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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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14-43.戦乱の王国(1)カガク兵器

※2016/8/12 誤字修正しました。
※2016/4/9 後書きに注釈を追加してあります。

※今回はサトゥー視点ではありません
「車長! 前方にマキワ王国の都が見えました!」
「停車。通信士、後続も停車させろ」

 鉄の箱のような形をした鼬人族の兵器が崖の上で停車する。
 ゴーレム馬車に見えなくもないが、平たい箱の上にもう一つ箱が乗ったような奇妙な形をしており、上の箱には細長い棒が刺さっている。
 車両の上に乗っていた虎人や獅子人の奴隷達が、車上から飛び降りて周辺を警戒する。

 奴隷達が周囲を見回して危険が無いことを確認した後に、上の箱の蓋が開いて車長と呼ばれていた鼬人の男が顔を出した。
 車長は崖の上に寝そべり、遠見筒を二つくっつけたような魔法道具で都を確認する。
 兵士にしては鎧を着ておらず、頑丈そうな服を着ているだけだ。

 ここから都まで鼬の単位で一里半、地球の単位なら三kmほどもある。

「噴進狸部隊と鉄鋼蝗騎兵団は都の前に展開済みか……さすがは機動力重視の魔獣兵団だけある」

 都の前の広大な平地に大人の三倍ほどの体高の噴進狸ロケット・ラクーンが100騎と馬ほどの大きさの鉄鋼蝗アイアン・ホッパーが3000騎並んでいる。
 魔物達の頭にはネジのような形の怪しい魔法道具が装着されていた。
 おそらく、その魔法道具によって背中の篭に乗る騎手達が魔物を意のままに操るのだろう。

「隊長、マキワ騎士団の方はでてきますかね?」
「出てくるさ」

 隊長と呼ばれた車長の横に、遠見筒を持って滑り込んできたのは後続車の若い車長だ。

「――というより出てこなきゃ、噴進狸と鉄鋼蝗が外壁を飛び越えて都をいいように荒らされるだけだ」
「軍師様の掌の上って訳ですね」

 話に出てきた軍師が嫌いなのか、隊長が渋面になる。

「ここからだとギリギリすぎる。あそこに見える狩猟館跡に移動するぞ」
「了解」

 隊長の号令で、再び車両が出発する。
 ドルドル、キュラキュラと外見にも負けない奇妙な騒音をまき散らしながら、不思議な轍を残して移動していく。

 現代日本人がこの場にいたら、きっとその車両をこう呼んだだろう。

 ――戦車、と。





「車長、司令部より入信。都に潜入した斥候が王城で確認したのは『水』と『土』の二つのみ、『風』と『火』はおらず、との事です」
「よし!」

 車長がニヤリと笑みを浮かべて自分の掌に拳を打ち付けた。

「この戦――勝ったぞ」
「そんなに火――ダザレス侯爵の紅蓮杖が怖かったんですか?」

 暇そうに合いの手を入れた装填手の頭を、車長が軍靴で踏みつける。

 鼬人族の領域からマキワ王国だとダザレス侯爵領が一番近いが、獅子人の王国や虎人の王国を攻め滅ぼした後でも、一度もマキワ王国へ侵攻した事は無い。

 そして、前身の獅子人の王国が幾度もマキワ王国に攻め込んで、毎回の風物詩のように歴代のダザレス侯爵に撃退されていたのは有名な話だ。
 領内に攻め込んだ敵軍は容赦なく焼き殺すが、領外へと逃れた敗軍には情けを掛けて追撃しない仁将としても名が通っていたらしい。

「将軍からもダザレス侯爵が現れたら攻撃せずに引き上げろと命じられている」
「軍師様は何と?」

 将軍よりも軍師の方が偉いと言わんばかりの装填手の頭を、車長がもう一度踏みつける。

「いいか? ダザレスが怖いんじゃない。アイツの持つ紅蓮杖が怖いんだ」

 ダザレス侯爵家に伝わる紅蓮杖は、炎の精霊を封じ込めた宝杖として有名だが、同時に火の魔物を集めるという呪いがかかっているとも言われている。

 このマキワ王国には紅蓮杖のダザレス侯爵だけでなく、他の四大属性の杖を持つ領主達がいた。

 地を司る轟震杖を持つ、北のジザロス伯爵。
 水を司る波濤杖を持つ、西のミザラス伯爵。
 風を司る颶風杖を持つ、南のムザリス伯爵。

 先ほどの通信では、轟震杖のジザロス伯爵と波濤杖のミザラス伯爵が王城にいたと報告があったわけだ。
 間違えやすい四家の名前は、外交官や士官希望の若者達から不評らしい。

「この特車や砲弾は火に弱い。耐火魔法の付与だけじゃ、紅蓮杖の炎は防ぎ切れんのだ」

 四家の強大な魔法杖の威力の前では、ただの属性の違いでしかないのではと思う通信士だったが、車長の軍靴は彼の後頭部にも届くので賢明にも口にしなかった。

「物見に出していた鼠人から報告! 外壁の三倍はある超巨大ゴーレムが現れたそうです」
「ついに現れたか。水の龍は出ていないんだな?」
「はい、ゴーレムだけです」
「よし、発動機を回せ! 外の車外兵達に隠蔽用の草をどけさせるんだ! 通信士、他の車両にも準備を始めさせろ」
「了解」

 戦の始まりを予感した兵士達が準備を進める。

「信号弾はまだか?」
「――来ました! 黒玉二つ、交戦許可です」

 観測手からの報告に、車長が号令を出す。

「よし! 射撃位置へ出せ。砲手、ムリに足を狙わなくて良い、ゴーレムのでっかい胸板をぶち抜いてやれ!」
「車長、隊長機が日和ってどうするんですか――」

 装填手が砲身に長細い巨大な砲弾を詰め、砲手がハンドルを回して砲の角度を変える。

「巨大ゴーレムが戦場の華だった時代は終わりますよ。バカみたいな投影面積を晒しやがって――」

 計算尺の結果とスコープ内のメモリをチェックする。

「狙いますよ、狙っちゃうよ、よーし、ここだ! 狙い撃つぜ!」

 砲手の叫びと共に鋼鉄の砲弾が一km以上の距離を飛び超える。

 噴進狸と鉄鋼蝗を相手に無双していた灰色の超巨大ゴーレムが、轟音と共に動きを止めた。
 しばらくバランスを取り戻そうとしていたが、足首が砕けているところに無数の砲弾を胸に受けては耐えきれず、都の外壁を砕きながら後方へと倒れた。

 凄まじい勢いで砕けた土砂と土埃が都を蹂躙する。

「よーし、良くやった! 次は騎士が出てくるぞ! 散弾砲準備」
「隊長、特車二から入信。『魔喰い』作戦の実験をするので護衛を頼むとの事です」
「ほう、ついに『魔喰い』を実戦投入か――上はシガ王国にまで手を出す気かもしれねぇな」

 通信士の報告に車長が舌なめずりをする。

「隊長、返信はどうしますか?」
「了解と伝えろ。『魔喰い』の中でまともに戦えるのはオレ達カガク特車隊だけだからな――」

「身体強化のない騎士なんざ、ただの美味しい肉団子だ。無限軌道でひき殺してやるぜ」

 車長の言葉に、無言を貫いていた操縦士がケヒケヒと乾いた嗤いを漏らす。
 微妙な雰囲気に包まれながら、戦車隊は都へと進撃を開始した。





「北門から騎士10、軽騎士500――大変です! 西門のゴーレムの背後から水龍が出ました!」
「俺達は放置で、まずは魔獣部隊の翅を濡らして飛べなくするところから始める気だな」
「無難なやつらっすね」

 飛行能力を持つ部隊を潰すのは、この世界の戦いの常道らしい。

「隊長、変だと思いませんか?」
「何がだ?」

 装填手の言葉を聞き流し、通信士の言葉に問い返す。

「轟震杖のジザロス伯爵が次のゴーレムを出しません。そろそろ魔法薬で回復できる頃合いのはずなんですが……」
「そういえば妙だな――司令部に伝えておけ。向こうも気付いているだろうが、念の為だ」
「了解」

 通信士の言葉を少し思案した車長が命令を下す。
 全体を考えるのは司令部の役目――そう判断したようだ。

「水龍のブレス来ます」

 水龍が吐いたブレスの余波が、戦車をかすめる。

「――被害軽微。跨乗兵が何名か脱落したもよう」
「回収は帰りでいい。今は突き進め!」

 戦車跨乗(タンクデサント)兵は、この世界でも命が軽いらしい。

「信号弾――赤玉3。『魔喰い』発動します」
「振動抑制機が止まるぞ。舌を噛まないように注意しろ」

 都へ肉薄していた丸い輪っかを付けた装甲車が、漆黒の波紋を放つ。
 その波紋が戦車に触れた瞬間、戦車の振動が激しくなる。

「前方、騎士来ます」
「砲手! 蹴散らせ!」
「おう! 狙い撃つまでもないぜ! 喰らえ!」

 戦車砲が黒煙を吹き、先ほどとは形の違う砲弾が騎士に迫る。

「当たらぬ弾丸など無視して進め!」
「「「応!」」」

 誰にも当たらないコースで迫る砲弾を無視して騎士達が進むが、砲弾が空中で分解し、無数の散弾をまき散らす。

「この程度の礫など、魔法鎧とワシの『金剛』スキルと鍛え上げた筋肉で――」

 先頭の騎士は最後まで言葉を発することもできずに散った。
 最後まで魔法が付与された鎧がただの金属鎧になっていた事も、自慢のスキルも無力化されていた事にも、全く気付かずに天に召されたようだ。

 運良く生き残れた騎士達も、戦車の無限軌道に轢殺されるか、戦車兵の槍に心臓を貫かれるかの二択しか残されていなかった。

 動きの鈍った魔獣部隊が正門を越えて、都へと攻め入る。

「やつらに遅れを取るな! 西門前の丘から、王城に焼夷弾を打ち込むぞ!」

 普段なら都市核の作り出す防壁に守られて手が出せない王城に、都市外から傷つけるという戦史に残る偉業を刻もうと車長が野心に燃える。

 だが、世の中、そう甘くないようだ。





「た、隊長! ヤバイヤバイヤバイヤバイ」
「落ち着け!」

 壊れたように叫ぶ砲手の後頭部を蹴りつける。

 ――GWLOROOOOOUNN!

 咆吼を聞いた兵士達が恐怖に硬直する。
 車長は固まったままだった腕を無理矢理動かして天井のハッチを開け、青ざめた顔を空に向ける。

 天を舞うのは竜の群れ。

 80メートルを超える灰色の下級竜を筆頭に四頭もいる。
 一番後を飛ぶ白竜は30メートルしかないが、それは何の慰めにもならない。

「スィルガ王国の竜がなぜこんな場所に……」

 車長の呟きをかの国の人達が聞いたら首を横に振っただろう。
 我が国の竜様はあんなに大きくない、と。

「――隊長」

 白竜が戦車に向かって急降下を始めた。

「超信地旋回! やつの意表を突いて逃げるぞ!」
「隊長、ダメだ」
「突撃バカは黙っていろ。今は特車を故郷に持ち帰るのが最優先だ」
「――違う」
「何が違う!」
「あれは、ただの竜じゃない――竜騎士だ」
「バカな……」

 それは勇者以上にお伽噺に出てくるような非現実的な存在だ。
 この千年あまりの間に、竜騎士と呼ばれる存在はシガ王国の王祖ヤマトとスィルガ王国の放浪王リゥイの二人しかいない。

「四体全てが、竜騎士だと?!」

 味方ならばこれ以上に頼もしい存在もないが、敵として現れたら悪夢でしかない。

 唯一の勝機があるとすれば――。

「隊長、やろう! 今なら『魔喰い』がある」
「そうだ! 試作の対空榴弾を使えば、相手がたとえ無敵の竜だって!」
「よし、待ち構えて砲撃するぞ! 僚機が逃げる時間を稼ぐ!」

 やけになっている者もいるが、彼らは僅かな可能性に賭けるようだ。

「自慢の鱗を守る魔力壁がないと気付いた瞬間のヤツの顔が見物だぜ」

 白い下級竜の背で、トカゲ人(・・・・)の子供が尻尾をブンブンと振りながら突撃してくる。

「やけに小さいトカゲ人だな?」
「撃て!」
「――喰らいやがれ!」

 相対距離50メートルという至近から放たれた砲弾が、空中で炸薬を燃やし金属片をまき散らす。
 たとえ相手が竜でも必殺の間合いだ。

「――びっくり、なのです」

 竜の前に飛び出したトカゲ人の子供が、全ての金属片を剣で弾き飛ばしていた。
 普通の剣ならば、金属片を一つ弾いた時点で折れている。

「タマの手裏剣に比べたら楽勝なのです」

 くるん、と一回転して着地したトカゲ人の子供が、シュタッと不思議なポーズを取る。

「降参するなら許してあげるのですよ?」

 無限軌道が土を後方に吹き上げ、その反動で急加速した戦車がトカゲ人の子供に突っ込んでいく。

「ポチぱーんち、なのです!」
「『魔喰い』に気づいていないのがお前の敗因だ! ひき殺されてから後悔しろ!」

 魔力の無い状況で、小さな拳と何十トンもある鉄の塊が激突するのだ。
 その結果は語るまでもない。

 ――はず、だった。





 勝利を確信した車長が次に気がついた時は、燃える戦車の近く横で他の戦車兵と一緒にゴザの上に並べられていた。
 戦車の前方が大きくひしゃげているのに、操縦士は気絶しているものの五体満足で寝転がっている。なぜかズボンを履いていないが、掘られた訳でもないようだ。

「気がついたですか? ポチは降伏を勧告するのです」
「分かった、降伏する。俺の叔父は元老院に入っている。身代金の請求は元老院宛で頼む」

 犬人のように尻尾を振るトカゲ人の子供の降伏勧告を受け入れる。
 あれだけ燃えていれば、科学を知らない国の者達に原理を理解できる事はないだろう、と判断したようだ。

「……一つ聞かせてくれ」
「戦争はもう終わったのです。一つくらい構わないのですよ?」
「どうやって俺達の乗り物を壊せたんだ?」
「もちろん、この鍛え上げられたハガネの肉体に決まっているのです!」

 とても鋼には見えないプニプニとした手――獣人の手?
 車長が二度見した時には、トカゲ人の手に戻っていた。

「手袋を外したままだったのを忘れていたのです。あやうく正体がバレるところだったのです。正義の味方は正体不明なのがいいのです。秘密を知った者は血も涙も凍る悲惨な地獄が待っているのですよ?」

 キランッと光る瞳に、車長は見ていないと首をぶんぶん横に振る。

「――見ていないならいいのです」

 車長は話を誤魔化すため、先ほどの話に強引に話題転換した。

「魔力?」
「そうだ、魔力を封じられた場所でどうやって」
「そんなの簡単なのです! まほーむこー空間で戦うのなんて、初歩の初歩なのです。それくらいできないと迷宮下層でローパーのロッ君に玩具にされちゃうのですよ」

 こくこくと頷くトカゲの着ぐるみを被った犬人の子供に、車長は乾いた嗤いを浮かべた。
 どうやら、世の中には彼の常識外の存在がいるようだ。

 こうして、科学兵器が初投入・・・された鼬帝国VSマキワ王国の戦いは、理不尽なファンタジー勢の勝利に終わった。

 この日、マキワ王国を助けた謎の竜騎士達の正体は謎に包まれたまま、誰にも知られる事はなかった。
 なお、唯一正体の片鱗を掴んだ車長は、その秘密を墓まで持って行ったようである。

※次回更新は 4/10(日) の予定です。

※2016/4/9 迷宮下層にいる邪竜の鱗は灰色です。11-17に「赤黒い影」の理由を追記しておきました。

※2016/4/9 「科学兵器は神の禁忌に触れるんじゃない?」という意見が多数ありました。
 最後の数行に明記された科学兵器が「初投入」である事を見落とした方が多いようです。強調の傍点を振っておきました。



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