挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
496/530

15-20.帝都臣民

※少しグロい表現があります。お食事中の方や苦手な方はご注意ください。
 サトゥーです。外国で同郷の人間に出会うと無条件に好意的になってしまうのは何故でしょう? やはり同じ言葉を話す相手への安心感がそうさせるのでしょうか?





「華やかな町並みですね」
「ええ、通りを歩く人達の服装も見ていて飽きません」

 ゼナさんやリザの言うように、イタチ帝国の帝都は通りを歩く普通の人達も煌びやかな服を着ている人が多い。
 もちろん、労働階級の人達は地味な服装だが、健康状態は悪くなさそうな感じだ。

「着いたぞ、陛下の謁見までこの館に滞在して貰う」

 リートディルト嬢に案内されたのは、イタチ帝国の迎賓館だった。
 マップ情報によると、近くに転生者や転移者達の暮らす寮や館があるようなので丁度いい。

 馬車がエントランスに入ると、それに気付いた門番がオレ達の到着を廷内に叫んでいた。
 どうやら、リートディルト嬢は先触れの使者を出していなかったらしい。

 玄関前に慌てて整列する使用人達の後ろから、文官風の衣装を着たイタチ人が出てきた。

「リートディルト様、そちらがシガ王国の使者殿ですか?」
「――なぜ、内務省のお前がここにいる?」

 柔和なイタチ人に対して、リートディルト嬢は敵意剥き出しだ。

 AR表示によると、内務省の役人であると同時に、国内の内部監査を行う部署にも所属しているらしい。
 どうりで、役人にしてはレベルが39と高い上に斥候系のスキルが充実しているはずだ。

「ここからの世話役は私と交代となります。リートディルト様には団長殿から『至急、宮殿騎士団テンプル・ナイツまで出頭せよ』との伝言を預かっています」
「だ、団長が、か――」

 役人の言葉に、リートディルト嬢が顔を青ざめさせる。
 まさかとは思うが、デジマ島に飛空艇で乗り付けたのは上からの指示じゃなかったのだろうか?

「やむを得ん。ここはキサマに任す。クロ殿、約束していたペンドラゴン卿の話は後日伺いに来る。忘れるなよ!」

 そんな言葉を残してリートディルト嬢が走り去っていった。
 道中に尋ねられたサトゥーの経歴は十分教えたはずなのだが、まだ何か聞きたい事でもあったのだろうか?

 ゼナさんが何か聞きたそうな顔をしていたが、この場で聞くのはマズイので後にして貰おう。

「初めまして使者殿。イタチ帝国内務省のドルグと申す」
「シガ国王の使者として来たクロだ。皇帝との面会の予定が聞きたい」

 オレはクロらしさを意識しながら役人に尋ねる。

「謁見は三日後の予定です。それまでは迎賓館でおくつろぎ戴くなり、帝都を散策されるなりご自由にお過ごし下さい。皆さんには帝都に詳しい護衛を付けますので、案内が必要になりましたらそれらの護衛にお申し付け下さい」

 ふむ、護衛か――マップ検索した範囲では、目の前の役人と同系統のスキルを持つ腕利きが潜伏しているので、オレ達に付く護衛は油断させるためのデコイじゃないかと思う。

「ご厚意感謝する」

 オレはそう告げて、与えられた部屋へと移動した。
 護衛は後ほど挨拶にくるそうだ。

 オレ達だけになったところで、防諜用の結界を張る。

「よし、これで話が外に漏れることはありません――」

 そう告げてゼナさんの方に向き直る。

「――あ、あの?」
「先ほど何かおっしゃりたかったのではないのですか?」

 オレが問い掛けると、ゼナさんの顔が真っ赤になった。

 ――あれ?

 リートディルト嬢に何か不審なモノを感じ取ったとかじゃなかったのか?

「お茶を淹れて参ります」

 利かさなくていい気を利かせたリザが立ち上がり、部屋の奥にあるポットの所に向かった。
 どうやら、あのポットは魔法道具の一種らしい。

「えっと、その……嫉妬しちゃったんです」

 ――嫉妬?

「リートディルトさんも、サトゥーさんの事が好きなのかなって」
「それはありませんよ。リートディルトさんは武術一筋の方ですから。間違いなく再戦を挑むための情報収集ですよ」
「そ、そうですよね!」

 久々に活躍した詐術スキルの助けのお陰で、ゼナさんの疑惑を解くことができたようだ。

 再戦とは言ったが、よく考えたら、サトゥーとしてはリートディルト嬢とは戦った事がなかったはず。
 きっと、彼女は強者なら誰とでも戦いたい戦闘狂タイプなのだろう。

 サトゥーとしては二度と会う事もないはずだから、関係ないけどさ。





「クロ様、私が護衛官のザクガ・ノロゥイーノと申します」
「ノロゥイーノというと――」
「はい、敬愛する従兄弟殿を救って戴いて感謝しております」

 護衛官として現れたイタチ人族の男性は、オレが皇帝への面会を依頼したイタチ人族の商人の従兄弟らしい。
 AR表示によると、イタチ商人が言っていた元老院にいる叔父というのは彼の父親だそうだ。

「その感謝の印に、私の父が是非とも宴に招きたいと申しておりまして――」

 そういえば捕虜にしたカガク特車隊の一人も元老院に親戚がいるって言っていたっけ。
 あの辺の捕虜交換の話もしないといけないけど、謎の竜騎士ウーティスとしてだと外交ルートがないんだよね。

 そのうちデジマ島の王弟にでも押し付けよう。
 有能な彼なら上手く処理してくれるに違いない。

 なお、民間人相手にヒャッハーしていた人族傭兵には一足先に、シガ王国の炭鉱で永久就職させてある。
 きっとこれからは世のため人のために頑張ってくれるだろう――強制的にだけどさ。

「――クロ様?」
「ああ、すまない」

 余計な事を考えて、返事が遅れたようだ。

「では、お招きに与かるとしよう」

 オレはドレスアップしたリザとゼナさんを連れて、一級市民街にあるノロゥイーノ本家を訪れる事になった。
 ちなみに、リザは紅色のシックなドレス、ゼナさんは空色の可愛いドレスだ。
 見た目はドレスだが、初期型の黄金鎧級に近い防御力がある。





「うわー、キラキラしてます」
「イタチらしい下品な照明です」

 豪奢な屋敷の様子を見てゼナさんが興奮気味に声を漏らす。
 それと対照的に、イタチ嫌いのリザは眉間に皺を寄せている。

 一緒に来た護衛官は主催者の父親に報せてくると言って、一人で奥へと走って行った。

「あ! アレックスだ」

 不躾な声に視線を向けると、受付けらしきテーブルの後ろに駅で見た二人組の娘達がいた。
 他の受付の子達と違って、胸の谷間が大胆に開いた服を着ているので、招待客でもあるのだろう。

 こちらを指差して笑顔を見せる黒髪娘と対象に、紫髪娘は強ばった青い顔をしている。

「――ちょっと待って、あいつ見えない」
「見えるよ?」

 焦った声で呟く紫髪娘が、ブースの外に飛び出そうとする黒髪娘の腕を掴んで止めた。

「ご主人様?」
「ここはオレが対処する」

 オレの前に出ようとするリザを手で制する。

 ゼナさんが小声で防御魔法の詠唱を始めるのが聞こえた。
 魔法の発動に魔力が漏れないオレのお手製のヤツだ。

「ち、違う! ステータスが見えないって言ってるの!」
「え? ミコっちのカンテーって神様仕様で見えないモノはないって言ってたじゃん」
「だから、驚いてるんでしょ! 警備の人呼んできて!」
「えー! あたしがー?」
「早く!」
「もー、今度の休みに駅パフェのギガ盛り奢りだよー」

 紫髪娘に押されて黒髪娘が渋々重い腰を上げる。
 テンパった紫髪娘とマイペースな黒髪娘の温度差が激しい。

 オレが一歩踏み出すと、紫髪娘の身体を淡い紫色が覆った。

 技能隠蔽(ハイド・スキル)で見えないので詳細は分からないが、なんらかのユニークスキルを発動したのだろう。
 恐らく、黒髪娘ごと守れない系統のユニークスキルだと思われる。

「そう怯えるな――」

 オレは腕に巻いた「盗神の装具」を外しながら紫髪娘に声を掛けながら歩み寄る。
 この「盗神の装具」はオレの使う魔素迷彩と同じく、転生者の持つ神授の「能力鑑定(ステータス・チェック)」さえ撥ね除けるのだ。

「――見せてやる、トミコ」
「トミコって言うなぁああああああああ!」

 緊張を解そうとAR表示される彼女の名を言ったのに、大声で拒否の叫びを上げられてしまった。
 名前にコンプレックスがあるようなので、先ほどの黒髪娘が呼んでいたあだ名か二重表示されている「クーネリア」と言う名前で呼んだ方が良かったかもしれない。

「止まりなさい! 私の自動反撃ティット・フォ・タットは受けた攻撃を二倍にして相手に跳ね返す」

 緊張した顔のトミコが、漫画の登場人物のように自分の能力の解説をする。
 たぶん、オレが手出ししないように牽制しているのだろう。

「対峙した相手に自分のユニークスキルの能力を語るのは止めた方がいい――」

 オレが指先から「静電気レッサー・スパーク」を使う。
 タマとポチがお気に入りの「ぱちぱち」の魔法だ。

「きゃっ」

 悲鳴を上げたトミコから、二倍になった静電気が返ってきたが、オレの前でかき消える。
 ゼナさんが発動した風魔法が守ってくれたようだ。

 一方で跳ね返したトミコの方もダメージを受けたらしく、せっかく綺麗にセットした髪が静電気で酷い有様になっている。

「――こんな風に対処されてしまうからな」

 オレはそう告げたあと、「鑑定できるようにしてあるからさっさと見ろ」と付け加える。
 トミコが猫のように警戒しながらも、こちらを鑑定する。

『あ、見えた――あれ? アレックスじゃなくてクロ? 転生者――違う、ユニークスキルがない』

 思考が日本語の独り言で漏れるのは、彼女の癖らしい。

『あんたも明日香と同じ、皇帝に呼び込まれた新しい転移者なの?』
『皇帝は関係ない。帝国の外から来た者だ』

 日本語の質問を日本語で返す。
 とたんにトミコの態度が軟化した。

『――外? 根津さんみたいに?』
『悪いが根津という者に心当たりはない』
『そっか――そうよね。北の方から流れてきた転生者でネズミの人』

 オレの脳裏にネズミ魔王の顔が浮かんだが、きっと関係ないだろう。

 そこに武装した警備の男達が飛び込んできた。
 獅子人や虎人の屈強の男達だ。

「クーネリア様、その白髪が不審者ですか?」
「ち、違う。誤解だったんだってば!」
「――誤解?」

 隊長らしき獅子人とトミコがそんな会話を交わす。

『ミコっち! 警備の人を呼んできた!』
『あ、明日香――』

 男達の後ろから黒髪娘を見て、紫髪が気まずそうに呟く。
 そこに護衛官の男性が戻ってきた。

「これは何事ですか?」
「わ、若様。少々誤報がありまして、こちらの方が――」
「この方が何です? この方は父上がお呼びになった本日の主賓ですよ?」

 護衛官の言葉にトミコや警備員達が顔を青ざめさせた。
 どうやら、この国で元老院議員の機嫌を損ねるのはなかなか危ない事のようだ。

「些細な事だ。それよりも話が付いたのなら先に行くぞ」

 放置するのも悪趣味なので、オレは護衛官を促して主催者への挨拶に向かった。





「貴公がシガ王国の使者か。使者と言うからには公爵か伯爵あたりか?」
「どちらでもない。我は無位無官だ」

 使者だから無官って事はないのかな?

 オレはそんな事を考えながら、無駄に成金趣味の豪華な部屋でイタチ議員と会っていた。
 面会はクロ一人で、ということだったので、リザとゼナさんは控え室で待って貰っている。

「――無位無官? 皇帝陛下に謁見するのにか?」
「我は勇者ナナシ様の従者。シガ国王や王弟は資格ありと認めたようだが、貴公はそれに異を唱えるのか?」
「王弟殿下がか……」

 この人は王弟を「陛下」ではなく「殿下」と呼ぶらしい。
 おそらく皇帝派の人なんだろう。

 気を取り直した議員に色々と探りを入れられたが、のらりくらりと(かわ)しておいた。
 せっかくなので、こちらからもイタチ皇帝やトウヤ軍師について探り返してみる。

「――陛下は偉大な方だ。列強から虐げられる辺境の小国でしかなかったこの国を、一代でここまでの帝国にしたのだ。並大抵でできる事ではない」

 功績じゃなくて人柄を知りたかったのだが、皇帝を心酔する彼からはろくな情報が手に入らなかった。
 一方でトウヤ軍師については――。

「あのハゲ軍師は気に入らぬが、有能ではあるな。皇帝陛下の『富国強兵』案を実現できたのはヤツの働きが大きい。『ぶれいんず』を作り上げ、カガクに手を出し始めたときは謀反の準備かと疑ったが、ハゲ軍師の忠誠は本物だった」

 何をして本物だったと思ったのだろう?
 そう疑問に思って質問したところ、意外な答えが返ってきた。

「魔王を従えた愚かな転生者カヅラの反乱を、ヤツが食い止めたのだ。それも自分の身体を犠牲にして、陛下を守ってみせた。それ以来ヤツは隻腕隻眼よ」

 名前に見覚えがある。イタチ魔王の名前がカヅラだったはずだ。

 一度も名前で呼んだことがないし、うろ覚えで間違っているかもしれないから、一応確認しておこう。
 もしも、他にもまだ魔王がいたらイヤだからね。

「それはデジマ島の迷宮にいたネズミ魔王とイタチ魔王の事か?」
「――イタチ魔王? 魔王は北から流れてきたネズミの魔王だけだったはず。確かに反乱を起こしたイタチ人族の転生者は、魔王と呼んでも差し支えないくらい残虐な実験と研究を繰り返していたらしいが……」

 イタチ魔王はニンゲンの頃から悪人だったらしい。

「ならば、デジマ島で勇者ハヤト一行に両方退治されたそうだ」
「そうか……転生者カヅラは死んで当然のヤツだったが、ヤツの能力だけは惜しかった。ニパン(・・・)のカガク製品は帝都の上流階級で珍重されておったし、帝国のカガクを推し進める原動力でもあったというのに……」

 それと天秤に掛けても、デジマ島の迷宮に押し込まないとマズイほど酷い行状だったのだろう。
 イタチ魔王との会話を思い出して、なんとなく納得してしまった。

「父上、ご会談中失礼いたします――」

 もう少し話を聞きたかったのだが、宴の始まる時間が来たそうなので、オレ達は会場へと向かう。

「すごい――」

 宴の開かれる大会場を見たゼナさんが驚きの声を漏らす。

 晩餐会場には長大なテーブルが並び、テーブルの上からこぼれ落ちそうなほど多種多様な料理が並べられていた。
 イタチ帝国の繁栄を見せつける狙いもあると思うが、客の反応を見る限り、日常的にこういった催しが開かれているらしい。

 油やバターを使ったモノが多く、ギラギラテカテカとシャンデリアの照明を反射している。
 実に胃にもたれそうな料理だ。

 肉料理の間には足の高い器に盛られた葡萄などの果物が盛り付けられているので、それらで箸休めをするのだろう。
 沢山の綺麗な花も飾られているが、それに目を止めている者は誰もいないようだ。

 オレ達は主催者に近い席に案内され、宴の参加者達からの好奇の視線にさらされながら着席する。

「なんだか、すごく見られていますね」
「イタチどもの視線など、塵芥だと思えば良いのです」

 不安そうなゼナさんの言葉に、珍しく他者を見下したリザが答える。
 二人の会話はシガ国語によるものなので、周りの人達には伝わっていないはずだ。

 そして、主催者の挨拶の後、宴が始まった。

「美味しいですね」
「はい、料理に罪はありません。味わって戴きましょう」

 若いゼナさんやリザにとってはギトギト脂の肉料理も平気らしい。
 オレは後学のために一口ずつ食べるだけに留め、給仕の兎人が勧めてくれる珍しい酒を堪能した。

「――えっ?」

 ゼナさんの驚く視線を追いかけて見ると、観葉植物の向こうで吐いているイタチ人がいた。
 吐き慣れているのか、使用人の渡す布で口元を拭うと、当たり前のように席に戻って食事を再開している。

 どうやら、ここでは食べられるだけ食べて、胃の中のモノを吐いてまた次の料理を食べるのが普通らしい。
 なんていうか、古代ローマ帝国の爛熟期みたいな感じだ。

「惰弱なイタチ人らしいですね。他の生き物の命を戴いているというのに、それを捨ててしまうなど」

 リザが処置なしとばかりに首を横に振る。
 そういえば、さっきからもの凄い量を食べているのに、リザもゼナさんもお腹が膨れた様子がない。

「孤島宮殿で食事術を学んでいて良かったです」
「はい、胃の食べ物を圧縮してやれば思う存分食べられますから」

 ――食事術?

 そういえば皆の食事量が最近多い気がしていた。
 てっきり、レベルが上がって筋力(STR)値や耐久(VIT)値が増えたせいで基礎代謝が上がったのかと思っていたよ。

 でも、食事術とやらがあるわりに、タマとポチはよくお腹をまん丸にしてダウンしている気がする。
 もしかしたら、胃の中で圧縮した上であんなになるまで食べたのだろうか?

「おおっ! まさか『竜の丸焼き』に手を出すのか! シガ王国の蜥蜴人は化け物か!」
「まさかまさか。大方、『竜の丸焼き』に手を出した者は最後まで一人で喰わねばならぬ、という事を知らぬだけだろう」

 そんな驚きの声が耳に届いた。

 どうやら、リザがテーブル中央に飾られていたトカゲの丸焼きに手を出したようだ。
 不自然に手を付ける者がいなかったのは、ヘンな不文律があるかららしい。

「美味です」

 リザは周りの雑音を気にすることなく丸焼きを攻略していく。
 孤島宮殿で開催されたマナー講座のお陰で、リザの食事風景は実に優雅だ。

「おのれ! このまま指を咥えて見るだけではイタチ帝国の名折れ! イタチ帝国にヨサンありと見せつけてくれる!」

 変な対抗心を持ったイタチ人が名乗り出て他のテーブルの丸焼きに飛びかかった。
 なんとなく格好いいセリフだったが、やっている事はただの大食いだ。

 そして、肉の大食いでリザに敵うはずもない――。

「か、完食したぞ……」
「は、初めて見た」

 驚きの視線と声がリザに届く。
 だが、口元をハンカチで拭うリザには聞こえていないようだ。

「ふう、お腹いっぱいです」
「ゼナ様は小食ですね」

「こちらをどうぞ」
「ありがとうございます、サ――クロ様」

 リザの言葉に苦笑しながら、ゼナさんに果実水を勧める。

「同じ料理ばかりで少し飽きましたね。今度は鶏肉にしましょう」

 そう呟いて、給仕に指示して鳥の丸焼きを取り分けて貰っている。
 その姿を見て、大食いヨサン氏や幾人かの夫人が目を回して倒れてしまった。

 料理は一杯あるし、美味しそうに食べるリザをオレとゼナさんは優しい目で見守った。





 宴の後は中庭が開放されて、ダンスやゲームに興じる趣向のようだ。

 リザはフードファイター達に囲まれて、なにやら称賛されている。
 聞こえてくるセリフから、さっきの丸焼き完食のせいでリザのファンがたくさん生まれたようだ。

 リザがイタチ人を相手に短気を起こさないように、ゼナさんにストッパー役をお願いしておいた。

 そして、オレはというと――。

「そっか、ネズさん退治されちゃったんだね」
「魔王じゃないときはいい人だったのにね」

 ――転生者トミコや転移黒髪娘と杯を酌み交わしながら情報収集を行っていた。

 彼女達の話によると、ネズミ魔王は皇帝の「強制(ギアス)」スキルに縛られて「ぶれいんず」の実験施設に収監されていたらしい。
 瘴気を抜かれたネズミ魔王は正気に戻り、「ネズ」という名前で親しまれていたそうだ。

「ゲスヅラはいい気味だけどさ」
「雑誌の最新号で身体を要求するし、ネカちゃんとか倉庫で押し倒されて危なかったとか言ってたもんね」

 イタチ魔王はここでもやっぱり安定して悪人扱いだった。

 二人の魔王の情報はもういいだろうと、情報収集の対象を皇帝とトウヤ軍師に換える。

「あー、ごめん。皇帝については喋れないんだ」
「同じく」
「理由を聞いても?」
「ごめん、それもムリ」

 二人の態度からして、イタチ皇帝の「強制(ギアス)」スキルあたりで情報漏洩を禁止されているのだろう。

「トウヤ軍師も?」
「そっちは平気。レベルは55だって知ってるけど、スキルとかはあたしと一緒で隠蔽してるからわかんない」
「種族や年齢も分かんないんだよね?」
「うん、鑑定したら色んな数字や単語が浮かんできてわかんなくなるんだよね。『ぶれいんず』じゃ、偽装系の秘宝(アーティファクト)を使ってるんじゃないかって言ってた」
「ハゲだけどイケメンだよ」
「言う事がお爺ちゃんみたいじゃなけりゃね~」

 彼女が嘘を言っているとは思わないが、年齢や種族を隠す意味がよく分からない。
 たぶん、長命種である事を隠しているんだと思うが、隠すほど重要な情報でもないと思うんだが……。

 そんな風に考え込んでいると、不意に地面が揺れた。

「震度2くらいかな?」
「けっこう続くね」
「ここのトコ多いよね」
「この辺は地震が少ないはずなのにヘンだよね」

 日本人および元日本人の二人は平気そうだが、会場の人達には恐ろしいらしく沢山の客や給仕達が尻餅をついたり怯えていたりしている。

「スラム街や地下道に現れる魔物の噂といい、何か良からぬ事が起こる前兆ではないか?」
「やはり神殿関係者を教区へ追放したのが――」
「めったな事を言うな。神殿関係者は教区を神の園にする為に志願したのだ」

 魔物の噂を聞いて、シガ王国の王都のような事になっているのではないかとマップ検索してみたが、例の食料用の魔物以外は存在しなかった。
 恐らく食料用の魔物が逃げ出して騒ぎになったのだろう。

 食肉の素材が魔物だという事は一部の人達以外には秘密なのかもしれない。

「ねぇねぇ、ここ抜け出してミコっちのお屋敷にいかない?」
「え、あたしの家?」
「だって、あたしは寮だし――壁薄いもん」

 オレの腕に身体を押し付けた黒髪娘が、突然そんな発言をした。

 気のせいじゃなく秋波を感じる。
 クロのイケメン俳優顔のせいで、お持ち帰りされようとしているらしい。

 お持ち帰りされるつもりはないが、なかなか新鮮な経験だ。

「ミコっちの家は豪邸なんだよ! メイドさんやヒツジ(・・・)さんが10人くらいいるんだから!」
「ここじゃ普通だよ。『ぶれいんず』の上の方の人達なんて、もう一桁上の使用人がいる大豪邸で暮らしてるじゃん」
「あはは、ハーレム課長とか後宮次長はそうだよね」

 なんだか凄い徒名(あだな)だ。
 たぶん、沢山の女性を囲っているのだろう。

「悪いが、この後に議員との会談がある」
「だったら、『ぶれいんず』に遊びにおいでよ」

 ふむ、悪くない誘いだ。

「明日で良ければお邪魔しよう」
「約束だよ!」

 強引な黒髪娘と指切りを交わし、オレの予定表に「ぶれいんず」訪問が追加された。
※次回更新は 9/25(日) の予定です。

※傭兵の処遇に疑問のある方は、「14-45.戦乱の王国(3)」を参照されるとサトゥーの行動が理解できるかと。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ