5-14.合流
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※2018/6/11 誤字修正しました。
サトゥーです。謎が謎を呼ぶのはミステリーだけにしてほしいものです。
殺伐とした冒険より、のんびりとした観光ライフが送りたいサトゥーです。
◇
ゼン、善か禅かは知らないが、アイツの気迫に呑まれて、思惑通りに踊らされてしまった。アイツは満足しただろうけど、巻き込まれた方はいい迷惑だ。
それにしても、成り行きとはいえ人を殺してしまったのに罪悪感をあまり感じない。MNDが高い為だけでなく、アイツの満足しきった最期や、見た目が動く白骨死体だったのもあるのだろう。
気を取り直して、まず、アリサ達の位置を確認する。リザが少し怪我をしているようだが、全員無事だ。場所は最初の野営地ではなく、セーリュー市の近くまで移動している。
どうも「朝になったら」と言うのを、朝一でなんでも屋の所に行けと解釈したようだ。「朝になってから出発しろ」と言いたかったんだが、言葉は難しい。
携帯電話でもあったら無事をしらせられるんだが、無いもの強請りしてもしょうが無いし、王都や迷宮都市に着いたら似た機能のものが無いか探してみよう。
さて、この暗い中、山を5つも越えるのは大変だ。肉体的にはともかく、精神的な疲労が濃い。せめて夜明けまで休息が欲しい。
夜明けまで、ここで休憩するか?
我ながら薄情な事に、そこまで考えて、アリサやリザ達を放置してはいけない事を思い出した。奴隷だけで戻ったら逃亡奴隷扱いされないだろうか?
正門の責任者の騎士ソーンは大らかな人だったが、それが奴隷や亜人まで対象になるかはあやしい。
パラメータ的には体力は全快だし、スタミナも9割も残ってる。ちょっと体育会系な考え方で嫌だが、気合で何とかしよう。
ミーアは当然担いでいくとして、№7も連れて行こう。ここで放置して狼の餌食になったりしたら、何のために迷路から連れ出したのか分からなくなる。
ミーアと№7をそれぞれ厚手のシートで包む。期せずして赤兜がミーアを最初に連れてきたスタイルに似てしまった。
>「梱包スキルを得た」
№7の上にミーアを乗せ、2人を両手で抱え上げる。所謂、お姫様ダッコだ。普通の筋力なら数分でダウンするが、今なら何時間でも抱えていられるだろう。歩き始めて、ミーアがずり落ちそうになったので、もう一枚のマントで2人を一緒に包む事で安定させた。
2人を抱えて山道に分け入る。
◇
山道を走り出して数分もしない内にいつもの様に
>「悪路走破スキルを得た」
と表示されたので最大までポイントを割り振って有効化する。ついでに「疾走」スキルも同様に有効化しておいた。ちょっとポイントの無駄使いかもしれないが、まだ9割近くも残ってるしいいだろう。
今まで暢気に構えていたが、あの紫の光といい、まだまだ今回のようなトラブルに巻き込まれそうな予感がする。アリサ達と合流したら一度スキルを精査して半分くらいのポイントを使って自己強化する事に決めた。
さらに10分ほどで鼠人族の村跡らしき場所を通過した。ミーアが赤兜と再会した村だろうか?
興味はあるが、今は山道を進む。
悪路走破スキルのお陰か、飛び込んでいい藪とそうでない場所が、なんとなく見分けられる。罠発見ほどはっきり区別がつかないが、人工物と自然の違いなんだろうか?
悪路走破に加えて疾走スキルもあるお陰か馬車よりよほど速い。しかも跳躍と立体機動スキルを併用して、ほぼ直線で山を駆け抜ける。忍者漫画の登場人物にでもなった気分だ。
山を2つほど越えたあたりから、枯れ木が減り始め植生が豊かになっていく。
こんな時に限って、光る鈴蘭みたいな花や、明滅するキノコなど気になる植物を途中で見かける。近寄って観察したいところだが、時間が惜しいので諦める。ちょっと悔しいので、場所だけはマップにマークしておいた。
たまに抱えている2人が引っかかりそうな枝が突き出ていたりしたが、それらは手に握りこんでおいた小銭指弾で排除した。
月明かりを頼りに夜の山を駆ける。この世界の月はやけに明るい気がする。
4つ目の山で、飛び出してきた大猪を撥ねてしまった。レーダーで気がついてはいたんだが、突然こちらに飛び出したので、そのまま蹴ってしまった。
これまでも小動物の飛び出しは上手く避けていたんだが、さすがに熊ほどもある大猪はでかすぎて無理だった。
直撃した頭は咄嗟に目を逸らしたがスプラッタな感じだ。飛び散った頭は見ないようにして、残りの本体はリザへの土産用に地面に落ちる前にストレージに仕舞う。何度もリザの解体ショーを見ていたせいか、少し耐性が付いてきたのかもしれない。偉そうな事を言ったが、暗くなかったら遺棄した自信がある。
そしてようやく街道まで出てこられた。ここから直線でセーリュー市まで80キロ。夜明けまで1時間半だ。
オレは丘陵地帯を直線で駆け抜けていく。ちょっと地面を抉ったが、誰も気にしないだろう。
◇
走りながらオレは考える。アリサといいゼンといい、神に力を貰った人間は不運に巻き込まれる傾向にある気がする。どうも善意だけの存在に思えない。
この世界の神は人に試練を与える事を愉しんでいるのだろうか?
それとも、北欧やギリシャの神話の神の様に、人間臭い善悪を兼ね備えた存在なのか?
いや、聖書に出てくる悪魔の様に、神を騙る存在が居たりする可能性だってある。
推測だけでは答えが出ない。旅の途中、大きな神殿か図書館でも見かけたら、神について調べてみよう。
その調べた事と、アリサが実際に会った時の印象を比較してみるのがいいだろう。
それにしても、この調子だと、他にも転生者が居るんじゃないだろうか? よくこの世界の文化や文明が崩壊しないもんだ。
案外、オレみたいに積極的に現代知識を広めないような人間が、選ばれているのかもしれない。
陰謀論が好きな人なら、積極的に現代知識を広めようとした人間を排除しようとする勢力がいるのではないか? とか考えそうだ。
さて、魔術士ゼンが不死の王になったのは、貴族に処刑された後だといっていた。
その話を聞いた時に気になったのが、オレのユニークスキル「不滅」だ。字面が似すぎている。HPがゼロになったら、オレも不死の王や魔王になったりしそうで怖い。
野営地でアイツと戦った時に見た「物理攻撃透過」「瞬間的な回復」はユニークスキルだったんだろうか? ヤツはその2つの力のせいで自殺できなかったのかもしれない。
アイツの話からの推測でしか無いが、「勇者」の称号と聖剣の組み合わせがあって初めて、その2つの力を無効化できるのだろう。
もしかしたら、魔王にも同じ条件があるのかもしれない、と考えるのは思考が飛躍しすぎだろうか?
しかし、その割に竜神や天竜たちは、何の称号もついていないオレの使った流星雨で全滅してしまった。流星雨に「勇者と聖剣」と同種の効果があるのかもしれないが、何かアッサリしすぎている気がする。
そう思うのは、魔王達を狩る存在と聞いていたからかも知れないが、案外攻撃特化型の種族という可能性もある。少し釈然としないが、新しい情報が入るまでは、とりあえずそう納得しておく事にした。
◇
ゼンの話していた事を回想していて、称号の事を思い出したので「無し」に戻しておく。ついでに交流タブのレベルも変更しておいた。アリサやリザも連戦でレベルが上がっていたし、オレもレベル12ほどにしておく。
アリサ達の成長はこんな感じだ。
アリサ……レベル10⇒12、スキル省略
ルル………レベル2⇒3 、スキル「礼儀作法」「操車(new)」
リザ………レベル13⇒14、スキル「槍」 「刺突」「解体」「料理」「強打(new)」
ポチ………レベル13⇒14、スキル「小剣」「投擲」「解体」「索敵」「射撃(new)」
タマ………レベル13⇒14、スキル「小剣」「投擲」「解体」「採取」「索敵(new)」
ルルの「操車」スキルも悪くないが、できれば「料理」スキルを覚えてほしかった。
ゲームなら仲間のスキル割り振りを操作できるんだが、現実だとそうもいかない。
そういえば「教育」スキルというのがあったはず。
これで意図的に覚えるスキルが操作できないかな? 今度ルルにでも協力してもらえないか尋ねてみよう。
◇
10分おきにマップで確認したが、オレ以外に、まだ街道を走っている馬車や人はいない。アリサ達はセーリュー市の正門前に、到着している。
ありえない事に40分程でセーリュー市が見える位置まで来られた。平均時速120キロとか我ながら人外だ。
街道に入ったあたりからは道を踏み荒らさないように速度を緩めたから、丘を駆けていたときの速度は推して知るべしだ。
セーリュー市の物見塔から見えるかもしれないので、最後の林を抜けたあたりからは徒歩に戻した。
あと3キロほどだし、門が開くまで50分もある。
セーリュー市まで2キロほどの場所にある小高い場所まで来た。ここまで来ると塔や外壁の上部だけでなく、門の辺りまで視界に入る。遠くの方にオレ達の馬車が見えてきた。
見ている内に、馬車がこちらに向かって走り始める。どうやら誰かがオレに気がついたようだ。夜目が利くしタマかな?
その内にオレにも見えてきた、リザが馬車を操作している。ポチとタマが馬車から落ちそうなほど身を乗り出して、こっちに手を振っている。アリサとルルは、まだこちらが見えないのか馬車に捕まりながらこちらを心配そうに見ている。
ミーア達2人を片手で上手く抱きなおして、オレも手を振り返す。
それにしても皆の雰囲気がおかしい。心配してくれているとは思っていたが、心配しすぎじゃないだろうか?
やがて馬車は、砂煙を上げながら目の前までやってくる。
オレは抱えていた2人を路肩に下ろし、皆を迎える。
目の前で馬車が急停車し、ポチとタマが馬車から転がり落ちるように降りて、こっちに走ってくる。
ダンッ、そんな音を立てて御者台から跳躍したリザが、ポチとタマの頭上を飛び越えて一番に駆けてきた。「ごじゅじんざま」と濁点多めで叫びながらオレを強く抱きしめてくるのを、体重差で跳ね飛ばされないように重心を落として受け止める。リザは、オレを抱きしめながら滂沱のように涙を流す。
リザの意外な行動に目を白黒させているうちに、ポチとタマもリザやオレの体をよじ登って左右から抱きついてきた。
「おかり~」「なのです!」
2人はそう言いながら嬉しさと安心を上手く表現できないのかオレの頭や肩を散々甘噛みした後、顔を舐めまくっている。なんていうか激しいな。
遅れて馬車を降りてきた、アリサとルルだが、3人の激しい抱擁に気後れしたのかなかなか割り込めないようだ。アリサをそっと押し出しながら、ルルが奥ゆかしい感じに「おかえりなさい」と言ってくれる。
「ただいま、心配させてごめんね」
リザはオレを抱きしめたまましばらく泣いていたが、オレの言葉を聞いて少し涙声で答えてくれた。そして抱きついていた自分に気がついたのか、恥ずかしそうにオレから離れる。
それに合わせてポチとタマの二人も、地面に降ろして頭を撫でてやる。
「心配したのです!」「怪我無い~?」
ポチとタマがこちらを見上げながら心配そうに気遣ってくれ、ルルがこちらに微笑みかけながら、少し俯いたままのアリサを前に押し出してくる。
アリサらしくないな?
「……し、心配したんだから! もう、あんな無茶はしないって約束して!!」
意を決して顔を上げたアリサの言葉を受け止める。大きな目から涙が零れそうなほど溜まっていた。
謝りながら優しく抱きしめて、背中を軽くポンポンと叩いてやる。
我慢していた涙腺が崩壊したのか、泣き出したアリサをあやす。それに釣られたのか、ポチとタマまでアリサと一緒になって泣き出してしまった。そんなオレ達の姿を遠巻きに見ていたルルとリザも涙ぐんでいる。
皆が泣き止むまで、オレは何度も何度も謝罪の言葉を口にする事になった。皆がオレを心配して流してくれる涙や小言が、少し荒んでいた心を暖かくしてくれる。そして、その時間は空が白み始めるまでゆったりと続いた。
長くなりすぎたので分割しました、ミーアや№7の話は次回です。
原稿を見直す時間が取れなかったので、誤字が多いかもしれません。