラスは見るも無残な状態になっていた。

 広場の周りの店舗はどれも半壊あるいは全壊している。ひどいのになると小さな馬車が突き刺さっていたりする。

 悪魔が衝撃波を受けきった重装兵たちに向かって歩き出すのを横目に、気絶したナディさんを抱えて広場を後にする。

 ナディさんを抱えたまま風のような速さで主街路を駆ける。
 内壁の付近では避難しようとする人が押し合いへし合いして危険な状態だ。

 道が混む前に途中で横道に逸れる。両手が塞がっているので思考操作で「立体機動」と「跳躍」スキルをレベル10まで取得する。

 内壁際まで寄っている大きな建物を見つけた。建物の壁と内壁をマンガに出てくる忍者のように交互に蹴って内壁を越える。

>「撤退スキルを得た」

 マップで確認すると東街のはずれみたいだ。
 都合よく通りかかった辻馬車を強引に止めてナディさんを何でも屋まで送ってくれるように頼む。初めは渋っていた御者も金貨を握らすと上機嫌で引き受けてくれた。

>「説得スキルを得た」
>「賄賂スキルを得た」

 今は金より時間が惜しい。

 オレは昨日の記憶をたよりに、とある(・・・)アイテムを揃えに走る。
 ……無双どころかチキンな主人公は逃げ出してしまいました。

 初期案ではホットケーキを食べてたナイフとフォークで片付けてナディさんに唖然とされるはずだったんですが、普通の社会人だった主人公がそこまでぶっ飛んだ行動がとれるとは思えず改変してしまいました。
 初期案の方がチート物っぽかったんですけどね~

 ホットケーキが宿代半月分?というのは流通の発達していない世界で貴重な素材をふんだんに使うと値段が急上昇するというのを大げさに表現したくて高めにしてみました。
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