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デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )  作者: 愛七ひろ
第十四章

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14-40.飛竜の王国(7)関所の騒動

※2016/4/4 誤字修正しました。

 サトゥーです。幸いにして国を捨てるか否かを問われた経験はありません。学校や会社くらいなら、自分の命と天秤に掛ける前に捨てるべきだと思いますけどね。





「我々はぁ、関所の通過をぉ、要求するぅ」

「亜人共のぉ、横暴ぅおぉ、許すなぁあ」

「関所のぉ、門をぉ、速やかにぃ、開けろぉお」


 関所の楼閣にあるワイバーン発着場に降り立ったオレ達の耳に、そんな怒声が届いた。

 昔の学生運動を題材にした映画で見たようなシュプレヒコールだ。


 なんとなくやる気が下がる。

 このまま放置して帰りたい気分になってきたが、横にセーラがいるのでそうもいかない。


 空から見下ろしたときに、赤ん坊を抱えたお母さんや小さな子供達の姿も見えたしね。


「――酷い」


 セーラの非難を帯びた声に視線を巡らせる。


 国境の壁を越えようと湿地に足を踏み入れた流民達に、矢を射かけて追い払う蜥蜴人や橙鱗族の兵士達の姿が見えた。

 逃げていく流民達を見て笑う彼らを見ればその反応も分かるのだが、事実は少し異なる。


 聞き耳スキル先生によると――。


「当てるなよ?」

「当たり前だっての。湿地の底なし沼に踏み込まないように威嚇してるのに、当てたら本末転倒だろうが」

「はん、学のある言葉を使いやがって。おい、あっちもだ」

「またかよ……一人ぐらい底なし沼に呑み込まれて死なせた方が大人しくなるんじゃね?」

「冗談でもやめろよ。あれは夢見が悪くなる」

「だなー」


 ――といった会話が繰り広げられていたのだ。


 それをセーラに伝えると先ほどの失言を恥じていたが、聞こえなかったら誤解するのも無理ないとフォローしておく。





「で、殿下! それに竜角家の若様まで!」


 関所の責任者が王子達に挨拶をしに、関所の建物から飛び出してきた。

 雲上人の登場におもねる小役人の姿にもみえるが、そのキラキラした目を見る限り、純粋に二人のファンのようだ。

 この国は武人を尊ぶって言っていたっけ。


「隊長! 大変です! やつらが!」


 関所の城壁の上から、物見の兵士が叫んだ。

 さっきまでの牧歌的な様子はどこにもない。


 マッチョ戦士達が駆け出した責任者の後を追いかけたので、オレとセーラも一緒についていく。

 城壁に繋がる塔の螺旋階段はカビ臭く、コケと泥がこびり付いていた。


「――聞け、蛙食い共!」


 人族の男達が関所と国境を結ぶ橋上で剣を抜いていた。

 マキワ王国の元兵士達や犯罪ギルドの構成員に加え、所属不明の高レベル戦士までいる。男達は全員「興奮」状態になっているようだ。


 この中に工作員は一人もいない。

 彼らは散開して流民達の間に紛れたままだ。


 先ほどから工作員とだけ言っているのは、所属が「共食い蛇」という謎集団になっているからだ。

 旅の間にも聞いた事がないし、既知の国にそういう集団は存在しない。

 犯罪ギルドにしてはスキル構成が本職の密偵系の人達と遜色がなさ過ぎる。おそらく、どこかの国の非合法活動専門の工作員なのだろう。


 先ほどシュプレヒコールを上げていた男達が学生運動かぶれのデモ隊だとしたら、今度の彼らは本職のテロリスト達だろう。

 殺人の罪科は全員に付いており、高レベル戦士には「殺人狂」の称号まで付いている。


 彼らの剣の先には、縄で縛られた蜥蜴人が三人座らされている。

 AR表示によると、三人ともスィルガ王国の平民のようだ。彼らはここから南にある小さな村の漁師らしい。


「こいつらの命が惜しければ関所を開けろ。この砂時計の砂が落ちきるたびに、こいつらから腕や足が一本ずつ無くなる」


 男達のリーダーが口にした無慈悲な言葉に、人質の蜥蜴人達から悲鳴があがった。


「――黙れ」


 リーダーに合図された高レベル戦士が、一刀のもとに蜥蜴人の尻尾を切り落とす。

 尻尾がのたうつたびに、橋の上が赤く染まっていく。


「許せん――」


 その蛮行を見たマッチョ戦士が、楼閣の上から飛び出していった。

 彼のレベルなら、このくらいの高さは余裕だろう。


「あのバカ野郎、こんな見え見えの挑発に乗りやがって」


 王族とは思えない下町言葉でマッチョ戦士を罵倒した王子が、仕方なさそうな雰囲気を纏って飛び出した。

 なかなか良いコンビだ。


「サトゥーさん、私達も行きましょう」


 セーラが震える声でそう告げる。

 先ほどの蛮行から静かだったが、どうやら怒りに震えていたらしい。


 柳眉を逆立てる凛々しい顔は、なかなか格好いい。


 マップ内のマーカーの動きが気になるが、ここに彼女を残して行くよりもオレの傍の方が安全だろう。

 工作員の位置は判るが、洗脳されたり買収されたりした工作員の仲間が関所内にいる可能性があるからね。


 オレはセーラをお姫様だっこして、二人の後を追った。





「そ、それ以上近づけば――」


 男達の脅しの文句よりも早くマッチョ戦士が肉薄する。


 突き出されたマッチョ戦士の槍は、向こうの高レベル戦士がなんとか盾で受け流した。


「――ちっ、やるな」

「ここは通さぬ」

「通るさ――」


 マッチョ戦士が槍の突きを囮に、自らの尻尾で戦士の軸足を引っかけた。


「ひ、卑怯者」

「人質を取るヤツが言うな」


 マッチョ戦士に追いついた王子が、そう叫びつつ槍を突き出す。

 戦士の盾は魔法の品のようだったが、今回ばかりは相手が悪い。


「バ、バカな……」

「後悔は人族の地獄でやれ。お前の仲間達もすぐに後を追う」


 盾を貫いた王子の竜牙槍は、戦士の心臓も貫いていた。

 やはり、マッチョ戦士の竜角槍よりも、王子の持つ竜牙槍の方が貫通力が高いらしい。


 遠巻きに見ていた流民達から悲鳴が上がる。


 マッチョ戦士が他のテロリスト達も刺殺し始めたらしい。

 こっちの人は本当に敵を容赦なく殺すよね。


 グロ耐性はないんだから、そういうのは勘弁してほしいもんだ。


「全部殺すな! 尋問用に少し残しておけ」

「ちっ、仕方ねぇ」


 王子の指示を受けたマッチョ戦士が、二人ほどを叩きのめして地面に転がす。

 確かに死んでいないが、四肢が変な方を向いている。あばら骨も折れていそうだ。


 追いついたオレ達は戦闘には加わらず、人質にされていた蜥蜴人達の所に向かう。


 尻尾を斬られた者以外の蜥蜴人達にも暴行を受けたらしき傷やアザがあったので、そちらはセーラの範囲魔法に任せ、オレは地面でのたうつ尻尾を拾い上げる。

 切断された蜥蜴の尻尾だが、傷口に押し付けて中級魔法薬をかけたらくっついた。


 たぶん、リハビリすれば動くようになるだろう。


「――この人殺し!」


 流民の中に紛れた工作員の一人が、そう叫んで石を投げた。


 同時に「扇動」系のスキルを使ったのだろう。

 何かが頭をかすめるような違和感を覚えた。


 オレは自作のブレスレット型魔法道具を確認する。

 これはラカの簡易版を目指した魔法道具で、精神干渉系への防御を自動で行い、麻痺やスタンなどの状態異常デバフ攻撃を受けたときの自動回復を行なってくれる。

 会話能力はないが、使用者が操作せずともプリセットしてある処理を自動判別して実行してくれるのだ。

 また、物理攻撃や魔法攻撃も防いでくれるが、残念ながらオレの中級魔法を一発防ぐと焼き切れて壊れてしまう。

 そちらはまだまだ改良の余地がありそうだ。


「同胞のカタキだ!」

「蛙喰いどもを血祭りに上げろ!」

「血には血を!」


 工作員に協力する流民がいるらしく、彼らがいない場所からも、同じような不当な罵倒と投石が行われる。

 先に危害を加えたくせに、完全に被害者側の発言だ。


「ふん、こんな石っころで何ができる」


 マッチョ戦士が獰猛な笑みを浮かべ、扇風機のように回した槍で投石を弾き飛ばし、少し遅れて王子が使った「風盾(エア・シールド)」の魔法が投石を群衆の方へ弾き返す。


 こちらにも石が飛んできたので、中級術理魔法の「防御壁Ⅱ」を使って透明なドーム型の障壁を張る。

 これは下級術理魔法の「防御壁」と違って出入り自由だ。


 前方でバシュッという音と共に王子の「風盾」が解けた。


「ちっ、魔術師か――」


 王子の憎々しげな呟きは、額に命中した石によって中断された。

 関所の責任者と会ったときに脱いだ兜をそのままにしていたらしい。


「潰すぞ、ザコ共がぁああああああああああああ!」


 額から血を流す王子が、怒りの雄叫びを上げる。


 その怒気に、群衆の状態が「憤怒」から上書きされ「恐慌」へと変わった。

 どうやら、先ほどの雄叫びには「威圧」のスキルが上乗せされていたようだ。


 群衆が一人また一人と王子から距離を取ろうと逃げ出していく。


「うわぁあああ、殺されるぅううう」

「逃げろ! 頭から喰われるぞ!」

「私の子供がいないの、私の子供はどこぉおおお」


 パニックを起こした流民の男達が、力の弱い老人や女子供を蹴倒して逃げ出していく。


 オレは可能な限り、「理力の手」で弱者を救う為に尽力する。

 さっきの犯罪者達はともかく、思想的に相容れないとはいえ一般の女性や子供が怪我をするのは見過ごせないからね。


 さすがに、1000人以上いる人々全てを救えるはずもなく、骨折を負う者や怪我をする者達が続出した。


「――逃がすと思うか!」


 王子は追撃するつもりのようだ。


「私は左側を潰す。お前は右側をやれ」

「お、おう」


 王子の剣幕にマッチョ戦士はどことなく引き気味だ。

 このまま虐殺が行われるのを見る気はないので、オレも行動を開始する。


「落ち着いて下さい」


 オレは障壁から出て、格納鞄から取り出した長杖で王子の頭をポカリと叩く。


「何をする!」

「状態異常魔法を解除しました。向こうには扇動系の魔法かスキルを使う者がいるようですね」


 振り向く王子の状態が「憤怒」から空欄に戻るのを確認しながら告げた。

 普通の魔法破壊だと彼の魔法鎧まで壊しかねないので、「沈着冷静クール・ダウン」という精神魔法を使った。


 マッチョ戦士の状態は王子の行動に引いたときに「憤怒」が解除されていた。

 単純で精神系の状態異常になりやすい分、簡単なきっかけで解けてしまうのだろう。


「―― ■ 邪気消去イレース・イービル・エフェクト


 キラキラした輝きがセーラから発せられ、流民達の上に降り注ぐ。


 セーラの上級神聖魔法が流民達の状態異常を解除してくれた。

 この魔法は即効性があっても持続性がないので、再扇動を防ぐ為に精神魔法の「平静空間カーム・フィールド」で予防しておく。


 流民達が効果範囲より遠くまで広がっていたので、薄く延ばすような感じで効果範囲を拡張してやる。

 効果が多少落ちるが、扇動の成功率を下げることは十分にできるはずだ。

 上級魔法なら余裕でカバーできるのだが、流民の集団には衰弱した者達も多かったので、負担の大きい高威力魔法の使用は控えた。


 これで流民の暴徒化沈静と工作員の暗躍予防の対策は完了っと。


 工作員とその協力者の捕縛は後回しだ。

 なぜなら――。


 セーラの魔法で鎮まった荒れ地を、こちらに歩いてくる白い法衣の神官が目に入った。


 ――お次は偽使徒の相手らしい。


※4/7~4/9は新刊発売前の記念更新となります。

 ちょっと後書きに宣伝が入りますが大らかな気持ちで見逃してやってください。


 4/7(木)12時  発売2日前、「14-41.飛竜の王国(8)偽使徒」

 4/8(金)12時  発売1日前、「14-42.飛竜の王国(9)後始末」

 4/9(土)12時  発売当日、 「14-43.戦乱の王国(1)都前の激戦」

        ※サブ・タイトルはイメージです。実際と異なる場合がございます。

 4/10(日)はいつも通りに更新予定です。



【宣伝】


 書籍版「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」7巻は4/9(土)発売の予定です。

 活動報告に帯付き表紙や見どころをアップしてあるので、宜しかったらご覧下さい。


※(2016/4/6追記)明日からの更新はお昼の12時なのでご注意ください。

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小説「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」33巻が8/8発売予定!
  著者:愛七ひろ
レーベル:カドカワBOOKS
 発売日:2025/8/8
ISBN:9784040760513



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  漫画:あやめぐむ
  原作:愛七ひろ
 出版社:KADOKAWA
レーベル:ドラゴンコミックスエイジ
 発売日:2024年12月9日
ISBN:978-4040757025



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