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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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14-26.雪の王国(7)

※2016/1/3 誤字修正しました。
 サトゥーです。後始末って意外に大変ですよね。一人暮らしで自炊しなくなったのは、思い返してみたら調理の後片付けが面倒だったからだった覚えがあります。





「サトゥー・ペンドラゴン卿、貴殿の功績を讃え、キウォーク青氷湖勲章を授ける物とする」
「謹んでお受け致します」

 褒美としてキウォーク王国の名誉侯爵位をくれるという話もあった。
 システィーナ王女によると、シガ王国の貴族が他国の爵位を貰う事はよくあるそうなのだが、爵位を受けるメリットも無いので断った。

 副賞として、淡雪姫や彼女の姉妹達との婚姻も打診されたが、そちらも丁重にお断りした。
 淡雪姫は食客として同行したいと上品にごねていたが、この国の「冬」が終わる以上、彼女の力は故郷を守る為に必要なので、残るように説得しておいた。
 また、独断での魔族との交戦強行を女王やシスティーナ王女達に責められていた。自業自得なのでフォローはしていない。
 なお、この件でセーラとシスティーナ王女が王城の書庫の閲覧権をゲットしてくれたので、滞在中に色々と読ませて貰おうと思う。

 冬将軍と約束した氷石の方はちゃんと受け取ってある。
 予想以上の分量だったが、飛空艇の通路を使って孤島宮殿まで運び込んだので余裕だった。
 少々格納庫の整合性が取れないが、疑う者には高性能な「魔法の鞄マジック・バッグ」を持っていたと解釈して貰おう。

「ペンドラゴン卿、貴公の尽力に感謝する」
「私は殆ど何もしていませんよ、仲間達のお陰です」
「貴公がいなかったら、姫殿下も白百合隊にいた私の婚約者も無事では済まなかったはずだ」

 冬将軍との会話の後、彼の横に立っていた金髪ショートの知的美人さんが、ペコリと会釈して凜とした声でお礼を告げる。
 たしか、後方で大砲を操作していた子達の一人だ。

 王城で開かれた数日に及ぶパーティーは、セーラをパートナーに付けたサトゥー人形に任せ、オレは王女や護衛のレディーKと入れ替わったヒカルと一緒に、キウォーク王城の書庫で情報を漁ってみた。

 なお、レディーKことカリナ嬢は前回のカタパルト発進が如何に無茶だったかを、交通事故ビデオ風に編集した映像を見せて注意しておいた。
 横で見学していたポチやタマと一緒に震え上がっていたので、次からは自分を大切にしてくれるだろう。
 現在はポチやタマと一緒に、砂漠エリアに行ってカタパルト発進用装備の実用実験をして貰っている。

 さて、書庫の話に戻ろう。
 あまり蔵書量は多くなかったが、廃れた昔の祭りやこの地方独自の文化などが書かれた郷土資料なんかが興味深かった。

「氷魔法や火魔法に珍しい術式が多いけど、シガ王国の資料にあるのと大差ないものばかりだね」
「サトゥー様、王祖様、こちらの魔法道具関係の資料をご覧下さい」
「鼬人族の言葉かな?」
「こちらに、東方諸国語の翻訳文があります」

 王女が見つけたのは、この前の魔族戦でゲットした魔法装置の簡単な概念図と操作方法の説明書だった。内容を写しておこう。

 それ以外に、さほど大きな発見もなく、調査は終了した。
 期待していた怪しげな古文書とかはなかったよ。

 なお、出発前に淡雪姫がこっそりと密航しようとしていたのだが、警備ゴーレム達が簀巻きにして王城の衛兵に引き渡し済みだ。
 彼女が実力行使に出ることは冬将軍から示唆されていたので、氷石のコンテナに紛れて密航する計画を暴くのは簡単だった。

 こんなちょっとしたトラブルを含め、全ての事案を片付けたオレ達は、王都の人々に見送られて王都を旅立った。

「サトゥー様! 私は諦めませんわよぉおおおお!」

 往生際の悪いお嬢さんが王城の尖塔から叫んでいたので、笑顔で手を振っておいた。
 面白い人だ。一緒に旅する気は無いけど、また遊びに来れたら相手をしよう。





 公式には出立した事になっているのだが――。

 オレ達は変装してこっそりと王都へと舞い戻り、キウォーク王都の観光と洒落込んでいる。

「すごい賑やかね~」
「女王様から、『冬』が終わるって発表があったからな。ほれ、嬢ちゃん達、これ持って行け」
「ありがと~?」
「わ~い、なのです」
「ん、感謝」

 ハイテンションの露店主が、仲間達に藻包みという緑色の饅頭を無料配布してくれた。

「もう少し固い方が好みですが、セーリュー市で食べた雑草団子を思い出しますね」
「ベジタリアン向けだと、評価します」
「珍しい味ですわね」

 リザが饅頭を食べて目を細め、ナナとカリナ嬢が微妙そうな顔で饅頭を口に運ぶ。
 セーラと王女はこの国の食事が不味いことを知ってからは、にっこりと笑うだけで飲食を拒否していた。

「うげっ、マズッ。……サトゥー」
「はいはい、残りは貰ってやるから、そんな顔するな」
「わ~い、ありがとう~」

 一口食べてギブアップしたヒカルの饅頭を受け取る。

「むぅ」
「ギ、ギルティ宣告したいっ」

 なぜか、ミーアとアリサが何か言いたげな顔でこちらを見ていた。

 ポンポンと二人の頭を撫でて通りを進む。
 決して美味とは言えないが、独特の風味を持つ饅頭をかじりながら、「春の到来」に沸く人達の様子を眺めながら、キウォーク王都の名所や名物を満喫した。

 やっぱり、観光するなら幸せそうな場所がいいね。


◆おまけ◆


「クロ殿、コゲォークとの国境に防壁を作って下さるというのは真かや?」
「そうだ」

 エチゴヤ商会のクロとして、キウォーク王国を訪れたオレは、女王にそんな提案をしてみた。
 対価は王都への支店出店、および、国を捨てて流浪の民となったキウォーク辺境の村民達への恩赦を要求してある。

「民が国を捨てたのはわらわの不徳の致すところ。恩赦は構わぬが、なにゆえクロ殿がそのような事を求める?」
「我が主、勇者ナナシ様の御心故」

 女王の疑問ももっともだが、今回はお節介と実利確保の両方を目的としている。

 実利としては、キウォーク王国を見限った辺境の村民達が国を捨て流浪の民となったのを偶然知ってしまったので、こっそりとユニット配置でムーノ伯爵領の移民希望者としてサトゥーが太守をする予定の都市や周辺の山村に送り込んだのだ。
 流浪の民のままだと、国際問題に発展しかねないので、先に恩赦をゲットしにきた。

 これでムーノ伯爵領に羊毛製品やヨーグルト料理などの特産品が増えそうだ。
 材料を生産する為の野生のヤクも十分な数を連れてきてある。馴致するのが大変そうだが、それは移民者達の頑張りに委ねよう。

 お節介としては、寡婦や孤児達に仕事を与えるのを目的に、食人藻製のレーション工場を作った。
 従来の産業と一部かち合うが、春の到来と共に食人藻依存の状態が解消されるだろうから、時間が摩擦を解消してくれるだろう。
 味はやっぱりイマイチだったが、生産量の何割かを王国の備蓄食料として購入して貰える事になっている。販路の拡大は新支店長の手腕に期待だ。

 キウォーク王国に暖かな春が訪れる事を願おう――。


◆ピピネ視点:雪崩村の遭難者◆


「うわー! 雪がやんでる!」
「見てみて、お姉ちゃん! 氷柱から滴が垂れてる!」
「春だ! 春が来たよ!」
「やったー!」

 二年ぶりの春の到来を伝える光景に、私は妹と二人で高らかに手を打ち合わせる。
 妹が雪掻き用のスコップを取りに家の中に飛び込んでいった。

 私はキウォーク王国の北西にある雪崩村のピピネ。
 10日ほど前は餓えで全滅する寸前だった村が、見違えるように元気になっている。

 それも、これも、サトゥーさんが食料や塩を分けてくれたお陰だ。

「お姉ちゃん、行き倒れさんが目を覚ましたよ!」

 妹に呼ばれて、私は家の中に駆け込む。
 毛皮の布団から身を起こした美人さんが、寝ぼけ眼でこっちを見る。

 何か喋ろうとしたので、それを手で制する。
 長い間寝ていたから、そのまま喋ったら喉を痛めちゃう。

「すぐに白湯さゆを入れてあげるから待ってて」

 氷柱つらら越しに見る空のような、薄青い・・・まっすぐな長髪をした美人さんが小さく頷く。

「君が助けてくれたのか……感謝する」

 白湯を飲ませると、小さく息をついてお礼を言った。
 私は照れながら、昨日の晩のスープを温め、サトゥーさんから貰った海魚の干物を焼く。

「美味い。この国の民は飢饉に苦しんでいると聞いていたのだが……」

 美人さんが首を傾げると、薄青い・・・髪がシャラリと揺れる。

 珍しい色。南の方の王国には桃色の髪の王様がいるって行商人のポンさんが言っていた。
 この人も王族の人だったりして。

「うん、そうだよ。サトゥーさんが食料を分けてくれなかったら、この村も今頃誰も生きていなかったかも」
「そうか……事実だったか」

 難しい顔で美人さんが表情を曇らせる。
 そんな顔じゃ美味しいスープが台無しだよ。

「――待て、『佐藤』だと?」
「違うよ。サトゥーさん、だよ?」
「そ、そうか、聞き間違えたようだ」

 サトゥーさんの名前を知り合いの人と間違えたみたい。

 私は空になったスープ皿を受け取り、よく焼けた干物を美人さんに差し出す。

「ならば、私は恩を返すためにも、この非道な『冬』を続ける為政者共に、代行者として神罰を与えに行こう」

 美人さんが干物を美味しそうに食い千切りながら、難しい事を言う。
 よく分からないけど、一つだけ間違ってる。

「冬なら終わったよ?」
「――何?」

 窓を開けて、氷柱から垂れる滴を見せてやる。
 窓からはほんのりと暖かみを帯びた風が流れ込んできた。

「もうすぐ春が来るんだよ!」

 笑顔でそう言ったら、美人さんは「そうか、神罰は不要だったか」って呟いて立ち上がった。
 行き倒れて何日も寝ていたのに、もう元気に動けるらしい。

「娘よ。薪を一本とからの壷を一つ持ってきてくれ」

 言われるままに用意した物を渡すと、「これは礼だ」と言って、薪を塩に変えてくれた。

「すっごぉおおい」
「お姉ちゃん、凄いよ? 薪を塩に変えられるなんて!」

 この人は魔法使いだったみたい。
 目の前で起きた奇跡に私は妹と手を取り合って驚きの声を上げる。

 サトゥーさんから貰った塩はまだまだあるけど、塩は幾らあっても邪魔にならないので、素直に貰った。
 この雪崩村では、お金よりも塩の方が役に立つのだ。

「ではさらばだ、娘よ」
「もう、いっちゃうの?」
「うむ、ザイクーオン神への信仰心を増やす為にも、安穏とはしていられぬのだ」

 白いローブに白いマントを羽織った美人さんに、予備のかんじき・・・・と数日分の携帯食の入った背負い篭を差し出す。

「良いのか?」
「うん、お塩をいっぱい貰ったから」
「ならば、ありがたく頂戴する。汝らの人生に幸あらん事を――」

 嬉しそうに受け取った美人さんが、神官様みたいな祝福の言葉を告げて去って行った。





「おーい、ピピネ! 行き倒れはまだ寝たままかね」
「村長さん! ううん、スープを飲んだら元気になって出て行ったよ」

 ――そんな事より!

「ねぇねぇ、村長さん、そのヤクはどうしたの?」
「おう、これはシガ王国のエチゴヤ商会って所からの借り物だ。村に100頭ものヤクを預けてくれてな。この二頭はお前の所の割り当てだ。借り物だから大事に育てるんだぞ」
「うん! 任せて!」

 村長さんからヤクの紐を受け取り、白い息を漏らすヤクの顎を軽く掻いてやった。
 ブルルと気持ちよさそうに鼻を鳴らすヤクを見いていると、自然に笑みが漏れる。

 戦争に行ったお父さんやお兄ちゃん達は戻ってこないけど、ヤクは帰ってきた。
 これから、私はヤクを育て乳を搾り羊毛を刈って暮らそう。
 そして、毛織物の織り方を私の子供にも教えてあげるんだ――。

 その前に旦那様を見つけないとね。

 私の脳裏にサトゥーさんの優しげな笑顔がぎる。

「お姉ちゃん、顔赤いよ? 風邪でも引いた?」
「何でもない! 無いったら無い!」

 私は妹の追及を振り切って、屋根に積もった雪を下ろすために腕まくりする。
 さあ、今日も一日忙しそうだ!
※次回更新は 1/10(日) の予定です。
 「雪の王国」編は今回で終了。次回からは「水桃の王国ルモォーク」編の予定です。

※塩の人が気になる方は 14-3 あたりを読むともやもやが晴れそうです。



※ごめんなさい、今日のWEB更新遅れます(1/10)。
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