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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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14-22.雪の王国(3)

※2015/12/23 誤字修正しました。
※2015/12/23 一部修正しました。
 サトゥーです。外から見ると奇行にしか思えない所行も、中に入るとそれなりに理由がある場合が多々あるようです。だからといって、それが妥当か否かは別問題ですけどね。





「……ここかぁここは天国、かのですか?」

 ベッドの上で目を覚ました少女が呟く。

>「東方諸国語」スキルを得た。

 新しいスキルを得たが、シガ国語の方言のようなので普通に意味が分かる。
 スキルを有効にする気は無いが、ニュアンス補正用に翻訳魔法を発動しておこう。

「……あの?」

 少女が戸惑いながらオレを見上げる。

 この子はキウォーク王国の雪山で大型の魔物、噴進狼ロケット・ウルフに襲われていたところをポチが助けた村娘だ。
 毛織物の彼女の服は噴進狼の血で汚れたので、今は白い木綿のワンピースを着せてある。

 山で遭難していたのか飢餓状態の上に酷く衰弱していたので、栄養補給用の魔法薬を飲ませて雪山のロッジに保護して寝かせていた。
 先ほどまで、寝ぼけ眼でベッドの感触を楽しんでいたようだが、ようやくちゃんと目が覚めたらしい。

「違うよ。ここは君の村の近くにある山小屋さ」
「――山小屋?」

 勘違いが解けたのか、少女がベッドから慌てて身を起こそうとして貧血を起こす。
 オレは素早くそれを支えてやりながら、少女の背にクッションを重ねて座らせてやる。

「とりあえず、これでも飲んで落ち着きなさい」
「美味し……夏の蜂蜜水みたい」

 オレが差し出したゆず茶を、少女は宝物のようにゆっくりと口にする。

 これはゆずのマーマレードをお湯で溶いた甘いお茶だ。
 ぜんざいは少し飲みにくいので、今回はこちらを選んだ。

「ルル特製ミルク粥を持ってきたわよ!」
「餡掛けはんばーぐも~?」
「やっぱり肉は必要なのです!」
「ん、白パン」

 少女がゆず茶を飲み干した頃に、年少組が食事を持ってやってきた。
 栄養補給剤で胃は落ち着いていると思うが、肉はキツイだろう。

 そんな心配は不要だったらしく、少女は見る間にミルク粥を平らげ、白パンの柔らかさに驚きながらも、小さな餡掛けハンバーグを興味深そうに口に運んでいた。

 なお、このハンバーグに使った肉は少女を殺そうとした噴進狼のモノだ。
 肉食獣の癖に臭みのない牛肉のような味をしていたので、獣娘達を始め皆が絶賛していた。
 後で全滅しない程度に狩り尽くそうと思う。

 食事を終えて満腹になった後、少女が思い出したようにオレとポチに礼を告げ、続けて謝罪の言葉を口にした。

「あ、あのお礼も言わずにガツガツ食べちゃってごめんなさい。私は雪崩村のピピネっていいます」
「オレはシガ王国のサトゥーだ」

 彼女を村に送ったら、もう会うことも無いだろうから、爵位や家名については口にしなかった。

「え~、そこは越後のちりめん問屋の隠居って言って欲しかったな~」
「ちりめんじゃこ~?」
「ポチは魚より干し肉を解したヤツの方が好きなのです」
「紫蘇ふりかけ」

 アリサの言葉を勘違いした年少組が、変な方向に脱線している。

「あ、あの。お兄さんは奴隷商人さんなんですか?」
「いや、違うよ。ただの旅人だ」

 オレが否定するとピピネががっかりとした表情になる。
 好んで身売りするとも思えない――ちょっと気になって彼女の村を範囲検索してみる。

 ――なんと、村の9割が飢餓状態だ。

 どうやら、身売りしてでも食料を入手しないとヤバイ状態らしい。

 しかも、どういう事なのかこの国の多くの村で同じような状態だ。
 昔のムーノ領を思い出す。

「何か困っている事があるなら言ってごらん? 力になれるかもしれないよ?」

 オレの言葉に逡巡していた少女だが、背に腹は変えられないとでも思ったのか、村の窮状を語り、少しでも良いから食料を分けて欲しいと訴えてきた。

「お願いします! 村にはお金なんてないけど、私を含めて未婚の娘が9人います。シガ王国で奴隷として売り払ったお金で食料を――」
「落ち着いて。取りあえず手持ちにある余分な食料を持って君の村に行こう」

 オレは少女を諭し、年少組と一緒に少女を連れて雪崩村へと向かう事にした。
 移動は午後の遊び用に作ってあった雪上船を使う。氷で作ったカヌーのような本体に、三角帆で風を受けて進むのだ。

「はやい~」
「ポチは風になるのです!」
「うっひゃ~、ちょー怖い」
「ん、迫力」

 うちの子達には大受けのようだが、少女は予想以上の速さに顔が引きつっていて無言だ。

 移動中に樹上から雪豹が襲ってきたが、雪上船の速さを見誤って後方に着地していた。
 追いかけてこられても面倒なので、雪豹はタマの氷柱手裏剣で仕留めさせてある。

 やがて、雪の中にポツポツと家が見えてきた。

 遠間に見える雪崩村は山の斜面に広がる七〇人程の小さな村だ。
 雪に埋もれた平屋の家には大きな畜舎が併設されているが、そこに家畜がいる家は一軒も無い。
 不思議な事に村は男手が少なく、女性が8割を超えている。

 村長の家に着く頃には、空からはらはらと雪が降り始めていた。





「サトゥー様、村人を代表してお礼申し上げます」

 村長と村人達がオレの前で一斉に平伏する。
 村人達の飢餓状態は栄養補給魔法薬と流動食で危機を脱し、動けるレベルの人達が村長の家に集まっていた。
 十分な食料と塩を提供してあるので、春までは大丈夫だろう。
 ついでに病人はミーアの魔法で治癒済みだ。

「これは些少ですが、村人達から集めた品です。是非ともお納め下さい」

 村長が差し出した品は、様々な毛織物の衣装や小物、木彫りの置物や櫛、青銅製の剣ややじりなどだった。
 剣や鏃は独特の意匠の溝が彫ってある。

「変わった模様ですね。これには何か意味があるのですか?」
「これは雪豹や熊を倒すときに麻痺毒を塗る為の溝です」

 剣の柄につばがない独特のデザインで、柄に滑り止めを兼ねた彫刻が施してあるので、工芸品としても通用しそうだ。

「こちらの毛織物の柄も色々あるのですね」
「んだぁあ。織り方や刺繍で誰が作ったものか分かるんだぁあ」

 しわしわのお婆さんが、刺繍を指でなぞりながら話してくれる。
 代々家に伝わる模様があり、嫁入りまでの間に新しい模様を作るのが一人前の証になるらしい。

 村の窮状を救って良かった。
 こういう技術や文化は受け継がれていって欲しいね。

 村人の作ったという甘芋焼酎を戴きながら、この国の事を教えて貰う。

「戦争ですか?」
「ええ、冬が続くこの2年ほどはありませんが、それまでは毎年のように隣のコゲォーク王国との間で戦があるのです」

 戦争のたびに徴兵されるため、村の男達は年々減っていくのだという。
 観光省の資料にも隣国との定期的な戦争の事が書いてあった。

「戦争が無いのはええが、こう冬ばかり続かれちゃヤクの喰う草も育たん」
「ああ、川や池の魚も藻が育たんせいでいなくなっちまった」
「ほんの二ヶ月ほどじゃが、春や夏が恋しいわい」

 そんな無茶な環境で良く2年も保ったものだ。
 恐らく、冬が続くのは都市核の制御が上手くいっていないからだろう。

 村の畜舎が空なのは育てられなくなった家畜ヤクを潰して食料にしてしまったからだそうだ。

「この村はヨーグルト料理が美味くて王都でも有名だったんじゃ」
「サトゥー様にも食べさせてやりたいのう」
「ヤクの乳酒もじゃ」

 マップで調べてみたら、キウォーク王国の外側にある魔物の領域に野生のヤクの群れがある。
 現状では意味がないだろうが、この国の冬をなんとかできたら、ヨーグルト料理や乳酒も復活できるかもしれない。
 観光省副大臣としては尽力したい所存だ。

 まずは、冬が長期化している原因をしらべますか――。





「――雪像が食料を運んでくる?」
「なんだ、その頭のイカレたデマは」

 キウォーク王国唯一の都市である王都キウォークの下町にある酒場では、そんな噂話がひそひそと交わされていた。

 この王都では隣接する湖に生息する食人藻マーダー・ケルプという魔物の死骸を食料にする事で飢餓から逃れていた。
 王都の周辺の村や街道沿いにある街もその恩恵に与っているらしいが、全ての村々に配れる程の収穫量はないそうだ。

 しかも、食人藻はありていに言ってマズイので、王都の数少ない富裕層の人達は外国から輸入した食料を高額で買い求めているらしい。

 食人藻はデミゴブリン並に弱い魔物らしいが、冷たい水中に引き摺り込まれて命を落とす者も少なくないそうだ。

「おい、若いの」

 噂話を聞きながら食人藻ジャーキーを肴に甘芋焼酎を傾けていると、酒場の主人がアゴをしゃくって入口を見ろと促した。
 入口から姿を見せた小男がオレの横に腰掛ける。

「桜」
「咲く」

 符丁の言葉を聞いて、小男が小さく息を吐く。
 この男はシガ王国の密偵で、キウォーク王国の情報収集を担っている。
 宰相から教えて貰った方法で酒場の店主に接触して、彼を呼び出して貰ったのだ。

「ここじゃマズイ、ついてこい」

 男と連れだって、酒場の裏口から出て細い路地を進むと、倉庫のような場所に辿り着いた。
 倉庫には幾人かのガラの悪い男達がいたが、小男を一瞥した後はこちらに関心を向けることもなく自分たちの馬鹿話に戻る。
 倉庫の地下にある男の隠れ家に着いたところで、ようやく情報収集を始める事ができた。

「何が聞きたい?」
「この国の冬が続いている理由は知っているか?」
「下町の連中の話じゃ、隣のコゲォーク王国との境にある『死霊の谷』で『吹雪の精霊』と『氷厳の死霊』がケンカしているからだって言っている」

 ちょっと見てみたい。

「おい、冗談を真に受けるな。本当は女王のせいだ」

 この国は2年前の戦争で王を失ってからは、第一王妃が女王に即位して統治している。
 世継ぎにあたる王子はまだ9歳だ。

 それにしても、「女王のせい」っていう事は、制御ミスじゃなくて都市核の力でわざと気温を下げているのかな?

「理由は分かるか?」
「当初は隣のコゲォーク王国の侵略を防ぐ為だったみたいだが――」

 なるほど、豪雪で進軍不能にしたらしい。
 なかなかファンタジーな戦い方だ。

「――今は金儲けの為に変わったみたいだな」

 小男が憎々しげに食人藻を溶かした白湯を飲み干す。

「どうやっているのかまでは調べがついていないが、冬を続ける事で氷石を人為的に生産する事ができるらしい。その輸出で大儲けしているってもっぱらの噂だ」

 なんでも、潜入調査担当の諜報員と連絡が付かないらしい。

 氷石は冷蔵庫系の魔法道具や戦闘用の氷杖の素材に必要で、シガ王国で産出するのはセリビーラの迷宮と幾つかの山脈だけしかない。
 産出量が少ない上に、安定した供給源がないので需要に供給が追いつかず、常に高値で取引されている。

「そんで、その主な輸出先は我らがシガ王国と東の果てにあるイタチ帝国さ」

 なるほど、問答無用に冬を終わらせるのもマズイわけか……やっかいだ。
 他にも王宮関係者や氷石を扱う商人の話を聞かせて貰う。

「情報感謝する」

 活動資金の補充として、現金ではなく小粒の宝石が入った小袋を置き、サービスで数本の酒瓶と肴用の燻製肉とチーズを提供しておいた。

「おおっ、今までの連絡員と違ってあんた話が分かるぜ。食人藻と甘芋焼酎に飽き飽きしてたんだよ」

 素で喜ぶ小男が、オマケの情報をくれた。

「王宮にちょっかい出すなら、氷の女王様より淡雪姫と冬将軍様に注意しな」

 何だ? その中二ネームっぽいのは……。





「ご主人様、最後の村への食料配達終わったわよ」
「ん、完了」
「ご苦労様」

 酒場で噂になっていた食料を運ぶ雪像の正体は、オレの作った雪像ゴーレムとそれを運搬するアリサとミーアの二人だ。
 これで当面の餓死者は出さなくて済むだろう。

「えもの~?」
「大量なのです!」
「マスター、灰色狼と黒牙熊を中心に狩り集めたと報告します」
「ご主人様、雪豹は毛皮を剥いで処置してあります」

 続いてロッジに戻ってきた前衛陣から報告を受ける。

 雪豹の毛皮は非常に手触りが良いので、後で全員分のコートを作ろう。
 もちろん、アーゼさん達の分もだ。

「ご主人様、『れーしょん』の試作品ができたので試食して戴けますか?」
「ああ、すぐ行くよ」

 今後も、こういった飢餓状態の人達に出会うかもしれないので、保存性の良い栄養補給食の開発をルルに頼んでいたのだ。

 奇しくも王都で出回っていた食人藻と同じく、主成分は海藻クロレラだ。
 海底都市の近くの海溝で繁殖していた巨大藻ジャイアント・ケルプの粉末に、雑多な小魚の干物や大型海龍シーサーペントの肉を砕いて混ぜた物からシリアル・バーのような形状の携行食を作って貰った。

「うん、いいね。これなら長く食べても飽きない」

 たった数日しか掛けていないとは思えないほどの完成度だ。

 あとは味のバリエーションを増やせば良いだろう。
 アレルギー対策版も必要かもね。

 オレはルルを褒めた後、セリビーラの迷宮でレベル上げをするゼナさん、セーラ、カリナ嬢、王女の四人を回収に向かう。
 彼女達にはレベル上げのついでに、飛喰魚フライング・イーター跳蛸ホッピング・オクトパスのエリアで食材集めも並行して貰っている。

 転移門を潜って、迷宮の狩り場へ向かう。

「しゃらくさい、ですわ」
「カ、カリナ様! あまり前に出ないでください」

 人を一呑みにするような巨大な魚を、カリナ嬢の紫電を帯びた長柄棍ポール・メイスが打ち落とす。

 ゼナさんが注意したように、カリナ嬢一人で魔物の群れの中に突出し過ぎている。
 ラカの守りやセーラの防御魔法があるとはいえ、無謀すぎる。

「盾ゴーレム、三歩前に。大剣ゴーレム、カリナ殿が打ち落とした魔物に止めを!」

 王女が一二体のゴーレムを自分の手足のように扱って、カリナ嬢のフォローを行う。

 これらのゴーレムは対になる指揮棒コマンド・ロッドからの魔力供給で動く特別製だ。
 多少効率は悪いがゴーレムの稼いだ経験値が王女と共有されるので、安全なレベル上げが可能となる。

「弓ゴーレム、カリナ殿が後退するタイミングで牽制射撃――撃て!」

 後衛の四体のゴーレムが槍のようなサイズの石矢を放ち、跳蛸を三色団子のように串刺しにする。

「ゼナ!」
「…… ■■■■ 烈風斬マルチプル・エア・カッター

 天井を指差すカリナ嬢の声と同時に放たれたゼナさんの中級風魔法が、天井沿いに接近していた這い貝クローラー・シェルを根こそぎにする。

「回収班!」
「はーい。木人形リビング・ドールさんゴーです」

 王女の声に応え、解体作業班の家妖精ブラウニー達が運搬用に与えた木人形リビング・ドールを使って戦場から魔物の死骸を回収している。

「サトゥーさん!」
「お疲れ様です」

 オレを見つけたセーラが一番にやってきた。

 カリナ嬢以外は滅多にケガをしないので、治療役としての出番が殆ど無いらしい。
 普段はルルのお下がりの魔法銃や「祝福の宝珠」で覚えた光魔法で援護しているそうだ。

 解体班と護衛のゴーレムを残し、観光省のメンバーを飛空艇に連れていく。
 カリナ嬢は観光省のメンバーではないが、変装して「レディーK」としてゼナさんと一緒に護衛役として同行して貰う。公式にはセリビーラの迷宮でペンドラゴン・チームと一緒に迷宮に潜っている事になっているからね。

 さて、観光省副大臣として、最初の他国訪問と行こうか。
※次回更新は 12/27(日) の予定です。

※活動報告にデスマ6巻「なろう特典SS」をアップしてあるので、宜しかったらご覧下さい。

※2015/12/23 噴進狼が魔物である事、「レディーK」の理由などを追記しておきました。
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