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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
423/540

14-2.迷宮都市にて

※2015/8/31 誤字修正しました。
※2015/9/6 一部修正しました。
 サトゥーです。妙にリアルな動物の食玩がコンビニに並んだとき、シークレットを求めて大人買いした記憶があります。昨今のソシャゲのガチャに通じるものがありますね。





「システィーナ殿下の行啓を賜りまして、臣と致しましても感激の極みでございます」

 太守館を訪問したオレ達を、アシネン侯爵のそんな言葉が出迎えてくれた。
 侯爵夫妻だけでなく、迷宮都市の爵位持ち貴族達が、玄関先に勢ぞろいしていた。
 いつもはメイドや執事が出迎えてくれるのだが、さすがに王女、それも次期国王の同腹妹の来訪だと扱いが違うようだ。

 システィーナ王女が王族らしい挨拶で返したあと、オレ達も挨拶を交わし、いつものサロンへと案内された。
 いつもは広すぎるサロンだが、今日は来客数が多いので少々手狭に見える。
 お土産のお菓子を多めに持って来て良かった。

「ペンドラゴン卿、子爵陞爵しょうしゃくと観光省副大臣就任を祝して記念の品を贈りたい。これはワシだけでなく迷宮都市の17家の貴族達からの合同である」

 アシネン侯爵の手渡してくれたのは丁寧な細工がされた白木の小箱だ。
 彼に続いて貴族達からも祝いの言葉を貰う。

「開けても宜しいでしょうか?」
「うむ」

 シガ王国ではこういう場で受け取った品は、すぐに開けるのが礼儀なのだが、日本人的な気質でつい確認してしまった。

 ――げっ、マジですか?

 オレは無表情スキルを凌駕する驚きを浮かべ、その小箱の中の品を凝視する。

「そこまで驚いてくれると、手を尽くして取り寄せた甲斐があるという物だ」
「……あ、ありがとうございます」

 オレは小箱から「詠唱・・の宝珠」を取り上げて、侯爵達に笑顔を向ける。
 宝珠の横にAR表示される詳細情報によると、サガ帝国にある「血吸い迷宮」産のようだ。

 その横には「光魔法の宝珠」もあった。
 きっと詠唱の宝珠はおまけだったのだろう。
 結構レア物のはずなんだが、不要な時に限ってドロップが偏るのはゲームでも異世界でも同じようだ。

 オレが珍しく物欲を見せていたので、サプライズプレゼントにしようと方々の商人に探させてくれていたそうだ。
 実にありがたい話だ。「オレのあの苦労は一体」と思わないわけではないが、オレの為に苦労して入手してくれた事を愚痴ってはバチが当たるというものだ。

 貰ってばかりでは悪いので、侯爵家の執事に合図して、先に預けておいたお土産を運び入れて貰う。

「これはあの時に見たティアラとエメラルドですわね! 覚えていてくれたのですね」
「ええ、侯爵夫人に相応しい品でしたから」

 侯爵夫人には王都の人脈構築でお世話になったので、彼女が欲しがっていた「ティアラ」と「卵大のエメラルド」を入手しておいたのだ。
 王都の貴族達から現金を吸い上げていたので、予算内で買うことができた。

「まあ! なんて素敵なガラス細工なのかしら」
「サトゥー様、こちらの細工は公都の工房で作られた物なのかしら?」
「ご覧になって! こちらの小さな細工はまるで生きているようですわ」

 それに加え、ガラス製の等身大王祖像と使用人達用の食玩サイズの動物のガラス像なんかも、色々とプレゼントしておいた。
 前者が受けるのは予想通りだったが、後者も予想以上に侯爵夫人や貴族の奥方達に受けたようだ。

 これらは土魔法の「泥細工マッド・アート」と「硝子化サンド・トゥ・グラス」から作ったオリジナル呪文「硝子細工グラス・アート」で簡単に作れる。
 元々はカキ氷用の器が欲しくて作った魔法だったのだが、色々と活用できそうだ。

「侯爵閣下、執事殿に新作をお預けしておりますので、ご笑納くださいますれば幸甚でございます」
「……し、新作というと公都の芸術品か?」
「御意」

 夫人だけに贈り物をするのも不和の元なので、アシネン侯爵の分も忘れていない。
 彼のは自作ではなく、公都にユニット配置で移動して入手した「青年・・の裸像」だ。侯爵には「公都の友人が新作を入手してくれた」と言ってある。

 他の貴族家当主達にはエチゴヤ商会製の「元気薬」「艶肌薬」「育毛剤」のセットをお土産に渡しておいた。品薄で迷宮都市まではなかなか届かないらしく、大げさなくらい喜ばれた。

 そんなお土産物ターンが終わると、いつもの歓談タイムになった。
 いつもとは違い、王都の現況や桜餅魔族事件のあらまし、それに勇者ナナシと黄金騎士団の話を求められた。
 事件から半月以上経過しているから、迷宮都市にも詳細は伝わっていたはずだが、王都にいた者の生の話を聞きたかったのだろう。

「――では王都は順調に復興しているのですね」
「はい、勇者ナナシ様のご活躍の賜物です」

 侯爵夫人の言葉に王女が澄まし笑顔で答える。
 勇者ナナシと言う時に、オレをチラリと見るのは止めてください。

 そんなマジメな話が終わると、今度は色恋話へと話題が移る。

「殿下とサトゥー殿の馴れ初めが聞きたいですわ」
「出会いは偶然だったのです――」

 侯爵夫人の取り巻きの伯爵夫人が殿下に話題を振る。
 アリサ達を介したオレとの出会いや、魔物に襲われたところを助けた時の話を英雄譚のような語り口調で話して聞かせていた。
 もちろん、翡翠の件やオレが行った非常識な行為については、如才なくカットしてくれている。

「私は『神託の巫女』セーラ様との馴れ初めがお聞きしたいわ。副大臣の随員という事でしたけど、実際は第二夫人候補ですのよね?」

 子爵夫人が真意を測るような口調でセーラに問いかける。

「ええ、そう取って頂いて結構ですわ。お爺様やお父様の許可は頂いていますから――」

 そこまで話したセーラが視線をこちらに向けて微笑む。

 ……そんな話は初耳ですが?

「セーラ様、そういったお話は正式に決まってからが宜しいと存じます」
「ええ、そうですわね」

 変な噂の種になっても困るので、セーラを諭す。
 彼女は素直に首肯して、不確かな話を終了してくれた。

 セーラが座り直すたびに、位置が近くなっているのは気のせいだろうか……。
 そこはかとなく外堀を埋められている気がする。

 それにしても、カリナ嬢を屋敷においてきて良かった。
 彼女がいたら、もっと面倒な話になっていた予感がするよ。





 お茶会を終えた俺たちは、迷宮方面軍の駐屯地に向かった。

「「「若様! おかえりなさい!」」」

 途中に通り過ぎた探索者向けの露店通りや探索者ギルド前を通る時に、見知らぬ街の人や探索者たちから、そんな挨拶が飛んできた。

 取りあえず、窓から手を振り返しておく。

「すごい人気ですのね」

 あまりの人気に王女が軽い驚きの声を上げた。

「たぶん、『階層の主』討伐パレードで顔を覚えて貰ったんだと思います」
「サトゥーさん、謙遜しなくても。サトゥーさんの偉業は王都でも有名でしたよ」
「大げさですよ」

 セーラの言葉に苦笑を返し、馬車の外からの幼い声援に振り返る。

「ししゃくさまー」
「わかさまー」
「サトゥーお兄ちゃーん」

 馬車の後ろにある窓に目をやると、追いかけて走る幼女や幼児の姿もあった。

 ――孤児院の子達かな?

 躓いて転びかけた幼子を、こっそり「理力の手(マジック・ハンド)」で支えてやる。

 そんな事をしている内に人通りも少なくなり、馬車は目的地へと到着した。





 迷宮方面軍の駐屯地に到着したオレ達はエルタール将軍への挨拶と、駐屯地の兵士達への慰問を行った。
 将軍や兵士達へのお土産は王都の銘酒や桜鮭の燻製を贈ったくらいで特筆する点はない。

 せいぜい、こんな会話があったくらいだ。

「貴公はシガ八剣に推挙されたはずだが、なぜ断わったのだ?」
「私には荷が重過ぎます。シガ八剣には個人の強さが求められますから」

 エルタール将軍が顎鬚を撫でながら、オレの答えに頷く。
 迷宮都市では探索者というよりも、探索者学校や孤児院の設立といった経営者としてや侯爵夫人の派閥に入り込んだ手際から政治家としての側面で評価されていたみたいだからね。

「それで卿は観光省の仕事で諸国を回るとして、家臣達はどうするのかね?」
「リザ達には引き続き、迷宮探索を行わせる予定です」
「そうか――」

 もしかして、リザ達を迷宮方面軍に引き抜きたいのかな?
 そう思ったのだが、エルタール将軍の言葉の続きは意外な内容だった。

「――迷宮都市で私設騎士団を設立するなら、相談に乗ろう」

 私設騎士団なんて作りません。
 戦争に参加するわけでなし、騎士団なんていらないでしょ?

 むしろ騎士団なんて作ったら、それを口実に戦争に駆り出されそうだしね。

 そうは思ったが、厚意で言ってくれている様子だったので、日本人らしい空気を読んだ答えを返しておく。

「今のところは考えておりませんが、その折にはご相談に乗っていただければ幸甚です」
「うむ、気軽に参ると良い」

 オレの返答に満足したようにエルタール将軍が頷いた。
 もし本当に相談に来る事があったら、その時は手土産に竜泉酒を瓶ではなく樽で持ってこよう。





「「「若様! ゴチになってます!」」」

 ギルド長に挨拶に西ギルドへと寄ったところ、酔っ払った職員や探索者達からの異口同音の言葉に出迎えられた。
 ギルド長や職員達に届けさせておいた王都土産の酒樽を早速開けて、酒宴を始めていたらしい。
 日も高いうちから、ドワーフ顔負けな連中だ……。

「おう! サトゥー、こりゃまた美味い酒だな! 早く来ないとなくなるぞ!」

 酒宴の輪の中央からギルド長が笑顔で叫ぶ。
 オレ一人なら参加したが、王女やセーラが一緒だと流石にまずいだろう。

「サトゥー様、ご相伴に与かりましょう」
「え? で、殿下?」

 王女は酒好きだったのか、オレの手を引いてギルド長の座る方に向かって歩き出した。

「おや? さっそく尻に敷かれているのかい? 初めましてかな、王女殿下?」
「いえ、王城の夜会で炎魔術の講義をしていただいた事がございます」
「ああ! あのちっこい王女様か! 変わりもんの王女様だと思っていたけど、男を見る目はあるじゃないか!」
「はい!」

 ギルド長と王女は知り合いだったらしい。

 ギルド長に注いで貰った酒盃を、王女が傾ける。なかなか良い飲みっぷりだ。
 酒を嚥下する喉の動きが艶かしい。

 そんな王女の仕草に目を奪われていたところ、俺の横に腰を下ろしていたセーラに膝を抓られてしまった。
 セーラが職員Aから渡された酒盃を、つんとした表情で飲み干す。

「サトゥーさん! サトゥーさんは――」

 酒を飲み干したセーラが勢いよくそこまで喋った後、急に電池が切れたように勢いを失ってオレの肩にしなだれかかった。
 どうやら、神殿育ちのセーラはアルコールに弱いようだ。

 一方で、王女はギルド長と互角の勢いで飲んでいる。

「なかなか、良い飲みっぷりだね」
「夜会で途中退席の言い訳に沢山飲んでいたら、いつのまにか強くなったんです」

 なるほど、王女らしい。

「サトゥーも底なしだから、あんたらはいい夫婦になるよ」
「ありがとうございます」

 ギルド長の「あんた」呼ばわりも気にせずに、王女が酒で上気した頬をさらに赤く染めて礼を告げる。
 その様子に男連中から「りあじゅー爆発しろ!」と怨嗟の声があがった。
 リア充なんて単語を広めたのは、きっとアリサだろう。

 オレは酒宴の間に、ギルド長の横に座るエルフのセベルケーア女史やギルドの事務長と仕事の話をまとめておく。
 内容はセーリュー伯爵から頼まれた、ギルド運営ノウハウの件だ。

「対価は?」

 エルフらしい短さでセベルケーア女史が問う。

「こちらをご覧ください」
「ほう? 竜白石の安定供給にワイバーン素材の優先商業権か……」

 オレはセーリュー伯爵領の文官から預かった書類を渡す。
 セベルケーア女史の少女のようなかんばせが、歳相応の老練な陰を見せる。

 万能解毒薬の素材となる竜白石や、防御力が高くて軽いワイバーン素材は上級の探索者達が金に糸目を付けずに欲する品だ。
 特に万能解毒薬は敵の多い貴族が常備するので、継続的な需要がある。

 最初は体力回復薬に必要な薬草もラインナップに入っていたが、ベリアの魔法薬が現地生産できるようになって需要が下がったので削除しておいた。

「セーリュー伯爵は優秀な助言者を得たようだな」
「伯爵領には恩人や知人がおりますので」

 揶揄するセベルケーア女史の視線を柳に風と受け流す。

「よかろう。後でギルド長にサインさせておく」

 最終的に彼女の快諾を得る事ができた。

「幹部用の研修を受けさせるのは、探索者育成校から派遣されている者達で良いのか?」
「はい、明日にでも彼らを連れてご挨拶に伺います」
「判った。それはそうとサトゥー」

 仕事の話が終わって宴会モードに移ったセベルケーア女史が堅い表情を崩して、オレに話しかけてきた。

「我が氏族のハイエルフ様方が貴公の事をしきりに問い合わせてくるのだが、心当たりはないか?」
「いえ、見当もつきません」

 用があるならアーゼさん経由で呼び出すだろうし、宇宙怪獣の一件で危なかったエルフの森はセベルケーア女史とは違う氏族だし、本当に見当が付かない。

「念の為問うが、サトゥーは人族だな?」
「はい、勿論そうです」

 よく判らない質問に即答しながら、オレは内心で首を傾げた。

 最近自信がなくなる事件が多かったが、ステータス画面の種族は人族になっている。
 オレの答えにセベルケーア女史が満足したように頷いて、手にしていた妖精ワインを傾けていた。

 今夜は太守の館で晩餐会があるので、王女がダウンしない内に宴会から引き上げさせて貰った。
 オレにお姫様だっこされるセーラが羨ましかったのか、馬車で帰る短い間中、王女が甘えた仕草でオレの肩に頭をもたれて、幸せそうな吐息を漏らしていた。





 晩餐前に時間があったので、オレは迷宮都市のセーリュー伯爵領軍の滞在する館へと一人でお邪魔していた。
 伯爵から話が通っていたらしく、あっさりとオレの存在を受け入れてくれた。

「――幹部用の研修ですか?」
「はい、ギルド長にご快諾いただいてきました。もちろん、顧問のセベルケーア女史や事務長からも快い返事を頂いております」

 研修の話をした文官が目を見開いて驚く。
 中には「いったいどうやって」とか「太守夫人の人脈を使ったのか?」とか小声でやりとりしている者もいた。

 文官達は明日の朝一にセベルケーア女史に紹介する予定だ。

「そして実働部隊の方ですが、ミスリルの探索者パーティーの『蒼火斧』が教導してくださる事になっております」
「ミ、ミスリルですと?!」

 オレの言葉に実働部隊の長である騎士ヘンスが驚きのあまり椅子を蹴倒して立ち上がった。
 兵士達の間からも、ざわめきが巻き起こる。

 オレが名前を挙げた「蒼火斧」はジェリル達と一緒に階層の主を倒したパーティーの一つだ。
 王都にいる間に手を尽くして有力パーティー達と交渉したのだが、快諾してくれたのは蒼火斧だけだったのだ。

 なお、彼らへの報酬はエチゴヤ商会への紹介だ。
 前にソルトリック第一王子に貰った紹介状を使って、蒼火斧の主要メンバー達が希望する魔法の武器や杖を発注してやったのだ。

 オレがやったのは仲介と代金不足分の貸付けだけだ。
 人材が確保できた上に、新作武器の実験台――もとい、モニターが確保できたのでオレに損はない。

「はい、明日の午前中にでも顔見せを行いましょう」

 オレはそう告げて、未開の探索ルートの書かれたマップや探索計画書を騎士ヘンスの前に並べて、詳細な説明を行う。
 ベリアの回復薬が普及しているので、少々危険なコースを選んでも大丈夫なはずだ。
 強力な随員もいる事だしね。

「子爵様、こちらの計画書には魔法兵が一人不足しているようですが?」

 騎士ヘンスの横で書類を確認していたリーロという平民の兵士長が、計画書にゼナさんが含まれていない事を発見して問い掛けてきた。
 たしか、彼はゼナさんの直属の上司だったはずだ。

「彼女は秘書官及び護衛として、観光省に出向していただきます。これはセーリュー伯爵やマリエンテールさんからもご快諾頂いておりますのでご安心ください」

 オレがそう告げても、リーロ兵士長の顔は晴れない。

 そこにゼナさんを連れた旅装のゼナ分隊の面々が姿を現した。
 彼女達は馬の運搬があったので、先発して陸路で戻ってもらっていたのだが、丁度良いタイミングで迷宮都市へと帰還してくれたようだ。

「ゼナ分隊副長イオナ以下3名、ただいま迷宮都市に帰還いたしました!」

 イオナ女史が騎士ヘンスではなくリーロ兵士長に向かって帰還の報告をする。
 直属の上司だからかな?

 帰還を労ったリーロ兵士長が、軍服のゼナさんに先ほどの件を確認する。

「は、はい。間違いありません。伯爵様が許可する場に私もいました」
「そうか――」

 ゼナさんが間違いないと保証すると、ようやくリーロ兵士長も納得したようだ。
 そんな彼の後ろで姦しい声が上がった。

「ゼナさんだけで大丈夫かしら?」
「同行するのか?」
「やったじゃん、ゼナっち! これで妾の座は確実ね!」

 ゼナ分隊が各々にゼナさんに声をかける。

「すっごいじゃん、子爵様って言ったらベルトン様くらい偉いのよね?」

 リリオの言葉に、ガヤナと呼ばれる兵士娘が騒ぎ出す。

「玉の輿だね!」
「すっげー」
「今度何か奢ってね!」

 さらに他の女性兵士達もゼナさんをはやし立てた。

 一方で男性兵士達からは怨嗟とも諦めとも取れる鬱々ジメジメした空気が流れてくる。
 やっぱり、地味可愛いゼナさんの隠れファンは多かったようだ。





 晩餐会にはカリナ嬢も連れて四人でお邪魔し、太守の館の料理人の作る雅な料理に舌鼓を打った。
 小用で歓談の席を立った時に、侯爵夫人子飼いの情報屋がメイドの格好で接触してきた。

「王女様と婚約されたんですってね。妬けちゃうわ――」
「そんな事より、何か新情報でも入ったのか?」

 オレは情報屋のリップサービスを止めさせて、すぐに本題に入らせる。
 太守の館の中でメイドと濃厚なスキンシップを取っていたら、悪い噂が立つからね。

「二日ほど前にパリオン神国と隣接する三国が連合して、パリオン神国に攻め入った話はお聞き及びですか?」
「いや、初耳だ」

 相変わらず西方諸国の情報が早い。

「総勢、六万の大軍勢だった・・・そうです」

 ――過去形か。

「先ほど届いた速報によると、その大軍勢はパリオン神国の『神の軍勢』と呼ばれる一万人ほどの兵士達に蹂躙され、それぞれの国へ追い返されてしまったようです」

 まったく、「神の軍勢」なんて危険なワードを使うのは止めてくれ。
 本当に神の使徒達と敵対するフラグが立ちそうで怖い。

 ――だが、今は先に知りたい情報がある。

「ところで三国が連合を組んだ理由は知っているか?」
「荒唐無稽な話ですが――」

 オレの質問に情報屋が言い淀む。

 思わせぶりに逡巡したあと、彼女が口を開いた。

「パリオン神国のザーザリス法皇が魔王だと主張していたそうなのです」

 ……どうやら、オレの観光はなかなか始まらないようだ。

※次回更新は 9/6(日) の予定です。

※2015/8/30 侯爵夫人へのプレゼントやサトゥーが受け取った宝珠を追加しました。
※2015/9/6 侯爵へのプレゼントが彼の好みに合っていないと指摘を受けていたので像の種類を変更しました。

※2015/9/1 活動報告に「デスマ5巻なろう特典SS」をアップしました。

●登場人物

【アシネン侯爵】
 迷宮都市セリビーラの現太守。恐妻家で傲慢、ワイロが好き。ギャンブル狂。
 男色家でマッチョタイプが好き。

【侯爵夫人】
 レーテル。30代後半の肥満女性。宝飾品や菓子に目が無い。セリビーラの上級貴族を掌握する実力者。
 カステラや珍しい贈り物をしたサトゥーを贔屓にしている。

【エルタール】
 迷宮方面軍の将軍。名誉伯爵。前ビスタール公爵の弟。ニナ執政官やシーメン子爵の知り合い。
 名門貴族出身といった傲岸不遜を絵に描いたような鷲鼻の中年男性。酒豪。

【ギルド長】
 87歳。レベル52。炎魔法使いの稚気に富む老婆。ドハル老の知人。
 迷宮資源省の大臣も兼任している。酒豪。

【セベルケーア】
 エルフ。ギルド長のお目付け役。落ち着いた様子の見目麗しい可憐な少女。

【事務長】
 ギルド長が行うべき書類仕事を一身に背負う苦労人。

【蒼火斧】
 ミスリルの探索者パーティー。階層の主を倒したパーティーの一つ。
 リーダーの斧使いはレベル40以上の手練れ。

【セーリュー伯爵】
 シガ王国の最北にあるセーリュー伯爵領の領主。
 領都のセーリュー市にできた「悪魔の迷宮」を運営する為に人材を迷宮都市セリビーラに派遣している。

【ベルトン】
 セーリュー伯爵の家臣。炎魔法使い。「悪魔の迷宮」でサトゥーに助けられた。

【ソルトリック】
 シガ王国の第一王子。32歳。システィーナ王女やドリス王女の同腹の兄。
 力強い眉で実直な軍人のような印象の男性。サトゥーに好意的。

【ヘンス】
 セーリュー伯爵の騎士。迷宮選抜隊の現隊長。

【リーロ】
 セーリュー伯爵の兵士長。迷宮選抜隊の副隊長。

【イオナ】
 セーリュー伯爵の兵士。ゼナ分隊の大剣使い。美女。

【リリオ】
 セーリュー伯爵の兵士。ゼナ分隊の斥候。ゼナの親友で、自称美少女。

【ガヤナ】
 セーリュー伯爵の工兵。リリオと仲が良い。

【情報屋】
 侯爵夫人子飼いの有能な情報屋。コスプレ好き。
 サトゥーを誘惑するのが趣味。

【神の軍勢】
 今回初出。正体不明。

【ザーザリス】
 パリオン神国の法皇。神聖魔法の「祈願」が使えるらしい。
+注意+
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特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
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