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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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13-26.オークション三日目(1)

 サトゥーです。受験しかり、初デートしかり、準備を重ねれば重ねるほど不安になるのはよくある事です。ほんの少し気負いを捨てる事を覚えてからは、そんな不安とも少し縁遠くなれた気がします。





「おはようございます、お迎えにあがりました」

 微妙に陰りのある笑顔でゼナさんが朝の挨拶をしてきた。

 ここの所、忙しすぎてゼナさんと碌に会話をしていない気がする。
 詠唱の宝珠が手に入って一段落したら、ゼナさんやセーラを誘って王都近郊にピクニックにでも行こう。うちの子達も喜ぶだろう。

 今日のゼナ隊はアリサとミーアを王城まで送る護衛だ。

 本当はオレも招かれていたのだが、「詠唱の宝珠」が出品されるオークション三日目の方が大事なので、体調不良を理由に欠席している。

 エントランスホールには、どこかのお嬢様のような可愛らしいドレスを着たアリサがドヤ顔でポーズを決めていた。
 軽く褒めてから、昨日の一件について聞かれたときの対応を話す。

「――なら、わたし達には詳しい事は判らないで通せばいいのね?」
「ああ、それで良い」

 アリサの確認にオレは首を縦に振る。

「準備万端」

 そこにおめかししたミーアがエントランスホールに降りてきた。
 オレと視線が合うとクルリとその場で回って見せる。

 可愛いよと感想を告げると「ん」と満足そうに応えた。

「じゃ、行って来るわね。何か殿下に伝えておく事はない?」
「特に無いよ――欠席のお詫びだけは伝えておいてくれ」
「うん、判った。そっちも頑張ってね!」

 アリサの激励に頷き、ゼナさん達にアリサとミーアの事をお願いして送り出す。

「皆の今日の予定は?」

 リビングに戻って他の子達の予定を確認する。
 今日はアリサとミーアがいないので、迷宮への遠征は無しだ。

「私は昨日の料理の復習がしたいので、厨房に篭ります」

 ルルが気合に満ちた顔で宣言した。
 昨晩はボルエナンの森の樹上の家でも包丁を振っていたらしい。

「今日はがっこーに行きたいのです」
「へーむ来る~」
「そうなのです。へーむ大先生との稽古があるのです」

 ワクワク顔で木剣を振る二人に「危ないから魔刃砲は使わない事」と言いつける。
 最近は木魔剣でもない木剣で魔刃を出すようになってきたから、油断できない。

「私が同行して二人が失敗しないように見守りましょう」
「リザがそう言ってくれるなら安心だ。頼むよ」
「微力を尽くします」

 むしろ、リザとヘイム卿の戦いに発展しそうな気もするが、さすがにそれは自重してくれるだろう。

「ボク達はいつも通り学校に行きます」

 クロウとシロの二人は学校が好きみたいだし、このまま王都の学院に通わせるのも良いかもしれない。
 将来は迷宮都市の育成校で教鞭を取らせるのも良いかもね。

「クロウ、言葉」
「――私達は」

 シロに指摘されてクロウが一人称を修正する。
 たぶん、二人と仲良くなった貴族娘に、女の子が「ボク」と言うのはおかしいと指摘されたのだろう。

「ナナはどうする?」
「授業参観を希望します。マスター、許可を」

 ――授業参観?

 シガ王国にもそんなイベントがあるのかな?

 学校側の受け入れ態勢があるか判らないないので、知っていそうな執事に確認してみた。

「授業参観という言葉は存じませんが、親権者の見学は受け付けているはずでございます」
「許可申請はどうすれば良いかな?」
「先触れを出しておけば問題ございません。本日参られるなら、手紙を持たせたメイドを先触れに派遣しておきましょう」
「頼んだよ」

 相変わらず気が利く使用人だ。
 手紙の代筆も執事がやってくれた。

 子供達が出かけるのを見送り、寝室に戻って仮病の準備をしようと思ったところで、テニオン神殿のセーラから手紙が届いた。
 恐らく、昨晩王城で聞かされた預言の話だろう。

 セーラ本人が来訪しそうなモノだが、彼女は王都のテニオン神殿の偉い人と一緒に、王城の謁見室にいるようだ。

 ペーパーナイフで開封して中を読むと――

『炎環が世界を囲み、月が目を覚ます』

 ――とセーラが視た預言の一節が書かれてあった。

 文章の「月」という単語と「目を覚ます」というキーワードから、魔神の復活を想像したのだが、昨日聞いた『杯の欠片割れ、偽王が生まれる』とは意味合いが違いすぎる。
 何より、本当に魔神が復活するなら、全ての神が同じ警告を発するはずだ。

 大山鳴動して鼠一匹とも言うし、おおかた金環日食あたりだろう。
 科学の進歩していない世界なら、日食や月食は天変地異扱いだったはずだしね。

 オレはセーラへのお礼の手紙を書き上げてメイドに渡し、誰が来ても取り次がないように伝えて部屋に篭る。
 さて、そろそろ出かけよう。





「クロ様、お待ちいたしておりました!」

 支配人がハリのある美声で出迎えてくれた。
 今日はいつものシャープな女社長風ドレスではなく、普通の貴族娘のような瀟洒なドレスだ。

 昨日のお茶会ハシゴの時に会った伯爵令嬢が自慢していたドレスに似ている。

 確認した所、同じ工房の師匠の作品らしい。
 一着金貨三〇枚という法外な価格らしいが、支配人の年収なら余裕だろう。

「さあ! 参りましょう!」
「お待ちください――」

 白い手袋に包まれた手でオレと腕を組もうとした支配人を、ティファリーザの怜悧な声が制止する。

「――支配人、宰相閣下から届いた報告を伝え忘れています」
「わ、判っています」

 氷のような視線を浴びて、支配人がコホンと咳払いをした。

「オークション会場の貴賓席に落ち着いてから、お伝えする予定だったのです」
「ほんとーはクロ様とデートできるから浮かれて忘れてたんだよね?」

 支配人の言い訳を部屋の入り口から顔を出した幹部娘が茶化す。
 彼女は支配人の鋭い視線を浴びて「怖い怖い」とおどけたように言ってから、隣の会計部屋へと向かった。

 支配人が赤い顔で手をワキワキさせて困っている。

 ……まったく。

 これから戦場オークションへ向かうというのに、真剣味が足りない。

「浮かれるのは務めを果たしてからにしろ」
「は、はい! 誠心誠意お仕えいたします!」

 叱責されているのに、なぜか支配人の顔は先ほどよりも紅潮している。
 微妙に「務め」を誤解していそうだ。

「クロ様、僭越ですが私の口からご報告いたします。昨夜、宰相閣下より――」

 ティファリーザが支配人が口を割り込ませる隙を与えずに、スラスラと昨夜の預言話をオレに伝える。
 ちゃんと、預言の解釈についても誰の発言かを明示した上で伝えてくれた。

 残念ながら、新しい情報は無いようだ。

 オレはティファリーザに労いの言葉を告げた後、支配人と一緒にオークション会場へ向かった。
 オークション担当の幹部達は先に会場で待機しているはずだ。





「お待ちしておりました。宰相閣下からお話は伺っております。出品用の宝珠の提出をお願いいたします」

 オレはアイテムボックスから取り出した宝珠をオークション会場の責任者に手渡す。
 もちろん、魔族召喚などの危険な3つの宝珠は出品対象ではないので持ったままだ。

 ――待っていろよ。今日の昼にはオレのモノにしてやるからな。

 責任者の手の中の「詠唱」の宝珠に語りかける。
 もちろん、返事があるわけもない。

 責任者が傍らの鑑定スキル持ちに――。

「なっ、何を」

 壁にめり込んだ鑑定人を見て、責任者が顔を引きつらせる。
 ふむ、説明が必要か。

「その男は盗賊だ。胸元に潜ませている偽装の魔法道具を取り上げてから、そちらの男に鑑定させてみろ」

 オレの言葉を疑いながらも、責任者の男がもう一人の鑑定人に指示する。

「こ、これは『職化け』の魔法道具です。た、確かにミツクニ公爵家の方がおっしゃった通り、この男は盗賊です」
「そんなっ! 身元の確かな者しか雇っていないはずなのに……」

 言い訳をする責任者と違い、周囲の人間はテキパキと盗賊を拘束して部屋から連れ出していく。
 少しやりすぎた気がしないでもないが、盗賊相手に慈悲は無用だ。

 そうだ他にもいるかもしれない。
 オークション会場周辺に絞ってマップ検索してみる。

 一つ、二つ、三つ……。

 ――オノレ、害虫とうぞくめっ。

 オレの『詠唱の宝珠』を狙ってこんな場所まで入り込んで来た事を後悔させてやる。
 命までは取らないが、半月は流動食しか食えない身体にしてやろう。

「他の害虫とうぞくも始末するぞ」

 オレはそう宣言してから、標的までの経路を確認する。閉ざされた扉は「遠見(クレアボヤンス)」と「理力の手(マジック・ハンド)」の魔法で開けて進路を確保した。
 ダミー詠唱付きの「誘導気絶弾(リモート・スタン)」を発射してオークション会場を掃除する。
 標的以外の被害がないように、通路の天井沿いのコースを選んで飛ばす。

 マップ上で誘導気絶弾が次々と着弾していくのが判る。

 二人ほど初弾を避けたようだが、それは無駄な抵抗に過ぎない。
 現に2発目以降が次々と着弾して害虫とうぞく達の意識を刈り取った。

 ふっふっふー、悪は滅んだ。

「ク、クロ様?」
「大丈夫だ。この位、想定の範囲内だよ」

 心配そうな支配人に、安心させるように微笑みを向ける。

「だよ?」

 支配人が不思議そうに首を傾げる。
 しまった――クロらしくない素の口調が出てしまった。

「細かい事は気にするな」
「は、はい……」

 もっとクールにならねば――。


 オレは呆気に取られたままの人々を見回す。
 責任者は口をパクパクさせるばかりで役に立たないので、まともに動けそうな現場責任者に話しかけた。

「何をボサッとしている。二階に二人、倉庫に二人、地下階の金庫室前に一人だ。さっさと行って捕縛して来い」
「はっ、はい!」

 現場責任者は周囲の部下に命じて捕縛に向かわせ、自分自身も金庫室に向かって走っていった。
 まったく、事前の掃除はしっかりしておいて欲しいものだ。

 詠唱の宝珠が金庫室に収納されるのをこの目で確認してから、オレ達は案内嬢に連れられて上級貴族用の参加者控え室に向う。
 なお、案内嬢に会場内での魔法の使用は厳禁だと遠まわしに注意された。





「――以上がオークションでの入札の手順となります」

 説明が長かったが、さほど特別な事はない。
 珍しいと思ったのは、事前に入札可能額を申告し「その額を超えた入札ができない」という事くらいだろう。

「何か質問はございますか?」
「落札した品はすぐに受け取れるのか?」

 聞きたい事は色々あるが、一番重要な事を確認する。

「いいえ、オークション間にございます休憩時間に一階の引渡し所で行います。引渡し後の警備は落札者側の担当になりますので、ご注意ください」

 控え室まで落札品を持ってこないのは防犯の為らしい。

 オークションは二時間の入札と一時間の休憩時間を一単位に三部行われ、合計九時間開催される。
 最初の説明を聞いたとき休憩が長いと思ったが、それには相応の理由があったようだ。

 コンコンと扉がノックされ、警備員を引き連れた女性が入ってきた。

「公認鑑定士が来たようです。ではお手数ですが、入札用の貨幣のご提示をお願いいたします」

 案内嬢に促されたので、アイテムボックスをあけて金貨の入った袋を出す。
 ドサリドサリとテーブルの上に並べていく。一つあたり金貨百枚入りだ。

「すごい……」
「さすがは新興とはいえ公爵家ですね」

 控え室の壁際で待機するメイド達が小声でポソポソと会話しているのを、聞き耳スキルが拾ってきた。

 オレは気にせず金貨袋を机に積み上げていく。

「え……」
「あ、あの……」

 案内嬢や公認鑑定士まで驚きの表情を浮かべている。
 これくらい毎回見慣れているだろうに――変なヤツラだ。

 金貨袋が机に乗り切らなくなってきたので、二人に声を掛ける。

「机の脚が折れそうだな。残りは床に置くが構わんか?」

 案内嬢も公認鑑定士も、そしてその後ろの警備員達まで口をポカンとあけて答えない。
 YESかNOくらい即答して欲しいものだ。

 沈黙はYESと解釈して、金貨袋をドザドサドサと床に置いていくと、ようやく案内嬢が再起動した。

「お、お待ちください!」
「なんだ? 床はまずかったか?」
「いえ、そうではなく!」

 ハイソな雰囲気だった案内嬢が、歳相応の顔で腕をぶんぶんと振る。
 可愛いが、職務的にはまずくないか?

「一体、金貨何枚用意されたのですか?!」
「とりあえず、30万枚ほどだが?」

 足りないときはストレージにあるフルー帝国金貨1000万枚が待っているよ?

「と、都市でも落札するつもりですか!」

 ――大げさな。

「落ち着きなさい。貴方の態度は礼を失していますよ」
「も、申し訳ございません……」

 支配人に諭されて案内嬢がしおれる。

「どちらにせよ、私にはそんなに沢山鑑定するのは不可能です。幾つか抜き取り検査をしますので、あとは申告通りの金額で札をお受け取りください」

 公認鑑定士がそう告げて、三つほどの袋を選んで鑑定を行った。
 結局、金貨袋300個、合計金貨3万枚分しか見せていないのに、金貨一万枚を示す入札用の札を30個受け取る事になった。

 この札を掲示しながら、入札用の拡声器に金額を告げるそうだ。
 公認鑑定士が持っていた金貨一万枚の札は5枚しかなかったので、残り25枚は後ほど部屋に届けられた。

 そして、待つこと一時間。

 オークション三日目開始のアナウンスが館内放送で流れた。

「――では、行こう」
「はい、クロ様」

 オレは支配人の手を引き、控え室からつながるオークション会場の貴賓席へと足を踏み込んだ。


 いよいよ、オークション(戦闘)開始だ!
※次回更新は 5/24(日) の予定です。

●月と魔神の関係
 気になる方は「12-26.王都地下の聖杯」もしくは書籍版3巻(p.76)をご覧ください。

●30万枚の金貨がアイテムボックスに入るのか?
 袋に入れたら1リットルあたり1個扱いになる裏技(アリサ談)を使用すれば可能です。

●宣伝
「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」4巻の電子書籍版が 5/20(水) より配信開始です。
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