挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
71/526

5-幕間4:店長さんのお仕事

セーリュー市の何でも屋、エルフの店長さんの視点です。

※2/11 誤字修正しました。
 私の名前はユサラトーヤ、ボルエナンの森で生まれたエルフだ。

「店長、準備できましたよ」

 そう言って声を掛けて来たのは、私の店の唯一の従業員、小さなナディだ。出会った頃は、私の膝くらいしか無かったのに、いつの間にか私より背が高くなってしまった。
 人族は成長が早い。

「行くぞ」

 私が声を掛けると「はいっ!」と元気良く答えて、足元の大きなリュックを背負う。
 彼女の足元にあったもう一つの中くらいのリュックを笑顔で差し出される。
 やっぱり、私の分の荷物か。

「人夫を」
「ダメです。そんな余分なお金なんてありません」

 荷物運びの人夫を雇おうという意図は伝わったようだが、却下されてしまった。店の経理は彼女に任せっきりだから、あまり強くも言えない。

 仕方ない、私はリュックに愛用の杖を差し込んで背中に背負った。

「お弁当には、店長の好きな干しイチジクも包んでありますから元気に行きましょう!」

 ほう、倹約家のナディにしては珍しく張り込んだな。
 少し口元が綻ぶ。それを目ざとく見つけたナディがニヤニヤしだしたので、懸命に引き締める。





「この辺から山に入りましょう」

 私に地図を見せながらナディが言う。
 ここまで乗ってきた馬は、木に繋ぐ。念のため魔物避けの薬を撒いておく。

 私達は、サトゥーと言う少年商人から依頼された品を、未開の山奥に住む灰鼠族まで届ける仕事の最中だ。
 普段なら、こんな面倒な仕事は請けないのだが、同じ氏族の娘が世話になった恩人の遺品を故郷に届ける依頼なので断れない。
 断れないと言うよりも、本来なら無償で引き受けるべき依頼だ。
 だが、人の良い彼は、正式な依頼として私達に頼んできたのだ。しかも、依頼料として金貨3枚も払ってだ。
 金は要らないと言いたかったが、素早く私の口を塞いだナディの手によって阻止されてしまった。

「店長?」
「すまん」

 少し、物思いに耽ってしまった。

「では、お願いします」
「うむ」

 私は森を歩くための秘術を使う。

「■■■ ■■■ ■■■■■■■ 森歩き(ウッド・ウォーク)

 緑色のオーラが私とナディを包む。
 この魔法を使うのも久しぶりだ。

 そのまま森に分け入ると、枝や背の高い雑草が私達を自ら避けて行ってくれる。

「何時見ても、この魔法は凄いですね」
「そうか」

 ナディのまっすぐな賞賛に、少し照れてしまう。
 ニヒルな大人の男としては、無表情を維持しなくては。
 私はナディを先導して山道を進む。障害が自分から避けてくれるので街道を歩くのと変わらない。

「あ~、あそこに蛍鈴蘭の花が!」
「ダメだ」

 そう、この魔法を使っている最中は、森の生き物を傷つけてはいけない。一度傷つけると一季節は魔法が、掛からなくなってしまう。

「そうでした、ああ、あの花があったら錬金術のお店で金貨5枚になるのに」

 名残惜しそうに花を見つめるナディの手を引いて、先を進む。
 大きな魔物でも通ったのか、不自然に抉れた岩や樹木を見かける。この森に何かレベルの高い魔物でも住み着いたのか?

 確認の為、魔法を使おうとした私は、ナディと手を繋いだままだったのに気がついた。手を離したいのだが、彼女が離してくれない。

「ナディ?」
「えっと、はい、離しました」

 聡明な彼女にしては珍しい。そんなにさっきの花が気になるのか。
 彼女の様子も気になるが、それよりも安全の確認を優先しよう。

「■■■ ■■■ ■■■■■ ■■ 森の囁きナチュラル・ウィスパー

 魔法が森に広がっていく。

『森に新しい魔物でも湧いたのかい?』
『蟻、沢山』
『もういない』
『いないね』
『勇者』
『居たね』
『夜』
『走ってた』
『飛んでた』
『大猪退治してた』

 森の小さな木霊(こだま)達の声が反響する。
 こんな辺境の森に勇者だと? サガ帝国の勇者が来たなら噂になるはずだし、鼠人族に勇者でも産まれたんだろうか?
 少し気になるが、どうやら魔物では無いみたいだし危険は無いだろう。





 昼頃に、ようやく鼠人族の集落にたどり着いた私達だが、残念ながらあまり歓迎されていないようだ。

 困った事に彼らの言葉が判らない。ミーアを助けてくれたと言う話だったので、エルフ語が通じるかと思ったんだが、予想が外れてしまった。

「どうだ?」
「はい、鼬人族語に近い感じです。少しエルフ語に近い単語も混ざっていますね」

 ナディが、私の服の裾を掴みながら推測を口にする。
 語学堪能とは聞いていたが、未知の言語にも対応できるとは、実に有能だ。

 大叔父のように術理魔法を極めていれば「翻訳(トランスレート)」の魔法も使えるが、私のレベルでは無理だ。

 ナディが交渉してくれるのを見守る。
 最悪の場合、遺品だけ押し付けて帰るしかないかもしれん。

 周りの鼠人の喧騒が少し大きくなった。ナディが表現を間違えたのか?
 うん? 足元がぞわぞわする。
 見下ろすと、小さな鼠人の子供達がわさわさと、地面に置いた私やナディの荷物にまとわり付いている。鼻をヒクヒクさせているから、気になる匂いでもあるのか?

 周りを刺激しないようにゆっくりしゃがんで、大きなリュックを開く。
 むわっとした強烈な匂いが広がった。この包みはコロッケだな。
 どうも子供達は、この匂いが気になるみたいだ。こんな脂臭いものの何がいいのか知らないが、市内でも大人気だ。
 ナディが自分のお昼用に持ってきたんだろうが、ここは友好の架け橋になってもらおう。
 包みの中はコロッケが10個。子供達は18人か。
 私はコロッケを半分こして子供達に分けてやる。

 その頃になって、兵士達の間を割って現れた母親らしき鼠人の女達が、口をモゴモゴさせている子供達を3~4人ずつ抱えて男衆の後ろに戻っていった。
 残った1個は、物欲しそうにこっちを見ていた鼠人にやる。ナディが少し訴える様な視線で見ていた。後で干しイチジクを分けてやるから怒るな。

 コロッケが架け橋になったのかは分からなかったが、シガ国語の判る族長らしき鼠人が出てきたので、なんとか目的は果たせそうだ。





「そうか、兄は亡くなったのか」
「最期を看取った者の話では、勇敢な最期だったそうです」

 私から受け取った遺品の中の赤い兜を両手で抱えながら、族長が言う。その言葉には深い悲しみが宿っているように感じた。
 ミーアを助けてくれた事について礼を言い、暇乞いをしようとした所でナディが口を挟んできた。

「族長さん、このあたりの森だけ枯れているのは何故ですか?」
「理由は判らん、半年ほど前から枯れ始めた」

 なるほど、ナディの言いたいことが判った。礼は言葉だけでは足りない。
 私は族長の藁葺きの木の家の外に出て魔法を使う。

「■■ ■……■ ■ ■ ■■■■■ 森乙女召喚(サモン・ドライアド)

 私の呪文に応じて、この山林の精霊が召喚に応じてくれる。
 緑色の髪の小さな少女の姿だ。

「尋ねたい」
「エルフ! 久しぶりね」
「山林の」
「山が枯れてるのが知りたいの?」
「そうだ」
「山が枯れてるのはね~ ニンゲンが遺跡を無理に動かしたから」

 ドライアドの話によると、トーヤ大叔父の遺跡のせいで付近の地脈が吸われてしまったのが原因らしい。なんと言う事だ。

「対策を」
「それなら、大丈夫。遺跡は止まったし、可愛い子からいっぱい魔力を貰ったから」

 その魔力を呼び水にして、遠くの地脈から力を引き込むのに成功したらしい。
 こんな見た目でも、私よりよほど長生きなだけある。

「感謝する」
「いいのよ~、またね」

 そう言ってドライアドは召喚陣の向こうに去って行った。
 すでに解決済みだったとは。

 ドライアドとはエルフ語で話していたので、その内容を族長とナディに伝える。
 私の話が難しかったのか、なぜかナディが族長に通訳している。

「おおお、村は救われるのですな」
「良かったですね族長さん」
「はい、これで別の山に移動しなくて済みます」

 族長にガシッと手を掴まれ、何度も何度も礼を言われる。
 私は、何もしていないのに。

「魔法で原因を確認して、大丈夫な事を伝えてあげたじゃないですか」
「そうか」

 さて、ここでの仕事は終わった。
 街に帰って、いつものソファーで昼寝がしたい。

 本来主人公がするはずのエピソードだったんですが、店長さんに代行してもらいました。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ