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5-11.トラザユーヤの迷路(2)

※2/11 誤字修正しました。


 サトゥーです。小さい頃は新聞の片隅に載っていた迷路を解くのが得意でした。

 大人になってからはテーマパークにある迷路で遊んだくらいの経験しかありません。





 迷路の入り口は高さ1メートル半の低い塔だ。塔は草木で隠蔽されていて、そこにあると知らなければ、まず見つけられない場所にあった。

 人が出入りした形跡はあるが、その痕跡は小さい。マップで周囲を確認してみると、魔物が出入りするための勝手口みたいな縦穴があるようだ。


 扉を開けて塔に入る。無用心な事に鍵は掛かっていない。

 オレは入るときに銀仮面の衣装に着替えるか迷ったが、魔術士がアリサの同類だったらオレの名前が見えるだろう。銀仮面=サトゥーの図式は知られない方がいいので、今回は銀仮面に変装するのは止めた。


 迷路の敵を検索して必要な武装を考える。敵はレベル5~8の大牙蟻(ファング・アント)とレベル1~3の骨兵士(スケルトン)が大多数だ。レベル18の骨魔兵(ボーンゴーレム)とレベル15の木魔兵(ウッドゴーレム)がやや強いくらいだ。

 他にも珍しいところでは、スライム系の敵や、魔造人間(ホムンクルス)がいるがレベル5以下なので雑魚と言えるだろう。

 ただ、魔造人間(ホムンクルス)が持っている「理術」というスキルが、少し気になる。何のスキルだろう? 術理魔法の一種だろうか?

 状況が許すならリザ達の育成に利用してもいいくらいの難易度だ。


 高レベルなのは、中央の大部屋にいるレベル30の鉄魔巨人(アイアンゴーレム)と主の間にいる魔術士くらいしかいない。


 なので武装は盾代わりの細片刃剣(サーベル)と、サブマシンガン的な連射魔法銃にした。いつもの魔法短銃にしなかったのは、この方が強い武器に見えそうだからだ。


 実際のところ、一度の魔力チャージで毎秒1発で50発まで撃てるので連射性能は高いのだが、一度に連射してしまうと10分ほどクールダウンが必要になるので今まで使わなかった武器だ。

 今回採用したのは、単発で撃つ時に「拡散」弾が選べるので、味方の誤射を心配する必要が無く、威力が低くてもかまわない雑魚戦向きの銃だからだ。


 地底湖に落ちたときに脱いでいた外套を着る。さっきまで着ていたのと違い、セーリュー市の東街で買った厚手だが非常に安物のヤツだ。返り血防止用ならこれで十分だろう。


 オレは装備を整えながら螺旋階段を下りる。





 階段を抜け迷路に入る。

 地下の樹脂的な地面とも違うが、見た目が石畳なのにどこか植物的な感触がする。床板の隙間から光が漏れるようになっているので視界は確保できる。

 迷宮といい松明いらずで助かる。


 何の音かわからないが、コーンコーンと金属質というか軽い音がどこからともなく聞こえる。暫く耳を澄ませてみたがよく判らないので、心の片隅にメモしておく事にした。


 地道に戦う気もないので、主の間までの経路を調べて最短コースをメモする。


 出会う骨兵士(スケルトン)は蹴り飛ばして破壊し、大牙蟻(ファング・アント)は拾っておいた骨を投げつけて排除した。

 せっかく用意した銃だが、出番がまったく無い。


 それにしても、この骨兵士(スケルトン)だが頭蓋骨が人族じゃない。おそらく鼠人族の骨だろう。


 この迷路だが1階層をクリアする毎に下の階層に行けるゲーム的なものではなかった。むしろブロック単位で立体的に連結されていて深い階層まで潜って、また上層を経由してまた潜るようなややこしい構造をしている。


 今降りている階段も手の届かない位置にある壁に埋め込まれたオブジェが、騙し絵のように降りているのか上がっているのか不安にさせるように作られている。


 なんとなくテーマパークみたいだ。


 そんな事を考えながら蹴飛ばした骨兵士(スケルトン)から出た魔核(コア)が、少し大きかった。一応骨兵士(スケルトン)の落とす魔核(コア)は剥き出しなので回収している。蟻のは無理だ。

 不思議に思ってログを確認すると、倒したのは骨兵士(スケルトン)ではなく骨魔兵(ボーンゴーレム)だった。6倍くらいレベルが違うが、雑魚度は変わらないのか。


 敵の抵抗も弱く、罠も無く順調に進んでいたが、目の前が行き止まりになっている。マーカーではこの先に進めるはずなんだが?


 マップを確認したところ、たしかに行き止まりになっている。

 再確認して判ったのは、この迷路が時間とともに経路が組み変わることだ。入ったときに聞いたコーンと言う音の度に組み変わるのだろう。


 なんて無駄に凄いギミックを。ある意味、現代科学でも再現するのが大変そうだ。


 音がするたびにマップを確認しながら迷路を進む。

 マップを気にしながら走っていたので、もうすこしで通路いっぱいに広がるスライムに突っ込むところだった。

 ようやく、出番が来た連射魔法銃で排除する。3発くらいで死んだが、地面がヌチャヌチャしていて気持ち悪い。





 ようやく中央の大部屋にたどり着いた。この場所は不動で、中間地点になっている。ここは高さ5メートルで一辺20メートルほどの広い部屋になっている。


 部屋の中に入ると扉が自動で閉まり、中央の魔法陣が光る。

 魔法陣の中からせり出すように鉄魔巨人(アイアンゴーレム)が現れる。その横には主の間で見た金髪美女がいる。このゴーレム、やたらリベットが打ってある所とか、どこか戦前のテイストを感じる。

 そうか、この娘が魔造人間(ホムンクルス)だったのか。道理で同じ顔の人が何人もいるはずだ。顔の造形からして素材はミーアなのだろうか?


 連射魔法銃の設定を拡散から収束に変更する。

 鉄魔巨人(アイアンゴーレム)は4メートル近い大きさだ。その額には悪魔の迷宮の石魔巨人(ストーンゴーレム)には無かったある文字が書いてある。


「よくぞここまでやってきましたね、探索者殿」


 こんな状況でも聞きほれそうな艶のあるいい声だ。台詞が棒読みなので台無しだったりするが。


「オレは商人なんだけどね」

「商人? ……探索者よ! よく来ました」


 コテンと首を傾げて黙考した後、首を元に戻して話を続けた。人形みたいな動きだな。

 探索者で押し通す気か。


「優秀なお前には守護者と戦う権利を与えましょう。守護者を倒せれば、この先に進む資格ありと認めます。勝者には迷路の主から褒美が与えられるでしょう」


 こうも棒読みだと、小学校の学芸会でも見ている気分になる。

 オレが白けていても気にせず、美女はシナリオ通りに話を進める。


「さあ、戦うのです。鉄巨人よ手加減は無用です」


 ようやく長台詞を終えたのか、美女が部屋の隅に退場していく。その顔が満足気と言うか、ドヤ顔っぽくてムカつく。


 美女が部屋の隅まで行くと鉄魔巨人(アイアンゴーレム)が動き出す。

 オレは連射魔法銃でゴーレムの額の文字を撃ち抜く。そう額にわざわざ「EMETH」と書いてあったので「E」破壊して「METH」にする。

 逸話通りにゴーレムは動かなくなる。そうオレ達の世界の逸話通りに。


 あっさり倒されると思わなかったのか、部屋の隅で美女が狼狽する。

 オレは美女を無視して出口に向かう。


「油断シタナ!」


 美女は棒読みの台詞を言いながら細剣(レイピア)で背後から襲ってくる。何か強化魔法でも使ったのかレベルの割に素早い突きだ。

 オレは美女の手を砕かないように注意して細剣(レイピア)を持つ手を受け止める。


「そういえば勝利の報酬ってなんだい?」

「……ワタシ?」


 さっきと同じようにコテンと首を傾げて、暫く逡巡した後にそう言った。なぜか疑問形だ。


 どうやら勝つとは思わず用意していなかったみたいだな。

 オレは美女を当身で気絶させて、報酬代わりに細剣(レイピア)を貰う事にした。鍔から柄への意匠が可愛らしいので、ルルかゼナさんにでもプレゼントしよう。


 美女をそのまま床に寝かせて、先へ進む。





 その後は、大した障害も無く主の間に辿りついた。後半は罠もあったのだが、すべて罠発見で避けたので、どんな罠があったかは確認していない。


 主の間の奥には魔術士がいる。玉座にはミーアもいるが、まだ気を失ったままのようだ。HPは回復しているがスタミナはまだ3割程度しか回復していない。


「まさか、これほど早くここまで来るとは思わなかったのだよ」

「そうかい? できれば、このまま戦わずにミーアを返してくれないかな」


 魔術士がカカカと笑う。

 オレは会話をしながら、少しずつ玉座の方に歩みを進める。魔術士を無視してダッシュして、また地底湖に落とされたら嫌だからな。


「否、それは否なのだよ。鉄巨人を倒すことで君は資格を示してしまった」


 魔術士の独演は続く。


「だが、我と相対するには称号が足りない。君には、これから決して勝てない難敵と戦って勇者の称号を得てもらうのだよ。報酬には、この聖剣ジュルラホーンを与えよう」


 魔術士は手に持っていた剣を抜く。

 AR表示でも、その剣は聖剣ジュルラホーンと表示されている。オレの持つ聖剣にくらべると格段に性能が落ちるが、普通の魔法剣とは比べ物にならない品物だ。


 こいつの真意がわからないな。

 本当に自殺したいだけなのか?


「君の戦う相手は彼らなのだよ」


 魔術士の言葉に遅れて彼の影が部屋の中央まで伸びる。そして影の中から、3体の鉄魔巨人(アイアンゴーレム)が現れた。さらに玉座のある場所の扉から現れた5人の美女もゴーレムの後ろに並ぶ。さっきの美女と同じ顔をしているが、髪型が違うので別人だろう。


「だが、これでは難敵にただ殺されるだけ、勇者の称号は死線の先にこそあるのだよ」


 アイツから見えているオレのレベルは10だ。レベル30のゴーレム3体に勝てるはずも無いと見ているんだろう。

 魔術士は両手を広げ天に向かって言葉を続ける。


「故に我は神の祝福を皆に与えよう――限界突破(リミット・ブレイク)


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― 新着の感想 ―
その商人さん、レベル表示1/300になってますよ(;^ω^)
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