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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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12-22.混乱の王都

※今回は三人称視点です。
※2014/10/13 誤字修正しました。
※後書きに人物紹介抜粋を追加しました。

 年末の王都は阿鼻叫喚の地獄の様な混乱の中にあった。

「くそっ、鋼鉄の剣が欠けやがった」
「ちっ、俺の槍もだぜ」

 王都の警邏中に魔物と遭遇した不運な衛兵達が奮戦していた。
 石畳の地面を突き破って出てきた象ほどもある巨大なコオロギの魔物と、彼らが最初に接触した。
 普段よりも重装備とはいえ、犯罪者相手に活躍する衛兵には荷が重く、形勢は魔物側に傾いていた。

 だが、ジリ貧だった彼らの元に救世主が現れた。
 通りの向こうから現れた三十名ほどの団体が、魔物に踊りかかる。

「助太刀いたす! 魔物の相手は我らに任せろ!」
「おお! 騎士様、感謝いたす」

 騎士隊長がミスリル合金の馬上槍を片手に魔物の顔面に突撃する。
 その攻撃は魔物の体表に生まれた赤い膜に阻まれるが、衛兵達の剣の様に欠ける事はなかった。
 しばしの拮抗の末、赤い膜が硝子の様に割れる。
 だが、赤い膜の抵抗で馬上槍は魔物の頭から逸れて空しく体表を滑る。

「これが赤縄かっ」

 騎士はその勢いのまま、魔物の横を駆け抜ける。
 残りの騎士達が、隊長に続けとばかりに突撃を開始した。

 だが、魔物も倒されるのを待つばかりではない。
 先ほどまで触角と前肢で戦っていた魔物が、騎士達に向かって体当たりを仕掛けてきた。
 弓から放たれた矢のように、魔物が騎士達を跳ね飛ばしながら跳躍する。

 半数以上の騎士が跳ね飛ばされ数名が落馬したが、分厚い鎧と鍛え上げられた筋肉に守られた彼らに死者は出ていない。
 倒れた騎士の血に濡れた視界に、魔物の前に立ち尽くす街娘の姿があった。

「ぬおおお、魔物よ! キサマの相手はこっちだ、この便所虫野郎めっ!」

 騎士は気力を振り絞って立ち上がり、魂の限りで挑発の言葉を魔物の背に叩きつけた。
 街娘に鼻先を向けていた魔物の興味が騎士に移る。

「えらいね、流石は男の子。ここは手伝ってあげるから、もうちょっと休憩していなさい」

 街娘は子供に言い含めるようにそう告げて、手にした箒をクルクルと回す。
 どうやら街娘は魔物と戦う気のようだ。

 魔物の触角がムチのように襲ってくるが、街娘は器用に箒で右に左にいなす。
 さらに魔物が振り下ろした前肢を、街娘がひょいと飛んで避けた。

「に、逃げろ。箒などでどうにかなる相手ではない」
「だいじょ~ぶ、ま~かせて」

 騎士にピースサインを送った街娘の顔には、お忍びの貴族が付ける様な認識阻害のベールが掛かっていた。
 街娘が手にした箒の柄で、魔物の頭を下から跳ね上げる。
 まるで巨人の振るうハンマーで殴られたように、魔物の頭が勢い良く仰け反る。

「なっ、バカな」

 勇者物語か喜劇のような現実離れした光景に、騎士の口から現実逃避の言葉が漏れる。

 さらに街娘が箒の三連突を魔物の下あごに叩き付けた。
 魔物がどうと街路の脇にある家屋に倒れこみ、建物を瓦礫と土埃に変える。

「あちゃぁ、これ弁償とか請求されちゃうのかなぁ」

 そんな街娘の場違いな心配を他所に、騎士達が次々に身体を起して魔物に向けて得物を構える。
 満身創痍だが、婦女子に戦わせたままでは騎士としての面目が立たない。

「時代が変わってもシガ王国の騎士の魂は健在だね」

 街娘が腕を組んで偉そうにうんうんと頷く。
 瓦礫に埋もれながらも、魔物は触角を器用に動かして騎士を襲う。騎士達が帯剣や盾で触角を防ぐたびに火花が上がる。

「よ~し、お姉さんからのプレゼントだよ! こんなサービスめったにしないんだからね」

 街娘が箒を持った手を振ると、騎士達の剣が光を帯びて輝きだす。
 もしここに鑑定のスキルを持つ者がいたら、上級術理魔法の「神威光刃デバイン・ブレード」だと見破っただろう。

 瓦礫の下から襲ってきた魔物の触角を、騎士隊長が輝く剣で受け止める。
 先ほどまでは火花を上げて弾いていた触角が、剣に触れた途端スパリと斬れて飛んで行った。

「なんと!」

 それを見た別の騎士が馬上槍を魔物の胴に突き刺す。
 槍は豆腐に釘を刺したように軽々と魔物の胴体を貫いた。


「ミト、何を遊んでいる。我らの敵が現れたぞ」
「あ、天ちゃん。敵なら、そこで串刺しにされてるよ?」

 長い銀色の髪をした怜悧な眼差しをした女性が、屋根の上から街娘の前に降り立つ。
 街娘と同じく認識阻害のベールを付けていてその顔は隠されているが、この場にいた全ての騎士がベールの下の彼女の素顔が美しい事を確信していた。

「……あれを見ろ」

 銀髪の女性が白魚の様な指を天に向ける。
 それに釣られて空を見上げた人々が、王都の上空に広がる魔法陣を目にした。

「うあ、やっばいわねぇ」
「あそこに浮いている紫髪が騒動の黒幕だろう。さっさと始末に向かうぞ」

 銀髪の女性が魔法陣の中心付近を指差すが、騎士達には人影など見えなかった。
 だが、ミトと呼ばれた街娘の方には見えたようだ。

「空中に浮いてるね。やっぱ、魔王候補なのかな?」
「知らん、戦えば敵か味方か分かる。魔族か魔王なら滅ぼせば良いのだ」

 物騒な発言をした銀髪の女性が無骨な白い大剣を片手に、街路脇の家屋の屋根をぴょんぴょんと飛び跳ねて去っていく。

「ちょ、ちょっと待ってよ~」

 街娘は箒を脇に挟んで、長いスカートの裾を両手で上げて追い駆けていった。





「陛下、今夜の魔物の発生報告が七箇所を越えました」

 宰相が伝令からの報告を国王に伝える。
 これまでは一日に二箇所が最大だった事を考えると異常と言っていいだろう。

「そうか……」

 巌の様な静謐な沈黙を経て、国王が決断を告げる。

「将軍達よ、各騎士団に出撃準備を通達せよ。別命あるまで待機を徹底させ、決して功を焦って勝手な出撃をさせぬように」
「「「御意」」」

 将軍達が小姓に通信塔への伝令を命じる。
 通信塔は光魔法使いによる信号を外壁傍の騎士駐屯地に伝える為の物だ。

「宮廷魔術士長よ、シガ三十三杖に王都全体の索敵を実行させよ。結果は我が元に伝えると同時に各通信塔にも伝えるのを徹底させよ」
「御意。……なれど、我等がシガ三十三杖は王国最大の矛としての任こそが本道と心得まする。陛下には――」

 抗弁する宮廷魔術士長に、国王が重々しい声でそれを遮る。

「宮廷魔術士長よ、王命である」
「……王命承りましてございます」

 面従腹背を絵に描いたような苦々しい顔で宮廷魔術士長が平伏する。
 その事に目敏く気付いた宰相がフォローの言葉を重ねる。

「宮廷魔術士長よ、汝らが矛として働くに相応しい敵は未だ現れぬ。此度の件の後ろに潜むのは恐らく――」

 宰相の言葉に誘導された宮廷魔術士長が、はっと息を呑んでキリリとした表情を作る。

「上級魔族、あるいは……」

 顔を上げた宮廷魔術士長が熱に浮かされたように呟く。

「陛下のご下命謹んで果しましょう!」

 宮廷魔術士長は王祖伝来の国宝「聖杖オーファリアン」を振り上げて颯爽と退場して行く。
 周囲の冷ややかな視線は彼には届かない。

 魔物の出現を報せる伝令が10を超えた所で、国王が玉座から立ち上がる。

「宰相、『コウホウの間』を使い、民に避難を指示する」
「御意」

 宰相は侍従達と侍女達に、王祖ヤマトが作った「広報の間」の起動準備と国王の儀式用の支度を命ずる。





『親愛なる我が民達よ――』

 不気味な魔法陣に重なるように王都の夜空に国王の姿が投影される。声は王都各所にある報知用の塔からだ。
 王都の人々の記憶にある限り、新年の祝いや戴冠式以外で、この機能が使われたことは無い。

『魔族によって、我が王都に――』

 だが、空に浮かぶ国王の姿を見上げる人は少ない。
 王都の人々はこの放送の直前に王都各地に出現した魔物達から逃げるのに必死だった。
 避難を指示する国王の放送は、少しばかり遅かったようだ……。





「おい、何人生きてる?」
「わかんねぇ、魔法薬ポーション残ってねぇか? さっきから左手の感覚が無いんだ」
「そんなもん、とっくに使い切ったよ」

 瓦礫の陰で半死半生の騎士達が力なく言葉を交わす。顔色の悪い方の騎士は、片腕が半ばから取れそうなほどの重傷だ。
 盾は壊れ、剣も鈍器と変わらないほど刃が欠けてしまっている。

 瓦礫の向こうにある通りでは、五匹ほどのダンゴ虫の魔物が触角を揺らして、騎士達を探している。

「せめて、もう一匹くらい道連れにして――」
「短気を起すな。来週幼馴染と結婚するんだろ?」
「ああ、もう一目くらい顔を見たかった……」

 騎士の言葉が途中で止まる。
 倒壊した家屋の向こうから別のダンゴ虫が姿を現した。

「ちっ」

 鈍らになった剣を構えて立ち上がる騎士達。
 だが、その決意を嘲笑うように、ダンゴ虫の後ろからは同種の魔物が次々と彼らの前に転がり込んで来る。

「嘘だろ……」
「はん、望むところだ」

 強がる騎士に岩石のような勢いで魔物達が転がってくる――。

 だが、騎士達に届くより早く、魔物達の頭上に不可視の鉄槌が轟音と共に叩きつけられた。
 一瞬だけ魔物の表面に赤い膜が生まれるが、瞬く間に吹き散らされ、硬い甲殻に同心円のヒビが入る。
 その余波は強風となって、騎士達を近くの壁に押し付けた。

 衝撃破は魔物達の身体の奥深くまで届いたのか、どの魔物も横転して丸まったまま起き上がる気配が無い。

「うおっ」
「い、今のは『気槌(エア・ハンマー)』か?」
「……いや、もっと上位の魔法だろう。そんな事より、今の内に逃げるぞ」
「悪いが一人で逃げてくれ、立ち上がれそうも無い」
「うるさい、担いででも連れて行くぞ」

 そんな騎士達の熱い友情も、魔術を使った何者かには関係ないようだ。
 続いて飛来した透明な「理槍ジャベリン」らしき魔法が、魔物に――それも狙い済ましたように先ほどの衝撃波でヒビ割れた甲殻の中心に命中する。

 ゾフリと音を立てて透明な理槍が魔物の身体に潜り込む。
 次の瞬間、魔物の奥でくぐもった破裂音が響き、内圧で押されたように魔物の身体が一瞬だけ膨らみ、甲殻の隙間から赤い光が漏れた。

 そして、その人間離れした精度の攻撃は、その場にいた全ての魔物達に降りかかっていた。
 魔物達は只の一度の攻撃で躯に成り果て、その場に転がる瓦礫などのオブジェの仲間入りをした。

「……たった二撃だと?!」
「イテッ、何だこれ?」

 魔物の体から光と共に飛んできた小片が、騎士の一人の額に当たって地面に転がる。
 騎士が拾い上げたそれは、まるで魔核の欠片のような赤い石だった。

 騎士達は知らない――。

 最初の魔法攻撃が「誘導気絶弾(リモート・スタン)」と呼ばれる非殺傷魔法だという事を。

 そして、二撃目の魔法が初級の術理魔法「誘導矢(リモート・アロー)」である事を。

 なにより、その二撃目の魔法が魔物の奥深くにある魔核を狙撃して、内部から魔核を過負荷状態にして破裂させた事を。

 ――騎士達は知らない。

 世の中には知らない方が心安らかな事もあるのだ。





「おい、せっかく奇跡が起きたんだ。俺達を助けてくれた魔術師に礼を言うまで生き延びてやろうぜ」
「……そうだな」

 精一杯明るく同僚を励ます騎士だが、相棒の騎士の顔色は青を通り越してどす黒く死相を浮かべていた。
 そこにべしゃりと冷水が掛けられる。

「何しやがる!」

 その人でなしの所業に反射的に怒鳴りつけた騎士が見たのは、ピンク色の外套の下に黄金の鎧を纏った小さな騎士の姿だった。
 騎士が激昂する意味が判らないのか、黄金の騎士は小さく膝を抱えて座った姿勢で首を傾げている。
 掴みかかろうとする騎士を、さっきまで死に掛けていた相棒の騎士が掴む。
 それはさっきまで千切れそうになっていた方の腕だ。

「落ち着け……。今のは魔法薬だ」

 黄金の騎士が、地面に腰を下ろしたままの騎士を下から覗き込む。

「おてて大丈夫?」
「ありがとう。凄い薬だな」
「これあげる~?」

 黄金の騎士が手渡した小さな袋には、三本ほどの魔法薬が入っていた。

「良いのか?」
「支援物資~?」

 騎士の問いに、こくりと黄金の騎士が頷いた。

「かたじけない」
「なんくるないさ~?」

 少しもじもじとした黄金の騎士が、その場から消え去り通りの向こうに姿を現す。
 どうやら、そこでも先ほどここで行われたようなやり取りが繰り返されているようだった。
 この日、黄金の騎士の薬に救われた兵士や騎士達の間で、ピンク色のマントやバンダナがお守り代わりに流行る事になる。





「地獄の蓋でも開いたってのか?」
「どうする、ヤサク。あれは危険だ。肌がピリピリと粟立つ」
「ああ、リーン嬢ちゃんの水先案内で見た『階層の主フロアマスター』級だ」

 出現から僅かの間に街の一角を瓦礫に変えた大樹のような魔物の巨躯を、僅かに残った壁の陰から覗く探索者達。その後ろには彼らが守る市民の姿がある。

「ミスリルの連中を集めたら勝てそう?」
「ばーろー、無理に決まってるだろ」

 仲間の魔女の言葉に無精ひげの男が首を横に振る。

「あいつらが『階層の主』を倒した時の連中が全員揃ってるわけじゃねぇ。準備だって万端には程遠いさ。それに――」

 彼が言葉を区切って指差す先には、同クラスの魔物がさらに二匹姿を見せていた。桃色の団子みたいな魔物と六本の腕をもった人身鰐頭の銀色の魔物だ。
 その周りには二足歩行の小柄な魔物の姿もある。

「たーいへーんー」

 神官服を着た巨乳の探索者が、大変とは思えないのんびりした声で新たに現れた魔物の一匹を手にした杓杖で指し示す。

「あれってー魔族ぅー、それもー最低でもー中級ーの魔族よー。周りにーいるのもー下級ぅー魔族みたいー」
「魔族か、雑魚の下級はともかく中級は辛いな」

 探索者の一人、端正な顔立ちの魔法剣士が魔族を見て柳眉を逆立てる。
 彼は雑魚と評したが、それは高レベルの彼らだからこそ言えることで、普通は軍隊で相手をするような強敵だ。

「強そうなのです!」
「油断大敵と進言します」
「二人共、行きますよ」

 場違いな声に振り向くと、彼らが「階層の主フロアマスター」級と評した大樹の魔物の前に、黄金の鎧に身を包んだ三人の騎士が立っていた。
 その内、一人はドワーフか子供のように小柄だ。

「いつの間に……」

 呟く探索者達の目の前に、仮面を被った翼人の子供達が唐突に空中から出現した。

「案内しますから、今の内に避難してください」
「先導する~」

 白銀鎧の翼人の子供達が、探索者達に声を掛ける。
 手招きする彼らの言葉を信じて、彼らはその場を後にする決断をする。

 彼らの後ろでは――。

 青い軌跡を描きながら、朽木を倒すように大樹の魔物を倒す黄金の騎士達の姿があった。

 勇者のように詠唱も無しに上級魔術を使う騎士に、シガ八剣筆頭の秘奥義「魔刃砲」を只の牽制に連射する巨槍の騎士、目まぐるしく突撃しては大樹に大穴を空ける青光の大剣を使う小さな騎士。
 まるで夢物語のような現実離れした超常の騎士達の姿を横目に、彼らは危地を脱出する。

 後日、王都を救った黄金の騎士達の正体は、シガ八剣を破った蜥蜴人の槍使いを筆頭としたペンドラゴン七勇士ではないかと噂が流れた……。

 新年祝いの放送で、国王陛下から黄金の騎士達の正体が告知された。
 その正体は――。
※次回更新は、10/19(日)の予定です。
 次回から、またサトゥー視点に戻ります。

※活動報告での感想返しが止まっていて申し訳有りません。
※最後の引きは12章のエピローグに繋がるのでご注意ください。

●人物紹介
【ミト】     ゼナ幕間に登場した女性。下級竜とケンカをして勝利した模様
【天ちゃん】   ゼナ幕間で名前だけ登場した人物。フジサン山脈に住むらしい。
【ヤサク】    なにかと上級魔族と縁がある不運な探索者。
【シガ三十三杖】 宮廷魔術士達
【黄金鎧】    正体不明。迷宮都市で目撃証言あり
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