挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
360/530

12-24.桜色の上級魔族

※2014/10/26 誤字修正しました
 サトゥーです。家庭用ゲーム機のRPGには多彩なボス敵が出てきます。ゲームの時は飽きずに遊べて楽しかったのですが、攻略本も無しにノーミスクリアが必要な現実だと、ただ厄介なだけだと思うのです。





「やめろっ! やつらは最古参の上級魔族の中でも防御に特化したヤツだ。たとえ、禁呪でも多少のダメージを与える程度。無詠唱で使える上級魔法では目くらましにしかならん」

 オレが「集光(コンデンス)」を発動したのを見た銀髪美女のテンチャンが、オレの前に立ちふさがって長文でまくしたてる。
 せっかく良い位置に着いたのに、照準のやり直しだ。
 ……次に邪魔をしたら、実力で排除させて貰おう。

戦術輪話タクティカル・トーク」を通じて、アリサに対上級魔族用の指示を出す。
 同時に、上級魔族出現の少し前に出現していた大樹型の魔物の始末に派遣していたリザ達から、討伐完了の報告を受ける。

 仕切り直しのついでに、どの程度の魔法防御性能があるのかを試してみよう。
 オレは射線を必要としない「爆縮(インプロージョン)」の魔法を、桜餅みたいな上級魔族に対して発動する。

 標的の桜餅魔族を包み込むように無数の爆発が一斉に発生した。
 爆炎と衝撃破が内側に向かって殺到し、その余波が周囲に吹き荒れる。

「なっ――」

 背後で巻き起こった爆音にテンチャンが驚いて振り向く。
 直後、「爆縮(インプロージョン)」が巻き起こした余波の爆風に巻き込まれて何処かに飛ばされて行った。これでしばらく静かになる。

 着弾地点周辺の家屋や庭木が爆風に飛ばされてしまっている。
 この「爆縮(インプロージョン)」はオレの使う中級魔術の中では周辺被害の少ないモノなのだが、それでも街中で使うのはやめた方が良さそうだ。

 ――ん?

 爆炎の向こうからピンク色の触手のような物が三本ほど飛び出て来た。

 先ほどの魔法では桜餅魔族を始末できなかったようだ。
 どうやら、テンチャンの言っていた「防御に特化したヤツ」という情報は正しいようだ。

 襲ってきた触手を回避しながら、聖剣デュランダルで切り裂く。
 防御特化という割には問題なく軽々と切断できた。

 切り裂いて本体から分離した触手は「火炎炉(フォージ)」の魔法で焼き尽くす。
 上級魔族の部位は放置すると下級魔族に変化したり、復活の起点になったりしてやっかいだから後始末は大事だ。

 そこに爆炎の煙を曳きながら、桜餅魔族が姿を現す。
 桜餅魔族の周囲を、術理魔法系の透明な多面体の防御膜が包んでいる。
 ほとんど壊れ掛けなのか、穴だらけで、端からパリパリと霜が剥がれる様に割れ落ちて宙に消えていくのが見える。
 さらに、本体にも一割ほどのダメージが通っているとAR表示が教えてくれている。

「――なんだ、ちゃんと効くじゃないか」

 どうやら完全防御という訳ではないようだ。
 公都の地下で戦った魔王と同レベルの防御力と言えるだろう。

『名乗りを上げる前に攻撃とは、今代の勇者は卑怯ものポヨ』

 ――ポヨ?
 語尾のネタが尽きたか、上級魔族っ!

 内心で罵倒しながら、「戦術輪話タクティカル・トーク」を通じて、アリサからの準備完了の報告を聞く。
 しばらく待機にするように伝え、オレは桜餅魔族と相対する。

「突然の奇襲で王都を混乱に陥れておいて、卑怯が聞いて呆れる」
『何を言ってるポヨ。我ら魔族は悪ポヨ。悪は卑怯、卑劣、非道、残虐、そういうものと決まっているポヨ。我らが主上がそう決めたポヨ』

 ……ポヨポヨうるさい。

 今まで出会った上級魔族は、詠唱用の頭が付いていたが、この桜餅魔族は体表のピンク色の粒々が全て頭になっているようだ。
 オレと会話しながらも、粒から詠唱の咆哮が聞こえ、桜餅魔族の周囲にある防御膜が復活していく。

「ふん、開き直りか――」

 そうだ、こいつから事件の真相を聞きだそう。
 テンプレな悪役なら、ペラペラと話してくれるかもしれない。

「――この王都で何を企んでいる? 魔王の顕現でも企んだのか?」
『ポヨ? 紫色の髪ポヨ? 勇者のマネをした卵ポヨ。偽王の孵化の手伝いに来て本物の孵化ができそうポヨ』

 ……まて、こいつは何を言っている?

 恐らく卵は転生者を指す隠語だと思う。
 黄金鎧の兜からたなびいているオレの紫色のカツラを見て転生者と誤解したのだろう。
 そして、転生者を魔王にする隠語が孵化なのだとしたら……。

『魔王を信奉するニンゲン共の召喚に応えた甲斐があったポヨ。王都の源泉の魔力を集める聖杯があれば、孵化も容易いポヨ。聖杯の魔力を瘴気に変える為の負の精神波動もたっぷりあって、失敗する方が難しいポヨ』

 この王都の混乱は王都の瘴気とやらを量産する為の物だったのか。
 目的が見えないと思っていたが、混乱自体が目的だったのなら見えなくて当然だ。
 後で忘れずに国王に顛末を伝えておこう。

『さあ、これまで何人も孵して来た名人の技を見せてあげるポヨ』
「――ふん、魔王なんかになる気はないぞ」

 もちろん、アリサも魔王にさせる気は無い。

『みんな初めはそう言うポヨ。でも、全力で戦えば自ら限界を超えようとして孵化しちゃうポヨ』

 なるほど、強制的に魔王にするワザがあるわけじゃなく、防御主体の桜餅魔族の特徴を生かして相手にユニークスキルを過剰に使わせて魔王化させようというのか。

 なら、躊躇はいらないな。
 せっかくだし、試作品の実験台になって貰おう。

「――ルル、撃て」

 オレの「戦術輪話タクティカル・トーク」越しの合図を受けて、狙撃ポイントに着いていたルルに指示を出す。
 不意打ちに備えてタマを護衛に付けておいた。

 青い光弾がレーザーのように桜餅魔族の防御膜に命中し、青い火花を上げる。
 弾頭は桜餅魔族に届かなかったが、修復したばかりの防御膜がガラスのような音を立てて割れた。

 アダマンタイトと「青液(ブルー)」を贅沢に使用した、聖弾とも言うべき新型の徹甲弾だ。
 硬さ自慢のアダマンタイト向きだと思ったのだが、魔法防御壁相手だと階層の主に使ったミスリル製の魔弾とさほど変わらなさそうだ。

『仲間に狙撃させたポヨ? 本当に卑怯な卵ポヨ』

 桜餅魔族が体表を揺らして、オレを罵倒する。

『勇者の聖剣でも防ぐ防御壁を破壊した威力は大したものポヨが、必殺の一撃も無駄だったポヨね』

 桜餅魔族がそう呟いて、哄笑をはじめた。
 この哄笑は呪文詠唱だったらしく、防御膜が修復し、さらに二重三重に桜餅魔族を包んでいく。

 ――だが。

照準弾・・・、命中!』

戦術輪話タクティカル・トーク」を通じてルルの涼やかな声がオレの耳に届く。

『浮遊砲台連動』
『イエス、マイレディ。フローティング・フォートレス、リンク・コネクション』
『砲塔群照準』
『アイアイマム。ファランクスシステム、ターゲットインサイト』
『発射!』
『イッツ、ショータイム!』

 ……ノリノリで音声を吹き込んだあの時の自分を殴りたい。
 これからは酒盛りの後の収録は避けよう。

 そんなオレの内心の葛藤に応じる者も無く、ルルのいる方向から莫大な魔力が発生する。
 それに気が付いた桜餅魔族が慌てて振り向くのが見えたが、もう遅い。

 曳光弾のような赤い光弾が、防御膜に当たって弾ける。
 続いて飛来した青や赤の光弾が一つ二つと命中し、やがてスコールのように降り注ぐ。

 一つの光弾が命中するたびに防御膜をガラスのように砕き、やがて桜餅の表面に着弾を始める。

 防御膜を割り。

 魔族の体表を抉り。

 粒状の詠唱器官を粉砕する。

 一発命中する度に桜餅魔族の体が震える。
 一撃一撃が、階層の主にトドメを刺した程の威力だ。
 ボクサーの連打に晒されたサンドバッグのように、桜餅魔族が右に左に翻弄されていく。

 瞬く間に桜餅魔族が虫歯のように抉れて行き、肉片を周囲に撒き散らす。
 オレはその様子を観察しながら、周囲に飛び散る肉片を空中にある間に「火炎炉(フォージ)」の魔法で焼却処分しておく。

 それでも防御特化型だけあって、ポヨポヨと悲鳴を上げる余裕があるようだ。

 ――その余裕もここまでだ。

『プラズマ・カノン、スタンバイ……』

 さきほどの連射はあくまで防御を抉じ開けるまでの前座だ。

『主砲発射!』

 塔を一つ飲み込むようなプラズマの弾丸が、桜餅魔族に激突する。

「アリサっ!」
『おっけー! 爆風処理はお任せ!』

 アリサの作り出した結界壁が、桜餅魔族に激突したプラズマの莫大な熱量を天へ導く。
 僅かに漏れた熱量が桜餅魔族の背後の屋敷を数十件消失させたが、人的被害は無いので許して欲しい。
 きっと国王が補償してくれるはずだ。

 赤い炎の柱が王都の天を焦がす。
 アリサの結界壁の内側は、圧倒的な高熱で地面がガラス状に変質し、すり鉢状に抉れている。

 そこには桜餅魔族の姿はない。
 上級魔族にしてはあっけない最後だ……。

 結界壁の向こうでは酸素がなくなって一時的に鎮火していたが、爆風が天に抜けた後に流れ込んだ新鮮な空気を受けて再び各所で小さな火災が発生している。

 遠くの貯水池には、ミーアが作り出した水の巨人が消火の為にこちらに向かう姿が目の端に映る。

『状況終了――』

 ルルの報告を遮って、ルルの護衛をしているタマに注意を促す。

「――タマっ!」
『あびない~?』

 ルルのいた給水塔が倒れていくのが見える。
 もちろん、二人は無事だ。近くの建物の屋上に着地する二人が見える。

 ――タマを付けていて良かった。

 どうやら、桜餅魔族と一緒に現れた二体の魔族の内の片方がルル達を襲ったようだ。
 もう片方の魔族は、ミトの邪魔をしているらしく、聖剣クラウソラスの自動攻撃やテンチャンと戦っている姿が見える。

『ルルとタマを回収完了したわ』
「了解」

 そこに転移魔法を使ったアリサからの報告が入る。

 オレは「光線(レーザー)」の魔法を発動して、二体の魔族をさっさと輪切りにして始末する。
 うっかりテンチャンを焼き殺さないようにするのが、少々面倒だった。

 輪切り魔族の残骸も焼き尽くしたいが、距離がありすぎる。
 閃駆で始末に行きたいところだが、ここを留守にする訳にはいかない。

 なぜなら――。

「そろそろ、死んだ振りは止めたらどうだ」
『よく気が付いたポヨ。普通はそこで油断して後ろから撃たれて終わりポヨ』

 宙に浮き出るように半透明の桜餅魔族が実体化する。

 ……どうやら、防御特化型と言うのはダテじゃなかったみたいだ。
※次回更新は 11/2(日) です。
 活動報告による感想返しが止まっていて申し訳ありません。


【宣伝】
 本作、「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」の三巻が 11/20 に発売予定です。
 既にAmazon等で予約が始まっているようです。
 3巻の見所や店舗特典等については月末の公式サイト更新後の予定です。


●人物紹介
【ミト】   彼女の正体は王祖ヤマトらしい。また、第一話で失踪していた後輩氏の可能性が高い。サトゥーは彼女の事をヒカルと呼んでいたが……。
【天ちゃん】 大剣を持つ銀髪の美女。竜の様なブレスを吐き背中にコウモリのような翼があるホムンクルス。誰かの使い魔。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ