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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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15-25.ダンジョンの機能

※2016/10/24 誤字修正しました。
※2016/10/23 一部修正しました。
 サトゥーです。いつの頃か、ダンジョンを攻略する冒険者の物語だけでなく、ダンジョンを運営する側の物語まで一般的になっていました。個人的には迷宮探索RPGの古典名作の四作目あたりからの系譜じゃないかと思っています。





「マスター! マスター、マスター!!」

 白い髪の幼女がオレに抱きついて、同じ単語を繰り返す。
 助けを求めて見たアリサも、頬をポリポリと掻くだけで、積極的に助けてくれる気はないようだ。

「マスターは私のマスターだと宣言します」
「むぅ、くっつき過ぎ」

 ナナがオレの後ろから抱きついて引き寄せ、ミーアが白い髪の幼女をオレから引き離そうと奮闘する。
 レベルによる筋力上昇で、ミーアが難なく少女を引き剥がした。

「ああっ、マスター! 離してっ、マスターァアアアアア!」

 オレから引き離された幼女がパニックを起こして暴れ、必死にオレを求めて泣き叫ぶ。
 それを見たナナが「幼生体」と呟いて、動きを止めた。

「イジメ格好悪い~?」
「ちっちゃな子を泣かせたらダメなのです」
「むぅ」

 タマとポチの援護射撃で緩んだミーアの腕の間から、白い髪の幼女が飛び出して元のようにオレの腰にしがみつく。

 ルルがお茶を持ってきてくれたタイミングで、オレもソファーに腰を下ろして幼女を膝の上に乗せる。
 タマが羨ましそうに幼女を見るが、膝の上から押しのける気はなさそうだ。

「さて、それでこの子はどうしたんだい?」

 AR表示によると、名前は「コア・ツー」、種族は「ホムンクルス」となっている。
 所属がデジマ島の「夢幻迷宮」となっているから、たぶんダンジョンコアの外部探索ユニットだろう。

「ひろった~?」
「タマと一緒にムシャシュギョーしてたら、裸で悪者に追いかけられていたのです」

 期待の篭もった目で胸を張るタマとポチの頭を撫でて、「偉いぞ」と褒める。
 微妙にポチの言葉が足りないが、武者修行中に悪者から逃げていたコア・ツーを助けたという事だろ。

 それにしても――。

「よくオレの知り合いだって判ったね?」
「マスター探してた~?」
「マスターと言ったら、ご主人様なのです」

 なるほど、タマとポチらしい。

「マスター、帰ろ。ダンジョンの外は危ないよ?」

 オレの胸元に頭をくっつけながら、コア・ツーが首を上に向けて懇願する。
 コア・ツーがオレを「マスター」と呼ぶたびに、ナナがピクリッと反応するが、先ほどのコア・ツーの泣き声を思い出して我慢しているらしい。

「ここより安全な場所は滅多にないよ」

 ここ以上の場所といえるのは、ここの結界を張ってくれたユイカの拠点くらいだろう。

「そんな事無い」

 オレの言葉が信じられないのか、認められないのかは分からないが、コア・ツーがフルフルと首を横に振って否定する。

「まー、迷宮は攻略されちゃうもんね~」
「そんな事無いもん!」

 アリサの暢気な言葉に、コア・ツーが反射的に反論を口にした。

「マスターと一緒ならぜったいぜったい無敵なんだもん!」
「そ、そりゃあ、ご主人様と一緒なら、藁の家でも無敵だろうけどさ」
「おふこ~す?」
「ご主人様と一緒なら何処でも素敵に無敵なのです」

 コア・ツーの反論に、アリサが呆れ顔で首肯し、タマとポチを始めとした仲間達も肯定の言葉を口にする。
 コア・ツーがその反応を不思議そうに首を傾げ、オレの方を見上げる。

「お菓子はいかが?」
「オカシ?」

 場が落ち着いたのを確認したルルが、オヤツを運んできてくれた。

「ちょこびすけっと~?」
「ビスケットをやーらかいチョコに浸けて食べるのですよ」

 タマとポチがコア・ツーに今日のオヤツの説明をしてあげている。

「ちょこ?」
「幼生体、こうするのだと教授します」

 よく分かっていないコア・ツーにナナが実演する。

「美味しい。マスター、美味しいよ」
「ありがとう、オレはいいから、もっと食べなさい」

 一口食べて目を輝かせたコア・ツーが、振り返ってチョコビスケットをオレに差し出してくる。
 それを一口だけ囓って、残りはコア・ツーに食べるように促した。

「ご主人様、あ~ん」

 アリサがコア・ツーのマネをしてチョコビスケットを差し出してくると、他の子達もマネをして差し出してくる。
 甘い物はそれほど好きというわけでもないが、丸一日徹夜で調べ物をしていたせいか、今日は妙に美味しい。

「きゃっ」

 食べるついでに、ルルの指も食べる振りをしたら顔を赤くして驚いていた。
 ちょっと徹夜ハイが入り始めているのかもしれないね。

「――それで、皇帝との話し合いは上手くいったの?」

 アリサがチョコを指に付けて差し出しながらそう問い掛ける。

「他の子がマネするだろ」

 オレはアリサの頭をポカリと叩いて窘めながら、皇帝との会話を伝えるためにアリサを連れてヒカル達のいる部屋に向かう事にする。
 他の子達にはコア・ツーの相手を頼んだ。

「マスター、置いてかないで」

 膝から下ろされたコア・ツーがチョコビスケットから手を離して、オレにしがみついてきた。

「ちょっと用事を済ませてくる。それが済んだら、一度『夢幻迷宮』に行こう。それまではここで、お菓子でも食べて待っていて」
「う、うん。待ってる」

 コア・ツーが不安そうな顔で頷く。
 オレは少しでも不安がなくなるように手を振って部屋を出て行った。





「――邪悪ですね」

 オレの話を聞いたセーラが、憤慨した顔でイタチ皇帝をそう評した。

 ここにいるのは、ヒカル、システィーナ王女、セーラ、アリサにオレを加えた5人だ。
 カリナ嬢は砂漠の訓練場で、仮想敵のゴーレムと訓練中らしい。

 なお、イタチ帝国に置き去りになってしまったゼナさんとリザには、用事を済ませたら戻ると一報を入れてある。

「そう? 自国民を豊かにする事は王なら普通だと思うけど?」
「そ、そんなっ。王祖様がそんな事を仰るなんて」

 ヒカルの発言に王女がショックを受けたように口を手で覆った。

「イタチ人族の暮らす大陸東端は貧しい土地だから、そうしないと生きていけなかったんだと思うよ?」
「そうね~、『貧すれば鈍する』とも言うし、そこまではわたしも同意だけど――」
「待って、もちろん禁忌に手を出すのは問題だと思ってるよ?」

 ヒカルとアリサの会話に耳を傾けながら、憤懣やるかたないという感じのセーラを落ち着かせる。
 精神魔法を使うまでもない。隣に座っているセーラの肩をポンポンと叩くだけで、自分が取り乱していた事に気付いたセーラが、軽く深呼吸をしてオレの肩に頭を預けて大人しくなった。

「それでご主人様はどうするの?」
「もう少し『真実の室』で情報収集をさせて貰うつもりだけど、その後は引き上げるつもりだよ」

 皇帝が禁忌を犯して神と敵対するかもしれないと分かっていてやっているなら、オレが外からゴチャゴチャ言う必要はないだろう。内政干渉をするつもりはないしね。
 一応、核兵器がこちらに向けられたらイヤだから、何らかの監視は置くつもりだけどさ。

「阻止はなさいませんの?」
「ああ、国民達に禁忌について告知しても、頭のおかしな狂信者扱いされそうだしね」

 実際に帝都でそんな活動家を見かけた。
 それに、ブレインズの連中や帝国の上の方はみんな禁忌の危険性を知っていてその恩恵にあずかっているようだし。

「民草もお見捨てになるのですか?」
「サトゥーさんが、そんな事をするはずがありません。神の天罰で無辜の民が滅ぼされようとされたら、きっと奇跡を起こしてくれます」

 食い下がる王女に反論したのは、オレの腕を抱き締めたセーラだった。
 アリサとヒカルは先にオレを擁護するポジションを奪われて口をパクパクさせている。

 実のところ、イタチ帝国の帝都にはシガ王国の王都や公都にあるような地下シェルターが沢山あったので、神の天罰があったとしてもたぶん全滅するような事はない、はずだ。
 もしヤバそうなら、「異界アナザーワールド」の魔法で帝都の人々を亜空間に避難させようと考えている。
 これなら、内政干渉じゃなくて、人命救助だから問題ないはず。

「後手に回るけどね」
「いいんじゃない? 世の中には被害が出てからしか、事の重要さを分からない人って多いんだからさ」
「うん、シガ王国を造る時も大変だった……シャロリック君達が」

 オレの自嘲気味の肯定を、アリサとヒカルが同意してくれた。

 先手先手で行動しても、たぶん感謝されるよりも「余計な事をしやがって」みたいな逆恨みをされるのがオチだというのはありそうだね。





「へー、ここが『迷宮の主の部屋ダンジョン・マスターズ・ルーム』なのね」
「初めて入ったよ」

 アリサとヒカルが珍しそうに部屋を見回す。

「これなに~?」
「なんだかキラキラしてるのです!」
「綺麗」
「あ、ああー! それは触っちゃダメ!」

 他の子達もあっちこっちを見て回っている。
 ポチとナナはボタンを見つけたら取りあえず押すタイプらしく、変な所を押そうとしてはコア・ツーに止められている。

『ご主人様、「迷宮の主の部屋ダンジョン・マスターズ・ルーム」に部外者を入れるのは止めてください』
「全員眷属だ」
『――眷属ならば問題ありません』

 オレの適当な言い訳が通ってしまった。
 ダンジョンコアは意外に融通が利くようだ。

「あれ? コア本体はご主人様よびなの?」
『コア・ツーからの情報を分析した結果、その呼び方が多数派だったので、マスター・サトゥーの呼称を変更しました』

 アリサの疑問にダンジョンコアが律儀に答える。
 ナナが無表情のまま、どことなく満足そうに頷いた。

『ご主人様、迷宮の現状をご確認ください』

 オレの前に累計ダンジョンポイントの推移がグラフ付きで表示される。

「うわ~、迷宮って本当にダンジョンポイント(DP)で管理されてるのね」
「やっぱり、拷問部屋や牢屋みたいなのもあるのかな?」

 オレの横から覗き込んだアリサとヒカルが感心したように呟く。

『ご主人様、この表記は変でしょうか? 前マスターのカスタマイズ前に戻しますか?』

 その様子に疑問を抱いたのか、ダンジョンコアがおずおずとそう告げた。
 どうやら、現在の表示はイタチ魔王が設定したようだ。

「どんな風なのか一時的に表示してくれるかな?」
『はい』

 表示されたのは魔力量、瘴気量、魂魄量の三つのゲージだった。
 これらをダンジョンで必要とされる一般的な数値にしたのが、最初のダンジョンポイント表記らしい。

「両方併記する形にしてくれ」
『はい、ご主人様』

 ダンジョンコアがそう告げて、表示を変更してくれた。
 なかなか便利なインターフェースだ。自分で改造コードを書かなくていいのが素晴らしい。

「マ――ご主人様、インターフェースを更新しました」

 後ろからボリュームたっぷりの柔らかい感触がくっついてきた。
 どうやら、大人サイズになったコア・ツーらしい。

「むぅ、ぎるてぃ」
「げっ、ロリっ子が巨乳になってるっ」

 アリサは驚くだけだったが、ミーアは素早く大人コア・ツーを引き剥がした。
 もう少しゆっくりでも良かったのに。

「ちょっと、サトゥー! コレ凄いわよ!」
「確かに凄いですわね」

 ヒカルと王女が立体映像で表示されるパネルを見ながら、オレを手招きする。
 興味を引かれて見に行くと、祝福の宝珠の名前がズラズラと一覧表示されており、その右端に数字が並んでいる。

「もしかして――」

 オレが立体表示から顔を上げると、コア・ツーがこちらを見て頷いた。

「宝箱に入れるアイテムの必要ダンジョンポイント値表です」

 そういえば、オレの「詠唱の宝珠」も迷宮産だったっけ。

 もしかしなくても、セーリュー市でダンジョンコアを支配していたら、すぐにでも「詠唱の宝珠」を手に入れる事ができたわけか……今更言っても後付けの知恵だけどさ。

「――いいね」

 必要DPが多いから、あまり大量に造るわけにはいかないけど、仲間達やエチゴヤ商会幹部達の強化には使えそうだ。

『ご主人様、気に入った?』
「ああ、もう少し頻繁にくるようにするよ」

 さっきのゲージ的に、魔力と瘴気は幾らでも供給できるけど、魂魄値はどうしようもない。
 まさか、仲間達の強化の為に迷宮にくる冒険者達を一網打尽にするわけにはいかないからね。

 せいぜいボス部屋の一つを仲間達の修行場にして、外から訓練用の魔物を運んで来るくらいしかできそうにない。
 緊急で必要そうなスキルはないから、徐々にやっていけば良いだろう。

「さて、そろそろ帰ろうか」
「ご主人様、どこか行っちゃうの?」

『ご主人様、迷宮の主(ダンジョン・マスター)の居場所はここです』

 オレがそう告げると、コア・ツーが涙目になる。
 ダンジョンコアも、コア・ツーそっくりの涙声で懇願した。

 なんだか、悪い事をしているみたいだ。

「だったらさ、ここと孤島宮殿も常設ゲートで繋げばいいんじゃない?」
「そうね、それならコア・ツーちゃんなら行き来できるだろうし、寂しくないでしょ?」

 アリサとヒカルの言葉に、コア・ツーがダンジョンコアを見上げる。

『分かりました。その妥協案を採用します』

 なんだか、合意が取れたようなので、孤島宮殿へのゲートを繋ぐ。
 当たり前のようにコア・ツーが付いてきたので、この子用の寝室も用意するとしよう。

 幼女体形なら一緒のベッドでもいいけど、さすがに今の巨乳美女スタイルだとそうもいかないからね。

 ブラウニーの一人が、トテトテと屋敷の奥から出てきた。

「サトゥー様、エチゴヤ商会から通信が入っています」

 はて? オレはイタチ帝国に行っていると言ってあるはずなのに、わざわざ通信してくるなんて、エチゴヤ商会で何かあったのだろうか?

 オレはちょっと王都に行ってくると告げて、一人エチゴヤ商会へのゲートをくぐり抜けた。

※次回更新は 10/30(日) の予定です。

※2016/10/23 タマとポチがマスター=サトゥーと判った理由を追記しておきました。


※今回はインターバルなお話でしたが、次回くらいから物語が大きく転がり始める――といいなぁ。
※コア・ツーの登場が唐突だと感じたあなたは、4億PV記念SSの「15-SS:ダンジョンコアの憂鬱」を見逃しているかもしれません。
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