4-8.魔王の季節
※8/16 誤字修正しました。
サトゥーです。桜の季節って好きです。
舞い散る花びら、新生活にうきうきする人々。
花見で一杯やるのもいいですよね~
◇
「魔王って、世界を支配したがるアレ?」
「そう世界を破滅したがるアレよ」
「どこから来るんだ?」
「知らないけど、魔界からじゃない?」
マカイね~。
「そんな目で見ないでよ~ 何かの本に書いてあったけど異界からの侵略者って書いてあったわ」
「異界と異世界って違うのか?」
「学者じゃないもの、判んないわ」
それもそうだな、今度学者に会ったら聞こう。
「66年周期ってのは本当なのか」
「うん、誤差があったり短期間に何人も魔王が現れた記録もあるんだけど、大抵は66年周期らしいの」
「それで、そろそろ66年目だと?」
「前の魔王が出たのが62年前なんだけど、こっそり潜伏して勢力を増やしてたらしいのよ。さらに前の魔王が出たのが132年前だから、もういつ現れてもおかしくないのよね~」
あひる口で顔を顰めるアリサ。美幼女が台無しだ。
「なるほど、何か兆候はあるのか?」
「世界の危機だもの神様が神託で教えてくれるわ~」
さすがファンタジー。
「ただ神託を待つと勇者を育てる時間が無いから、66年周期に合わせてだいたい3~5年くらい前から勇者を呼ぶの」
それだけ定期的なら国も余裕をもって準備ができそうだな。
「現れる場所は決まってるのか?」
「たいてい迷宮か、その周辺に出現するらしいわ」
また迷宮か……。
「迷宮は地脈の濃い所にあるし、軍勢を育てやすいからじゃないかって本に書いてあった」
「育てなくても軍勢率いて襲撃してくればいいのに」
「さあ? 世界を越えるコストが大きいのかもね。状況証拠しか無いらしいけど、世界を越えてくるのは魔王と幹部クラスの上級魔族だけらしいわよ?」
弱いのは世界を越えられないのか?
それよりも迷宮の近くに現れるということは。
「なら、このセーリュー市も危ないのか……」
「それは絶対にないわ」
アリサは真顔で首を横に振る。
「えらく断言するな」
「だって、ここって竜の谷の側じゃない。こんな所に出現したら竜の大群であっと言うまに退治されちゃうわ。伝説では竜神までいるって言うしね」
「竜と魔王は仲悪いのか?」
「天敵ね。普通の竜じゃ魔王には勝てないけど亜神クラスの天竜とかなら確実に竜の方が強いわ」
すごいな竜。
魔王の脅威は迷宮の側に天竜を1体置いておけば解決するみたいだが……。
「それだけ竜が強いならわざわざ異世界から勇者を召喚する必要なんて無いんじゃないか?」
「それはね~ 竜が魔王と戦うと被害が凄いらしいのよ。前に吟遊詩人が歌ってくれた勇者の話に、魔王に負けた勇者の話があったの。魔王は幾つかの小国を滅ぼしたところで竜に見つかって、退治されたんだけど大国が2つ炎の海に沈んだらしいわ。サガ帝国の前の古代帝国も竜と魔王の戦いの巻き添えで滅んだって噂話があるんだって彼は言っていたわ」
なるほどね~ 銀行強盗を弾道ミサイルで排除しようとするようなモノか。
アリサによると、かつて迷宮に陣取った竜が居たらしい。ただ、人間からしたら魔王も竜も同じくらい脅威になるため、当時の勇者と戦うはめになったりしたそうだ。どちらが勝ったかは不明だが、知られている限り竜が陣取っている迷宮は無いそうだ。
◇
セーリュー市に現れた魔族は竜たちの動向を確認しに来ていたのかもしれないな。
竜達が居ないのがバレたら魔王のターゲットになるかもしれないわけか。
そう思ってアリサに話を振ってみた。
「竜の事を除いてもセーリュー市がターゲットになるのは100年は先の事じゃない?」
「なんでだ?」
「迷宮は成長するのよ。魔物を生み魔核を求めて訪れた冒険者を殺してたくさんの命を吸って成長するの。迷宮は広く深くなり、魔物も強くたくさんになっていくわ」
「なるほど……若い迷宮だと魔王の旨味が少ないわけか」
ん? 待てよ……。
「なあ、もしかして迷宮って魔王の侵略装置なんじゃないのか?」
「そうね、そういう説もあるわ」
「なら迷宮なんて破壊した方が良くないか?」
迷宮を壊したら魔王の軍勢も少数になるから勇者も倒しやすいだろう?
「そうなんだけど、大陸にはココを除いても迷宮が6つあるの。魔王が現れる確率が等分だとして400年に1度くるかどうかの災害みたいな認識なのよ。その上で迷宮は魔核っていう使える素材を産出する鉱山みたいに考えられてるの」
「なるほど壊した方が怨まれるのか」
「そうねクボォーク王国も迷宮があった時代は近隣の小国の盟主みたいな立場だったらしいけど、迷宮核が破壊されてからは衰退の一途をたどったもの」
「破壊した迷宮核は復元できるのか?」
「そうじゃない? 私は儀式の間に行った事ないから詳細はわからないけど」
忌まわしい儀式までして復活させたいほど魅力があるのか……。
人間の欲望は際限ないっていうけど本当だね~。
◇
「それにしても詳しいなアリサ」
「散々質問しといて今更ソレ?」
あきれるアリサ。てっきり「もっと崇めてもよくってよ~」とか勝ち誇るかと思ったんだが、アリサ検定があったら不合格だな。
「迷宮関係は王家の倉庫に山ほど資料があったのよ。さっき言った事も推論や仮説も含まれてるかもしれないから注意してね」
情報の洪水を渡るのは得意だ。……よく溺れるけどな。
「魔王関係は勇者を題材にした本や資料と吟遊詩人や語り部達の唄やお話ね。だからフィクションとノンフィクションが混ざっているかもね。一応精査したつもりだけど~」
娯楽として大人気だったらしい。
「スキルやレベルは自分の体験と、観察の結果ね」
「もう聞きたい事はおしまい?」と可愛く首を傾げる。正体を知らなければ庇護欲を掻き立てられそうな姿だ。
「そうだ誰かに聞こうと思って忘れてた、1年は何日だ?」
アリサによると1年は10ヶ月、1ヶ月は30日。週という単位は無く上月、中月、下月と3分割するらしい。
ちなみに以前4時間ずれていると思っていた時計だが、今では1日の長さが28時間らしい事がわかっている。
年単位で考えると、こちらの世界の方が少し短いが4%ほどの違いだし誤差みたいなものだろう。
◇
まだ日没まで2時間ほどあるので、アリサ達に旅の必需品の買出しを頼んだ。
「では手分けして岩塩や保存食の買出しを頼む。水を入れるための樽も2つほど買っておいてくれ」
「は~い」「買出し~?」「なのです」と賑やかな返答を受ける。
「何日分買えばいい?」
「10日分くらいだな。この季節だ、最初の3日くらいは普通の食品でも大丈夫だろう。日持ちする物と併せて240食くらいか? なかなか量がありそうだな」
「そうね、マーサっちに問屋みたいな店が無いか聞いてみるわ。で、持てなさそうだったら配達してもらうわね」
「ああ、頼む」
買い物の時は頼もしいな。
一緒に買出しに行っても良かったんだが、一人で試したい事があったので部屋に戻る事にした。
◇
さっきアリサに言えなかった事がある。
竜が魔族の天敵。
魔族は竜を排除したい。
オレをこの世界に呼んだのは誰だ。
オレは何の為にこの世界に呼ばれた。
オレの力はなぜ勇者達の力と齟齬がある。
そうオレは、
「オレを召喚したのって魔王とか魔神じゃないだろうな……」
その一言を問えなかったんだ……。