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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
422/540

14-1.観光拠点

※2015/08/31 誤字修正しました。
※2015/08/23 一部修正しました。
 サトゥーです。専用機と聞くと特別な高性能機というイメージがありますが、実際はその人にカスタマイズされ過ぎた「他の人には使いにくい」機体だと思うのです。やっぱり量産機が一番ですよね。





「うっみぃだぁああああああああ!」
「うみ~?」
「海なのです!」

 水着のアリサを先頭に、同じく水着のタマとポチが砂浜を海へと駆けていく。

 その様子を、オレはビーチチェアで寛ぎながら眺める。

「ポチタマ・ブースターオン!」
「らじゃ~」
「あいあいさーなのです!」

 アリサを左右から抱え上げたタマとポチの二人が、遠浅の海面を走っていく。
 どうやら、リザが前にやっていた水面を歩く技を会得したらしい。

「うははははは」
「にゃはは~?」
「楽しいのです!」

 そんな元気な子供達を眺めながら、サイドテーブルに手を伸ばす。
 よく冷えたトロピカルドリンクのストローを咥え、軽く吸うと夏の味が口の中に広がる。

「ぽち、ばらんす~」
「あーっ、なのです」
「うっひゃあぁあああああ」

 海の向こうでポチが水面走行を維持できなくなって水没し、タマやアリサが足をもつれさせたポチと一緒に水面を転がっていき、最後に三人揃って大きな水柱を上げていた。

「大丈夫かい?」
「うい……死ぬかと思った」
「あれれ~?」
「ご主人様なのです!」

 ユニット配置で手元に呼び戻した三人が、ビーチパラソルの下で三者三様で座っている。
 タマは桃色のセパレートの水着、ポチもタマと同型の黄色い水着だ。タマはスカートタイプ、ポチはショートパンツタイプになっている。

 アリサは旧型の白スク水だ。
 もちろん、胸には「ありさ」と書かれたゼッケンが縫い付けてある。
 相変わらず、お約束に忠実なヤツだ。

 なお、これらの水着は伸縮性の高い化学繊維を使用している。
 逸失知識スキルによって得た情報を基に、迷宮地下の原油から作った物だ。

 神の制裁の対象になりそうなので、人里で広める気はない。

「サトゥー、見て」

 そこに白と水色の縞々ビキニ姿のミーアが現れて、くるりと一回転して見せてくれる。
 いつもツインテールにしている髪も、ゼナさんのように編みこんでいて新鮮な感じだ。

「うん、可愛いよ」
「うれし」

 素直に褒めたら、ミーアがそのまま首に抱きついてきた。

 グラスを脇のテーブルに置く。
 なぜなら――。

「タマも~」
「ポチもくっつくのです!」
「ちょ、ちょっとズルイわよ!」

 ――子供達がミーアの真似をして飛びついてきたからだ。

 オレは「理力の手」で勢いを殺し、やんわりと三人を受け止めてやる。
 アリサはセクハラ不能なポジションに誘導したのは言うまでもない。

「みんな、ご主人様が困っているわよ?」

 皆を嗜めてくれたのは、紺色のモノキニの上にカーディガンを羽織ったルルだ。
 カーディガンのせいで背中や肩のラインが隠れているが、開いたカーディガンの間からおへそや胸の谷間が覗いていて、背徳感に溢れている。

 うん、アリサが「メイドスク水」をルルに着せようとしていたのを阻止して良かった。

「マスター、浮き輪とビーチボールの運搬を完了したと報告します」

 ルルの後ろから、大量の遊具を抱えたナナが現れた。
 残念ながら鉄壁ペアの陰謀で、ナナが着ているのはビキニではなくワンピースタイプだ。

 もっとも、地味なワンピース故に、ナナの胸が内側からはち切れそうに自己主張している。
 これからも、その調子で自己主張を続けて欲しいと思う。

 なお、ナナの奴隷であるシロとクロウは、学校に行っていてここには来ていない。
 観光旅行の間も、基本的には王都の旧ペンドラゴン邸から王立学院に通わせる予定だ。将来的には迷宮都市かムーノ市に学校を建設し、彼女達をそこの教員にしたいと考えている。

「あ、リザなのです!」

 海上の水飛沫を確認したポチが、身体を起こして叫ぶ。

 やがて、海から黄色いオブジェクトを抱えて帰ってきたのは、古式ゆかしい袖付き水着のリザだ。オレンジと白の縞々柄が目に痛い。

「ご主人様、バナナボートの試運転を完了いたしました」
「動作に問題はなかったかい?」
「はい、高速な反面、座席の保持力が低いようです。戦闘行動を行った場合、高確率で海に投げ出される恐れがあります」

 リザ……それは遊具だ。

「それでは性能向上の為に、休憩後、もう一度試験を行ってくれるかな?」
「畏まりました」

 満足そうなリザに新しいドリンクを手渡しながら、オレは新たな指令を与える。
 バナナボートが気に入ったようなので、続けて遊んでくるといい。

「マスター、戦闘艇の試験評価への参加を希望します」
「タマも~?」
「ポチだって参加するのです!」

 ナナ、タマ、ポチの三人がキラキラした目を向けてきたので「いいとも」と答えて、ストレージから出した二台目のバナナボートをナナに手渡す。

「アリサは行かないのかい?」
「ん~、あの4人のペースで遊んだら、違う意味でハラハラしそうだから後でいいや」

 ルルは静かに微笑んで拒絶していたので、アリサにだけ問いかけてみたところ、そんな答えが返ってきた。

「サトゥー! 乙女達の到着よ~」

 後ろに見えるアラビアンナイト風の宮殿から出てきたヒカルが、大声でこちらを呼ぶ。
 ヒカルはパレオ付きのビキニ姿だ。ビキニの胸元をティアード フリルと呼ばれる何段ものヒラヒラで厳重にガードしている。

「おっ、ミトたんだ。胸元の寂しさを隠す良い選択ね」

 アリサが俺の肩越しにミトを見て、偉そうに批評している。

 こっそりとオレの胸元を撫で出したので「セクハラ禁止」と告げて、身体の上から退去させる。

「アリサ、こっちに来なさい。ちょっとお話があります」
「ちゃうねん、この左腕に隠された邪悪が……」

 ルルに手を引かれたアリサが海岸から引っ張られていく。
 最近のルルはアリサのセクハラに厳しいので、たぶん、お説教コースだろう。

 オレはミトの方に視線を戻して、ミトや彼女と一緒にやってきた4人の乙女達と挨拶を交わす。
 セーラ、ゼナさん、カリナ嬢は秘密基地建設段階から招いていたが、最後の一人は本日初参加だ。

 4人目はアーゼさんではなく、観光旅行に同行予定のシスティーナ王女だ。
 彼女はゼナさん達3人と違って無条件に信じるほど親しくないので、「契約コントラクト」スキルで秘密を厳守するように縛っている。

 本当は「契約」スキルの話をした時に、王女が激昂して破談になるルートを夢見たのだが、なぜか彼女は嬉々として受け入れてしまったのだ。

 もちろん、他の子達のように多くの情報を開示したわけではない。
 オレが「勇者」である事や「エチゴヤ商会のオーナー」である事なんかは話してあるので、彼女を観光に連れまわしても、面倒な行動の制約はないはずだ。

 なお、この「契約」だが、スキルレベルによって違反時の最大制裁レベルが違うらしく、オレのように最大スキルの場合は瀕死の状態になってしまうらしい。死刑予定の犯罪奴隷で試したので間違いない。
 もちろん、違反レベル毎に制裁を指定できるので、そこまで酷い設定にはしていない。

 オレがそんな事情を思い起こしていると、恥ずかしそうにしていた集団の中から一人が一歩を踏み出した。

「サトゥーさん、似合っていますか?」

 素直に尋ねてきたのは、少し赤い顔のセーラだ。
 無地の白い肩紐なしビキニが実に眩しい。

 普段、巫女服の陰に隠された白い足が素敵だ。
 それは長めのパレオに隠されていても、清楚な魅力を放っている。

「ええ、とってもお似合いですよ」

 そう褒めると、赤い顔がさらに上気し、耳どころか肩まで赤くなる。

「少し恥ずかしかったですけど、サトゥーさんにそう言って頂けて良かったです」

 もし、二人っきりの時に、そんなはにかむような笑顔を向けられたら、うっかりと押し倒してしまいそうで怖い。

 彼女の横に立っていたゼナさんが何か言いたげだったので、「ゼナさんもよくお似合いですよ」と褒める。

「あ、ありがとうございます」

 もじもじと手で身体を隠す姿に、こちらも変な気持ちになりそうになる。
 なお、彼女が着ているのは競泳用のシャープな水着だ。ハイレグ気味なので、脚の綺麗なゼナさんにはよく似合っている。

 気のせいか、さっきからチラチラと視線を感じる。

 どうやら、深窓の令嬢達は男性の水着姿に耐性がないようだ。
 彼女達が恥ずかしそうにしている理由は自分達の水着姿だけではなく、オレの姿にも問題があるらしい。

「……ハ、ハレンチですわ!」

 そう抗議するカリナ嬢は水着ではなく普通のワンピース姿だ。

 シガ王国の倫理観だと当たり前の反応と言える。
 ただし、薄い絹製なので、明るい日差しにカリナ嬢の素敵なシルエットが透けていて、水着よりエロいので説得力に欠けると思う。

「ええ、海辺で遊ぶのに便利な服装だから勧めただけです。強要は致しませんから、ご安心ください」

 憤りよりも羞恥心で叫んだらしきカリナ嬢にそう告げる。
 むしろ、セーラやゼナさんが水着姿で現れた方が驚きなのだ。

「あら? 未来の夫に肌を晒してもハレンチではありませんよ?」

 そうカリナ嬢を諭したのは、絹のロングガウンを着たシスティーナ王女だ。
 少々発言が不穏だが、難聴系主人公を見習って素敵にスルーする。

「み、未来の、夫――」

 顔を茹蛸のように染めたカリナ嬢が、それだけ呟くと恥ずかしさが頂点に達したらしく、砂煙を上げて宮殿へと走り去った。
 もちろん、巻き上げられた砂はオレの魔法で飛び散らないように元に戻してある。

 しゅるりという音に、視線をカリナ嬢から王女に戻す。
 王女が色っぽい仕草で帯を解くと、スケスケの薄い絹ガウンがはらりと砂浜に落ちる。

 その下から現れたのは、セパレート型のチューブトップ水着だ。
 王女が着ていると、コルセット姿のような背徳感を覚える。

 こちらに「褒めて」オーラを向けながらポーズを取る王女に、賞賛の言葉を贈って、オレの横のビーチチェアを勧める。

 オレがサイドテーブルにある鈴を鳴らすと、宮殿から小さな影が飛んできた。

「およびですか、ご主人様!」
「御用はなんでしょう?」
「なんなりとお申し付けください」

 小学校入学前くらいの幼女達が、こちらを見上げて注文オーダーを待つ。

「人数分の飲み物とフルーツの盛り合わせを幾つか頼む」
「はい!」
「畏まりました~」
「暫しお待ちを!」

 アラビアンナイト風の召使服を着た幼女達が、風のような速さで宮殿に戻っていく。
 彼女達は宮殿の使用人として雇ったブラウニー達だ。

 幼女にしか見えないが、皆れっきとした成人女性達である。
 迷宮都市の「蔦の館」で管理人をしているレリリルと同族だ。個体性能ではレリリルに劣るが、数が多いので宮殿のみならず、この秘密基地全体の保守管理を任せている。
 なお、ブラウニー達のまとめ役はレリリルの叔母ロリリルさんだ。見た目は幼女にしか見えないが百歳を超える年齢らしい。

 そして、トロピカルドリンクの追加と一緒に、最後の客人が姿を現した。

「サトゥーさん。結界の設置が終わりました」

 白い着物を着たユイカが白い砂浜を歩いてくる。
 着物の袖や襟から覗く、雪のように白い肌が眩しい。

 なお、彼女のゴブリン特有の額の短い角は、バンダナ状の飾り帯に隠されている。

「ありがとうございます。任せっきりにしていて済みません」

 オレは彼女に詫びつつ、チェアの一つを勧める。
 結界を張る作業は周りに人がいるとできない上に何日も掛かる、と聞いていたので任せっきりにしていたのだが、予定よりずいぶんと早く完了したらしい。
 他人に仕事をさせておいて、自分は美女を侍らせてバカンス気分だと、ちょっとばつが悪い。

 もっとも、ユイカの方はそんな事をかけらも気にしていないようだ。

「この杖、凄いですね。範囲拡張性能が聖杖以上です」
「それに特化した杖ですから――」

 オレの方に杖を差し出してくるユイカの手を押しとどめる。

「――よろしければそれはそのままお持ちください。ユイカさん用に調整した物ですから、使っていただけると嬉しいです」
「は、はい。愛用させていただきます」

 エメラルドグリーンの杖を嬉しそうに抱えてユイカが微笑む。

 彼女に張ってもらった結界とは対神用の物で、秘密基地を構成する三つの区画にお願いした。
 どの区画もオレが禁呪「異界アナザーワールド」で作った亜空間だ。

 一つ目は今いる南の孤島をベースにしたもの。
 秘密基地は島に作る予定だったのだが、幾ら排除しても海の危険な生き物が減らなかったので、その島をコピーした亜空間を作ってみたのだ。
 なので、このビーチは無防備な王女でも、安心して海水浴が楽しめる。

 なお、この亜空間には淡路島程度の島本体と島の五倍程度の半径の海が含まれる。

 二つ目はオーユゴック公爵領の地形をベースにした酪農用区画だ。
 こちらは区画中央のポータル周辺以外は元のままの原生林なので、今後開発が必要になる。
 広さはオリジナルの公爵領と同じサイズだ。海も含むので、海産物の養殖もできそうだ。

 そして三つ目は訓練や実験用に作った砂漠区画だ。
 迷宮都市セリビーラの西に広がる大砂漠をベースにしたので、思う存分魔法の試射ができる。
 ここで使えないのは禁呪のなかでも少数だ。

 そういった事情もあって、この浜辺では現代風の化学繊維の水着を着ていても、神の制裁を心配しなくて良いのだ。
 ユイカには足を向けて寝れないね。

 ユイカを皆に紹介したところ、ヒカルが訝しげに問いかけてきた。

「たぶん人違いだと思うんだけど、もしかして『鬼族の女王』フォイルニスじゃない?」
「あの……」

 どうやら、ヒカルは多重人格なユイカの昔の人格を知っているらしい。
 その発言に触発されたのか、ユイカの最古の人格ユイカ3号が表面に現れた。

 たしか、フォイルニスはユイカ3号の中二ネームだったはずだ。

「――なんじゃ、ヤマトではないか? もう結界から出てきたのか? 『運命の人がキスで目覚めさせてくれるまで眠る』と言っておったではないか?」
「うん、運命の人――」

 ヒカルのコールドスリープ装置を守っていたのはユイカの結界だったらしい。

 それよりもヒカル。俺の方を指差しながら不穏な発言をするな。
 周りから浮気男を見るような視線が飛んできているぞ。

 放置すると危険な気がしたので、オレは「幼馴染で同僚だった」と簡潔にユイカに告げて妙な会話を終了させた。

「ふむ、このままだと、ちと当代のユイカに不利なのじゃ」

 ルルやセーラ達をチラ見したユイカ3号が、「サトゥー、水着を寄越せ」と手を差し出してきたので、ユイカのサイズに合いそうな数枚を手渡す。
 ユイカ3号が結界スキルで作った隔離世界を更衣室代わりにして着替えてきた。

「どうじゃ、サトゥー!」
「よく似合ってるよ」
「よしっ――」

 ホルターネックのトップスに覆われた胸元は、以前見た本体よりも明らかに盛っていたが、その辺りの事を指摘する気はない。
 自然な仕上がりの盛り方なので、他の子達は誰も気が付いていないしね。

「――あ、あれ? ええ?! どうしてこんな格好に? も、もしかして初代様の仕業ですか?」

 人格がユイカ3号からユイカに戻ったらしく、パニックを起こして身体を手で隠す。
 急に露出度が上がった自分に驚いたのだろう。

 オレは自分の着ていたパーカーをユイカに着せてやる。

 ……その瞬間背後からの圧力が高まった気がするが、きっと気のせいだろう。





 落ち着いたユイカも交えて、皆で水辺で海水浴や波の感触を楽しんだ。

 ここは亜空間なのに、なぜか海に波がある。
 きっと、空にある映像の太陽と同じく、亜空間を構成する魔法の一環だろう。

 なお、メイド長のロリリルによると、カリナ嬢は何度か水着で宮殿入り口付近まで来ていたようだが、踏ん切りがつかなかったらしく、宮殿で与えた自室に篭って丸くなっていたそうだ。
 宮殿前は当分の間浜辺の予定なので、その内に水着を披露してくれる事を期待したい。

「う~ん、やっぱ海水浴なら、カキ氷やソフトクリームだけじゃなく『具のないカレー』『伸びたラーメン』『焼ける醤油の匂いが暴力的なイカヤキ』『背徳的なヤキソバ』『冒涜的な焼きとうもろこし』あたりも欲しいわよね~」

 アリサがイチゴシロップをかけたカキ氷をジャクジャクと食べながら言い放つ。
 最後の方に変な装飾があったが、アリサの事だから深い意味は無いだろう。

 ポチ、タマ、ミーアの三人が勢い良く食べ過ぎて、こめかみを押さえて悶えている。
 他の子達はルルが事前に注意していたので、ゆっくりと冷たさを堪能しているようだ。

「その辺は南の島バカンスには合わないから、用意してないんだよ。今度は『海の家』風のセットで遊ぼうか?」
「うん、それなら、スイカ割りもしましょう!」

 なかなか楽しそうだ。

 そんな楽しい時間を乱したのは無粋な電子音だ。
 メニューとリンクした通信が、無人試運転中の専用飛空艇から届いたのだ。

 オレは呼び出しマークをタップして通信を繋ぐ。

『マスター。目標地点の迷宮都市セリビーラを有視界に捉えました。30分後に到着予定となります。船長席への帰還を要請します』
「判った」

 船の操舵をさせていた航行用ゴーレム「カカシ10号」からの報告に短く答える。
 カカシの声は昔の音声合成ソフトのように、ぎこちない抑揚だ。

 なお、カカシの音声音源はエチゴヤ商会の奴隷メイドの一人に頼んで収録した。
 初めはルルかティファリーザの声を使おうと思ったのだが、彼女達は忙しすぎて無理だったのだ。

「そろそろ船がセリビーラに到着するようです。着替えてエントランスホールで待っていてください」

 オレは皆にそう告げて、先に操縦席へユニット配置で戻る。

「操舵レポートを頼む」
『巡航試験オールグリーン。最大速度試験では時速300キロを記録しました。これ以上の速度も出せそうでしたが、残魔力を考慮してそこで終了しました。続いて――』

 艦橋前部に置いたカカシからの報告を耳に入れながら、浄化魔法で海水を落とす。

 この専用艇はジャハド博士が開発した新型の空力機関が搭載されており、巡航時には空力機関の浮力の一部を推力に変える機構を搭載している。
 燃費が悪いので、通常の魔力炉を搭載した飛空艇に乗せられないのが玉に瑕だ。
 なお、加速用のブースターを使用すればもっと速いが、オレからの魔力供給が必要なので自動航行テストでは使用していない。

 早着替えでいつもの貴族服に戻り、正面の一枚ガラスのような展望窓から外を見渡す。

「バードストライクがあったみたいだけど、窓に傷はないようだね」
『イエス、マスター。飛行中は理力防御幕スクリーン・シールドの展開を推奨します』
「判った。許可する」

 オレはカカシからの提案を了承する。

 この窓は合成ダイヤモンド製なので、普通の鳥くらいならぶつかっても大丈夫だが、甲虫系の魔物と激突すると傷がつきそうだしね。

 もっともダイヤモンドは熱に弱いので、クジラの水晶体を削った風防キャノピーに変えた方が良いかもしれない。

 なお、この窓は上級魔法の「石化フレッシュ・トゥ・ストーン」の一部を改良したオリジナル呪文「金剛石化チャコール・トゥ・ダイヤモンド」で作った。
 高温も超高圧もなしに、炭から合成ダイヤモンドを作ってしまうのだから、まさに魔法だ。

 また、亜種としては「硝子化サンド・トゥ・グラス」の魔法もある。
 前に「家屋建造クリエート・ハウス」で作った窓がガラスだったので、その時のコードをライブラリ化したのだ。

 この時のコードを利用して、ボーキサイトから酸化アルミニウムの一種である無色透明のコランダムも作れた。

 ボーキサイトの確保が面倒だったが、宮殿島のモデルにした島で採掘できるので今後は手軽に作れるだろう。
 上手く色を着けられれば、サファイアやルビーも作れそうだ。

 なお、エメラルドは組成が複雑なので手を出していない。

『マスター、着陸シーケンスに入ります。目標地に変更があれば早めに指示を下さい』
「変更無し。着陸地点の地形を確認する事」
『アイアイサー』

 ソナーで地上の起伏を確認しながら、飛空艇が高度を下げる。
 なかなか優秀な自動航行プログラムだ。

 王都周辺で七回ほど墜落した経験値は伊達ではないらしい。
 ここ一〇日ほどは一度も危ないシーンは無かったしね。

『マスター、着陸予定地に人がいます』

 迷宮都市のペンドラゴン邸には、出迎えの人達が多数集まっているようだ。
 オレは屋敷に隣接する牧場に着地するように指示を出す。

 地上を「遠見(クレアボヤンス)」や「遠耳(クレアヒアリス)」で窺ってみる。

「うわー、ひくーていだよ!」
「小さい飛空艇だね」
「あれに旦那さまが乗っているのかな?」
「いつもの飛空艇発着場じゃなくて、ここに降りてきたんだからそうじゃない?」
「じゃ、アリサちゃんもいるね」
「ナナしゃまもいう?」
幼生体よーせーたいって呼んでくれう?」
「きっと、幼生体よーせーたいってハグしてくれうよ」
「俺はポチさんやタマさんに王都の土産話してもらうんだ」
「久々にリザさんに叩きのめしてもらえるぞ!」
「ああ、ようやくミーア様の音楽が聴ける」

 歓迎の声ばかりで良かった。一部変なのが混ざっていたが……。
 オレ宛の「若様~」も多かったが、そちらは夜にお邪魔するからピックアップしなくて良いだろう。





 オレは皆を迎えに、ユニット配置で秘密基地の宮殿に戻る。
 最終的には「宮殿島」「工房衛星」「エチゴヤ極秘司令室」「迷宮別荘」「専用飛空艇」の5箇所を常設のゲートで繋ぐ予定だが、その中核となるゲート管理用ゴーレムの作製が完了していないので、オレが直接運搬を担当している。
 ボルエナンの里が候補に入っていないのは、羽妖精の侵入を防ぐ為だ。

 そして、飛空艇が牧草地に着陸する。

 迷宮都市で降りるのは、ペンドラゴンチームとカリナ嬢の予定だ。
 オレとセーラ、王女、ゼナさんの4人は迷宮都市での用事を済ませたら、本格的な旅路へと出発する。

 もちろん、これは表向きの話だ。

 実際はゲートによって自在に行き来できるので、旅の途中は迷宮でレベル上げを行い、観光地に到着したら、皆で揃って観光を楽しむ事になっている。
 迷宮都市組は同時に二箇所に存在する事になるが、こちらの世界は現代日本のようなリアルタイム情報網があるわけでもないので、たとえ噂が流れても、迷宮探索の合間に飛空艇で移動したと言い訳すれば大丈夫だ。

 なお、ヒカルというかミト公爵夫人は王都に滞在中となっている。王都に建てたミツクニ公爵邸で暮らす病弱な女性という設定なので、不在でもほぼ問題ない。
 国王や宰相はミトの正体を知っているので、すべて「さすがは王祖様」で納得してくれるはずだ。

「おかえりなさいませ、子爵様」

 オレはミテルナ女史や幼女メイドに出迎えられながら、屋敷に溢れた知人たちに会釈する。
 全員に挨拶していたら日がくれるので適当なところで済ませ、オレは王女とセーラだけを連れて、迷宮都市の重鎮の所へあいさつ回りに向かう事にした。

 迷宮都市には二日しか滞在しない予定なので、サクサク行こう!

※次回更新は 8/30(日) の予定です。

※書籍版の感想や誤字報告は活動報告の「デスマ5巻感想(ネタばれok)」までお願いします。


※ダイヤモンドは打撃に対して脆い事をサトゥーは知りません。この勘違いはきっと後日払拭される事でしょう。(なお、執筆時の作者も知りませんでした。情報感謝です!)


※2015/08/23 最後の方にミトに関する情報を追記しました。
+注意+
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