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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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16-2.王城のサロン

※2017/7/16 誤字修正しました。
 サトゥーです。本人が気にしていない事を、やたらと周りが騒いで辟易する事ってありますよね。妙に言葉の裏を読もうとせずに、字面通り受け取ってほしいものです。





「イチロー兄ぃ、ソル君から家臣にならないか誘われたんだって?」

 ポチやタマの通学用変身セットを作っているところに、スナック菓子を片手に持ったヒカルが遊びにやってきた。
 テーブルの上にある給食用のスモックや水筒用の袋、三角巾、上履き袋、雑巾なんかは、悪乗りしたアリサのお手製品だ。

「よく知ってるな」
「うん、その事でソル君がセテに怒られてたから」

 ヒカルの言うセテは国王の愛称だ。
 マップ情報によると、本名はセテラリックというらしい。

「どうしてさ?」
「だって、せっかくセテ達が根回ししてたのに――」

 ヒカルによると、国王と宰相が秘密裏にオレをムーノ伯爵――今は侯爵だっけ――の部下のまま引き抜かないようにとビスタール公爵やケルテン侯爵を説得していたらしい。
 そんな折に、ソルトリック第一王子がオレを自分の臣下にしようとした事で、国王の怒りを買ったそうだ。

「まあ、ソル君に言っていなかったセテも悪いし、ソル君は上手く友人ってところに落としたから、叱責だけで済んだみたいだし、大丈夫だよー」

 王族というのもなかなか大変らしい。
 普通に親子のコミュニケーション不足な気もするが、多忙な国王と32歳の家庭持ちの息子なら、そんなものかもしれないね。

 それにしても、魔王殺しの扱いは国王でも困るみたいだ。

「違うよ?」
「違うのか?」
「セテ達はイチロー兄ぃの正体が勇者ナナシだって確信しているみたい」

 ――逆だ、逆。勇者ナナシの正体がオレ。

 突っ込みはさておき、ヒカルは国王の質問に曖昧なジャパニーズスマイルで返すだけで、否定も肯定もしなかったそうだ。
 もっとも、ヒカルは腹芸ができるタイプじゃないから、ほぼバレていると見ていいだろう。

 前の天罰の時に、正体バレを覚悟で派手にやったから、このくらい想定内だけどさ。

「ただ、セテ達はイチロー兄ぃの正体が普通の人じゃないって思ってるみたい」

 そういえばナナシが二人いると伝えた時に、国王と宰相はオレが神々の使徒だと思い込んでいたっけ。

「普通の人なのにな」

 オレがそう答えるとヒカルが「あはは」と楽しそうに笑う。

 ――失礼な。

 ステータス画面はちゃんと「人族」なのに。

「イチロー兄ぃが『普通』かどうかはさておき、セテは原始魔法で人になった『竜の化身』だと思ってるみたいよ?」

 ――竜?

「それはまた発想の飛躍が凄くないか?」
「そうでもないよー。魔王をポコポコ倒して、世界の危機を日常的に解決してるんだもん。普通の人じゃないのは明白でしょ?」

 ヒカルがそう前置きして、話を続ける。

「そうなると神々の使徒か魔族か竜の三択になるんだけど、魔族が魔王をポコポコ倒すわけないし、神の使徒が神の意志に反して魔物のスタンピードを積極的に防ぐわけもない。だから――」

 消去法で「竜」しか残らないそうだ。

 脳裏にバトルジャンキーの黒竜ヘイロンや古竜、粗忽者の天竜の天ちゃんが思い浮かぶ。
 オレはあそこまで無軌道じゃないと思うんだが?

 周辺被害もほとんど出してないし。

「あ!」

 ヒカルが壁際の柱時計を指さして立ち上がる。

「そろそろ着替えないと、舞踏会に遅れるよ」
「もうそんな時間か?」

 メニューのスケジュール表に目をやると、確かにヤバい。
 さすがに、国王主催の大舞踏会に遅れたらマズイよね。





「これが伝説にある全てを染める究極の料理か!」
「この鼻に突き刺さるような香りが素晴らしい」

 大舞踏会で軽食を提供するフードコートから聞こえた声は、オーユゴック公爵領の食いしん坊貴族こと――ロイド侯とホーエン伯だ。
 昼間はいなかったが、いつの間にか王都に来ていたようだ。
 まさかとは思うが、カレーを食べる為に飛空艇を飛ばしたなんて事ではないと思いたい。

 どうやら、二人はカレー・コーナーに陣取っているらしい。

「さすがは食通と名高いお二人だ。さっそくカリーに目を付けたようですな」

 オレにカレーをリクエストした宰相が、自慢気な様子でロイド侯とホーエン伯に言う。

「これはこれは宰相閣下」
「まさか魔王殺しの功績を打ち立てた、ペンドラゴン伯爵をこき使ったのではあるまいな?」
「まさかまさか、英邁なる宰相様がそのような愚行をするはずはあるまい」

 妙に芝居がかった様子で、ロイド侯とホーエン伯が宰相にケンカを売り始めた。

「こんばんはロイド侯、ホーエン伯。今日の料理は我が家の料理人に頼んだので、私は手を出していませんよ」

 知り合い同士のケンカは見たくないので、素早く間に割り込んで誤解を解いた。

「勇者様の国の料理ですね。まさか実物を拝める日が来るとは!」
「辛いですけど、とても美味しいですわ」
「そうだね、ソルナ」

 アットホームなのんびりした声に振り向くと、壁際で控えめにカレーを楽しむムーノ侯爵一家がいた。
 シガ王国でも上から数えた方が早い高位貴族なのに、ムーノ一家の控えめさは変わらないようだ。

「ムーノ閣下!」
「やあ、サトゥー君。カレーを戴いているよ」

 ムーノ侯爵がカレースプーンを持つ手を掲げて挨拶する。

「実に美味だ――これが初代勇者様や王祖様が生涯焦がれたという伝説の料理……ああ、私は今、歴史の中にいる」

 ムーノ侯爵が感極まった顔で、よく分からない事を言い出した。

 それにしても、こんなに喜ぶなら、ムーノ領に行ったときにカレーを提供するんだったよ。

「エビフライやカツレツを乗せても美味しいですよ」
「エリーナ!」
「はいはい、カリナ様。もう取ってきましたよ~」

 エビフライやカツレツを皿に載せて、ムーノ侯爵領のメイド、エリーナが戻ってくるところだった。
 口元にエビフライのころもがくっついているのは、きっと毒味だったのだろう。

 細かい事は言うまい。

「サトゥー、一曲踊って下さるかしら?」

 ムーノ一家を愛でていると、後ろから気合いの入ったドレス姿のヒカルが声を掛けてきた。
 今日は別人のようにしっかりしたメイクをバッチリと決めている。

「カリナ様、お先に踊ってもいいかしら?」

 カレーを頬張るカリナ嬢は、複雑な顔で首を上下に振るだけで、何も言えないようだ。
 もう少し、姉のソルナ嬢を見習って女子力を上げてほしい。

「魔王殺し殿が女性の手を引いているぞ」
「おいっ、システィーナ殿下じゃないぞ?」
「相手はミツクニ公爵夫人だ!」

 貴族達のざわめきを聞き耳スキルが拾ってきた。

 オレ達が舞踏会場の中央に来ると、賑やかな舞踏曲の演奏が始まった。

「イチロー兄ぃと踊るなんて変な感じ」

 はじめて一緒に踊るわけでもないのに、ヒカルが変な事を言い出した。

「こんな時間が永遠に続けば良いのに――」
「いつでも踊れるさ」

 というか、へんなフラグを立てるな。

 そんな内心の突っ込みも不要だったようで、特に大事件が起こる事もなく無事に踊り終わり、続けてシスティーナ王女やカリナ嬢、セーラの順で踊った後、下級貴族エリアに移動してアリサ達年少組やルル達年長組と順番に踊った。

 獣娘達は前日にアリサが猛特訓をしたので、微妙に変だったもののちゃんと踊る事ができた。
 もちろん、録画してあるので何度でも鑑賞可能だ。

 最後にゼナさんと踊った直後に、周りから下級貴族の令嬢達が殺到してきた。
 ゼナさんの場合はセーリュー伯爵領の下級貴族というポジションだったから、それまで遠慮していた人達が一歩を踏み出すきっかけになったのだろう。

「ペンドラゴン伯爵様、(わたくし)と踊って下さいませ」
「ペンドラゴン伯爵様、私の家は多産です! 門地継続の為にも私を側室に!」
「ペンドラゴン伯爵様、私と踊って下さいませ。夜の寝室でも構いませんわ」

 見目麗しい女性達が集まってくるが、ちょっと欲望に忠実過ぎる。

 子爵に陞爵したときもダンス希望者が多かったが、今回はその比じゃない。
 なんというか必死すぎて殺気を感じるほどだ。

「「「ペンドラゴン伯爵様、私と――」」」

 怒濤の勢いで女性達が集まって身体を押し付けてくる。
 中高生くらいの未婚女性が多かったが、中には二十歳前後の寡婦らしき人達も混ざっていた。

 なかなか凄い勢いだったが――。

「ぎるてぃ」
「伯爵様は王女殿下との婚姻を控えた大事な体よ! 身内以外は接触禁止!」

 ミーアとアリサの鉄壁ペアの活躍と、カリナ嬢の胸部戦闘力の前に撤退を余儀なくされていた。

 社交界で浮名を流すような美女達は、その騒ぎを遠巻きに観察しているようで、簡単には近寄ってこない。
 中にはオレが目を奪われるような凄い美女もいたが、称号が「浪費家」「百戦錬磨」「悪女」というものだったので、他の女性達と同様にスルーした。

 凄い美女と言っても、ルルほどじゃないしね。

「マスター! 幼生体を確保したと告げます」

 鉄壁ペアの活躍を眺めていると、オレから離れていたナナが幼女達を連れて戻ってきた。

「ペ、ペロドタ――ごめんなさい、ペンドタゴン……あぅぅ」
「伯爵様、初めまして、モーサ准男爵三女、ソポアーナです」
「ペンドラゴン伯爵様、ニート男爵七女、キスナです」

 社交界にデビューしたての子供達だ。

「はじめまして、お嬢様方。私はムーノ侯爵家臣、サトゥー・ペンドラゴン伯爵と申します」

 オレは小さなレディー達に、貴族の礼を取った。
 それを見た子供達がキャーッと姦しい悲鳴を上げて喜んでいる。

 なぜか、向こうでアリサとミーアがジト目でこちらをみていたが、オレは無実を主張したい。

 舞踏会場の隅で、子供達のダンス練習の相手をしていると、その姉のさらに姉と連鎖して、少しずつ年齢が上がっていって収拾が付かなくなってしまった。
 断るときは相手が子供でも断固として断る必要がありそうだ。

 鉄壁ペアを迂回した女性の集団が、肉食獣の瞳でこちらを見つめながら移動を始めた。
 まるで「ひゃっはー! 狩りの時間だ!」とでも雄叫びを上げそうな感じだ。

 回避手段を探して周囲を見回したところで、舞踏会場にざわめきが起こった。

「陛下とソルトリック殿下よ!」

 開会の宣言をして早々に引き上げていた、国王と第一王子が戻ってきた。
 もっとも、国王の方はビスタール公爵とオーユゴック公爵を連れて、また戻っていったようだ。

 ――おや?

 ソルトリック第一王子から複雑な視線を向けられた。
 まるで、オレが人外の存在であるとでも思っているような目だ。

 そんな王子が人混みをモーセのように割って、オレの前に歩み寄ってきた。
 オレの周りにいた少女達も、慌てて距離を取る。

「ペンドラゴン伯爵、少しいいかな?」
「はい、ソルトリック殿下」

 貴族令嬢達の密着ダンスに少々疲れたので、幾らでも付き合いましょう。

 やっかいごとじゃなければ、ね。





「社交の邪魔をしたか?」
「いいえ、少々踊り疲れておりましたので、殿下に連れ出していただいて感謝いたしております」

 オレはソルトリック第一王子に招かれて、舞踏会場近くにある王族用のサロンへと招かれていた。
 ここは密談ができるように、防諜用の魔法装置が設置された密談スペースがあるようだ。

 そして、オレが王子に導かれて座った席がまさに、その密談スペース内にあった。
 どうやら、彼は何か内緒話がしたいらしい。

「貴公を家臣に引き抜こうとした件で、陛下にお叱りを受けた」

 サロンのソファーに腰掛けるなり、王子が感情の読めない顔で言う。
 舞踏会前にヒカルが言っていた件だ。

 側近は少し離れた場所に立っており、防諜用の魔法装置が起動したこの席に近寄らないようにしているらしい。

 ――おや?

 そういえば、側近が一部知らない人に変わっていた。

「あの者達には暇を出した」

 オレの視線に気づいた王子が、なんて事のない口調で言った。

 元々、先日問題を起こした小姓はシャロリック第三王子の所で雇われていた者だった。
 公都の黄肌魔族事件で第三王子が老化し、地方の別荘で療養するおりに暇を出された後、雑役夫を経て第一王子の小姓に採用されたそうだ。
 彼は上位者への従順な態度と賄賂で雇われたらしい。

 今回減った側近は、賄賂を貰って小姓を採用した者達だったようだ。

 なお、詳しい経緯については興味がなかったから聞かなかった。

「改めて約束しよう」

 王子が真面目な顔になって、居住まいを正した。

「貴公が自ら望まない限り、私は貴公を家臣として引き抜くことはない。貴公はただ友としてあり、私が道を間違えたら正してもらいたい」
「承知いたしました、ソルトリック様」

 オレにとって都合の良い話なので、素直に頷いた。

 ヒカルの話だと、国王と宰相はオレが勇者ナナシの影武者、それもヒカルがオレを立てる言動をしているために、オレはヒカル以上に力を持つ存在――竜の化身だと勘違いしているらしい。

 怒らせると無軌道に暴れる竜だと思われている為に、こういうデリケートな扱いみたいだ。
 確かに、王祖ヤマトの影武者や従者なら、普通に交渉するはずだしね。

 恐らく、王子も国王からオレが竜である可能性を吹き込まれたのだろう。

 なお、オレとしてはこの噂を肯定も否定もする気はない。
 見える地雷原な竜の逆鱗を踏みに来る自殺志願者もいないだろうし、余計な縁組みを上から押しつけられる事もなくなるだろうからね。





「もう少し厳選した方が良かったな」

 ソルトリック第一王子が疲れを見せない顔で言う。

 先ほどの話の後に、王子の臣下達やビスタール公爵派閥の貴族を紹介されたのだが、なかなかの人数だったのだ。
 なお、ビスタール公爵は国王の所に呼び出されており、次期公爵候補という才長けた感じのエリート青年がビスタール公爵派の代表としてオレに紹介された。

 いかにも突っかかってきそうな感じの青年だったのだが、不発弾を扱うような慎重さで探りを入れてくるので、突っかかられるよりも疲れた。

 挨拶が終わったところで、王子の家臣の一人が「未確定の噂ですが」と前置きしてから話し始めた。

「殿下は王祖ヤマト様の伝説にある『聖骸動甲冑』が発掘されたという噂をご存じですかな?」

 聖骸動甲冑――たしか、結構前に誰かから聞いた気がする。

「またどこかの貴族が詐欺師に騙されているのであろう。不敬な事だ」

 ビスタール公爵派閥の中年貴族が、そう断じ、他の貴族達も眉唾物の話だと、信じようとしない。
 迷宮都市の「ベリアの魔法薬」のように、これも詐欺の常套句なのだろう。

「案外本当かもしれませんよ?」

 ベリアの魔法薬みたいにね。

「ほう? ペンドラゴン伯爵は『聖骸動甲冑』が本当に見つかった方に賭けるのだな?」
「何を賭けられるのだ?」
「ペンドラゴン卿なら、我らが思いもせぬような逸品を賭けるに違いない」

 一部の貴族が煽るように言う。

 オレが第一王子の「友人」ポジションについた事を良く思っていない者が、遊びを装って意趣返しをしているみたいだ。

「ではこれを賭けましょう」

 ダイアモンドで作った鍵の柄に七色の宝石をはめ込み、鍵本体内部に青液(ブルー)で魔法回路を刻んである。
 仲間達との宝探しゲーム用に作ったジョークアイテムの一つだ。
 魔力を流すと青く光って綺麗だが、何の魔法効果もない。

「こ、これは!」

 インテリ風の貴族の一人が鍵を見て大声を上げた。
 思わず、「知っているのか●●●●」と聞きたくなるような驚き方だ。

「確たることは言えませんが、これは神代に滅んだという古代ララキエ王朝時代の意匠です」

 へー。

 オレの脳裏に天罰事件の最中に関わった浮遊島ララキエを思い浮かべる。
 確かに、ララキエの都市内にあった彫刻と傾向が似ていた。

 まあ、単なる偶然だが……。

「ならば、これは空を飛ぶ城や都市を動かす鍵なのでは?」
「た、確かに! この鍵の内部の模様は魔法回路にも見える」

 なんだかインテリ貴族に釣られて、他の貴族達まで騒ぎ出した。

「ペンドラゴン伯爵! 魔力を流してみても宜しいか?」
「ええ、どうぞ」

 必死な顔で尋ねる貴族に首肯する。

 件の貴族が魔力を流すと、回路が青く美しい輝きを帯び、鍵の表面に綺麗な光の波紋が生まれる。

「青い光?!」
「聖なる魔法道具なのか!」
「う、美しい……」

 貴族達が食い入るように見つめる。

 なんというか、殺し合いでも始めそうな魅入られ方で少し怖い。
 さっきの令嬢達よりも、よっぽど真剣な感じだ。

「ペンドラゴン伯爵、本当にこれほどの宝を賭けの対象にしていいのか?」

 第一王子がオレに問いかける。
 今なら取り下げられるぞ、と言いたかったのだろうが、確実に逆効果だ。

 ダイヤ鍵に目を奪われていた貴族達が、賭けの事を思い出してしまったのだから。

「わ、私はモルト川の橋の通行料徴収権を賭けるぞ!」
「そんなどことも知れぬ川の徴収権などで吊り合うモノか! 私はユケル銀山の採掘権を賭けよう!」
「では私は家宝のミスリル剣を」
「魔剣だ! ビスタール公爵家に伝わる魔剣フォービドゥンを賭けるぞ!」

 フォービドゥン?

 英語なら「禁断」や「禁忌」といった意味だ。

「なんだ? シャイターンは出し惜しみか?」
「馬鹿馬鹿しい、シャイターンを賭けに使えるか!」

 次期公爵と王子の家臣が言い争いをしている。
 ビスタール公爵家には家宝の魔剣が何本もあるらしい。

「では私は秘伝の染色魔法の魔法書をだそうではないか!」
「ならばワシは武法具を賭けよう!」

 場は熱狂し、魔法の武具や巻物、祝福の宝珠、魔法書を挙げる者もいた。
 なんとなく家宝自慢になっている気がしなくもない。

 一方で賭けるモノがない人達が、ぐぬぬと唸っている。

「ワシは孫娘を賭けるぞ!」
「なら、私は妹を賭けよう!」

 おいおい、悪乗りが過ぎる。
 こういうノリはどうも好きじゃない。

「人間は賭けの対象外とさせていただきます」
「横暴だ――」
「了承しよう」

 オレの宣言に異を唱えようとした貴族を、王子の声が素早く迎撃(インターセプト)した。

「本当に賭けて良いのか?」

 王子が再度尋ねてきた。

「はい。あれは砂糖航路を旅する途中、小山のような蛸型海魔オクトパス・クラーケンを退治した折に、その腹の中から見つけた品にございます。ですので、私には価値あるモノかどうかは分かりません。それで宜しいのであれば」
「ならば、良かろう」

 オレがそう説明すると、王子が貴族達を一瞥して一つ頷いた。

「ですが、私の鍵が一つでは、賭けが成立しないのでは?」

 金貨ならともかく鍵は分けられない。

「構わん、鍵によって得られるモノを、賭けた物の価値に合わせて分配すれば良いのだ」

 王子が貴族達に向かって「良いな?」と確認すると、貴族達は欲望に満ちた顔で肯定の意を返した。
 価値で分配と聞いたからか、高位貴族達が銅山や鉄鉱山、宝石鉱床、交易権など、ヤバそうな物を上乗せしていく。

 なお、噂を持ち込んだ当人に詳しく聞いたところ、賭けの発端となった「聖骸動甲冑」は、ケルテン侯爵が子飼いの探索者に依頼して探索をさせていたモノだそうだ。
 魔物のスタンピードによる脅威が去ったタイミングで、ケルテン侯爵が国王に大型飛空艇の使用許可を願い出た事から「聖骸動甲冑」が見つかったのではないかと、まことしやかに噂されるに至ったらしい。

 貴族達の予想では、探索者が見つけた遺跡を調査する為の資材や兵士の運搬の為だろうとの事だ。

 侯爵が飛空艇まで動員しているなら、本当にあった可能性が高いと思うのだが、インテリメガネ貴族によると、シガ王国の歴史の中で、ケルテン侯爵一族が「聖骸動甲冑」の探索を行っては失敗するのはよくある事らしい。
 どうやら、貴族達は勝算が高いから、豪快に賭けたみたいだ。

 まあ、賭けに負けても、ガラクタが一つなくなるだけだし、問題ないよね。





「ああどうしましょう。お母様からお借りした大切なドレスが汚れてしまったわ」

 王子のサロンをおいとまし、皆が待つホールへ移動する途中で、棒読みの娘が廊下を塞いでいた。

 棒読みの娘はビスタール公爵領の男爵令嬢らしい。
 ひときわ大きい出っ歯がチャームポイントのようだ。

 すぐ近くの柱の陰には彼女の家のメイドが、拳を握りしめてこちらを覗いているので茶番で間違いないだろう。

 オレは足を止めずに通り過ぎる。

「困ッタワー。とても困ッタワー」

 今度は裂けた靴を持った筋骨隆々な女性が、わざとらしい感じで困っていた。

「踵の靴が割れてシマッタワー」

 それを言うなら「靴の踵」だろ?
 まあ、踵以前に靴が裂けているのは演出過剰だと思う。

 この女性もビスタール公爵領の貴族令嬢だった。

「幼い妹が病気で寝ているのです。でも私の家は貧乏なので薬が買えません」

 悪趣味なほど宝石をちりばめたドレスの肥満女性が訴える。

「持病のシャクが――」

 今度は病的な顔色の化粧っ気のない女性が、幽霊のような顔で座り込んでいた。
 一瞬信じそうだったが、AR表示によると健康そのものだったので、足を止めずに歩み去る。

 そんな感じの茶番劇を、ホールに到着するまで何度も見せられた。
 共通するのは全員がビスタール公爵領関係の不美人達という事くらいだ。

 これはきっとビスタール公爵による地味な嫌がらせに違いない。

 そろそろ本格的なビスタール公爵領復興の為に、エチゴヤ商会の復興部隊を派遣しようと思っていたけど、しばらく見合わせた方が良さそうだ。
 今まで通り、餓死者が出ない程度の消極的な支援だけにしておこう。

※次回更新は 7/16(日) の予定です。
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