挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
453/530

14-31.水桃の王国(4)

※2016/2/6 誤字修正しました。
 サトゥーです。慣れ親しんで習慣となったモノは無意識に出てしまいます。最適化されたとも言いますが、転職したり環境が変わった時に裏目に出ることがあるようです。





 フラグのようなヒカルのセリフが誘引したわけではないと思うのだが、ルモォーク王国の領域から数機の飛竜騎士ワイバーン・ライダーが飛来した。

「ぴーひょろろ~?」
「どっかで聞いた覚えのある笛の音ね?」

 木々が邪魔でよく見えないが、音源は飛竜騎士ワイバーン・ライダーらしい。

「ぐあぁあああ」
「うぅるぅるるるるる」
「ふぁおぉぉぉぉおおおおおお」

 奇妙な声に視線を巡らせると、縛って地面に転がしておいた誘拐犯達が苦悶の表情を浮かべてもがき苦しんでいた。
 体や顔の一部が別の生き物のようにベコベコと蠢く様は、なかなかにホラーだ。

「うげっ、何かヤバイ!」
「お姫ちゃん、妹ちゃんと一緒にこっちに来な! こいつらから離れるんだ」

 アリサが悲鳴を上げ、怯えて固まっている王女二人を促して冒険者達と一緒に避難をはじめる。

「ヒカル! ワイバーンの方を任せる」
「任せて!」

 ヒカルが木々を蹴って樹上へと消える。
 あちらは任せておいて大丈夫だろう。

「タマは~?」
「アリサ達の援護を頼む」
「にんにん~」

 忍者風に手を組んだタマが、アリサの傍に駆けて行く。

 気持ち悪さに目を背けている間に縄を切った誘拐犯達が、異形の姿になって立ち上がった。

 この姿には見覚えがある。
 魔人薬を過剰摂取した者の姿だ。

 そして、魔人薬を飲んだ連中と違うのは、彼らの体の表面を蠢く縄のような赤い光の魔法陣の存在――恐らくシガ王国の王都を襲った「赤縄の魔物」の人間バージョンなのだろう。

 ――趣味の悪い事だ。

 赤縄誘拐犯達に向けて剣や杖を構える冒険者達には悪いが、ここはサックリと始末しよう。
 スプラッタは嫌いなのだ。

 オレは上級術理魔法の「理力の腕マジック・アーム」を発動して誘拐犯達を押さえ込み、全部纏めて「魔力強奪棘蔦(マナドレイン・ソーン)」で魔力を抜き去る。
 この魔法は多人数対象型の「魔力強奪(マナドレイン)」で、バラのような棘のある光の蔦が四方八方に伸びていくビジュアル付きだ。
 本家よりも魔力(MP)強奪量が少ないが、こいつら相手なら十分使える。

 誘拐犯達が魔力を吸われてミイラのようになっていく。
 異形な姿がマシになったが、魔人薬中毒の人達と同様に元の姿には戻らないようだ。

 ――ん?

 レーダーに映る冒険者達の光点が影城方面に移動していく。
 そういえば、あの女冒険者は鼬人族から「調査用の魔法生物」を影城に持ち込む仕事を依頼されていたっけ。
 たぶん、ルミア王女が結界を開く資格を持っていたのだろう。

「――ご主人様!」

 アリサの声に振り向くと、無数の黒い手に掴まれたアリサ達が結界の向こうに連れ去られる姿が見えた。
 とっさに空間魔法の「物品引き寄せ(アポート)」でアリサ達を引き寄せようとするが、空しくキャンセルされてしまった。

 ――ここが転移禁止区域だと忘れていた。

 オレは愚かな失態にほぞを噛みつつも、縮地で接近して一番手前で黒い手に搦め捕られていたタマを掴んで脱出させる。
 黒い影は聖剣で簡単に斬れるが、斬る端から新しい影が出てくるのでタマも脱出できなかったようだ。

 続けてアリサに向けて手を伸ばしたが、津波のように押し寄せる影の手を蹴散らしている内に、王女達と一緒に結界の向こうへと連れ去られてしまった。

「けっかい~?」

 目の前で閉じた結界の表面をタマがバンバンと叩く。
 そこに飛竜騎士ワイバーン・ライダーの騎手らしき獣人達を引きずったヒカルが戻ってきた。

「サトゥー、こっちは倒してきたわ――って、アリサっち達は?」
「影に連れ去られた」

 マップを確認すると、アリサ達は迷路のような城の最奥に向けて連行されているらしい。

「ちょっと待っててね、すぐに結界穿孔の魔法で――」
「必要ない」

 ヒカルの言葉を途中で遮る。

 ――結界なんて引き裂けばいい。

 アリサを攫われた焦りから、少し乱暴な考えに支配されている。
 そう自己分析しながらも、自重を捨てて結界に手を伸ばす。

 ――あれ?

 なぜか、結界はオレを拒まず、そのままスカスカと手を素通りさせた。
 バンバンと結界を叩くタマの手は拒否されたままだ。

 試しにタマと手を繋ぐと、二人で一緒に入れる事が判った。

「ヒカル、一緒に来てくれ。タマはこいつらを騎士に引き渡したら、刻印板を設置した岩場で待っていてくれ」
「うん、分かった」
「タマ、待ってる」

 オレの指示にヒカルが首肯し、タマは間延びしない固い声でこくりと頷いた。
 そんなタマを安心させるように頭を一撫でして、オレはヒカルを連れて結界の中へと足を踏み入れた。

 ――さあ、アリサを助けに行こう。





「《踊れ》クラウソラス」

 行く手を阻む影の番兵達を、ヒカルの使うクラウソラスが塵に変えていく。
 気のせいか先ほどから、影の番兵達はヒカルに対してのみアクティブに攻撃を仕掛けている気がする。
 もしかしたら、大昔にヒカルと戦った事を覚えているのだろうか?

 そんな事に気を逸らしている内に、オレ達は森を抜けて城の手前までやってきた。
 目の前にはオーバーハングの崖があり、その上に大きな漆黒の城がそびえ立っている。

「また来た!」

 樹木や岩の影から、次々と影の番兵が出現してくる。
 ゲームの無限湧き(POP)出現地点スポーンポイントでもあるまいし、レベル30程度と言えども毎回100匹近くも現れられると邪魔で仕方がない。

 しかも、出現するまでマップに存在しないというのが嫌らしい。

 ――誘導烈光槍リモート・シャイニング・ジャベリン

 名前の通り、誘導式の激しい光を放つ槍が一本一倒の勢いで番兵を倒していく。
 オレには無関心な番兵達だったが、一匹倒した瞬間からオレを敵と認識したように襲って来るようになった。

「こいつらは経験値にならないから、『光縛網ライト・ネット』の魔法で搦め捕って放置で!」
「分かった」

 ヒカルのアドバイスに従い、幾つもの光の投網を使って番兵の追跡を阻害してやる。
 その甲斐あって、無事に城へと侵入を果たした。

 アリサ達は気を失った状態で城の最奥にある「主の間」にいるようだ。

 転移や遠見の魔法が使えないので、マップ越しの情報しか見えない。
 その状況が否応なくオレを不安にさせる。

「イチロー兄ぃ、そんなに焦らなくてもアリサなら大丈夫よ」
「ああ、アリサがやり過ぎないか心配してるだけさ」

 ヒカルの言葉に、なんとか軽い口調を作って答える。

 それでも、会話をきっかけに心を落ち着かせる事ができた。
 オレはヒカルに礼の言葉を告げ、道を急いだ。

 今のアリサの実力なら魔王が相手でも大丈夫だが、それを口にする事はできない。
 そんな事を言ったら、神や大魔王が出てきそうだからね。





「――ヒカル、ここでちょっとストップだ」

 呼吸の荒れてきたヒカルを休ませ、「影の番兵」に混ざって現れたレベル50台の「影の騎士」を加速魔法銃で撃ち出した「聖なる弾丸ホーリー・ブリット」で消滅させる。

 弾丸が壁に当たり、熱い油に水滴を落としたような音を残して弾き返されていく。
 ……聖弾を反射するとはなかなか堅い壁だ。

 それにしても、敵のレベルが上がってきた上に、出現リズムが早くなってきた。
 このままだと無駄に時間が掛かってしまう。

 今のところアリサ達に怪我はないようだが、相手の目的が判らない以上いつまでも無事だという保証もない。
 なんとか、ショートカットできないものだろうか?

 ストレージから取り出した白い小さなナイフで床を削る。

 ――うん、いけそうだ。

「■■■■■■■■ ■■ ■ ■■■ ……」

 続けて、魔法の精密行使向きの真銀(ティルシルバー)の杖を斜め上の壁に向けて構え、破壊魔法系列の禁呪「消滅穿孔バニッシング・パーフォレイション」の詠唱を始める。

「イチロー兄ぃ、ここの壁は壊せないよ。昔一緒に来た子達が『非破壊属性』が付いているって言っていたもん」

 ヒカルの言葉に口角を上げることで答える。
 すぐに結果は分かるさ。

 流星雨にも匹敵する量の魔力が禁呪行使に消費されていく。
 万が一にもアリサ達を傷つけるわけにはいかないので、撃ち出す方向はアリサのいる方向の反対側だ。

「…… ■■■■■■■■■ 消滅穿孔バニッシング・パーフォレイション

 オレの知る科学では理解できない「破壊」という概念を具象化させた崩壊現象が壁をゆっくりと消滅させていく。
 呪文書の前書きによると、「全てを穿つ」という竜の牙の力を再現しようとしてできた呪文だそうだ。

 ――それにしても、魔法の制御が難しい。

 気を抜けば「破壊」の力が術者であるオレ自身をも消し去りかねない。
 筋力がカンストしたオレの手から弾け飛びそうな杖を保持し、呪文の放出が終わるまで耐え続けた。

 正面の壁が消失し、その向こうにあった幾枚もの壁にも穴が穿たれている。
 最後には空まで抜けたようだ。

「うわっ、本当に壁を壊しちゃったよ」

 ヒカルが呆れたように呟く。
 魔法薬を飲んで、荒い息は落ち着いたようだ。

 魔法で壊せるかは実験だったが、壊せる事自体は黒竜の牙(・・・・)の残りから作った白いナイフで実験済みだった。

「さて、本番だ」

 オレは迷路状の回廊をショートカットする為に、再度「消滅穿孔バニッシング・パーフォレイション」を使用する。

 残念ながら予定の場所までは打ち抜けなかった。
 感触からして、絶対魔法防御アンチ・マジック系の防壁で「主の間」周辺を守っているらしい。

「行くぞ」
「うん、行こう!」

 オレはヒカルを従えて、「消滅穿孔バニッシング・パーフォレイション」の作った穴に飛び込んだ。





「チューブ? ヒカル、ここは何の施設か判るか?」
「う~ん、前に来たときはここを通らなかったから知らないよ」

 穴の終着地点にあった扉を潜った先に、王都で見たホムンクルスを作るのに使うようなガラス筒が並ぶ部屋があった。
 奥の方のガラス筒の一つには液体が満ちており、中に何か浮いているようだ。

「――でも、重要な施設なのは間違いなさそうだね」
「そうみたいだ」

 部屋の四方から現れたのは影の騎士――それもレベル99の大物だ。
 こいつは本気でやらないとヒカルを怪我させかねない。

 ――これでも喰らえ。

 オレは上級の光魔法「光子力線フォトン・レーザー」で影の騎士を切り裂く。
 これまでの戦いで判っていたことだが、やはり影である彼らに光魔法は特効があるようだ。

 ――まずい。

 壁に当たった光子力線が反射して、予定外の施設をなぎ払ってしまった。
 ガラス片が飛び散り、黒い火花が宙を彩る。

「イチロー兄、後ろ!」

 塵のように砕けながらも、一体の影の騎士が肉薄してくる。

 手にした聖剣デュランダルを魔力で満たし、かつて見た勇者ハヤトの光属性の必殺技を模倣する。

 ――閃光延烈斬シャイニング・ブレード

 デュランダルから放たれた青い光の衝撃波が、影の騎士を水に落ちたインクの痕のように消滅させた。

「イチロー兄、やり過ぎ!」

 全力で出口に走るヒカルの背後で、次々とガラス筒や背の高い設備が倒壊していく。
 光魔法や必殺技の余波で壊してしまったらしい。

 例の浮遊物入りの筒は、オレの自在盾で守ってあったので無事だ。そのまま筒をストレージへと回収する。
 中身を確認するのはアリサ達を救助してからで良いだろう。

 埃を被らないように風系の防御魔法を展開しつつ、ヒカルの後を追った。





「アリサ!」

 背の高いモノクロの扉を蹴り開けると、謁見の間のような場所に続いていた。
 直前まで無限湧きしていたレベル75の「影の大騎士」達も、謁見の間には配置されていないようだ。

 ここは静謐な空気に満たされている。

 そして、その最奥にある高さ10メートル以上ある巨大な玉座の上に、アリサや王女達が寝かされていた。
 閃駆で一足飛びに辿り着き、アリサを覚醒魔法で起こす。

「えへへ、サトゥー」

 寝ぼけたアリサが首元に抱きついてきて、オレの唇を奪おうとするのを額を押さえて止める。

「キスくらい後でいくらでもしてやるから、早く目を覚ませ」
「ふへ? ――ってご主人様?」

 寝ぼけ眼でにへにへ笑っていたアリサが、目を覚まして真面目な顔に戻る。
 どうやら、さっきのオレの発言は聞いていなかったようだ。

「ごめん、足手まといになっちゃったね」
「無事なら良い」

 死ななければ、たいていは何とかなるしね。

 ふと、玉座の下にいるヒカルの様子がおかしいのに気付いた。

「イチロー兄、あれ見て!」

 ヒカルが指差す先にあったのは――。
※次回更新は 2/7(日) の予定です。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ