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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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12-27.預言の行方

※2016/3/5 誤字修正しました。
 サトゥーです。預言というモノは曖昧にする事で正解率を上げている気がします。解釈する者の匙加減で変わる以上、後出してどんな回答でも出せる気がするのです。
 では、神のいる世界の預言は――。





 青い残光を引きながら、閃駆で王都の上空を疾駆する。

 ――ミツケタ。

 屋根から屋根へと飛び跳ねる黒衣の男――「自由の光」に所属する高レベル斥候の前に着地する。
 腕を組み両足を揃えて着陸する様は、我ながら何者だと突っ込みを入れたくなる。

 オレの姿を見とめて踵を返す斥候の前に回りこんで声を掛ける。

「どこに行くつもりだい?」

 オレの言葉に、「そこは『どこへ行こうというのだね』でしょ!」とアリサが「戦術輪話タクティカル・トーク」経由で突っ込みを入れてくるが、ここでネタを入れる気はないのでスルーする。

「王城の宝物殿から盗んだ品を返してもらおうか、盗賊君?」
「■ 宝物庫(アイテム・ボックス)

 斥候が素直にアイテムボックスを開いて中から小袋を取り出す。
 フェイクかと思ったが、レーダーにオレの「詠唱」の宝珠に付けたマーカーが復活したので本物のようだ。

「良い心がけだ。八つ裂きにするのは止めてやるよ」

 斥候が無言のままに「詠唱」の宝珠が入った小袋を天に高く投げ上げる。オレの隙を突くためだろう。
 オレは斥候の方向に「短気絶(ショート・スタン)」を10発ほど発射し、小袋の方へ閃駆で接近する。

 よし、無事にキャッチ――。

『戻れ』

 ――オレが掴む寸前に小袋が消える。

 眼下には影を盾のようにした斥候が、小袋を片手に自分の影の中に沈んで行くところだった。

 ――ちっ、影魔法か。
 いや、こいつが持っていたのは光魔法と神聖魔法の二つだったはず。
 ならば、これはこいつの持つアイテムの能力だろう。

「逃がさん!」

 オレは斥候の作る不定形の影にダイブする。
 ドポンという音がしそうな勢いで、影の作る亜空間へと侵入する。

 光が無いので全く見えないが、AR表示やレーダーは別だ。
 オレが斥候本人と「詠唱」の宝珠に付けたマーカーがヤツの場所を教えてくれる。

 ミーアが攫われた時に「不死の王」ゼンの影に潜った時は何もできなかったが、今度は違う。
 オレは影空間を閃駆で飛翔し、斥候から小袋を奪ってストレージの中に収納する。
 そして、すぐさま中の宝珠を全てストレージの別フォルダへと移す。

 セーフ。これで一安心だ。

 後は、脱出だ。
 前は気合を入れて叫んだら出られた。

 今度も同じで良いだろう。

「回収完了!」

 漆黒の空間が割れ、元の王都へと帰還する。

「ば、馬鹿な。キサマ何者だ! デタラメすぎる。魔法ではなく気合で空間に干渉するなど……」

 ――LWEEENN。

 ガラスを弾いたような音が聞こえた。
 何の音だ?

「ま、まさか、勇者では無いのか? まサかキサマはカミ、いや、そんなバカナ事があるはずがナイ」

 呂律が回らなくなり始めた斥候の肌の上に赤い縄状の模様が現れている。
 ヤツの背中がメコリと変形する。

 どうやら、こいつも魔人薬の常習者だったようだ。
 何が原因かは判らないが、大方、精神の安定を欠くと身体の中の魔物の因子が活性化するとか、転生者の魔王化と似たような理由だろう。

 こいつを助ける義理は無いが、目の前でスプラッタな光景を見せられるのはゴメンだ。
 魔力を抜いてやれば、魔人化は防げるだろう。

 オレが「魔力強奪(マナドレイン)」を発動するのを邪魔するように、空から桜色の触手が幾本も降ってきた。

 そのまま魔法を発動し、聖刃を手に作り出して触手を切り払う。
 斥候に付けたマーカーが桜餅魔族に飲み込まれた後消えてしまった。

 マップを開いて確認したが、斥候はまだ死んでいない。
 現在位置は、マップの存在しない空間となっている。

 ――もしかして、オレは勘違いしていたのかもしれない。

 オレは閃駆で桜餅魔族の上空へ移動する。
 ヤツの残体力は二割ほどだ。

「リザ、倒せ」
「承知」

 青い軌跡を描いて、リザが桜餅魔族に突撃する。
 それを阻もうと襲う触手はミーアの操るベヒモスが防ぎ、詠唱頭の放つ上級魔法はアリサの空間魔法が反射する。

 そして、黄金鎧の空中ステップと瞬動の組み合わせで桜餅魔族に迫ったリザが、桜色の体表に白い槍を突き立てる。
 桜餅魔族の前に幾重にも展開された魔法防御の壁がリザの白い槍の前に立ち塞がる。

 だが、それは無意味だ。

 薄膜を割るようにリザの白い槍が、桜餅魔族の防御壁を突き破っていく。

 ――竜の牙は全てを穿つ。

 それは竜の身体を離れても有効だ。

 ――竜の牙は魔王をも滅ぼす、究極の刃。

 ならば、防御特化だろうが、上級魔族ごときの防御を貫けぬはずがない。

 リザの竜槍・・ヘイロンが、桜餅魔族の身体に突き刺さり、残り体力を削りきる。

「その槍は反則ポヨォォオオ」

 そんな悲鳴を残して桜餅魔族が桜色の靄となって消える。





 やっぱり、そうか――。

 オレが見つめていたのは桜餅魔族ではなく、ヤツに付けたマーカーの方だ。
 復活までの間、ヤツの現在位置は斥候と同じ「マップの存在しない空間」だった。

 オレはテンチャンの言葉を誤解していたようだ。

 桜餅魔族は「周辺空間が壊れるほど威力がある禁呪」でないと倒せないのではなく、「周辺空間を破壊する」事ができる禁呪でないと倒しきれないという事だったのだろう。

 そこに存在すら忘れかけていたミトの叫びが響き渡る。

「……■■■■■■ 神威崩魔陣ディバイン・ディストラクション!!!」

 無数の風鈴を鳴らしたような音の雨が王都の空に響く。
 次の瞬間、ミトの魔法が王都に蓋をしていた魔法陣を破壊し尽くしていった。

「よくやった、ミト。この身体を任すぞ、ヤツの止めは任せろ」

 もっと空気だったテンチャンが嬉しそうに叫んだあと、電池が切れたように脱力する。
 ――こいつは何がしたいんだ?

「………コネクション・ロスト。ユーザーのログアウトを確認。アバターの操作権を回復。自律モードに移行します。ミト、指令をどうぞ」
「あっちゃー、天ちゃんの本体が来たら、王都の被害が増えちゃう」

 ロボのようなセリフを吐き出したテンチャンの言葉を真に受けるなら、さっきまではどこか別の場所にいた本物のテンチャンが、このホムンクルスに憑依して操作していたのだろう。

 そして、ミトの今のセリフからテンチャンの正体とは――。

「いよっしゃー! 七回目撃破!」

 アリサの威勢の良い言葉が、オレの思考を中断する。

 先ほどと同じように桜餅魔族が桜色の靄となって消えて行く所だ。
 もし、ヤツの再生の秘密が、オレの想像通りなら――。

 オレはAR表示を全てOFFにして、精神を研ぎ澄ます。

 ――ここだっ!

 ヤツが通常空間に現れる時の僅かな違和感――隙間を捉える。
 それは分子一個分のほんの小さな隙間だったのかもしれない。

 ――だが、隙間は隙間だ。

 影の空間を抉じ開けられるなら、同じ亜空間が抉じ開けられないはずが無い。

「うぉおおおぉぉぉぉぉ!」

 オレらしくない裂帛の気合で、空間の隙間を両手で抉じ開ける。

「理不尽ポヨ! 原始魔法じゃあるまい――」

 気になるワードが聞こえたが、今は殲滅が先だ。
 オレは亜空間の中に潜んでいた90匹近い桜餅魔族に向けて、「集光(コンデンス)」「光線(レーザー)」のコンボを叩き込んで蹂躙していく。

 ――ポヨポヨと喧しいが一匹も残さん。

 最後の一匹を潰し終わった所で、ログに上級魔族討伐が表示された。
 崩れる空間と共に漆黒の靄が空に消えていく。





 レーダーに斥候の男が再表示された。
 桜餅魔族と一緒に殺してしまったかと思ったが、無事だったようだ。

 こちらに背を向けて地面に座り込んだ斥候が、何かうわ言のようにブツブツと呟いている。
 ヤツの身体の模様は活性化を止めて黒ずんだ状態になっているので、最悪の事態は避けられたようだ。
 あの呟きが呪文だったら嫌なので、「短気絶(ショート・スタン)」を3発ほど叩き込む。

 オレは斥候を拘束するべく、「棘蔦足(ソーン・フット)」の蔦を片手にヤツの傍へと天駆で接近する。

 ――何か引っかかる。

 オレは見落としが無いか思考をフル回転して、違和感の正体を洗い出す。

 ――そうだ。桜餅魔族の触手だ。

 なぜ、桜餅魔族は斥候を助けたんだ?
 ヤツラにとって人はオモチャに過ぎないはず。

 斥候の身体の表面で、「短気絶」の魔法が防がれた。
 桜餅魔族の置き土産か!

 ならば――。

「…… ■ 神霊光臨インヴォーク・デイティー

 巨大な魔核を腹に抱き込んでいた斥候が、それを天に掲げた瞬間、激しい白光に包まれる。
 手遅れかもしれないが、オレは咄嗟に「光線」の魔法を発動して斥候の掲げる魔核を両断した。

 ――この詠唱時間を稼ぐ為だったのか。

 だが、身構えても何も起こらない。
 詠唱を終えた斥候が、ミイラのような姿になって地面に倒れる。
 最後の瞬間に持っていた魔核も蒸発してしまったのか、どこにも存在しない。

 ……もしかして、詠唱失敗だったのか?

「ね? 今のなんだったの?」
「神を降ろそうとしていたみたいなんだが……」

 呆然としたアリサが問いかけてくる。

「サトゥー! 危ないの、精霊が騒いでるの、泣きそうなの。どの子も地面に潜ろうとしている。上が怖いみたいなの、上よ」

 ミーアの久々の長文の警告に従い、空を見上げる。

 ――月をバックに三本の黒い線が見えた。

 その線を見た瞬間、身体の奥底に氷柱を抉りこまれたような冷やりとした恐怖に捕まった。
 恐怖耐性を最大にしても、ダメだ。

 完全には恐れを払えない。

 タマがオレのマントの陰に潜り込んで足に掴まって震えている。
 ミーアが反対側の足にピタリとくっ付いた。

 今のところオレとこの二人しか、あの黒い線の恐ろしさを悟っていないようだ。

「ナナ、『キャッスル』発動! リミッター解除で使え!」
「イエス、マスター。『キャッスル』モード起動」
「全員ナナの傍に集まれ! ルルも『フォートレス』を起動しろ」
「は、はい!」

 オレはミトとテンチャンの抜け殻を「理力の手」で捕まえて一緒に皆の傍に連れてい行く。
 ナナに続いて、オレも彼女と同じ「キャッスル」モードを起動する。
 これはフロアマスター戦で使った「フォートレス」の3倍以上の防御力がある上位版だ。

「え? 何この魔法? 聖盾や聖鎧と同系統だけど、魔力の編み方がヘン。緻密すぎる。こんな魔力を編むのは人間には無理なはず……」

 オレ達の黄金鎧の作り出した防御壁「キャッスル」を見たミトが、うわ言のようにそんな事を呟く。
 だが、今は相手をしてやる余裕がない。

 これで大丈夫のはずなのに、危機感知が止まらない。

 ――そうだ、オレは忘れていた。

「アリサ、空間魔法の準備を頼む」

 ――セーラが教えてくれた預言は「王都に悪夢が訪れ、天より黒き災いが舞い降りる」だ。

「へ? ナナ達の防御に干渉しちゃうわよ?」
「使うのはオレ達三人の防御が突破されそうになったらだ。いざとなったら王都の外に脱出する」

 ――前者は桜餅魔族だろう。では後者は?

 オレの言葉に皆が驚いたように振り向く。
 皆を代表してアリサが問い掛けてきた。

「あの空から落ちてくる三本線って、そんなにヤバいの?」
「ああ、オレの予想が正しかったら――」


 オレはストレージから神剣・・を取り出す。


 ――今度の敵は“神”だ。
※次回更新は 11/23(日) の予定です。


【宣伝】
 本作、「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」の三巻が 11/20(木) に発売予定です。
 早売りのお店だと 11/18(火) あたりから置いているようです。


●人物紹介
【ミト】   彼女の正体は王祖ヤマト(Lv89)らしい。また、第一話で失踪していた後輩氏の可能性が高い。サトゥーは彼女の事をヒカルと呼んでいたが……。
【天ちゃん】 大剣を持つ銀髪の美女。竜の様なブレスを吐き背中にコウモリのような翼があるホムンクルス。誰かの使い魔。
【斥候】   魔法信奉宗教団体「自由の光」の構成員。レベル40台で斥候系スキルと光魔法、神聖魔法が使える。
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