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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
492/529

15-17.祝賀会

※2016/8/28 すみません、アップするファイルを間違えていました。
※2016/8/29 誤字修正しました。
※2016/8/29 一部修正しました。
 サトゥーです。親しい友人との別れは辛いもの――というのも今は昔、今はSNSでいつでも連絡が取れるので離れたという感じがしません。でも、通信手段の少ない異世界では――。





「ハ、ハヤト!」

 リーングランデ嬢の悲痛な叫びがボス部屋に響く。

 天から降り注ぐ光が勇者を包む。
 脱力した感じの勇者が光源を見上げて、何かを言うのが見えた。

 彼の周りでキラキラと煌めく光が邪魔でよく分からなかったが、彼の言葉の中に「パリオン」という単語が確かにあった。

 やがて光が消え、沈黙が場を支配する。

「パリオン神からだ。迎えは明日の朝らしいぜ」

 どうやら、勇者は元の世界に帰るようだ。

 お葬式のような雰囲気を砕いたのはアリサだった。

「お祝いしましょう! せっかくの魔王討伐なんだから、とびっきりのご馳走をしないと!」
「よし、お祝いだ!」
「食べるのは任せろ!」

 アリサの提案に真っ先に乗ったのはルススとフィフィだ。

「うん、ハヤトが好きなサガ牛の肉巻きやチャーハンも作ってあげる」
「とびっきりのブランデーも出しますね」

 ウィーヤリィ嬢と神官ロレイヤも明るい声でそう続く。
 リーングランデ嬢とメリーエスト皇女は思い詰めた感じだったが、祝賀会自体に異論はないようだ。





迷宮の主ダンジョン・マスターは迷宮を出る事ができません』

 迷宮を出ようとしたところ、そんなメッセージと共に「迷宮の主の部屋ダンジョン・マスターズ・ルーム」に引き戻された。

『ご主人様! 何かあったの?』
「なんでもないよ。すぐ戻るから、先に宿に行っていて」
『おっけー! 困った事があったら、いつでもアリサちゃんに言ってね!』

 アリサからの無限遠話(ワールド・フォン)にそう答えておく。

迷宮の主ダンジョン・マスターは迷宮を出る事が禁止されています』

 その声の主は「迷宮核(ダンジョンコア)」らしい。

迷宮の主ダンジョン・マスターの位を他者に譲るにはどうすればいい?」
「不可能です。迷宮の主ダンジョン・マスターの死によってのみ空位になります」

 なるほど、融通の利かない話だ。

 だけど――。

「どうしたの、サトゥー」
「いや、ちょっと寄っただけだよ」

 急に孤島宮殿に戻ったオレを見て、ヒカルとシズカが驚いた顔をした。

 ユニット配置なら問題無く外に出られるようだ。
 おそらく、「迷宮核(ダンジョンコア)」の力が及ぶのは迷宮内だけなのだろう。

「そうだ、エチゴヤのティファちゃんから通信が来てたわよ」
「ありがとう、ちょっと顔を出してくるよ」

 オレは常設ゲートを潜って、エチゴヤ商会に顔を出す。
 もちろん、クロの姿に変装するのは忘れない。

「クロ様、お帰りなさいませ」
「ただいま」

 事務処理をしていたティファリーザが立ち上がって、訪問を歓迎してくれた。
 彼女が支配人室に繋がったベルをポンと叩くと、ズダダダッという淑女らしくない足音を鳴らして支配人が飛び込んできた。

「お帰りなさいませ!」
「ただいま、支配人。髪が乱れているよ」

 僅かに乱れた髪を指で直してやる。

「クロ様、ご報告があります」

 微妙にトゲのある声でティファリーザが声を掛けてきた。
 オレは熱っぽい感じの支配人を椅子に腰掛けさせてから、ティファリーザの報告を聞いた。

「もうご存知とは思いますが、公都のリリー様より、イタチ帝国で二柱の魔王が討伐されたと報告がありました」
「ああ、ネズミ人の魔王を勇者達が、イタチ人の魔王をうちの子達が倒したんだ」

 オレの答えにティファリーザが一瞬手を止めた。

「クロ様が、ではなく?」
「ああ、そうだよ」

 ティファリーザが少し思案顔になる。

「それは快挙ですわ! 有史以来、勇者様や竜以外が魔王を倒した事はありません」

 その代わりに会話に入ってきたのは支配人だ。

「サガ帝国以前は毎回竜が倒していたのか?」
「それ以前は魔王の出現記録自体が少ないのですが、ムーノ伯爵の研究書によると、神々の使徒が降臨して戦う事が多かったそうです」

 ――戦う?

「倒したんじゃないのか?」
「当時は封印までが限界で、倒すことができたと古文書に明記されていたのは二割もないそうです」

 使徒はあまり強くないようだ。
 もしかしたら、魔神や竜神以外の神様は弱いのかもしれない。

「そういえば随分詳しいね」
「はい、公爵家宛てにムーノ伯爵様から、沢山の蔵書が届きましたので、ミト様のご許可を戴いて読み込んでおりました」

 尻尾があったらブンブンと振られていそうな顔で支配人が告げる。
 非常に褒めて欲しそうだったので、少しだけ焦らしてから「勤勉だな」と褒めて肩をポンと叩いておいた。
 思わず仲間達のように頭を撫でかけたが、妙齢の女性にやったら失礼だからね。

 なぜか支配人は少し名残惜しそうな顔をしていた。

「クロ様、お仲間に勇者の称号を得た方がいらっしゃいませんでしたか?」

 ティファリーザの問題発言に、思わず振り返って先を促す。

 魔王討伐を経ても、ポチ以外の子達で勇者の称号を得られた者はいない。

「パリオン神殿の巫女が新たな勇者が現れると神託を受けたそうでしたので……」
「たぶん、オレ達の事じゃないと思うよ」

 ポチが勇者の称号を受けたのは結構前だし、今はその称号も「真の勇者」に変わっている。

 追加の情報があったら報せるようにティファリーザに頼んで、オレは孤島宮殿経由でデジマ島の宿へと移動する。
 少し警戒したが、デジマ島の迷宮へ引き寄せられる事はなくて安心した。





「それでは魔王討伐を祝して、乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」

 様々な銘酒の封を開け、勇者の従者達から聞いた「この世界」での思い出の料理をテーブルに並べていく。
 肉料理が多いのは勇者の嗜好だろう。

 仲間達の飲酒は禁止しているので、彼女達は基本的に食事が中心だ。

 オレやルルは最初の仕込みこそ手伝ったものの、宴会中の調理と配膳は孤島宮殿から派遣したブラウニー達とサガ帝国から派遣されていた美麗でスタイル抜群のメイド達がやってくれている。

「サトゥー! 飲んでるか!」
「ええ、もちろん」

 酒瓶片手に現れた勇者が、オレの杯に酒を注いでくれる。
 オレもテーブルにあった竜泉酒を彼の杯に注いだ。

「お前やアリサ王女達がいなかったら、俺様達はきっと魔王に勝てなかった。助力を感謝する」
「いえ、私達は少しだけお手伝いしただけですよ。勇者様は立派に魔王を倒してくださいました」

 実際、元のネズミ魔王よりも後で作った促成魔王の方が強かったようなのだ。
 ネズミ魔王は戦闘向きの性格じゃなかったみたいだしね。

「いや、あの迷宮に二体の魔王が潜んでいるとは俺様達は誰も想像していなかった。サトゥーが消えた時も、アリサ王女が一喝してくれなかったら、みっともなく取り乱していたかもしれない」
「ご心配をお掛けして申し訳ありません」

 アリサとリザには予め迷宮の主(ダンジョン・マスター)の所に攻め入ると伝えてあったので、パニックになる事もなく、ボス部屋に残留していた雑魚魔物退治をしていてくれたらしい。

 なぜか勇者の顔が近い。
 彼の性的嗜好は幼めを向いている以外はノーマルだったはずだ。

「感謝するサトゥー、いや、勇者ナナシ」

 勇者がオレの耳元で囁く。
 あれ? バレる要素はなかったはずだが?

「何の事でしょう?」
「心配するな。隠したいみたいだから誰にも言っていない。そもそも魔王が二体、それも片方が迷宮の主(ダンジョン・マスター)なんて絶望的な状況から、魔王をボス部屋に追い出して、迷宮の主(ダンジョン・マスター)の権限を剥奪できるような非常識なヤツがアイツ以外にいるとは思えん」

 自主的に出て行ったとは考えてくれなかったようだ。

「それに、最後まで無傷だったしな」

 ――そういえば。

「サトゥー、俺様が日本に帰った後の仲間達を頼む」
「どういう事でしょう?」

 日本に帰るって事は知っていたけど、それと彼の従者をオレに預けることにどう繋がるんだろう。
 魔王討伐に携わった従者達なら、サガ帝国でもどの国でも栄達しほうだいじゃないのかな?

「ノノの話だと、最近サガ帝国の中央がきな臭いらしい」
「戦争でも起こるのですか?」
「ああ、イタチ帝国を滅ぼすべきだって過激な意見が穏健派の上級貴族達からも出ているそうだ」

 もしかしたら、サガ帝国もイタチ帝国のカガクの事を知ったのかな?

「あいつ等がニンゲン同士の争いに駆り出されそうになったら、保護してやってくれ」
「ええ、お任せ下さい。地上の如何なる者にも手を出せない安全な場所に匿いますよ」

 孤島宮殿にこっそり侵入するのはタマくらいにしか無理だし、オレに気付かれずに入り込むのはタマでも不可能だ。

「お前がそう言ってくれると心強いぜ!」

 肩の荷が降りた、とホッとした顔で酒杯を煽る。

「俺様にできる事があったら言ってくれ。お前にならアロンダイトを譲っても良い」

 勇者がそう言ってオレを見つめる。
 丁度良かった、彼に頼みたいことがあったので便乗させて貰う。

「では、元の世界に戻ったら、これを投函していただけませんか?」
「手紙?」
「はい、私がいたのと同じ世界とは限りませんが、家族のもとに元気でやっていると便りをと思いまして」

 家族や友人、それからメタボ氏達同僚への手紙の束を勇者に手渡す。
 一緒にヒカルやアリサの分の手紙も入っている。

「ああ、確かに預かった。必ず俺様が直接渡すから安心してくれ」
「よろしくお願いします」

 胸をドンと叩いて勇者が請け負ってくれたので安心だ。
 アリサの方はイタズラと取られる可能性が高いが、勇者ならきっと上手くやってくれるだろう。

「ハヤト、ちょっといい?」
「リーン?」

 なんとなく艶っぽい印象のリーングランデ嬢がワインを片手に現れた。
 彼女の着る翠絹のドレスは非常に大人っぽいカットで、フェロモンをガンガンにまき散らしている。

 普段着の黒騎士達が、さっきからチラチラと盗み見るほどだ。

「サトゥー、ハヤトを借りるわよ」
「ええ、ご随意に」

 オレは保護者のような気分で勇者とリーングランデ嬢を見送った。

「こ、こりはNTRフラグなのでは?」
「なにバカな事を言ってるんだ」

 アリサの頭をポカリと叩く。
 想い人と永遠の別れなら、最後の思い出を望むのはごく普通の事だしね。

 オレはリーングランデ嬢の想いの成就を祈って杯を空けた。





「時間が来たみたいだ」

 地球に戻ってもおかしくないスーツ姿の勇者が呟く。
 彼の愛剣アロンダイトはリーングランデ嬢が抱きしめていた。

「メリー、俺がサガ帝国に召喚されたときから、ずっと俺を支えていてくれてありがとう」
「ハヤト、私の勇者様」

 メリーエスト皇女がハヤトにハグをして頬に口付ける。
 そういえば、勇者の一人称が「俺様」から「俺」に変わっていた。

「セイナ、黄色野郎に全滅させられかけたあの後、もう一度立ち上がることができたのはお前のお陰だ」
「へへん、またビンタして欲しくなったらいつでも戻っておいでよ」

 涙を堪えたセイナ嬢が勇気を振り絞り、勇者を抱きしめる。

 そして、ロレイヤ、ルスス、フィフィ、ウィーヤリィ嬢、ノノの順で別れを交わし、最後にリーングランデ嬢の番となった。

「リーン、初めて会ったときは鼻持ちならないクソ貴族だったけど――」

 おいおい、勇者何を言い出す。

「――今ではかけがえのない俺の最大の理解者だ。妹さんと仲直りしろよ」
「ハヤト、ハヤトハヤトハヤト」

 リーングランデ嬢は泣きじゃくって、彼をきつく抱きしめる。
 上手く言葉が出てこないようだ。

「アリサはお別れをしなくていいのか?」
「ええ、昨日ちゃんとお別れを言ったもの」

 一応確認したところ、アリサからそんな答えが返ってきた。


 そして、天から光が降ってくる。

「パリオン神が世界を繋ぐ時間にも限りがあるみたいだ。そろそろ行くよ」

 勇者の身体が浮き上がり、その姿が透けて消えていく。
 誰かが「ハヤト」と呼んだのをきっかけに、次々と従者達が勇者の名を呼ぶ。

 消える寸前まで手を振っていたハヤトの消えた空をオレ達は飽きることなく見上げていた。





「サトゥー、飲んでる?!」
「ええ、飲んでますよ。でも、リーングランデ様はそろそろ酒量が過ぎるようですよ」

 勇者を見送ったあと、彼の従者達から勇者の思い出を語る会に招かれたのだが、なぜか集会後に酔っ払ったリーングランデ嬢に管を巻かれていた。

 酔っ払ったリーングランデ嬢は絡み上戸のようで、オレの首に腕を回してさっきから酒を注ぎ続けている。
 酒瓶から直接ラッパ飲みするのは公爵令嬢として問題があると思う。

「まったく、崖から飛び降りるくらい思い切って女の私から迫ったのに、あの朴念仁ってば、接吻の一つもしなかったのよ!」
「ハヤト様は倫理観念の優れた紳士ですからね」

 昨日のリーングランデ嬢の必死のアプローチは玉砕だったようだ。

「まったく、男ならたまには獣になりなさいってのよ!」
「そうですね、激情に身を委ねるのも必要ですね」

 オレが適当に相鎚を打っていたら、リーングランデ嬢が静かになった。
 どうやら、酔いつぶれたらしい。

 扉からトーテムポールのように中を覗き込んでいた仲間達に、彼女を寝台に寝かせてくるように頼む。

「ふむ、これは予想外だ」
「あの手紙の話?」

 オレの横に座ったアリサに首肯し、ルルが持ってきてくれた口直しの果実水を口に運ぶ。

 メニューのマーカー一覧に、マーカーを付けておいた手紙が載っている。
 現在位置は「第N世界線、惑星地球、日本国」と表示されている。ちなみにNの部分はもの凄い桁数の数字が並んでいた。
 手紙の下には勇者ハヤトの名前も残っている。

 ユニークスキルは世界を越えても働くらしい。
※次回更新は 9/4(日) の予定です。
9/1(木)あたりに書籍版8巻のなろう特典SSを活動報告にアップしようと思います(1500文字ほどの短いヤツです)。
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