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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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12-14.王とナナシ

※2014/8/21 誤字修正しました。

 サトゥーです。「勘違い」モノというジャンルがマンガなどにはあるそうです。力のない主人公が力を持った別の有名人に間違われて、ちやほやされつつトラブルの渦中へと巻き込まれて行く話が多いようです。





 王都で魔物と遭遇した日の晩、オレは国王陛下と謁見していた。

 狗頭の魔王討伐の件を大げさに賞賛され、その褒章としてミツクニ公爵とかいう門地を押し付けられそうになった。

 ミツクニ公爵家というのは王祖ヤマトが二代目に王位を譲った後に創設された家門で、黄門様ばりに世直し旅をした事で有名らしい。
 シガ王国の四代目国王までは引退後にミツクニ公爵を名乗っていたらしいのだが、当時に何かあったらしく、それ以降は誰も継がなくなったそうだ。

 面白い逸話が聞けて楽しかったが、爵位自体には興味が無かったので適当に断った。

 爵位だけでは不満と思われたのか、今度は王国の南西にある「碧領」を領地にと提示された。
 碧領とは、黄金の猪王がフルー帝国を滅ぼすために生贄に使った七つの都市を指すらしい。

 貿易都市の西側とか迷宮都市の南側のあたりに広がる樹海の奥に眠る都市群で、今では魔物の巣窟なのだそうだ。
 過去に何度か軍隊を派遣して都市を確保したそうなのだが、周辺の樹海から溢れる魔物を抑えきれずに都市を放棄して撤退する結果になったらしい。

 ナナシなら都市の魔物を駆逐するのは簡単だが、それを恒久的に維持するのは手間が掛かりそうだ。
 領地経営や内政にもあまり興味が無い。

 都市育成系のゲームは良く遊んだが、現実は色々と面倒ごとが多いので遠慮したい。

 なので、軽い調子で断ったのだが、陛下や宰相にあからさまにがっかりされた。
 魔王を倒すほどの力があるのだから、その力で魔物から都市を取り返して欲しかったのだろう。





 雑談を少し挟んで、本来の用件に入る。

陛下(へーか)、王都に魔物が出没してるってエチゴヤの人間から報告を受けたんだけど」

 実際に遭遇しているわけだが、ここは伝聞の形にさせて貰った。

「流石はナナシ様。お耳が早い。宰相」
「はっ。ここから先は私が説明させていただきます。ここ数日の間、王都内で巨大な魔物出没の報告を受けております。どの魔物も突然地下から出没し、出現地点付近の人や建物を破壊した後に地下へ消えるそうでございます」

 やっぱり、地下からなのか。

「今まで7件の出現が報告されておりますが、そのうち逃亡前に討伐できたのは、シガ八剣のリュオナ卿の出動が間に合った件とミスリルの探索者達がたまたま遭遇した場合の2件だけでございます」

 リュオナって腹筋の女傑さんか。もう一件の探索者達っていうのはオレ達だな。
 マップで確認してみたが、地下道に魔物の姿はない。
 補足説明で7件の魔物全てに赤い縄状の模様があった事を伝えられた。虫型だけでなく鼠型の魔物もいたらしい。

「逃げた魔物の後は追跡したの?」
「はい、王都の兵を差し向けて地下道を探索させた所、件の魔物の遺体を発見いたしました。衰弱死していた魔物が三匹、腐敗していた魔物が一匹、何者かの刃と魔法で退治されていたのが一匹でございます」
「腐敗に衰弱?」

 殺されていた魔物は別として、他の四匹は勝手に死んだのだろうか?
 前に公都でオークのガ・ホウが王都の地下に同胞がいると言っていたから、地下で魔物を退治したのはオーク達だったのかもね。

「王立研究所で魔物の研究をしている者に調べさせておりますが、芳しい報告は届いておりません」
「なら、一つ情報をあげるよ。王都に鑑定スキル持ちの知り合いがいるんだけど、その人が例の魔物を見た時に、『魔身付与』っていう状態になっているのを確認したそうだよ」
「『魔身付与』でございますか? ――まさかっ」

 宰相さんも魔人薬の存在を思い出したみたいで、苦い顔で絶句した。
 前に迷宮都市で魔人薬を密造してた事件を思い出したのだろう。

 当時の主犯格だと目星をつけられていたケルテン侯爵は、派閥間の力関係を利用して処罰を免れていたはず。
 その後、「自由の光」とかいう魔王崇拝者達が、魔人薬を国外へ密輸しようとしているのも見つかっていたっけ。

「宰相、魔人薬の始末はいかが致した?」
「はっ、王立研究所で処分を行わせましてございます」
「どういう方法で処分したかは聞いた?」
「いえ、再利用不可能になるよう申し付けましたが、処分方法までは確認しておりません」

 まあ、普通だな。
 宰相もそれほどヒマじゃないだろうしね。

「もしかして、魔人薬を適当な薬剤や酸とかに溶かして下水道に流したんじゃない?」

 あるいは加工もせずに、そのまま下水に流したか。

 オレの言葉に宰相さんの眉がぴくりと動いた。
 顔色が少し青いが大した自制心だ。

「直ちに、研究所の所長と担当者を呼び出して確認いたします」

 宰相さんが呼び出し手配を命じに少し席を外した。

「ねぇ、陛下(へーか)。魔人薬に関する詳しい資料って無いの?」
「御座います。一部、王立研究所に貸し出しておりますが、それ以外は王城地下の禁書庫に収蔵されております」

 禁書庫の本を外部に出していいのか?
 まあ、機密度の低い内容なんだろう。

「ちょっと調べ物がしたいんだけど、その禁書庫への入室許可をくれない?」
「何を水臭いことを仰るのですか。この城はナナシ様の城も同じ。好きな場所に出入りいただいて構いません」

 いやいや、それはルーズすぎるだろう。
 オレは陛下に案内されて、王族のプライベートエリアの更に奥にある禁書庫へと案内して貰った。

 禁書庫は宝物庫に隣接しており、双方へと通じる場所に強力な侵入防止の魔法が施された重厚な門が設置されていた。
 門番の騎士はレベル30代後半の近衛騎士達で、マジメが服を着てそうな実直な人達だった。
 陛下相手にもマニュアル通りに通行目的を確認し、オレにも仮面を取って見せるように要求してきた。
 オレは仮面の下の顔マスクを見せて、門を通過する。

 途中で、禁書庫と宝物庫への回廊が分れ、オレ達は禁書庫への回廊を進んだ。
 陛下は若い頃に聖騎士をしていただけあって健脚だったが、老人に長距離を歩かせるのは悪い気がしたので、ストレージから出した椅子に座らせて、理力の手で持ち上げて運んだ。

 禁書庫に至るまで十三の門を潜ったが、三番目の門以降は人間の門番が配置されておらず、ゴーレムやリビングアーマーなどの魔創生物コンストラクターの門番ばかりだった。
 回廊にも一定距離ごとに配置されており、この先の禁書庫の重要性を物語っていた。

 隔壁の様な二重扉を潜って、オレ達は禁書庫へと入室した。
 紙の匂いがする。禁書庫内は暗く、本の保全を最優先にした湿度と温度に保たれているようだ。

 陛下が通行証に使っていたメダリオンを翳すと、館内に明かりが灯る。
 エントランスホールを抜けて、天井まで届く書架の列を抜ける。

 マップで確認した所、禁書庫には閲覧者が一人いるだけで、他には司書もおらず、整理作業用のゴーレムやリビングドールが二十体ほど配置されているだけだった。

「どなたがいらっしゃったのかと思えば、陛下でしたか」
「うむ、息災か? お前は相変わらず夜会にも行かず本の虫なのだな」
「ええ、幸運にもレッセウ伯との縁談も白紙に戻りましたので」

 国王と親しげに話しているのは、第六王女だ。彼女は18歳だからカリナ嬢より一つ下だ。
 少し茶色がかった黒髪をアップに纏め、瀟洒なティアラを着けている。

 レッセウ伯というと、さっき雑談で取り潰しがどうとかいう話題が出ていた若い領主さんの事だろう。

 第六王女は銀縁のメガネの奥から気の強そうな青い瞳でこちらに視線を向けた。

「こちらの怪しげな風体の方はどなた? 新しい護衛の方ですか?」
「口を慎め。こちらは勇者ナナシ殿だ」
「よろしくー、王女様」

 ナナシを王祖ヤマトと勘違いしている件は、陛下と宰相だけの秘密のようだ。
 オレが気安い感じで第六王女に挨拶すると、彼女は若干不愉快そうな表情を見せたあと、慇懃な挨拶をして自分の研究に戻って行った。

 その後、陛下に連れられて図書館の奥にある八本腕のゴーレムの所にたどり着いた。

「ナナシ様、これがこの禁書庫の『司書』でございます」
「ヘイカ、本日ハ、ドノヨウナ、本ヲ?」

 途切れ途切れの合成音声で、ゴーレムの司書が尋ねる。

「『司書』よ、シガ王国国王の権限において、こちらのナナシ様に三層までの書庫の閲覧許可を与える。処理せよ」
「ハイ、処理ヲ、オコナイマス」

 この禁書庫は四層まである。
 最下層のはダメって事が。まあ、マップのアイテム検索で書名は判るし、読みたい本があったら勝手に侵入して読めば良いか。

「ナナシ様、ご存知かとは存じますが、最下層の禁書庫は当代の国王にしか入室できない決まりが御座います。目録は『司書』に記憶させておりますので、必要な本がございますれば取ってまいりますゆえ御容赦を」

 いやいや、国王をパシリには使え無いでしょう。
 勝手に侵入するとは言えないので、「その時はヨロシク」と軽い感じで言っておいた。

 オレは陛下を地上に送ったあと、図書館に取って返し『司書』や小間使いのリビングドール達の手を借りて魔人薬の調査に取り掛かった。





 調べ物を終えてオレはクロの衣装で工場へと帰還転移した。
 ここの近くに下水道へと入る入り口があるのだ。

 南京錠で閉ざされた扉を潜り、下水道へと降りる。
 コウモリや鼠の群れが襲ってきたが、適当に「軽気絶(ライト・スタン)」を使って蹴散らした。
 この魔法を使うのも久しぶりだ。

 マップを頼りに下水道を飛行し、事件のあった場所を含む128箇所の汚水を「理力の手(マジック・ハンド)」で採取する。

 途中で赤い縄状の模様のある魔物の死骸を二度ほど見かけた。
 どちらも鼠や虫に食い散らされていたが、片方は魔核が残っていた。朱一よりも白い色の魔核だ。

 念の為、両方の死骸を回収しておく。
 後で王立研究所に届けてやろう。

 近くまで来たので、ガ・ホウに会った時に着ていたナナシの衣装にチェンジしてオーク達の住処(すみか)にお邪魔する。

「やあ、はじめまして。敵意は無いから、その物騒な槍は下げてくれない?」
「この地を見られた以上、貴殿が生き延びる道は無い。覚悟召されよ」

 魔槍を持ったオークの青年リ・フウが目深に被ったフードの向こうで告げる。

 赤い軌跡を描いて突き出される槍を手で掴んで止める。
 リザやシガ八剣の第一位さんほどじゃないけど、鋭い突きだ。魔刃の収束もなかなかで、生半可な魔法の盾じゃ防げそうにない。

「バカな! ガ・ホウですら、我が槍をいなすのがやっとだぞ! 貴様何者だ!」

 それは最初に聞いて欲しかった。

「オレはナナシ、公都の地下にいるガ・ホウの友人だよ」
「き、貴殿がナナシ殿か! ガ・ホウから話は聞いている。先ほどの無礼は許されよ」
「ああ、構わないよ」

 リ・フウはガ・ホウより二百歳くらい若いオークだ。
 彼に案内されてオーク達の集落に入る。中には二十人近いオーク達がいた。大半はリ・フウと同じ世代だが、三人ほど幼いオークの子供達もいた。

 夜遅い時間帯だが、地下道で暮らすオークたちにとっては地上の人達が眠るこの時間帯が活動時間なのだそうだ。

「我らは仲間が減った時だけ、次代のオークを産むようにしておるのだ。実に百五十年ぶりの新生児だったので皆甘やかして困るのだ」
「そんな事ないよ! リ・フウの意地悪!」

 オークの子供も容姿が多少違うだけで、人族と変わらないな。

「お待たせ。ナナシさんが持って来てくれたご馳走よ。皆、お礼を言ってから食べなさい」
「「「うん!」」」

 迷宮産の肉類や魚介類が多いが、公都で買った食材も渡してある。一番喜ばれたのはクハノウ伯爵領の大根だった。
 オークの奥様方が調理してくれたオーク料理を(つつ)きながら、最近地下道に異変が無いか尋ねてみた。

「うむ、前に鼠の魔物と闘ったのだが、妙に丈夫な魔物でな。我らにも怪我人が出てしまったほどだ」

 やっぱり地下の魔物を退治していたのはオーク達だったか。

「ああ、リ・フウがいなかったら危なかったよ」
「こいつなんて魔族かと勘違いしたからな」
「だって、あんな防御壁を作る魔物なんていなかったじゃないか」

 オークの若者が言う防御壁は、リザの槍が一瞬止められたアレの事だろう。
 確かに彼らのレベルでは死人が出なかったのが不思議なくらいだ。

「ヘンって言ったら、ここ一ヶ月くらい地下の生き物が増えてるかな?」
「鼠とか丸々と太ってて美味しいもんね」

 ふむ、何か栄養源が――って魔人薬じゃないだろうな。

 オレはリ・フウと何人かの幹部に、危険な薬品が下水に流出しているかもしれない件を伝え、しばらくの間、地下道に住む生物を摂取しないように頼んだ。
 もちろん、その分の食糧は渡してある。ストレージには食べきれない食材が大量にあるので、保存の利きそうな物を一月分ほど渡しておいた。

「ナナシ殿、我らの為にここまでしてくれるのは何故だ?」

 御節介が過ぎたのかリ・フウにそんな事を問われた。

 ――何の為だろう?

「う~ん、御節介かな。あとガ・ホウは友人だからね」

 友人の親戚を放置して健康被害に遭われたりしたら寝覚めが悪いし。
 それに、ここで御節介を焼いたら、地下道のパトロールとかをしてくれるかもしれないしさ。

「そうだ、御節介ついでにコレもあげるよ。ガ・ホウにあげたみたいに聖剣じゃないけど」
「こ、これは魔剣か?」
「魔槍もあるぞ!」
「どっちも、魔力を通し易いだけの武器だけど、魔物相手なら役に立つと思うよ」

 量産品で悪いが、エチゴヤ商会用の魔剣と魔槍をプレゼントしておく。これで、戦力の底上げができるだろう。
 オーク達から感謝の言葉を受け、オレはオーク達の住居を後にした。

 ――さて、明日は王立研究所だ。

 早めに対処しないと、魔物騒動でお目当ての店が臨時休業してたり、魔物に観光先が壊されていたりしたら嫌だもんね。

 さぁ、楽しく遊ぶ為に、もう一頑張りだ!

 朝日を全身に浴びながら、オレは気合を入れた。
※次回更新は 8/24(日)の予定です。 
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