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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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15-14.勇者vs魔王

※2016/8/17 誤字修正しました。
「勇者様、セイナ殿が戻られました」

 小休止していた仲間達の間を抜けて、小柄なセイナが駆けてくる。
 胸元の余計な脂肪が邪魔そうだ。せっかくの童顔なのに勿体ない。

 あの幼女メイド達のようにストンと落ちるような滑らかさが、童顔には似合うと思う。

「いたよ、この前の亀の甲羅じゃなくて、銀色に輝く金属の鎧を着込んでた」
「また、『変身』しやがったのか……」

 俺の脳裏に初めて見たときの魔王の姿が浮かんだ。
 あの時の魔王は被害妄想気味だったが、どこにでもいそうな紫毛の鼠人だった。

 俺達を見て、悲鳴を上げたと思ったら、変なポーズを取って昆虫みたいな着ぐるみスーツを着て、紫色のマフラーを首に巻いた姿に「変身」していた。
 初めて会ったときはレベル55しかなかったのに、再戦を挑むたびにレベルが上がっていて、最後に戦った時はレベル62まで上がっていた。

 俺のレベル71に比べたら遥かに低いはずなのに、「変身」したヤツは驚く程強かった。
 すぐにガス欠で動けなくなる継戦時間の短さがなかったら、あそこまで毎回有利に戦う事はできなかっただろう。

 もっとも、その油断のせいで、仲間達を失いかけた。
 あんな思いはもうごめんだ。

「でもさ、サトゥーっちに任せっきりでよかったの? やっぱ、ボクが行った方が良かったんじゃない?」
「大丈夫だ、サトゥーなら、迷宮の主ダンジョンマスターを何とかしてくれる」

 不安そうなセイナに、俺は根拠の無い自信を篭めてそう告げた。
 あいつなら、絶対に大丈夫――そんな気分にさせてくれる不思議なヤツだ。

 悔しいが、アイツにならハニーを任せておける。

「サトゥーならなんとかしてくれそう」
「ウィーがそんなに確信的にいうのは珍しいわね」
「そう?」

 ウィー以外の仲間達も、異論は無いようだ。

 リーンだけは「でも、セーラは渡さないんだから」とシスコンをこじらせた発言をしていた。
 あまり構うとかえって反発すると助言したんだが、妹が好きすぎて自己抑制ができないみたいだ。

「今度こそ、魔王を倒すぞ」

 俺は仲間達にそう宣言をして、魔王の待つ大広間へと足を向けた。

 残る魔王は二体だけ。
 ナナシから別の大陸にいた魔王は古竜のブレスで滅んだと報告がきた。
 あとはこの先にいるイタチ帝国の魔王と鼠人の国(・・・・)にいる魔王だけだ。

 ナナシには悪いが、まったく兆候のない鼠人の国の魔王はあいつに任せようと思う。

 ――この戦いが終わったら、魔王に勝てたら、俺は日本に帰る。妹や幼馴染みが待つ日本に帰るんだ。





 ――ZHWWWUUUUUUUWN。

 広間に入ると、魔王が咆哮し、紫色の波紋がヤツの銀色の装甲の上を走るのが見えた。

「ハヤト」
「ああ、分かってる」

 不安そうなメリーに頷く。

「変身が来るぞ! 効果時間が切れるまで時間を稼ぐ」

 効果が切れても姿はそのままだが、圧倒的な強化状態は失われる。
 紫色のオーラが消えるのが目安だ。

「なんだか、弱そう」
「あの一角獣みたいな角がやばいんじゃね?」
「少し猫背だし、たぶんあの角の突きが主攻撃の突撃タイプね」

 紫色のつるんとしたヒーロースーツ風の魔王を見て、仲間達が分析する。
 俺はその姿に見覚えがあった。

「リーン、ウィー、火燕杖と弓でヤツに先制しろ!」

 俺の指示に従って、二人が素早く攻撃を行う。

「忘れたのハヤト、変身中は攻撃が効かないわ」
「ああ、分かってる」

 メリーの言葉に首肯しながら、俺は二人の攻撃の行方を見守った。

「あっ、防がれた」
「術理魔法の自在盾かしら?」
「変わった形だね」

 やっぱりそうか――。

 ユニコーン型の角で思い出せる相手の中で、一番マズイやつだ。

「あれは絶対防御だ。俺様が前衛でヤツを引き留める。効果時間が切れるまで、ノックバック系の攻撃のみを行え!」
「あたしも行くよ」
「ハヤトだけじゃ、大変だもんね」

 ルススとフィフィが、ニヤリと笑って魔王の牽制役を買って出てくれた。
 危険な任務だが、二人がいてくれると正直助かる。

「俺様の『神授の力(ユニークスキル)』とお前の『変身』のどっちが強いか比べてやるぜ」

 俺は「最強の矛(つらぬけぬものなし)」と「無敵の盾(つらぬけるものなし)」を発動し、瞬動で魔王に迫る。
 いつの間にか魔王が生み出していたアサルトライフルが火を噴いた。

「ちっ、炸裂弾か!」

 小爆発を伴う銃弾を無敵の盾(つらぬけるものなし)で受け流すが、その反作用に身体が流される。
 ヤツも絶対防御系への戦い方を知ってやがる。

「へっへ~ん、こっちだよ~」

 ――ZHWUUUWN。

 ルススの挑発に反応して、魔王が俺から注意を逸らす。
 魔王の豪腕がルススをかすめた。

「いってー」

 僅かにかすめただけなのに、ルススの腕の装甲が吹き飛び、鮮血が宙を舞う。
 さらに魔王から追い打ちの銃弾が飛ぶが、ルススは地形を利用して避けきった。

「ルススは下がりな」
「任せたフィフィ!」

 治療の為に下がったルススに代わって、今度はフィフィが牽制しつつ、俺の到着を待つ。

「待たせたな、フィフィ」
「へへん、まだまだ幾らでも引きつけるよ」

 フィフィの不敵な言葉に笑みを返し、俺は魔王に挑発スキルを篭めた言葉を叩き付ける。

「お前と俺様の力比べと行こうぜ――閃光螺旋突きシャイニング・ストラッシュ

 青い輝きを帯びた聖剣アロンダイトの突きを、ヤツの八角盾に叩き付けた。
 金属音と重低音が広間に響き、青と紫の光の粒子が激しい勢いで周囲に飛び散る。

 盾の裏側に回り込んだ光の欠片が俺の背を焼くが、ここではまだ「無限再生(はてなきいやし)」は使えない。
 俺はロレイヤ達の回復魔法を信じて、前方の魔王だけに集中する。

「うぉおおおおおおおおおおお!」

 ――ZHWWWUUUUUUUWN。

 俺の裂帛の気合いに負けじと、魔王も耳障りな咆哮を上げる。
 俺達の叫びに呼応して青と紫の烈光が一層激しく周囲を染めた。

 場に満ちた魔力と余波が、周囲の空気と床を歪めていく。

 ボゴッと音がして、身体が十センチほど下がった。
 たぶん、足下の地面が陥没したのだろう。

 余計な事に気を散らさずに、俺は今の全力を魔王に叩き付けるのに集中した。





「……引き分けか」

 力と力のぶつけ合いでは決着が付かず、180秒の時間切れまで凌ぎきった。
 魔王の身体を覆っていた紫色のオーラも消えている。

 周囲の地面や壁の惨状からして、仲間達も魔王が逃げ出さないように支援攻撃を色々してくれていたようだ。

「だが、ここからは俺様達のターンだ」

 動かない魔王(・・・・・・)に、俺はそう宣言した。

 ――ZHWUUU。

 魔王が小さく吼える。

「何をする気か知らんが、簡単にできると思うな!」

 聖剣アロンダイトの斬撃を魔王に振り下ろす。
 手や武器でガードする事なく、魔王が紫色のスーツで聖剣を受けた。

 魔法防御を砕いた時のような感触が聖剣に伝わる。
 だが、「最強の矛(つらぬけぬものなし)」の効果を帯びた聖剣が、ユニークスキルの守りも無いスーツで防げるはずもない。

 ――ZHWWUUUUN。

 魔王のスーツが裂け、紫色の鮮血が宙を舞い、魔王が背後に転がる。

 地に落ちた血しぶきが白い煙を上げた。
 強酸の血は中級の防御魔法でさえ穿つ危険なものだが、俺の無敵の盾(つらぬけるものなし)やロレイヤの上級防御魔法はそれを全て受け止めてくれる。

 俺は余計な事を考えずに、次の技に入る。
 聖剣の動きに合わせ、青い輝きが真円を描く。

「――閃光延烈斬シャイニング・ブレード

 青い輝きが地を這う魔王を追撃した。

 ――ZHWWWUUUUUUUWN。

 必殺技が命中する寸前、魔王が紫色の輝きと共に咆哮を上げる。

 前の指向性対人地雷を使うつもりかも知れない。
 俺は技を放った姿勢のまま、背後へ跳びずさる。

「装備変更無し、姿が少しだけ変わっている。なんだか、身体の節々から紫色の光が漏れているわ」

 まさか――。

 鑑定したヤツの状態が「狂化バーサク」に変わっていた。
 なんて原作に忠実なやつだ。愛を感じるぜ。

 ――ZHWWWUUUUUUUWN。

 魔王の咆哮とともに、魔王が強脚で宙に跳ぶ。
 ズバンッと音がしそうな勢いで、魔王の背に暗紫色に光る翼が生まれた。

「好都合だ」

 ウィーの呟きに少し遅れて、詠唱同期をしていたメリー達が禁呪を放つ。

「「「…… ■■■■■■■■■■ 神威聖光柱ディバイン・プラズマ・ポール」」」

 目を開けていられないほどの輝きを帯びた光の柱が、広間の中央に現れて魔王を呑み込む。

 ――ZHWWWUUUUUUUWN。

「やったぞ!」
「ああ、これほどの威力の魔法なら、魔王だって無事じゃ済まない」

 黒騎士達の歓声が耳に届く。

 ――ZHWWWUUUUUUUWN。

 そして、それを嘲笑うように、魔王が健在を示す咆哮を上げた。

「バ、バカな! 魔に属する者が光の禁呪の中で無傷なんて!」
「おお、パリオン神よ、我らを護り賜え」

 今回補充されたばかりの黒騎士とパリオン神官が、魔王の咆哮に動揺を露わにする。

 ――ZHWWWUUUUUUUWN。

 光の柱を突き破って出てきた手が、光を押し曲げ(・・・・・・・)て中からその姿を現した。

 ――まさかの無傷だ。

 あれだけの禁呪をくらえば、この魔王よりレベルが高かった黄肌魔族だって無事で済まなかったはずだ。
 いったい何故――。

「まるで、変身直後の魔王のようだわ」

 ――それだ。

 リーンの呟きを聞いて得心した。
 あの暴走状態風の姿は、二度目の変身だったのか……俺様ともあろう者がとんだ勘違いだ。

 魔王の口に紫色の光が明滅する。

「ロレイヤ防げ!」

 俺は命令と同時に、魔王の口に向けて閃光延烈斬シャイニング・ブレードを放った。技名を叫ぶ余裕もない。

「神授のお守り(タリスマン)よ! 『守護』を!」

 ロレイヤが天に翳したお守り(タリスマン)が青い輝きで仲間達を護る。
 対価を考えると濫用はできないが、他の方法では間に合わない。

 暗紫色のブレスとお守り(タリスマン)の作り出した防壁が、激しい火花と光を周囲にまき散らす。
 轟音のもたらす震動で、胃がムカムカするぜ。
 耳はさっきからわんわん耳鳴りがして、まともに聞こえない。

 ――ZHWWWUUUUUUUWN。

 紫色のブレスを吐き終わった魔王が、天井に向けて咆哮を上げる。

 それに答えるように、魔王の傍らに滲む影が――。

『主上の命令により参上した。茶の三番、ここに推参』
『おなじく、茶の一番、推参』

 空間から湧き出したのは二体の上級魔族。
 どちらも、レベル六〇もある。

 今まで一度も現れた事のなかった上級魔族が、こんなタイミングであらわれるなんて……。

「ふん、上級魔族が何体現れようと俺様の敵じゃないぜ!」

 俺は理不尽さを感じながらも、その憤りを糧に闘志を奮い立たせた。

 だが、悪いニュースは続く――。

「勇者様、後方から魔物の大軍です」
「上をご覧下さい! 天井を覆うほどのスライムが!」

 黒騎士達からの報告が届く。

「ハヤト、上級魔族の相手はわたし達がやる」
「ああ、そうさ。見せ場無しは寂しいからね」

 ルススとフィフィが愛剣を手に上級魔族達を睨み付ける。

「私とウィーがルススとフィフィを補助するわ。セイナは黒騎士達と雑魚魔物を始末するのをお願い、リーンとロレイヤはハヤトと魔王を倒して!」

 メリーが動揺のない声で仲間達に指示を出す。
 ちょっとばかり分が悪いが、これくらいなら、なんとかなる。

 要は俺様が魔王を倒しちまえば、一発逆転だ。

「ハヤト! 避けて!」

 リーンの言葉と同時に危機感知スキルが働く。
 黒い刃を寸でのところで避けたが、浅く傷つけられてしまった。

「ふむ、良い反応だ。茶の零番、お見知り願おう」

 影から半身を現した茶色い上級魔族が、そう告げて影へと沈む。
 追撃の俺の一撃は届かず、突いた影もただの影だった。

「よそ見はいかんぞ、勇者。茶の七番推参」
「ほっほっ、何処を見ている勇者。茶の六番推参――」

 次々と現れる上級魔族達に、俺は軽口を叩く事もできずに絶望に抗っていた。
 前に黄肌魔族が大怪魚トヴケゼェーラの群れを召喚したのに比べたら、まだまだ起死回生の可能性がある。

 ――ZHWWWUUUUUUUWN。

 魔王の咆哮が響き、三度目の変身で羽の数が六対に増えた。
 光輪を背負い宙に浮かぶヤツの姿が、この場の超越者のように見える。

 ――だが、そう見えるだけだ。

 まだまだ超越者には早い。
 ナナシくらい常識を逸脱しなきゃ、その場には立てないぜ。

「ぐおぁああああああ」
「ま、魔物が吹き出してきた!」

 黒騎士やセイナの悲鳴を背後に聞きながら、俺は刺し違えてでも魔王を討つ事を心に決めた。
 元の世界の妹や幼馴染みにもう会えないのは寂しいが、ここでコイツを倒さないと、同じ迷宮にいるマイハニーが危ない。

「《歌え》アロンダイト、《奏でろ》トゥーナス」

 効果の切れた聖剣と聖鎧の聖句を再び唱え、切り札の「無限再生(はてなきいやし)」を発動し、奥の手の「加速」魔法薬を喉の奥に流し込んだ。

 ――いくぜ、魔王。

 その横っ面にキツイのをお見舞いしてやる。

 勇者の命は安くないぜ!
※次回更新は 8/14(日) の予定です。


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「わりと平凡な高校生による異世界散歩日記」
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