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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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5-1.旅路(1)

※8/16 誤字修正しました。

 サトゥーです。ゲームの序盤は徒歩、中盤は馬車、終盤は転移か飛行船と旅はどんどん便利になっていくのがセオリーです。

 馬車で冒険するなんて堕落だと言っていた知人がいました。
 冒険じゃないなら、馬車で楽してもいいですよね?





 ガラガラ、ゴトゴトと音を立てて馬車が丘陵地帯の間の街道を進む。

「う~」
「にゃ~」

 時折り街道近くの茂みから兎やネズミなどの小動物が顔を見せるたびに、ポチとタマが馬車から飛び出さんばかりに反応する。そのたびにリザが2人の腰帯を捕まえる。もっとも馬車は時速20キロ弱なので、飛び出しても怪我をするほどでは無い。

「ポチ、タマ、乗り出すと落ちるから、背中は御者台の背もたれにくっつけておけよ」

「はいなのです」
「あい~」

 御者台の左右に陣取った2人から、いい返事が返ってくる。
 もっとも、それも次に何かを見つけるまでの事だろう。

 やや風が冷たいが、よく晴れていて日差しが暖かいので気持ちがいい。
 セーリュー市を出てしばらくは、森というよりは幾つかに分かれた林の集合だったが、それも1時間前に抜け、今はゆったりとした丘陵地帯が続いている。
 たまに丘の向こうに、羊飼いがたくさんの羊を連れているのが見える。市内では山羊の製品しか見なかったが、羊もいたんだな。

 ガコン。ガコココン。

 (わだち)を乗り越えて馬車が揺れる。後ろからルルの小さな悲鳴と、アリサの悪態が聞こえてきたが、そのまま風に流して聞こえなかったことにする。

 街道は丘を避けるように出来ているので、曲がりくねっている。石畳で舗装されているわけでもなく土が剥き出しだ。結果的に馬車の(わだち)が幾本にもバラける場所ができるのだ。馬車の進路は、馬が勝手に道なりに進めてくれるのだが、そういう轍を上手く避けるには御者が微調整する必要がある。
 スキルのサポートがあるとは言え、それらを全て器用に避けるには、実地の経験がまだまだ足りない。

 アリサがポチの頭の上に乗っかかるように後ろから顔を出す。

「もうちょっと丁寧に運転してよ~」
「新米御者に無理言うな」

 オレはアリサの抗議を適当に流す。ポチはアリサに頭の上に乗られて迷惑そうだ。
 お、ポチが反撃に転じた、アリサの腕を両手で掴んで甘噛みしてる。

「ちょ、ちょっとポチ、やめてよ。袖が涎でベトベトになる~~」
「はむむ、にゃのれす~」

 腕を引こうとするアリサに、追従するようにポチが御者台から荷台の方に雪崩れ込む。
「暴れるなよ~」と軽く注意しておく。馬車は揺れてるし、こけたら危ないからな。
 タマが、ポチとアリサのじゃれ合いを見てウズウズしている。

 あ、タマも参戦した。
 タマに我慢とか根気とかいう言葉は似合わないから、仕方ない。





 思ったよりのんびりとした旅になりそうだ。ファンタジー世界なので、RPGばりに魔物に遭遇(エンカウント)するかと思ったのだが、未だに何も襲ってこない。
 広域サーチで見ているが危険な動物や魔物は見当たらない。せいぜいキツネくらいだ。たまに狼の群れが見えるが10数キロも先の森との境に見えるくらいなので、当分の間は警戒する必要がないだろう。

 前にゼナさんとデートした時に聞いた話では、軍の演習をかねて定期的にセーリュー市近郊の危険な動物や魔物を狩っている、と言っていたからそのお陰だろう。

 後ろでじゃれ合う幼女達を見かねたのか、リザが仲裁に行った。そろそろ止めないといけないかと思っていたので助かる。

 リザと入れ替わりで、馬車の前に避難してきたルルがすぐ後ろに座る。
 そういえばルルとはあまり会話らしい会話をしてない気がするな。コミュニケーションは大事だし、ここは適当に話しかけてみようか。

「ルル、乗り物酔いとかは大丈夫かい?」
「は、はいっ!」

 声を掛けるとは思っていなかったのか、えらく驚いたような声が返ってきた。
 そういえば、大して音もさせずに前に移動してきたルルに、後ろも振り返らずに声を掛ければ驚くか。

 獣娘達は、自分達の身体能力が高いので、それが当たり前くらいに思ってくれているみたいだが、ルルみたいに普通の子だと驚かせてしまうようだ。非常識を常識と思いかけていた――注意しなくては。

「そんなに緊張しなくていいよ。アリサみたいに――はならなくていいから、ポチ達みたいに気楽に接してくれたらいいよ」
「そんな……わたしは奴隷ですから、恐れ多いです」

 消え入るような声で言うルルの意識を変えるのは、時間を掛けるしかなさそうだ。
 とりあえずは、なるべく会話して苦手意識をなくさせる所からだな。

「ルルは好きな事とか、何かあるかい?」
「アリサの世話をするのが好きです」

 シスコンか? いや、普通に妹が大切なだけだろう。
 不本意だがアリサの話題で会話を続けよう。苦手意識を取り払うには、内容は兎も角、会話を続けることが重要だ。

「妹思いなんだね」
「たまに、どっちが姉かわからなくなります」
「たしかに、とても11歳とは思えないよ」
「アリサは小さい時から天才だったんです」
「どんな感じだったんだ?」

 天才というか前世の知識を持ってたわけなんだが、その辺は話してないのか?
 それからお昼まで、ルルが楽しそうにアリサ自慢話をするのを聞き続けた。人間、好きな事を話すのが得意なのは、異世界でも一緒らしい。

 アリサの話をするルルは、とても楽しそうだ。目がキラキラしてるし頬も仄かに紅潮している。そうしているとただでさえ美少女顔なのに、さらに美少女度がアップする。うっかり危険な世界(ロリコン)に落ちそうで怖い。

 後ろの方で褒めちぎられて悶えているアリサの声が聞こえるが、オレの意図が判るのか会話に割り込んでルルの話を止める気は無いようだ。

 直線がしばらく続いた時に荷台を振り返ったら、床でのた打ち回るアリサと、その横でその様子をマネて転がるポチとタマがいた。視線に気付いたのかマネした格好のまま顔だけこちらに向けてくる2人。なんでも無いとジェスチャーで伝えると、アリサのマネを楽しそうに再開した。
 うん、平和でいいね~。

 そのまま1時間近くルルのアリサ話は続く。





 そろそろルルの声が枯れて来たので話を変えよう。
 もちろん、ルルの話すアリサの逸話はちゃんと聞いていた。今度、アリサを懲らしめる時に活躍しそうだ。

 タイミングを計っていると、くるる~と、横から可愛いお腹の音が聞こえた。
 メニューに常時表示している時計を確認したところ、そろそろお昼だ。馬車に乗ったまま食べてもいいが、馬達の固定具の状態を確認したいので、昼休憩を取ることにした。急ぐ旅でもないし2、3日は次の街に着かないから、急いでも仕方ないのだ。

 マップで確認してみたら、この先の丘に巨石が転がっている場所があるみたいなので、そこを休憩場所に選ぶことにした。

「そろそろ、お昼にしようか」
「ごはん~?」「にく~なのです!」

 隣で赤くなっているルルが答えるよりも早くポチとタマが駆け寄ってきた。御者台の背もたれに飛びつくようにして顔を突き出してくる。

「馬車内でお食べになるなら、パンとチーズでも切りましょうか?」

 リザ、君もさっきまで最後尾で後方を警戒してなかったか?
 リザに続いてアリサも復活して来た。髪が乱れたままで声が掠れているので、ちょっと怖い。

「せっかくの好天なんだから、ピクニックみたいな感じで食べましょうよ~」
「そのつもりだ。この先の丘に風除けになりそうな巨石群があるみたいだから、そこで1時間ほど昼休憩にしよう」

 それからしばらく道なりに進み、途中から街道を外れて丘を登る。下が未整備の草地なので馬車は揺れるし速度も出せない。オレは慎重に馬車を進める。

 すぐに巨石が見えてくる。
 一つ一つが結構大きい。高さ2メートル半、幅7メートル近い巨石だ。

 オレは巨石の側に馬車を止める。
 御者台から降り、ルルが御者台から降りるのを手伝ってやる。

 アリサが「とう!」とヒーローっぽい掛け声を上げながらオレに向かって飛び降りてきたので、スッっと避ける。

「ちょっと~、わたしの扱いどんどん酷くなってない?」

「そんな事ないよ。可愛いよアリサ」と適当な返事をしながら、馬車止めを下ろして固定する。

「心が篭ってない! そのうちグレるわよ~」

 相変わらず語彙が昭和だな。
 ポチとタマもアリサのマネをして「とう~?」「とーなのです!」と言いながら飛び降りてくる。ポーズまでマネしなくてよろしい。

 馬を(くびき)から放して轡からのびる手綱を馬車に括る。馬車と固定していたあたりを確認してみたが、特に馬体に擦過傷とかは出来ていないようなので大丈夫のようだ。

 リザが水の樽と桶を持って降りてきたので、馬に水をやる。今日一番働いたのは、こいつらだから最優先で労う。

「リザ、サンドイッチとか簡単なサラダでも用意してくれ」

 リザに食事の準備を頼む。
 リザだけにやらせるのも悪いので、アリサとルルに料理ができるか確認してみた。

「ザンネン、ありさガ料理ヲスルニハ女子力ガタリマセン」

 アリサが明後日の方を見ながら棒読みで言う。何か後ろめたいのか? 女性なら料理ができて当然とか前時代的な事を言う気はないぞ。

「料理をした事はないですけど、果物の皮むきやお茶を入れたりした事ならあります」
「なら、ルルはリザの助手に任命する。リザの指示に従って料理を手伝ってあげて」
「はい! 頑張ります」

 ルルにはリザの手伝いを頼む。役に立てるのが嬉しいのか、少しはオレに慣れたのかルルの声に張りが出てきたような気がする。そう思うのはまだ早いだろうか?

 ポチとタマには薪でも集めて貰おうかな?
 2人の方をみると草原の向こうに駆け出しそうな雰囲気だ。顔はこっちを向いているが、草叢の方で物音がするたびに耳がピクピク動いている。
 たまには年相応に遊ばせてやるか~。

「ポチ隊員! タマ隊員!」
「あい!」
「はいなのです!」

 いい返事だ。

「これより2人に任務を与える! 巨石周辺の安全を確認する事!」
「あい!」「です!」

 矢のように駆け出す2人を見送る。一応遠くに行き過ぎないように「食事が出来たら呼ぶから、あまり遠くに行くなよ~」と釘をさしておく。
 アリサには燃料でも集めてもらうかな。

「アリサは近くの潅木の生えてるあたりで枯葉や(たきぎ)になりそうなものを集めてきてくれ」
「おっけ~」

 オレは馬に塩を与えながら、アリサに指示する。アリサは特に不平を言うわけでなくマイナーなアニソンらしき歌を歌いながら(たきぎ)集めに向かった。
 長くなったので前後編に分けました。
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