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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
426/530

14-5.ヨウォーク王国(2)

※2016/2/1 誤字修正しました。
※2015/9/20 一部修正しました。

※ごめんなさい、かなり長いです。
 サトゥーです。里帰りは親戚と久々に会う楽しい時間です。ですが幼馴染によると結婚バッシングに晒される苦行タイムだとボヤいていました。





 オレはヨウォーク王国の王城地下にある「小鬼迷宮」で発見した魔王の詳細情報を調べる。

 魔王の称号は「魔王」に加え「賭博中毒」「借金王」「ダメ親父」といった珍しいモノが並んでいた。
 種族は「大鬼族オーガ」でレベルは55と低く、ユニークスキルも「乾坤一擲」というのが一つだけだ。
 ユニークスキル一つで魔王化するのは稀だという話だったから、シン少年に与えた「魔術の司マスター・ウィザード」を含めた二つを持っていたのだろう。

 今ならリザ一人でも倒せるかもしれない。

 なお、迷宮内に上級魔族は見当たらず、中級魔族が一体だけ魔王の傍に控えていた。
 下級魔族は10階と30階にある迷宮管理室という部屋に一匹ずつ常駐しているらしい。往年の名作迷宮ゲームのようだ。

 この迷宮の魔物はデミゴブリン系やラット系が殆どを占め、深い階層にはデミオーガという初見の種族も徘徊している。

 探索者視点で見た場合、非常に旨みのない迷宮だ。魔核やラット系の肉や皮くらいしか換金物が無い。
 そのせいか、この迷宮の冒険者達は総じてレベルが低い。

 殆どがレベル30未満で、それ以上あるのは48階層まで遠征しているパーティーのみだ。
 そのパーティー以外は29階までにいるレベル20くらいまでの敵を相手にしているようだ。30階に40レベルのデミオーガ・リーブが中ボスとして君臨しているのが理由だろう。

「こっち!」
「本当に殺すのか?」
「当たり前だ! オレ達だって殺されかかったんだぞ?」

 聞き覚えのある少年少女の声が後ろから聞こえてきた。
 どうやら逆恨みして追いかけてきたようだ。

 恐らく少女の持つ「追跡」というスキルの効果に違いない。
 衛兵にでもなれば良いのに。

 正面からはデミゴブリン・バーサーカーという強そうな名前の魔物が接近していたが、相手は一匹で少年少女とレベル差も無い。冒険者なら自分で何とかするだろう。

 オレは両者と接触する前に、最深部の冒険者パーティーがいる48階に「転移テレポート」した。
 魔王との戦闘の余波が届く可能性があるので、避難を勧めるためだ。

 そのパーティーのリーダーはレベル53の魔法剣士で、称号が「勇者の従者」となっていた。若い美女ばかりの勇者ハヤトの仲間に、こんな老婦人がいるとは知らなかった。
 彼女の仲間達はレベル37の重騎士を筆頭に前衛6名、魔法使い2名、神官2名、斥候1名、運搬人4名だ。運搬人を除く平均レベルは31となかなか高い。

 小国の迷宮でもトップランカーはそれなりに高レベルのようだ。

 いきなり目の前に転移すると驚かれるので、二つ手前の部屋に出た。
 一つ前の部屋にしなかったのは、荷物持ちの奴隷達がそこにいるからだ。

「魔物?!」
「ご主人様の魔物避けの結界を破られたのか?!」

 奴隷達の部屋に足を踏み入れたとたん、魔物扱いされて小さな火弾で攻撃された。
 自衛用に火杖を持たされていたらしい。

 オレは火弾を無視して、縮地で奴隷達の目前に移動し、彼らから危ないオモチャを取り上げる。

「落ち着け。我は人族だ」

 オレの言葉を聞いた奴隷達が、素早く飛び退いて荷物の山に立てかけてあった短槍を手に取る。
 彼らもレベル20超えで槍や生活魔法のスキルを持つので、多少は腕に自信があるのだろう。

 彼らを叩きのめしてから話し合いをしても良いのだが、迷宮踏破目前で獲物を掻っ攫う後ろめたさがある。

「冒険者証を見せろ」
「ほら」

 オレは彼らの要求どおり、作りたての冒険者証を投げ渡してやる。

「Fランク冒険者だと?!」
「ちっ、ニセモノの冒険者証か!」

 要求通りにしたのに、余計に警戒心を煽ってしまったらしい。

 ――おや?

 次の部屋にいる重騎士の光点が消えた。
 彼らのいる大部屋にはデミオーガ・ロード1匹とデミオーガ・ガード2匹がいただけだったのに、いつの間にかデミオーガ・エクスキューショナーという援軍が30匹も増えていた。

 恐らく「迷宮の主ダンジョンマスター」である魔王の仕業だと思うが、殺る気がありすぎるだろう。

「悪いが遊んでいる暇がなくなった」

 オレは奴隷達にそう告げながら、対人制圧用の「音圧サウンド・プレッシャー」で彼らを無力化する。

 縮地で瞬時に次の部屋の前に移動し、ロックされた扉を強引に蹴り破る。
 少々手荒になってしまったが、解錠魔法は動作が遅いので仕方ないのだ。





「ザーナ、ジェフは後衛を守りつつ、撤退!」
「わかった!」
「ブルーメ婆さんも早く!」
「誰が婆さんだ!」

 真っ黒な斧を持った体長3メートルほどのデミオーガ達に囲まれながらも、彼らは奮闘していた。残念な事に光点がさらに一個減っている。

 ブルーメと呼ばれた魔法剣士の老婦人が、青い刀身の大剣でデミオーガの足の腱を狙って追撃を鈍らせている。
 一瞬聖剣かと思ったが、赤い光を漏らしていたので魔剣の一種なのだろう。

「トリンとシルジェはあたしと斧猿の相手だよ」
「マジかよ」
「貧乏くじだぜ」
「一匹倒すたびに金貨を一袋付けてやるから、気合を入れな!」

 さて、決死の気合を入れた彼らには悪いが、ここはサクサクと行こう。

 マップでデミオーガ達の位置をマーキング。
 中級の土魔法「鉄旬アイアン・トス」を発動する。
 デミオーガ達の足元から電柱サイズの鉄円錐が突き上がり、次々と串刺しにしていく。

 野太いデミオーガ達の悲鳴が広間に響くが、特に言語系のスキルが手に入る様子はない。

「な、魔法?!」

 デミオーガの悲鳴と背後に舞い上がった土煙、そして土埃の向こうに見える鉄円錐を見たブルーメ女史が驚きの声を上げて振り返る。
 それでも、誰一人足を止めずにこちらに走ってくるあたり、色々と修羅場を潜ってきたのだろう。

 やがて悲鳴が消え、土煙の向こうに串刺しの死骸が見える。

 ……グロい。
 あまり見ていたくない光景だったので、「理力の手マジック・ハンド」を伸ばして死骸を鉄円錐ごとストレージに回収する。

 彼らが倒したデミオーガ・ガードと彼らが倒すはずだったデミオーガ・ロードの死骸はそのままにしておいた。

「あんたが、倒したのか?」
「そうだ。余計な御節介だったかもしれないが、少々用事があったものでね」
「いや、助かったよ」

 男のような口調だが、ブルーメ・ジュレバーグ女史は中々の美人さんだ。
 88歳と高齢なので、できれば60年くらい前に出会いたかった。

 マップの詳細情報によると、彼女はシガ八剣筆頭のゼフ・ジュレバーグ氏の母親らしい。

「あんた神の使徒かサガ帝国の新しい勇者かい?」
「違う。我も問いたいのだが、貴殿は勇者ハヤトの従者ではないのか?」
「あん? あたしがハヤトの小僧の従者だって? 冗談も休み休み言いな」

 どうやら予想は外れたらしい。

「あたしは先代勇者の従者さ」

 先代という事は66年前に魔王と戦った人らしい。
 90前で現役というのも凄い。

「ほう、魔王退治の英雄の一人か――他の方も現役なのか?」
「まさか。今も生きているのは聖女リリーやエルフのセーアくらいだね。リリーは神の聖域から出られないほど老いたし、セーアは元気だったけど、今は引退して事務で食ってるはずさ。あの子は元々戦いが嫌いだったからね」

 セーアって迷宮都市のセベルケーア嬢かな?
 テニオン神殿の巫女長も先代勇者の従者だって言っていたから、聖女リリーっていうのは巫女長の事に違いない。彼女の「ユ・テニオン」っていう名前は巫女長の役職に就任したときに付いたものだろう。

 そんな考察をしていると、彼女の仲間の一人が遠慮がちに声を掛けてきた。

「ブルーメ婆さん、キールとゴッツはダメだった」
「そうかい……二人とも良い大盾使いだったんだけどねぇ」

 死亡した仲間の確認に行っていた斥候の青年が険しい顔で報告する。

「盾役がいないんじゃ、『迷宮の主ダンジョン・マスター』に挑むのは無理だ」
「そうだな、ブルーメ婆さんがいくら強くても――」

 槍術士の二人が弱気な発言をしているが、万全の態勢でも「迷宮の主ダンジョン・マスター」に挑むにはレベルが足りていないと思う。

 それ以前に、相手はただの「迷宮の主ダンジョン・マスター」じゃなくて魔王だけどさ。

「ザーナ、『帰還転移リターン』の巻物を使って皆を連れて戻れ」

 黙考していたブルーメ女史が騎士の一人に指示を出す。
 彼女達は迷宮脱出用の手段を用意していたらしい。

「ブルーメ婆さんはどうするんだ?」
「あたしは、この白髪の兄さんと一緒に『迷宮の主ダンジョン・マスター』の面を拝んで来るよ」
「無茶だ、ブルーメ婆さん。その人がいくら凄い魔法使いでも二人じゃ勝てないぜ」

 なんだか、オレの意向を無視して話が進んでいる。

「待て、貴殿を連れて行く気はない」
「あたしは役に立つよ? 剣はシガ八剣並み、雷魔法はセーリュー伯爵んトコの雷爺にだって引けは取らない。おまけに神聖魔法だって中級まで使えるんだ」

 レベル50台でそんなにスキルを取れるんだろうか?

 ……祝福のオーブを色々使うかギフトがあれば可能かもしれない。

「それは凄いが、足手まといだ」
「実力を見せろって事かい?」

 やけに食いついてくる人だ。

「どうしてそこまで『迷宮の主ダンジョン・マスター』に会いたがる?」
「この迷宮の主が魔王かどうか見極める為さ――」
「見極めてどうする?」
「決まっているじゃないか。その情報を今代の勇者に届けるのさ」

 なるほど、死に場所を求めて一人で魔王に特攻する人ではないようだ。
 レベル的には接戦できそうだが、魔王は非常識なくらいズルイチートな技を使ってくるので十分な安全マージンがある者にしか戦わせたくない。
 だけど、対戦寸前の場所まで辿り着いたんだし、魔王を見物するくらいの資格はあるだろう。

「良かろう。貴殿だけなら連れて行ってやる」
「感謝するよ。あたしはブルーメ・ジュレバーグ。地上に戻ったら、たっぷりお礼をするよ」

 話が纏まった後、荷物の大部分を置き去りにして彼女の仲間達は次々と転移して行った。
 巻物の性能の問題で、転移先は地上では無く29階層の安全地帯との事だった。





「さて、行こう――何をしているんだい?」
「ちょっとした探査用の案山子だよ」

 広間から出て一つ手前の荷物置き場から戻ってきたブルーメ女史が、オレの前の甲冑を見て首を傾げる。
 この甲冑は青銅のゴーレムを作ったときの予備だ。

 これに「従僕人形創造クリエート・ゴーレム」の魔法を掛けてゴーレム化する。
 さらに、予備の変装マスクを付けて鋳造聖剣を持たせて完成だ。

 これを「物質転送テレポート・エニー・オブジェクト」の空間魔法で魔王のいるダンジョンマスター・ルームへ送りつけて、魔王のユニークスキルを推し量ろうと思う。
 レベル50の魔王相手に慎重すぎるかもしれないが、魔王の持つ「乾坤一擲」というユニークスキルの名前が不吉なので、万が一を考えたのだ。

「■■■■■■■ …… ■■ 物質転送テレポート・エニー・オブジェクト

 オレの長い詠唱が終わると、調査用ゴーレムが部屋から消える。
 続けて「遠見クレアボヤンス」と「遠耳(クレアヒアリス)」を無詠唱で使って、調査用ゴーレムと視覚と聴覚を共有する。

 そこで見たものは――。





「――うわぁあああああ。く、来るな! 勇者め! 俺は俺はぁ――AAAAAAAAAH!」

 狂ったような魔王の声が魔法越しに聞こえてくる。
 紫色の体毛をした二本角の和風の鬼が、青銅の案山子を恐れるように後ずさる姿が見えた。魔王の視線の先は鋳造聖剣に固定されている。

 魔王の体を紫色の光が包む――。

 続いて閃光が遠見の視界を覆い、つんざくような爆音が遠耳経由で聞こえてきた。

「な、なんだい? この音と振動は――どうやら魔王がいたみたいだね」

 ブルーメ女史が不敵な笑みを浮かべて支援魔法を自分とオレにかけ始める。

 だが、それはムダに終わりそうだ。
 オレはログに表示された文章に目を通す。

>称号「魔王殺し『大鬼王』」を得た。

 どうやら魔王は自爆したらしい。
 遠見の視界に紫色の光が見えたので、オレは慌てて無詠唱の「転移」でダンジョンマスター・ルームへ飛び込む。

『ちょーはんばくちをみすりやがってぇ。ばくとなりゃらかちとれひょにゃ』

 ボヤキながら天井に向かって浮かび上がる「神の欠片」を神剣で切り捨てる。
 紫色の光が神剣に吸収されるのを確認してから、剣をストレージへと収納した。

 この部屋にいた中級魔族も魔王の自爆で倒されたようで、部屋の隅に割れた赤黒い魔核が転がっていた。

 部屋の隅には二つの巨大な球体が転がっている。
 AR表示では「壊れた偽核(フェイク・コア)」と「壊れた呪怨核ドゥーム・コア」と表示されている。
 偽核(フェイク・コア)からは爆発しそうな火花が、呪怨核ドゥーム・コアからは呪われそうな黒い靄がこぼれ始めていたので、素早くストレージへと収納する。

 たしかアリサ情報だと、「迷宮の主ダンジョン・マスター」の部屋には「迷宮核ダンジョン・コア」があるという話だったが、ここにはないようだ。

 呪怨核ドゥーム・コアをストレージに収納したタイミングで、隣の部屋に赤い光点が灯った。
 マップ情報によると「骸の王キングマミー」と複数の「骸の従者マミー」達だ。
 骸の王キングマミーと言っても、セリビーラの迷宮下層に住んでいるムクロとは無関係のようだ。

 ……アリサの一族達か。

 オレは隣室へと足を踏み入れる。

 UOWOOONUWOOOORWEYEEEEE!

 ミイラ達が怨嗟の声を上げながら、ゆったりと近付いてくる。

 残念ながら、ムクロと同じ骸の王キングマミーでも、会話は不可能のようだ。
 火魔法の「火炎嵐」で火葬する事も考えたが、セーラに頼んで浄化魔法を使って成仏させてやろうと思う。

 ブルーメ女史に結果を報告し、通常経路で魔王のいたダンジョンマスター・ルームに連れて行ったら、あっさりと信じてくれた。
 無詠唱で魔法を使う事に驚いていたが、オレを転生者だと勘違いして一人で納得していた。

 目的を果たした彼女を仲間達の所に送ってやり、オレも残務を処理しに向かう。

 なお、「迷宮の主ダンジョン・マスター」だった魔王を排除した事で、この迷宮がオレの支配領域になったらしく、「ユニット配置」で移動できるようになった。
 これ幸いと迷宮に残っていた下級魔族を排除し、彼らの部屋にあった「悪魔語」文字の資料を確保しておく。

 オレはユニット配置で、セーラ達を迎えにセリビーラの迷宮に移動する。



「サトゥーさん!」

 オレに気が付いたセーラがお淑やかに歩み寄ってくる。
 王女とカリナ嬢はレベルアップ酔いで簡易椅子に座り込んでおり、それをゼナさんが介抱している。

「ご主人様、この部屋のノルマは完了いたしました」
「マスター、魔力循環による補給を希望します」

 ゴキブリ穴を魔刃砲で焼いていたリザとショットガン型加速砲で撃ち漏らしを潰していたナナが、作業を終えてやってきた。

「お疲れ様。お昼にしましょう」

 オレは皆にそう告げて、全員を連れて孤島宮殿に戻る。
 常設の転移門は解除しておく。

 午前中の詳細は誰にも伝えず、オレ達は楽しい昼食タイムを過した。

「アリサとルル、それからセーラさん、ちょっとお時間をください」
「ご主人様が用なんて珍しいわね」

 不思議そうなアリサの前に、冒険者証を見せてやる。

「こ、これは冒険者の証! わたしも欲しい! ねね、どこの――」

 冒険者証の裏に押された「ヨウォーク王国迷宮局冒険者ギルド」という焼印を見て表情を凍らせる。

「行ったんだ。あの迷宮に……」
「ああ、その事で話があるんだ――」

 オレはミイラの話を伝える。

「それでセーラさんには浄化をお願いしたいんです」
「はい、お任せください」

 場の雰囲気を察したセーラが、わざと明るい口調で請け負ってくれる。

「アリサとルルはどうする? 看取りたいなら連れて行くけど、辛いなら全てが終わってから、お墓参りだけでも良いよ」
「ううん、行くわ。死者を弔うのは生者の役目だもん」
「私も行きます。王様とは数回しか話した事がありませんけど、アリサと私の父親ですから」

 涙を腕で拭ったアリサがはっきりと同行を希望する。
 そんなアリサを慰めていたルルがアリサを支えながら頷く。

「じゃ、行こうか」

 オレは三人を連れて迷宮の地下へとユニット配置で移動する。

「ねぇ、セーラ様。『鎮魂レクイエム』の呪文を一回唱えてみてくれない?」
「どうしてかしら? 『鎮魂レクイエム』は沢山の魔力を篭めないといけないから、一度使うと明日まで使えませんよ?」

 アリサの唐突なお願いにセーラが眉を曇らせる。

「私からもお願いします」
「サトゥーさんのお願いじゃ断われませんね」

 なんとなく、アリサのやりたい事が判ったので、オレも口添えする。
 もしアリサの意図通りにならなかったとしても、オレが魔力供給してから改めてセーラに頼めばいい。

 セーラの鎮魂歌のような長い詠唱が終わる。

「――うん、覚えた」

 アリサが小さく呟く。

「じゃ、行こうか」

 オレはアリサの肩を抱いてミイラ達の待つ部屋へと向かう。

「久しぶり、父さん。――なんて呼んだ事なかったけどね。でも最後は陛下じゃなくて、父さんって呼びたかったの。お兄ちゃん達も遅くなってごめんね」

 オレが上級の術理魔法「理力の腕マジック・アーム」でミイラ達を押さえ込む。
 たまに魔法を使おうとする個体に魔力強奪をかけたり、完成しかけた攻撃魔法を魔法破壊で妨害する。

「今日は、いいよね?」
「ああ」

 別れの挨拶を終えたアリサが、オレを見上げて確認を取る。
 オレが首肯すると「ありがと」と、アリサが小さく呟いた。

 アリサの身体の表面を紫色の光の波紋が2回駆け抜けた。

 ユニークスキルの「不倒不屈(ネバー・ギブアップ)」と「全力全開(オーバー・ブースト)」を使ったのだろう。

 オレも「魔力増強マジック・ブースト」や「魔法命中増強マジック・クォリティー・アップ」などの支援魔法を魔法欄から選択して、アリサを影ながら手伝う。

「…… ■■ 鎮魂レクイエム

 やがて、アリサの長い長い詠唱が終わると部屋に青い光が満ちる。
 ミイラ達の動きが止まり、黄金色の砂に変わって崩れていく。

 心なしか死骸の顔が笑顔に見える。

「――アリサ」
「ああ、父さん、母さん……お兄ちゃん達も……」

 崩れていく金色の砂に重なって、アリサに似た王と王妃の姿が見える。
 優しそうな王子や生意気そうな王子がアリサに手を振って消えていく。

 言葉こそ聞こえないが、アリサが彼らに愛されていた事がよく判る。
 王が透けた手でアリサの頭を撫で、その手をルルに伸ばす。

「――陛下?」

 ルルの言葉に少し寂しそうな顔をした王の霊が、ルルの頭を優しい仕草で撫でた。

「ルル、お父さんって言ってあげなさい」
「は、はい。お父さん……。何か変な感じです。お父さん、アリサも私も幸せに生きていますから――」
「そうよ! 最愛の人と一緒に毎日ラブラブしてるから、安心して天国で待ってて!」

 ルルの言葉に合わせて、アリサが滂沱のような涙を拭いもせずに空元気を振り絞って笑顔で両親に告げる。
 二人は安心したように身体を透けさせていく。
 消える寸前に、王がオレの肩をポンと叩く仕草をした。

 現在の保護者として、王に頷き返してやると、王と王妃が満ち足りた表情で消えていった。

「成仏したかな?」
「うん、きっと安心して昇天したと思う。向こうではお母さんも待っているから、きっと大丈夫よ」

 アリサの言葉にルルが頷く。
 そういえばルルの母親のリリも、城が落とされた日にアリサやルルを庇って亡くなったって言ってたっけ。





 アリサが寄りたいと言い出したので、隠れ家経由でルルの母親の眠る共同墓地に「ユニット配置」で目視転移した。
 ルルの母親の眠る共同墓地で祈りと花束を捧げた後、アリサのリクエストでクボォーク城の尖塔の窓が見える廃墟の一角に移動する。
 なんでも、あの尖塔はアリサが幽閉されていた頃に暮らしていた場所らしい。

「じゃ、ちょっち塔に行って来るから、街を散歩してて。終わったら『遠話テレフォン』の魔法で連絡するから」
「オレが運んでやろうか?」
「ダメよ。塔の中は乙女の秘密が一杯だもん」

 アリサが空元気でいっぱいの笑顔のまま姿を消す。
 目視の転移で尖塔の窓に移動したのだろう。

 ダウナー状態のアリサが塔に何を残したのか気になるが、オレに見せたくないようなのでアリサの好きにさせた。

「さて、それじゃアリサの用事が終わるまで城下町を散歩しようか?」
「はい、ご案内します」

 オレの手を引いて歩き出すルルに付いていく。
 反対側の手をすかさず握ったセーラが、小声でオレに尋ねてきた。

「サトゥーさん、飛空艇に乗っているはずの私達が人前に出て大丈夫でしょうか?」
「大丈夫ですよ」

 オレは気軽にそう答えて認識阻害のベールを、セーラとルルに手渡す。
 自分にはサトゥーの姿で認識阻害バンダナを巻く。クロの姿のオレと一緒に行動する事をセーラが嫌がったのだ。

「ご主人様、これが葉蕎麦焼きです」
「ガレットみたいだね」

 漬物をみじん切りにしてそば粉に混ぜて焼いたような感じの料理だ。
 あまり美味しいとも思えないが、ルルが懐かしそうに食べているので細かい事は良いだろう。

 セーラの口に合わなかったらしく、微妙そうな顔をしていたので彼女の食べ残しは欲しそうな顔をして指を咥えていた幼女に与えた。

 よく見ると薄汚れた子供が多い。
 そういえば敗戦国の首都があった場所だったっけ。

 オレはルルに案内してもらって、近くの教会へと向かう。

「だから! お布施は後で払うって言ったべさ!」
「ダメです。冒険者は踏み倒す人ばかりだから、先払いした方にしか癒しは施しません」

 教会の入り口で女神官ともめているのは、迷宮までオレを追いかけてきた美人局の少女だった。
 一緒にいた少年は出血多量で揉める気力もないらしく、彼女の足元でぐったりとしている。

 AR表示で見たところ、生き死にに関わるような状態でもなさそうだ。

「……クク、ジド、バド」

 オレの横でルルがポツリと呟く。
 知り合いかと思って少女の詳細情報を見て驚いた。彼女達はルルの従兄妹らしい。

 ルルがベールの下で青い顔をしていたので、良い関係ではなかったのだろうと判断し、彼らの横を通り抜けて寄付の受付に向かう。

「まぁ、こんなに寄付をしていただけるなんて!」

 頬がこけた女神官がオレの手を両手で握って嬉し涙を流す。
 金貨数枚でそんなに喜ばれると恐縮してしまう。他の神殿や孤児院にも寄付をする予定なので、一箇所の金額が少ないのだ。

「敬虔な皆様に神の祝福を! ■■■ 祝福(ブレス)

 女神官が涙を流したまま、オレとルルに祝福を掛けてくれる。
 セーラだけは信仰上の理由で辞去していた。

>「神聖魔法:ガルレオン教」スキルを得た。

 祝福をくれた女神官のお陰で新しいスキルが手に入ってしまった。
 使う予定もないので、ポイント割り振りは今度にしておこう。

「ちょっと! そこの金持ち! あたし達にも恵んでよ!」

 神殿を出る時に、入り口の女神官と揉めていたククという少女がルルの肩を掴んで引き寄せる。その時に指が引っかかったのか、ルルのベールが解けた。

「――あっ」
「え? ルル?」

 二人の視線が交錯する。
 だが、そこから会話につながることはなかった。

 ズダンと鈍い音を立ててククが地面に叩きつけられる。
 肩をつかまれたルルが、「護身」スキルのサポート通りにククを投げ飛ばしてしまったのだ。

 白目を剥く少女の手から、ルルのベールを回収し、ルルに付け直してやる。

「あ、あのっ! お怪我は? お怪我はございませんか?」
「ええ、彼女は武術にも長けていますから」

 寄付受付の女神官が神殿から飛び出してきて、オレたちに怪我の有無を尋ねる。
 足元で気絶したククや倒れたままの少年達には見向きもしない。

 オレは笑顔で暇乞いをして、寄付をしながら城下町観光を続けた。
 途中で城の方から轟音が聞こえたが、原因はなんとなく予想できたので気にせずに楽しむ。

『おまたせ~、こっちの掃除は終わったわよ』
「さっきの轟音はやっぱりアリサか?」
『えへへ~、黒歴史の掃除が大変だったから「空間消滅(ディスインテグレイト)」で尖塔ごと消しちゃった』
「怪我人はいないだろうな?」
『もっちのロンよ。アリサちゃんにぬかりはないわ』

 アリサから報告を受けた後、四人で観光を続けてから孤島宮殿に帰還した。

「やっぱ、うちが一番だわ」
「もう、アリサったら。ここに泊まったのなんて一回だけじゃない」

 アリサのお約束のセリフにルルが突っ込みを返す。
 いつもの二人のようだが、なんとなく無理をしている雰囲気があったので、この日の晩は二人に胸を貸して眠った。

「アリサ――」
「ぐうぐう」

 オレはシャツの裾から潜り込んできたアリサの頭を掴む。

「――セクハラをするなら、もう一緒に寝ないぞ」
「ちゃうねん」

 どうやら、アリサはオレが思ったよりもタフなようだ。
 軽くアリサの頭をポカリと叩いた後、セクハラができないように強く抱きしめて眠る。

 夜中にアリサやルルが寝言を言いながら涙を流していた。
 オレは精神魔法の「安眠グンナイ」を掛けてから、二人の涙を指で拭ってやる。

 心配そうな顔をしていたタマとポチに「心配無用」と手信号を送る。
 二人はこくりと頷いてから「了解」と手信号を返した。

 ふとんの動きからして、他の子達も心配していたようだ。
 明日はパリオン神国の魔王調査があるし、オレもそろそろ睡眠をとろう。

 パリオン神国はトラブル無しで行きたいね。

※次回更新は 9/27(日) の予定です。

※2015/9/20 魔王自爆シーンを少し加筆しました。



【宣伝】
 電子版をお待ちだった方、お待たせしました!
 電子書籍版の「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」5巻が9/19よりリリースされています。

 来週末の更新時に、新装版のデスマの写真を活動報告にアップしたいと思います。既刊とならんでいても違和感のない装丁に仕上がっていました。


●登場人物など
※「3-5.異世界の日本人」や「幕間:ルル」を読み返すと、物語の背景が良くわかります。

【ヨウォーク王国】
  アリサの故郷クボォーク王国を侵略した国。
  クボォーク城の地下にあった迷宮の遺跡を、クボォーク王族を生贄にして復活させた。

【シン】
  魔王珠によって魔王になった元魔王で勇者な少年。詳しくは13章をご覧ください。

【クク】
  ルルの母方の従姉妹。ルルを苛めていた。平民。

【ジド】
【バド】
  ルルの母方の従兄弟。ルルを苛めていた。平民。

【リリ】
  死んだルルの母親。

【ゼフ・ジュレバーグ】
 シガ八剣、第1位、レベル54、70歳越え。二つ名は『不倒』。リザに負けた。

【リリー】
 テニオン神殿のユ・テニオン巫女長の昔の名前らしい。

【セーア】
 迷宮都市セリビーラでギルド長の補佐官をしているセベルケーアの愛称らしい。

【ムクロ】
 元日本人の転生者。セリビーラ地下の迷宮下層に居を構える軍オタのミイラ男。かつて核兵器を使って神を脅迫した過去がある。

偽核(フェイク・コア)
 迷宮核を模した魔法装置。迷宮都市の蔦の館にも同じものがある。

呪怨核ドゥーム・コア
 初出。呪われているらしい。
+注意+
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