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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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16-8.リーングランデの里帰り

※2017/8/13 誤字修正しました。

 サトゥーです。大学時代は盆と正月に里帰りをしたものですが、社会人になって忙しくなるほどに足が遠のいてしまいます。
 別に、世話好きの親戚から、結婚はまだかと尋ねられたり、見合いを勧められたりするのが厭だった訳ではないのです。本当ですよ?





「サトゥー、悪いけど公都まで送ってくれない?」
「ええ、構いませんよ」

 王城のニセ聖骸動甲冑の様子を見に行った帰りに、廊下でばったり出くわしたリーングランデ嬢にそんな頼み事をされた。

 公都に行こうと思っていたので丁度良い。

 お茶会や晩餐の約束があったので、その足ですぐにとはいかなかったが、翌朝には観光省の飛空艇で公都へ出発する事になった。

「サトゥー様、これがサトゥー様の飛空艇なのですね」

 なぜか、リーングランデ嬢にはオプションが付いていた。
 グルリアン太守の娘で王立学院に通っているリリーナ嬢だ。

「いえ、私個人のモノではなく、観光省のモノです」

 もちろん、魔力炉の燃料である魔核は、オレの私費で賄っている。

「悪いわね、サトゥー」

 飛翔木馬の搬入を終えたリーングランデ嬢が、そう言いながら乗り込んできた。

「悪いとお思いなら、飛翔木馬で飛んでいけばいいんです」

 険のある声でリーングランデ嬢を責めたのは、彼女の同母妹であるセーラだ。
 孤島宮殿のメンバーで今回の公都行きに参加するのは彼女だけで、他の子達は個々に王都で用事があるらしい。

 なお、カリナ嬢はソルナ嬢に王都を案内してまわるそうだ。





「えへへー、サトゥー様」

 飛空艇が水平飛行に変わったところで、リリーナ嬢がオレの手に抱きついてきた。
 なんだか、懐かれているようだ。

「リリーナさん、淑女が婚約者でもない殿方の腕に抱きつくのははしたないですよ」

 セーラがにこやかに歩み寄って、リリーナ嬢の腕を剥がす。

「あら? セーラったら子供相手に嫉妬?」

 リーングランデ嬢がニヤニヤとした笑みを浮かべて、妹を弄る。

「嫉妬などではありません! 淑女としてのあるべき姿を指導したまでです」
「ふーん、指導ねぇ――」

 必死で建前を主張するセーラを、楽しそうにリーングランデ嬢が眺める。
 言葉の途中で、オレと目が合ったリーングランデ嬢が、獲物を見つけた猫のように目を輝かせた。

「――えい!」

 いたずらっ子のような顔で、リーングランデ嬢がオレの首に抱きつく。
 豊かな胸部クッションがオレの胸で潰れ、魅惑の感触を伝えてきた。

「あー!」
「えぇー?」

 セーラがそれを見て叫び、リリーナ嬢も驚きの声を上げた。

「お姉様! はしたないです!」

 食ってかかるセーラを、リーングランデ嬢が楽しそうに眺める。

「あら? お祖父様はサトゥーに嫁げって言っていたわよ? もう婚約者みたいなモノよね?」

 妹ラブなリーングランデ嬢は、セーラに構ってもらって嬉しくてしかたないようだ。

「サ、サトゥー様! リーングランデ様とご婚約されたというのは本当ですか?」
「いいえ、酒の席での戯れ言ですよ」

 リリーナ嬢が必死な顔で尋ねてきたので、事実を伝える。
 リーングランデ嬢はオーユゴック公爵領のアイドルみたいなモノだから、彼女もリーングランデ嬢のファンなのだろう。

 そして――。

 ジャハド博士考案の新型航行装置を搭載した小型飛空艇は、公都までの旅路を従来の半分の時間で行った。

 もっとも、その間、飛空艇では妹ラブなリーングランデ嬢とセーラの姉妹喧嘩というかじゃれあいを延々と見せられたのは、ちょっと大変だったけどね。

 その苦行の旅もやがて終わり、公都到着日にはセーラとリーングランデ嬢の父親である次期公爵主催で、盛大な歓迎の晩餐会が開かれた。
 公爵や食いしん坊貴族の二人がいないので少し顔ぶれが寂しかったが、最初に公都訪問時に世話になったウォルゴック前伯爵と久々に交流を持てたよ。





「サトゥーさん、お久しぶりね」
「ご無沙汰しております、巫女ちょ――いえ、巫女リリー」

 テニオン神殿の応接間で、オレとセーラは元老巫女長で現巫女見習いの幼女リリーと面会していた。
 お互いの近況報告や魔王殺しの一件などの後、本題に入る。

「――神への謁見、ですか?」
「はい、神々が人に何を望んでいるか知りたいのです」

 リリーがセーラと目を合わせる。

「同じ疑問を持ったセーラが以前、テニオン神から神託を受けたお話は聞いたかしら?」
「はい、伺いました」

 以前、天罰事件の時の事だ。

 その神託は――。

『神が望むのは、人々の敬虔な祈り、幸せな日々への感謝』

 ――というモノだった。

 だが、本当にそうだろうか?

「信じられないのかしら?」
「リリー様やセーラさんの事は信じていますが、それが神の望むモノだとはとても思えません」

 オレの返事に、リリーとセーラが困り顔になる。

「私がイタチ帝国や旅の間に感じた、神の不条理と言ってもいいような理不尽さは、祈りと感謝を求める者の在りようとは相反すると思うのです」

 100歩譲って、先ほどのがテニオン神の本心だったとして、「神々」が欲するところを知らないと、より大きな悲劇に見舞われる危険性がある。

「それで謁見したいと思ったのね?」
「はい」

 リリーの言葉に首肯する。

「あなたのお願いなら叶えてあげたいけれど――」

 リリーの話によると、巫女の神託で得られるイメージは言葉や意味、映像などが重なり合った複雑なモノで、神託を受ける巫女が解釈できる範囲でしか他者に伝えられないとの事だ。

「あなた自身が神と会話するなら、『神霊光臨インヴォーク・デイティー』で私の身体に神を降臨していただくしかないわね」
「いえ、その魔法は代償が大きすぎます」
「あなたと世界の為なら、私一人の魂くらい差し出すわよ?」

 オレはリリーの言葉に首を横に振る。

「他に方法はないのでしょうか?」
「そうねぇ……」

 リリーが頬に手を当てて黙考する。

「古代の王が神と対話した方法なら――」

 オレはリリーに連れられてテニオン神殿の禁書がある部屋へ向かった。

「あったわ――なかなか、大変な儀式が必要みたいね」

 禁書に目を通しながらリリーが呟く。

「基本的に神託の儀式に使う品と同じなんだけれど、かなり特殊なモノも必要になるみたい」
「どのようなモノでしょう?」
「世界樹の樹液、世界樹の葉、それから賢者の石――古代の王達がいる時代にはありふれていたのかもしれないけれど、どれもそう簡単には手に入らないわね」

 リリーが意味深な表情でオレを見上げる。

「それなら、ここに」
「うふふ、やっぱり、あなたは凄いわ」

 こぼれるような笑顔で、リリーがオレから素材を受け取る。
 受け取った品をテーブルに置きながら、セーラの方に視線を向ける。

「儀式には祈願魔法が必要なの。セーラが唱えられるなら任せるわよ?」
「試した事はありませんが、使えると思います」
「自信がないのなら、私が使っても良いのだけれど――」

 リリーがいたずらっ子のような顔でセーラに耳打ちする。
 なんとなく、秘め事っぽかったので、聞き耳スキルはOFFにしておいた。

「わ、私とサトゥーさんはそんな!」
「セーラ、あまり声を大きくすると、聞こえてしまうわよ?」
「えっ? あ、あの、その――」

 リリーにからかわれたセーラが、真っ赤になってあわあわ言っている。
 彼女にしては珍しい表情だが、なかなか可愛い。

 しばらく二人で密談した後、リリーが「セーラに儀式を覚えさせるから三日ほど時間が欲しい」と言ってきたので快諾した。
 とくに差し迫った危機があるわけでもないし、数日くらい問題ない。

「私の方は何もしなくて宜しいのですか?」
「ええ、儀式用の衣装もあるし、当日の朝に冷水で禊ぎをしてもらうくらいかしら?」

 という事なので、オレは当日までの三日間を知人宅の訪問に費やそうと思う。
 クロやナナシとしてならともかく、サトゥーとして公都を訪れるタイミングは多くないからね。





「――サトゥー、セーラは?」
「テニオン神殿で調べ物をして戴いています」
「そうなの……」

 公爵城に戻ると、暇そうなリーングランデ嬢に捕まった。
 今日は身軽な騎士服らしい。

「なら、私とデートしましょう。公都に遊びに行くわよ!」

 どういう流れか謎だが、リーングランデ嬢の暇つぶしに付き合う事になりそうだ。
 彼女やオレの正体がバレると不味そうなので、お互いに認識阻害のアイテムを身につけている。

「見てみて! ペンドラゴン饅頭にペンドラゴン包丁ですって!」

 リーングランデ嬢が露天に並ぶ商品を指さしてはしゃぐ。
 オレが恥ずかしがったり嫌がったりするのが面白いのだろう。

「それを言ったら、リーングランデ人形や肖像画も売っているじゃないですか」

 むしろ、こっちの方が多い。

 人形はともかく、公爵令嬢の肖像画を商品にしていいのか疑問だが、堂々と売っている以上、オーユゴック公爵の許可があるか黙認されているのだろう。

「そんなのは前からあるからいいのよ! それより、あそこで売っているのはなにかしら!」

 自分から話を振ってきたくせに、自分に関連した商品から離れようと、オレの腕を引っ張って遠くの屋台に連れていく。

「なんだか、変な臭いね?」
「漬物ですよ」

 リーングランデ嬢がぬか漬けや壺漬けが並ぶ場所で鼻を摘まむ。
 貴族の食卓に出る漬物は臭いを出さないように前処理されているから、変に感じるのだろう。

「おばちゃーん、忘れ物だよー」
「あら? 今日はお使いかい?」
「うん、フツナに頼まれた。それよかおなか減った。クハノウ漬けおくれー」

 前に見たことのある娘が横を通り過ぎた。

「――あれ?」
「どうしたんだい?」
「うーうん、なんでもない。知り合いに似てただけ」

 認識阻害のアイテムを身につけているのに、オレと目が合った娘が何かを思い出そうと眉をひそめていたが、すぐに食欲に負けて漬物の試食を始める。

 オレはリーングランデ嬢に促されるまま、道なりに歩いて港までやってきた。

 少し離れた所にエチゴヤ商会の港支店が見える。
 入り口の近くでちょこまかと働いているのは、丁稚になったばかりのアシカ人族の子供達だ。

「うーん、やっぱり港はいいわね」

 大河の上を流れる風を浴びて、リーングランデ嬢が伸びをする。
 引っ張られた衣装がなかなか魅力的だ。

「――あっ」

 突風が彼女のベール――認識阻害アイテムを掠っていった。

「リーングランデ様?」
「あんな所にリーングランデ様だ!」

 さすがは地元の有名人。

 オレがすぐにベールを回収したにもかかわらず、一瞬で正体が伝播してしまったようだ。
 瞬く間に「リーングランデ」コールが巻き起こる。

「サトゥー、バラバラに公爵城まで戻るわよ」

 リーングランデ嬢がそう言って、風魔法を補助に使って、屋根伝いに去っていく。
 オレの方にも群衆が寄ってきたが、短距離縮地で事なきを得た。

 ついでなので、アシカ人族の子供達と会ってこよう。

「元気にしているかい?」
「マしター」
「ナナは?」

 ナナは今度連れてくると言って、二人に飴玉を与える。
 二人から近況を聞いていると、支店の幼い丁稚達が集まってきたので、「この子達と仲良くしてあげてね」と頼みながら、飴玉をプレゼントしておいた。

 二人から近況を聞いた限りだと、上手くやっているみたいだったけどさ。

 そして、公爵城に戻ったオレは、なりゆきでリーングランデ嬢と一緒に近衛騎士団への剣術指南をする羽目になった。
 比較的穏やかに剣術指南は進んでいたのだが――。

「魔王殺し殿とリーングランデ様ならどちらが強いのですか?」

 そんな新米騎士の一言で場が緊張してしまう。

「もちろん、リーングランデ様ですよ」
「あら、それはどうかしら?」

 オレの言葉に、リーングランデ嬢自身が疑問を投げかけた。

「この間だってヘイム殿に勝ったそうじゃない? 今ならあなたの方が強いかもしれないわ」

 リーングランデ嬢が獲物を見つけた肉食獣のような顔で、舌なめずりをする。
 なんというか、肉食系な感じだ。

「試してみましょうよ。厭とは言わないわよね?」
「仕方ありませんね」

 オレが訓練用の木剣を取ろうとすると、リーングランデ嬢からストップが入った。

「待って、真剣でやりましょう」
「危ないですよ」
「大丈夫よ、ここには高位の神官もいるし、中級の魔法薬も常備しているから」

 ――ちょ、ちょっと!

 怪我するのが前提ですか?!

 オレの内心の動揺を知ってか、リーングランデ嬢がセーラをからかう時のような表情をする。

「うふふ、私に勝ったら、お祖父様のお言いつけ通り、サトゥーのお嫁さんになってあげるわ」

 ――いりません。

 内心で肩を落とすオレの周囲で、リーングランデ嬢の問題発言を聞いた近衛騎士達や使用人達が驚き、耳が痛くなるような大騒ぎになった。
 事の真偽を問う声もあったが、リーングランデ嬢は微笑むだけで答えない。

「行くわよ!」

 瞬動と同時に突きを放つリーングランデ嬢の攻撃を、妖精剣で捌く。
 蹴りを警戒するオレの耳に、詠唱の声が聞こえてくる。

「■■ 破裂(クイック・バースト)

 ――マジですか?

 直撃しない位置に放たれた下級爆裂魔法を、掌で叩いて砕く。

 視界の片隅でリーングランデ嬢の口元が弧を描いた。

 素手のはずの左手が、赤い光を帯びて迫る。

 ――魔刃だ。

 オレは軸足に力を込め、無理な姿勢で跳躍する。

 舞うように身体を旋回させたリーングランデ嬢の魔剣が、鳥を狙う獣のように跳ね上がってきた。
 オレは魔刃を帯びさせた妖精剣で迎撃する。

 金属音と赤い光が飛び散った。

「■■ 破裂(クイック・バースト)

 距離が近い。

 このままだとリーングランデ嬢も爆裂魔法のダメージを受ける。

 オレは妖精剣を手放し、リーングランデ嬢の手首を掴んで爆裂魔法との間に、自分の身体を滑り込ませた。

 爆裂音。
 そして、背中への衝撃。

 直撃の寸前に背中に魔力鎧を発生したから怪我はないけど、爆風でリーングランデ嬢ごと演習場の地面を転がる。

「無茶するわね」
「それは私のセリフです」

 リーングランデ嬢がオレの腕の下で囁く。
 彼女の手には赤く光る魔刃を宿した短剣があり、その刃はオレの首元に突きつけられていた。

 勝って嫁候補が増えても困るので、丁度良い。

「降参です」

 オレが渡りに船とばかりにそう宣言したら、リーングランデ嬢に頬をつねられてしまった。

「なんだか、勝った気がしないわ。もう一勝負する?」

 リーングランデ嬢の提案に首を横に振り、以降はオレやリーングランデ嬢との試合を求める近衛騎士団達の相手をする事になった。
 倒しても倒しても向かってくる脳筋騎士達の相手は、なかなか大変だった。

 まあ、その後の酒盛りは楽しかったけどさ。

※次回更新は8/13(日)の予定です。

※セーラがテニオン神と対話したのは「15-33.黄金騎士団出陣(1)」です。


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