挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
349/540

12-13.少年発明家

※2014/8/20 誤字修正しました。

 サトゥーです。努力が忌避される昨今ですが、努力による下積み無くして天才的な閃きが形になる事は無いと思うのです。日々の努力は自分を裏切らないと言いますからね。





 王都観光の翌朝、クロに変身してポリナの待つ工場へと転移する。
 例の発明家に会うためだ。

「ポリナ、相手は来ているか?」
「はい、クロ様」

 出迎えに出て来たポリナに案内させて応接間に向かう。

 ポリナがあけたドアの向こうに待っていたのは、予想外の相手だった。

「はじめまして! アオイ・ハルカと申します。家名は御座いますが貴族ではありませんのでお間違いなきようにお願い申し上げます」

 10歳の少女にしか見えない少年が、歳不相応に丁寧な名乗りを上げる。
 アオイはメネア王女の母国が召喚した日本人だ。大倭豊秋津島帝国人と言うべきかもしれないが細かい事は良いだろう。

「はじめましてエチゴヤだ。エチゴヤ商会の会長をしている」

 エチゴヤは姿も衣装も交遊欄の名前もクロのままだ。エチゴヤは判り易いクロの偽名として使っている。

「失礼を承知でお伺いいたしますが、越後屋さんは日本の方ですか?」
「貴殿とは違う日本だろうがな」
「やっぱり! 僕以外にも日本人がこちらの世界にきているんですよ!」

 興奮するアオイ少年を手で制する。
 サトゥーの時と性格が変わっている気がするが、こっちが地なのかもしれない。それにあの時はメネア王女が一緒だったし、日本人なのは否定したからね。

「落ち着け。まずは商談だ」
「はい! あのライターは自信作なんです――」

 アオイ少年が嬉々として苦労話や改良点なんかを語る。
 このままいつまでも続きそうだったので、制止して残酷な事実を伝える。

「あのライターは商品として成立せぬ」
「ど、どうしてですか? 機構だって簡単だし、オイルだってごく一般的な物を――」

 動揺するアオイ少年に、ポリナと話したライターの問題点を列挙してやる。
 それでも食い下がっていたアオイ少年だが、点火棒を見せて説明するとようやく納得してくれた。

「それで、次はどんな物を『発明』するんだい?」
「残念ですが、ライターが売れないなら次はありません。……資金が無いんです」

 今回のライターもメネア王女が資金捻出に貸してくれた指輪を質に入れて作った金だったらしい。
 シガ王国には融資を頼める銀行も無いからね。
 商会や商人ギルドはあるけど、融資してもらった金を返せなかったら奴隷落ちが待っている。

「では、私からの提案だ――」

 オレはアオイ少年をエチゴヤ商会の発明家&アドバイザーとして契約し、王都の屋敷内に研究室と研究費を与える提案をした。
 さらにダメ押しで金貨1枚の初任給と、メネア王女の指輪を質から出す金を貸与する事を提案した。
 こうして、アオイ少年がエチゴヤ商会に参加する事となった。

 彼を抱え込んだ理由は幾つかあるが、最大の理由は「神の怒り」を買う様な開発をさせない事にある。
 アオイ少年に内密の話だと断ってから、ムクロやヨロイから聞いた話を語り聞かせる。
 特に電波塔や汽車は考え付き易い利器なので、先に釘を刺しておいた。自分の資金提供が原因で王都が灰燼に帰すとか、笑えないにもほどがある。

 アオイ少年との用事はすんだので、ついでに彼と一緒にいる日本人のユイ・アカサキの近況を聞いてみた。

 彼女はメネア王女に付いて行った夜会で、知り合った高貴な身分の男性と婚約したらしい。
 向こうがユイに惚れてしまったそうだ。13歳の小娘に惚れるとか、ロリコン男に違いない。
 ユイにその気は無かったらしいが、猛烈なアタックに絆されて結婚の約束をしたそうだ。身分違いですぐには結婚できないが、その相手の親類の貴族の養女になって身分を得てから婚約する事になっているそうだ。
 今はその親類の貴族の紹介で、礼儀作法を学ぶ教室に真面目に通っているとアオイ少年が感慨深げに語っていた。

「エチゴヤさん、一人紹介したい先生がいるんですけど――」





 アオイ少年に案内されたのは、下町の小さな工房が並ぶ界隈だ。通りを幾つか越えるとスラム街があるような場所だ。

「先生! いませんか、先生」
「寝ているのではないか?」

 レーダーには室内に人を示す光点がある。
 ドアを固定しているのは只の閂のようだったので、「理力の手(マジック・ハンド)」でするりと開ける。

「開いているぞ」
「あれ? 本当だ――。先生! アオイです。入ります」

 アオイ少年が床に散らばった書付けを器用に避けて奥へ入っていく。
 床に転がった書付を見て眉を顰める。そこにはオレが作った2重反転ディスク式の空力機関を、別の理論と回路で設計した図面が書いてあった。

「エチゴヤさん、この人がジャハド博士です」
「御高名はかねがね承っております」
「ふん、社交辞令などいらん」

 アオイ少年が紹介してくれたのは、瓶底のようなメガネに寝癖のままの白髪の老人だった。人族にしては矮躯な以外は特徴のない外見をしている。
 彼は回転狂いと噂の老魔術士で、セーリュー市で彼の作品と著書を見てから一度は会いたいと思っていた人物だ。

 アイテムボックスから彼の著書と魔力コマを取り出して見せ、社交辞令ではない事を伝える。
 自分の著書とコマを見て、フンと鼻を鳴らしてオレに返して来たが、その後は覿面に態度が軟化した。

 彼は王立学院と王立研究所に籍を置いていたそうだが、門閥貴族出身の研究者の罠に嵌って両方の席を奪われてしまったらしい。
 今ではパトロンも無く下町で細々と魔法道具の修理で糊口を凌いでいるそうだ。

 ジャハド博士をエチゴヤ商会の研究者として誘ったのだが、色よい返事は返って来なかった。

「ふん、金などどうでも良い。わしを雇いたかったら、新型飛空艇の空力機関でも持ってこい! あの芸術的な二重反転円盤の素晴らしさを間近に見れるのなら、魔王に魂を売ってもいいくらいだ」
「二言はありませんね?」
「無い」

 オレは「理力の手(マジック・ハンド)」で部屋の一角に場所を作り、予備の2重反転ディスク式の空力機関をストレージから出した。アイテムボックスからだとサイズが大きすぎて無理だったのだ。

 目玉が飛び出そうなジャハド博士の姿に微笑を返し、雇用契約は成立した。
 彼なら、きっと空力機関をもう一段階上の性能に引き上げてくれるだろう。





 屋敷の部屋の手配や研究室の準備などの諸々を、新支配人とティファリーザに丸投げした。
 新支配人は何が嬉しいのか嬉々として行動を開始する。
 淡々と機材手配の書類を作成するティファリーザと対象的だった。

 一応、新型の空力機関は国防機密に属するので、ジャハド博士の下宿から一旦回収して新しい研究室に移動してある。

 分解手順のマニュアルや大雑把な構成図を渡しておいた。
 詳細な設計図はマップのメモ欄にしかないので、こんど書面に書き出すとしよう。





 エチゴヤ商会でのヤボ用を済ませ、皆を連れて二箇所目の噴水まで観光に来ていた。
 噴水が稼動するまで時間があるので、先に噴水の広場に集まっている大道芸を見て回る事にした。

「うっはっ! 懐い!」
「にょろにょろ~?」
「カバヤキさんなのです!」

 音のしない縦笛で篭に入った蛇を操る大道芸を見てアリサがテンション高く喜ぶ。

 ――懐かしい?
 アリサの故郷にはこんな大道芸が流行っていたのかな?

 蛇の類を見てポチが蒲焼を連想していた。
 さっき昼御飯を食べたばかりなのに、ポチの食欲に衰えはないようだ。
 今日の晩御飯はウナ重ならぬ、白角蛇丼でも作るか。

 副菜を何にしようか頭を悩ませ始めたオレの耳に、建物が崩れる音と人々の悲鳴が飛び込んできた。

「マスター、二時の方向に魔物を発見。排除行動に出ます。許可を」

 コオロギを巨大化したようなレベル30の魔物が、二階建ての建物を突き破って道路に出て来た。
 黒い体に蛇がのたうつ様な赤い模様が特徴的だ。

「ナナはアリサ達の護衛に残れ。リザは速やかに魔物を排除しろ。ポチとタマは怪我人を見つけたら回収して来る事。ミーアは治療準備。残りはオレとここで待機だ

「イエス、マイマスター」
「承知致しました」
「あい!」
「らじゃなのです!」

 皆の行動開始と同時にマップで周辺の再チェックを行う。
 直前までオレのレーダーには魔物が映っていなかった。転移か召喚か、いかなる方法で王都の中心街に魔物を呼び出したのか調べる必要がある。

 ――リザの槍がコオロギの魔物の表面に現れた赤い障壁で一瞬だけ止まる。

 そのままコオロギの障壁や装甲を破ってダメージを与えたが、一撃で止めを刺す所までは行かなかった。
 大技を発動していないとは言え、レベル30程度の魔物の防御でリザの槍が止まるなんてありえない。

「リザさん! そいつは『魔身付与』って状態に成ってるわ! 聞いた事のない支援バフ系スキルだから、本気技でいっちゃって!」
「承知!」

 アリサのアドバイスに従って、リザが魔力を通しただけの状態から魔刃が発生するレベルまで槍に流す魔力量を増やした。

 ――魔身付与?

 魔人薬の効果か!
 リザの螺旋槍撃がコオロギの魔物を粉砕するのを横目に、魔人薬を検索したが王都内に所持者はいなかった。

 魔人薬は徹底的な摘発が行われたはずだから、そうそう持ち歩いている人間がいるとも思えない。
 そこで、オレの脳裏に嫌な予想がぎった。

 ……証拠隠滅の為に下水に不法投棄された魔人薬が、魔物を産んでいるとかじゃないよね?

 王城の禁書庫に行けば魔人薬について書かれた書物があるはずだ。
 今晩にでもナナシで国王陛下に会いに行って、禁書庫の入室許可を取りつけよう。

 リザが回収してきた白っぽい魔核コアを受け取り、皆に倒壊した家屋に埋もれた人達の救出を指示した。
 幸い、死人はおらず、下級の治癒魔法で治せる程度の怪我人しかいなかった。

 出動してきた衛兵達に後始末を任せ、オレ達は噴水見物を楽しんでから帰宅した。

 王城で社交界デビューの特訓を受けているはずのカリナ嬢が屋敷にきていたが、心を鬼にして王城へ強制送還した。
 泣きながら「裏切り者ぉー」とか叫ぶのは外聞が悪いので止めてください。

 明日にでも美味しい物を持参して、特訓の陣中見舞いにでも行きますか。
※次回は、8/17(日)です。

※ようやく四章で名前が出ていたジャハド博士が出せました。
※ジョンスミス氏はいずこに……。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ