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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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1-7.行水と方針と観光と

※2/11 誤字修正しました。

 サトゥーです。ヤバそうな奴隷娘とは係わり合いに成りたくない小市民なサトゥーです。

 夢だ! と自己暗示をかけるのも限界のようです。
 夢の可能性が高い異世界かもしれない世界ということで妥協したいと思います。ええ、どんなに可能性が低くても諦めないのです。


 ◇


 風呂は無いかとマーサちゃんに聞いたら領主の城にしか無いと言われ傷心中。食文化や町の衛生観念の高さから風呂くらいあると思うじゃん。
 部屋での行水にしようかと思ったわけだが、部屋が湿気でカビ臭くなるから行水したいなら裏庭に井戸があるからそこでやってくれと言われた。

 裏庭は6畳ほどの空間がある。井戸は裏口からそれほど離れていない、ポンプ式ではなく昔の釣瓶を使うタイプのようだ。2つほど木製のタライがあったので1つに水を汲む。
 苦労するかと思ったが筋力(STR)ステータスが高いせいか軽々と汲み上げられた。

 裏庭とはいえ柵は腰の高さの植木なんだよね。人通りは少ないとはいえ、無いわけじゃないので、夕方で薄暗くてもこんなところで水浴びなんかしたら見世物なんじゃない?

 周りを見回すと裏口のそばに衝立があった。
 そうか、これを使うのか。

 衝立を路地から見えない位置に置き水浴びを始める。
 腰の高さくらいしか無いが、遮蔽物としては事足りる。

 ……しまった石鹸を買ってくればよかった!
 シャンプーは流石にないだろうけど、石鹸くらいは売ってるんじゃないかな。明日、探してみよう。

 裏口が開いて女の人が出てくる。20代後半の金髪美女だ。なんていうかこの街って美形が多いよね。

 視線が合った。
 イヤ~ン。
 ……キモ。自分で自分がキモイ。

 女の人はタライに水を汲み終わると、おもむろに衝立を置いて水浴びを始める。
 オレとの間には衝立があるけど、あるけど!
 ちょっと動くたびに、上半身が!
 いや、推定Dカップのあれが、ぷるんぷるんと自己主張するんですよ!
 さすがに先端は手で覆ってますが、たまに無防備にさらされて……。

 いかんいかんDTじゃあるまいし、ガン見してた視線を意思の力を振り絞って引き戻して体を洗うのを再開する。元気な下半身よ、自重しろ!

 ちらっと見えた女性の横顔が、してやったりな感じの余裕のある表情だったのが!
 やっぱ大人な女の人っていいよね!!

 清潔になった体をささっとタオルで拭って……水はどこに捨てればいいんだろう。
 排水溝なんてないよね。

「水は植木にでもかけておけばいいですよ。植木の下に排水溝があるそうですから」

 キョドっていたのが哀れに思われたのか、女の人が教えてくれる。オレはお礼を言って水を始末して宿に戻る。

 戻るときチラ見したのは大目に見て欲しい。

>「監視スキルを得た」
>「無表情(ポーカーフェイス)スキルを得た」


 ◇


 水浴びをして新しいローブに着替えてすっきりした。

 夕飯はやはり野菜主体だったが野菜の味が良く出ていて美味しい。欲を言えばもうすこし濃い味が好みなんだが。
 一品サービスは生野菜サラダだった。肉料理だったら嬉しかったんだが……。
 ちょっとタンパク質が足りないので、ポケット経由で取り出した干し肉も一緒に齧る。
 酒も飲みたかったが、客が飲んでいる「どぶろく」っぽい地酒に食指が動かなかったので止めておいた。よく冷えたビールを飲みたいな~。

 食事後、部屋に戻ったが明かりがない。電灯はおろか魔法の明りも無い。仕事しろファンタジー!

 酔客相手に奮闘している女将さんに聞いたら、「ランプがいるなら銅貨1枚だよ」と言われた。ちなみにランプは後で返却との事。どうも起きていたいヤツは酒場で飲み明かし、眠りたいやつだけが部屋にもどるそうだ。

 トイレは共同で汲み取り式だった。昨日までは野外だった事を考えればマシだろう。事後に拭く用なのか藁束(わらたば)が積んであった。痔になりそうなので清潔な布を裁ちバサミでハンカチサイズに切って使った。エコじゃ無いが、ここは節約したくない!

 用を足したあと部屋に戻る。
 ランプの明かりだと暗い。戦利品の中に照明関係の魔法道具(マジックアイテム)くらいありそうだが、違うアイテムを出して宿を半壊させたりしたら目も当てられない。

 借りた部屋は8畳ほどで、シングルサイズの木製のベッド、イス、机がある。椅子の足にコロが付いていないのは当然として机に引き出しも無い。

 窓はあるが顔が出せるくらいの狭さでガラスも嵌っていない。換気用なのか寝るときは防犯のために閉めるように女将に注意された。

 幸いな事にメニュー画面は、周りが暗くても鮮明に見えるようだ。


 ◇


 メニューのメモ欄にこれからの方針を記入していこう。

 行動1.夢か現実かは考えない!

 とりあえず本当にリアル異世界だった場合に後悔しないように、暫定でココは異世界と認定し行動する。そう暫定だ。そこは譲らない!

 行動2.周りに埋没する

 高レベルなので敵対されても脱出可能と思われるが、あまり反社会的な行動をとって異世界観光を妨げられるのは回避したい。あと実力不明だが神もいるみたいなので、自分を過信した迂闊な行動は慎みたい。

 行動3.護身術を手に入れる

 正しくは手加減して相手を無力化する方法、あるいはトラブルを無難に乗り切るスキルや魔法を手に入れたい。トラブルのたびに流星雨を降らせるのは控えたいのだ。

 行動4.現実に戻る方法を探す

 夢なら覚める方法を、異世界に神隠しされたなら戻る方法を探してみよう。あんまり積極的に行動する気はないけどね。

 行動5.せっかくだから異国情緒を楽しむ

 これだけリアルなんだから観光とか楽しもう。予算もたっぷりあるし。
 騎士様に聞いたなんでも屋で観光ガイドを雇えないか聞いてみよう。


 こんなところかな?
 寝る前に石鹸の事だけ追記した。


 ◇


「観光案内なんて初めて頼まれましたよ」

 そう言って、なんでも屋のナディさん20歳(ハタチ)は、はにかむように笑う。美人ではないが、なんか仕草の可愛い人だ。地味にモテるに違いない。

 普通は雑用の請負や各種職人ギルドへの口利きがほとんどで、観光という行為自体が珍しいそうだ。

 歩くと大変なので屋根のない辻馬車を借りて街を観光している。

「西通りはあまり裕福でない市民用の店だけでなく、ちょっとグレーな品物を扱うお店も色々とあります」

「たとえば?」

「そうですね、惚れ薬とかを扱う錬金術のお店や質屋、金貸し、風俗店なんかもあります。奴隷商会があるのもこの通りです」

 奴隷の言葉に反応してしまった。あの幼女に会いたくないな~。トラブルの予感しかしない。

「おや? 奴隷に興味がおありですか? 護衛には向きませんが旅をするなら雑用をさせたり荷運びさせる奴隷がいると楽だそうです。行商人の方は大抵連れておられますね」

「このあいだの星降りから自粛されていましたが、そろそろ奴隷市が再開するそうです。明後日から3日ほど開かれるそうです」

 奴隷商会で買えるのは奴隷市の売れ残りか教育中の者だけらしく、普通は月に1回開かれるオークション形式の奴隷市で売買されるらしい。

「旅の護衛を雇うなら傭兵が屯している酒場もちらほらありますね。もっとも傭兵は信頼できる者を探すのがなかなか大変なので、ご入用の場合はぜひ『なんでも屋』をご活用ください」

 馬車は西通りを抜け内壁沿いに進む。

「このあたりは職人街です。木工、鍛冶、革細工といろんな職人さんがいます。店を構えている方はほとんどいません。たいてい商店や露店の(あるじ)に販売を委託しているみたいです」

 武器防具の修理もここでやっているのだろうか?

「知り合いの職人さんがいるなら直接持ち込んでもかまいませんけど、それ以外だとトラブル防止に武具店で仲介して貰う方が一般的になりますね。武具店は内壁内にある騎士様用の高級店と東街のビソー通りの兵士や一般向けの店があります。狩人さんは食肉加工屋が沢山ある西街の武具屋さんに行くみたいです」

 各店舗に行くのは一通りの街並みを見てからにしよう。たぶん一日じゃ終わらないし。
 そういえば北側にあるのは領主様の荘園なんだろうか?


「よくご存知ですね。内壁の中に行く前にかるく見て回りますか? 収穫作業くらいしか見れるものはありませんけど」

 そうだね、徒歩で散歩して野菜泥棒って思われても嫌だし。

 馬車は内壁沿いに西街を進み、外壁と内壁の間の狭い道を北へ向かう。

 しばらく進むと開けっ放しの門があり、門番の兵士がいる。御者は兵士に軽く会釈すると門を潜って北区に入る。

 そこは広大な農場エリアだった。農道をゆったり馬車が進む。農作業している人たちをみると昨日最初に買ったガボの実を収穫しているようだ。

 不思議ではないのかも知れないが、手伝いをしている小学生くらいの子供がやけに多い。

「あの子たちは、たぶん孤児院の子供達だと思います、今は収穫期なので街の子供達も働きに来ているかもしれません」

 子供でも働いてるのか。ノーモアニート?!
 ちょっと不思議な顔をされた。

「裕福な家庭でもないと、あれくらいの子供なら普通働きますよ?」

 学校は行かないのか。WHOの給食支援をセーリュー市にも!

「学校ですか? 貴族様や裕福な家庭の子が通う私塾はありますが、学校は王都にしか無かったはずです」

「それに子供達が収穫しているガボの実はお財布の軽い市民の主食ですから」

 はて? 宿でも普通のパンや麦粥だったが、シチューにでも入っていたか?

「いえ、門前宿はわりと高めの宿なので出してないと思いますよ。西街の立ち食い屋さんとかで平べったいパンやお粥、漬物とかが良く売られています。においがキツいし苦味やえぐみが強いので裕福な人はまず食べませんね。とにかく安くてお腹がいっぱいになるので、孤児院とか裕福では無い家庭だけでなく、市民の半分くらいは日に1度は食べていると思います」

 それなら普通にイモとかを育てればいいのに。

「通年での収穫量が違うんです。面積あたりの収穫は少ないくらいですが一ヶ月ほどで収穫できる上にめったに不作になりません。それに休耕地を肥やす性質があるそうなんです。ガボの実のおかげで孤児院の収容数が激増したそうです」

 なんて便利なファンタジー野菜。ご都合主義にもほどがある。
 それにしてもナディさん、博識だな……王都の学院卒の才媛だそうです。

「もっとも塀で囲まれた荘園の中でしか育てられないので農村部の食糧事情は酷いらしいです」

 外だと育ちにくいのか、領主が独占しているのか? 微妙に謎だ。

「ゴブリンの大好物なんです。ここみたいに塀に囲まれた場所じゃないとゴブリンが寄ってきて瞬く間に食い荒らされちゃうそうです」

「元々王国の北部でゴブリンが爆発的に増える事件が頻発して、その調査をしている時にガボの実と関連つけた学者の方がいて、当時はガボの実は見つけるたびに燃やしていたそうですが、飼料用とかで使い始めて、今では下層民用の主食にまでなりました。もっとも今でも、野生のガボの実は見つけ次第焼き払う決まりです」

 農園側の塀は街よりもだいぶ低い。2メートル半ってところか。
 農園に入る前から気になっていたが1キロおきに立っている塔はなんだろう? 20メートルほどの高さで意外にゴツゴツしている。

「あれは飛竜やドラゴンの襲撃があったときに撃退するための砲が設置されています。城にあるのは城の防衛用で、こちらの農園の塔が実際の攻撃に使われます」

「40年ほど前に黒竜が襲ってきたときにも大活躍したそうです。その時に半分くらいの塔が倒されましたけど、無事撃退に成功したと記録に残っています」

 撃退なんだ……。空に逃げられたのか?

「さすがに翼竜(ワイバーン)ならともかく成竜を倒すなんて無理ですよ。それこそ王祖のヤマト様のような大魔術士とかサガ帝国の勇者様でもないと」

 ……勇者か。

「サガ帝国には勇者召喚という大魔術があるそうです。召喚に必要な代償が莫大らしくて、66年周期の魔王襲来以外ではまず行われない秘術らしいです。ヤマト様やサガ帝国の初代皇帝も勇者召喚で世界を救うために呼ばれた方だそうですよ。素敵ですよね」

 やっぱ大和とか佐賀さんなのか……。聖剣の名前がエクスカリバーだった理由がうっすら透けてきたな。

 話がそれている間に農場を1周し終わり、馬車は内壁の内側へ向かっていった。


 ナディさんは海外旅行の時のツアコンをイメージしてみました。
 ファンタジーものってあんまり観光しないですよね~? なんでだろう?
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