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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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15-29.天罰(3)、サトゥーの正体

※2016/11/27 誤字修正しました。
 サトゥーです。昔、一人称のミステリー小説で、主人公が犯人だったのを読んだ事があったのですが、無理矢理なオチの付け方に本を投げた覚えがあります。やっぱり、読者が納得するような前フリが欲しいですよね。





「あれ? 家捜しされた跡があるな」

 ユニット配置用のフレームのみの犬小屋から出ると、オレ達に与えられていた迎賓館が空き巣にあったかのように荒らされていた。
 ダミーの旅行鞄が切り裂かれ、中身が床に散乱している。

 オレが出てきた犬小屋も、部屋の片隅でひしゃげていた。
 どうやら、ここを調べた人間は乱暴な者だったようだ。

 なぜか、壁の一面にザイクーオン神の聖印がペンキで殴り書きされ、それをバッテンで消してある。
 イマイチ意図が分からないが、ザイクーオン神が嫌いな事だけは判った。

「とりあえず、残りの石板を閲覧しに行こう――」

 オレは独り言を呟きながらマップを開き、それどころではない事に気がついた。

 マップ内に「正体不明(UNKNOWN)」な光点がある。危機感知が働かないし、恐らくアレは神ではなく神の使徒だろう。
 どうやら、オレが孤島宮殿に戻っている間に事態は推移していたようだ。

 念の為に確認してみたが、マキワ王国や周辺諸国には出現していない。
 もちろん、身内のいるシガ王国も同様だ。

 サガ帝国にもいないようだし、(えん)の薄い国は放置でいいだろう。

「一応、互角に戦えているみたいだ」

 オレはマップを閉じ、望遠機能付きの空間魔法「遠映(リモート・ビュー)」で戦況を確認する。
 軍人の中には死者も出ているようだが、職業軍人まで過保護に守る気はない。

 それにしても、使徒が銀色の円錐みたいな変な姿とは思わなかった。

 石板には使徒の姿まで描写されていなかったんだよね。
 それに、トロールの魔王の前世は作家ではなかったようで、表記ブレや描写不足が多かったのだ。

『――斬鋼閃!』

 遠映(リモート・ビュー)で見ていた視界に見覚えのある騎士が映った。

 魔喰いが発動しているのか、お互いに魔法攻撃はなく、砲弾か殴り合いで戦いが続いているらしい。
 砲弾や宮殿騎士テンプル・ナイト達の持つ白い剣で傷つけられた使徒が、動画の逆再生のような感じで傷を修復している。
 たぶん、イタチ帝国の魔喰いでは、使徒の体内魔力まで干渉する力はないようだ。

『これで止めだ! 芒星裂斬!』
『止めろ、リートディルト! 魔力を必要とする技は使えん!』

 必殺技を使おうとしたリートディルト嬢が、使徒の触手に殴られて地面を転がっていく。
 想像以上に頑丈らしく、フラフラになりながらも立ち上がり、二本目の触手を避けていた。

 リートディルト嬢は相変わらずポンコツのようだ。
 オレは心の中で彼女にエールを送る。

「おっと、そんな事はどうでもいい」

 オレは独り言を呟いて横道に逸れた思考を正す。

 続いてマップを開いて周辺の都市も確認したところ、他の都市付近にも使徒が出現しているのを見つけた。

 帝都の住民は地下避難所に退避していたので、放置しても大丈夫だとは思うけど、相手は神の使徒だ。
 シガ王国の王都で見た「魔神の落とし子」みたいに法外な戦闘力を持っていないともかぎらない。

 オレはストレージから魔力貯蔵用の聖剣を取り出して、「異界アナザーワールド」を使う。

 前にデジマ島の迷宮でやったように、地形をコピーする時に一緒に人々を異界へと拉致する。
 同意がなくて申し訳ないが、緊急避難だと諦めて欲しい。
 騒動が終わったら、元の場所に返すからさ。

「イタチ帝国内の都市全部を避難させるのはギリギリ魔力が足りそうかな?」

 オレは魔王シンの一件で手に入れた魔晶柱を脳裏に浮かべる。

「保険用の魔晶柱に溜めた魔力には手を出さずに済みそうだ」

 さて、次の都市に行こう。





「神の使徒が増えてる」

 イタチ帝国市民の避難を終えて戻ったら、1体だけだった使徒が13体に増えていた。

 大体の避難は無事にできたが、一部都市から脱出しようとしていた富裕層の乗る煙車が塩のオブジェと化していたり、都市の防衛軍がほぼ壊滅していたり、と助けられなかった者も少なくない。
 完璧にこなすのは無理だし、そもそも職業軍人や守るべき市民を見捨てた為政者が死んでも、とくに心も痛まないしね。

 何隻かの飛空艇や大型旅客機も、噴進樹や飛行型の魔物に落とされていた。
 また、都市防衛の前線では、ネジで支配していたはずの使役魔物が、一斉に自由意思で反抗を始める様子も見かけた。

 さすがに、それらの使役魔物の始末は少しだけ手助けした。

「おっと、あれは放置しない方がよさそうだ」

 1体だけ離れている使徒が、非戦闘員のいるロケット発射場に接近していた。
 それを阻止しようと、マップを閉じて館の外に出る。

 見ている前で、ロケットの傍に紫色の光の柱が立った。

「げっ、魔王まで増えた」

 ――カオス過ぎるだろう、イタチ帝国帝都。

 オレは空間魔法の禁呪「万物引き寄せアポート・エニー・オブジェクト」を使って、ロケット発射場の管制室や整備室の人達を回収する。

「こ、ここはどこだ?」
「だ、誰だお前!」
「勇者ナナシ」

 混乱している人達への説明をその一言で済ます。

「ゆ、勇者?!」
「パリオン神の走狗が、どうしてこんな所に!」

 おっと、勇者の威光もイタチ帝国では地に落ちているようだ。
 いや、デジマ島では勇者ハヤトが歓迎されていたし、帝都の中でも一部だけの評価の可能性もある。

「さて、問答する時間が惜しい。帝都の人達と一緒に避難していてくれ」

 オレは異界へのゲートを開き、「理力の手(マジック・ハンド)」で救助者達を掴んでポイポイと放り込んでいく。

 紫髪の少女だけ、身体の表面に紫色の燐光を帯びていて危険な状況だったので、手元に残した。
 彼女から余剰魔力を吸い出し、精霊光を最大にして彼女を縛る瘴気を払う。

 思ったよりも初期症状だったようで、簡単に小康状態で納まった。

「これなら、ユニークスキルの除去まではしなくて済みそうだ」

 オレは彼女を先ほどの人達と一緒の場所に送り込み、ゲートを閉じる。

 さて、危機的状況は続いているわけだが、思った以上に善戦しているみたいだし、オレが介入する必要はなさそうだ。
 後で皇帝の顔を見に行くとして、先に残りの石板を読んで情報を集めよう。





「――現れたな」

 情報収集を終えて皇帝のいる部屋に姿を現した途端に、あんまりな言葉が飛んできた。
 軍師トウヤがジェスチャーだけで、部屋の中に控えていた近衛騎士や女官達を退出させる。

 オレは皮肉な視線を向ける軍師トウヤをスルーして、皇帝に問い掛けた。

「本題に入る前に二つ尋ねたい」
「聞こう。答えられる事なら教えてやる」

 気のせいか、この間よりも口調にトゲがある。

「最近の――ここ100年ほどの期間の石板は読んだか?」
「むろんだ」
「それは自分の目で?」
「神代語や古代語くらいなら読める」

 ふむ、直接読んだのなら、オレと同じ知識があるはずだ。

「なら、彼の正体も?」

 軍師トウヤを見ながら、皇帝に確認する。

「どちらの正体の事を問うているのかは知らぬが、両方知っていると答えておいてやろう」

 ――なら、大丈夫か。

「質問はそれだけか?」
「ああ、君が騙されているわけじゃないなら、それでいい」

 オレの陣営にも(・・)魔王(・・)がいるしね。

「ならば、こちらも問わせて貰おう」

 皇帝がそう言って、視線で軍師トウヤを促す。

「最近の石板まで読んだのなら、我らが問いたい事も想像がつくのではないか?」

 たぶん、オレの事だろう。

 最近の石板はオレの事が満載だった。
 孤島宮殿を始めとした異界、結界に守られた竜の谷やエルフの里、それから虚空での出来事はなぜか載っていなかったが、オレやナナシの活躍がやたらと記載されていた。

 ただし、サトゥーとナナシが同一人物であるという情報は無かった。
 彼ほどの頭脳があれば、同一人物である事を予想したのは想像に難くない。

 だからと言って、オレがそれを暴露する必要も無いだろう。

「何が言いたい?」
「惚けるのは無意味だ。サトゥー・ペンドラゴン子爵――」

 オレは無表情(ポーカーフェイス)スキルの助けを借りるまでもなく、その追及をスルーする。

「――それとも、こう言った方がいいかな?」

 そこで言葉を切った軍師トウヤが仮面を外し、こちらを煽るような顔で睨み付けてきた。

 神殺し、とでも言われるのかな、とオレは心の防壁を厚くする。

「竜神に挑む者――」

 やっぱりか。

「――幾度殺されようと――」

 あれ?

 なんだか雲行きがあやしい。

「――挑み続ける者。永遠の挑戦者――」

 軍師トウヤの意図が分からず、彼の瞳から情報を読み取ろうと視線を合わせる。

「――世界樹と共に異世界より訪れた七柱の一つ――」

 瞳の奥から挑むような暗紫色の光が漏れ出す。
 魔王化の兆候がでているので、少し落ち着かせた方がいいかな?

 そんな事を考えていたせいで、彼の言葉を聞き逃してしまった。

「――え? なんて?」

 そのせいで、難聴系の主人公のような返しになってしまう。
 せっかくの決めゼリフを愚弄されたと感じたのか、軍師トウヤの瞳の奥に憤怒の色が混ざる。

「韜晦ができなくなるまで、幾度でも告げてやろう」

 軍師トウヤの犬歯が、牙のようにメキメキと伸び始めている。
 うん、今回ばかりは悪かった。だから、落ち着け。

「全ての理を超える者、この世界の外側の存在――」

 軍師トウヤが腕を振って外套をバサッと跳ね上げ、オレの心臓を貫いてやるとばかりに、勢いよく指差してきた。

「――ザイクーオン神! それがキサマの正体だ」
※次回更新は 11/27(日) の予定です。


※軍師達がサトゥーの正体をザイクーオン神だと考えた根拠が、次回のお話で開示されます。
 「待ちきれない!」という方は、どうして彼らがそういう推論に至ったのか想像してみると面白いかもしれません。

※2016/11/21 カドカワBOOKS公式サイトに9巻の書影が公開されています。
       http://kadokawabooks.jp/product/108/
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