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デスマーチからはじまる異世界狂想曲 作者:愛七ひろ
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SS:幸運な子供達

※サトゥー視点ではありません。(迷宮都市の衛兵A視点です)
 本日2回目の投稿です。

 路地裏の暗がりに転がる3つほどの塊を、棒で軽くつつく。あくまで軽くだ。
 2つは、くぐもった声を漏らしながら動いたので、まだ生きている。問題は、最後の1つだ。

 代わってくれないものかと相棒に視線を送ったが、顎をしゃくって作業を促すだけで、手伝ってくれる気はないようだ。メシ代の借りがあるからしかたない。

 死んでてもいいから、腐乱してたりはするなよ。
 棒で、そのガキの顎を上に向かせる。

 僅かに口が動いていたが、もう先は無いだろう。

「どうだ?」
「生きてる」

 次の巡回は10日後だから、その時には腐乱してそうだな。俺も鬼じゃ無いから、この場で殺すわけにも行かない。上司に報告して、3日後くらいに別の班を寄越すように頼むか。

「さっさと行こうぜ、こんな所に居たら気がめいってくる」
「そうだな」

 ガキの顎から棒を引いて踵を返そうとしたところに、そいつは居た。
 闇の中から爛々と光る目がこちらを見ている。
 さっきのガキの消えそうな目とは明らかに違う生気溢れた眼光だ。

「何をしているのです? 小さい子をイジメてるのです?」
「ち、違う」

 思わず、どもってしまった。
 おかしい、普段は荒くれ者達を相手に丁々発止の荒事をこなしているのに。

「俺達は、太守の衛兵隊だ」
「えーへー? おまわりさんなのです! すごいのです!」
「そう、そうだ。オレ達は凄いんだ」

 おまわりってのが何かは判らないが、適当に合わせて退散しよう。
 こいつが、ガキ共を喰らっても、少し死ぬのが早くなるくらいだろう。

「この子達は、病気なのです?」

 暗がりから出て来たのは、犬人族の小娘だ。亜人の分際で、高そうな服を着てやがる。きっと変態貴族の奴隷なんだろう。うちの娘にも一度でいいから着せてやりたいぜ。

「空腹で死に掛けてるんだろう。お前みたいに金持ちの商人か貴族にでも買われていたら、生き延びれただろうにな」
「空腹は辛いのです! ひもじいのは悲しいのです!」

 急に慌て始めた犬娘が、鞄から何か笛のようなものを取り出して、力一杯吹いた。思わず耳をふさいだが、音は出ていないようだ。

「ご主人さま! ポチはここなのです!」

 笛を吹き終わった犬娘が、大声で自分の主人を呼び始めた。
 なんて、でかい声だ。

「大変なのです! 助けてほしいのです!」

 顔の横に手を当てて空に向けて、力の限り声を張り上げている。
 おいおい、大丈夫か? このガキ、頭沸いてるんじゃないのか?

「おい、行こうぜ」
「そうだな」

 同僚が、何かを思い出そうと首を傾げて居るが、面倒ごとは御免だ。

 急に吹いた突風が、路地裏に溜まった砂を巻き上げる。
 ちっ、ついて無いぜ。口の中がじゃりじゃりだ。

「ポチ、どうした。こいつらに苛められたのか?」
「ち、違うのです! この人達はおまわりさんなのです。違うのです、こっちに早くなのです。お腹が減って死んじゃうのです!」

 こ、こいついつの間に現れやがった。

「おい、どこから現れやガ――」

 いってぇ~。
 後ろから同僚に棒で殴られたみたいだ。あまりの痛さに声も出ねぇよ。

「すみません、ペンドラゴン士爵さま。同僚が失礼な事を」
「いや、こちらこそ失礼」

 貴族の若様相手だからって、そこまで卑屈になる事はないだろう?
 貴族様が、犬娘に手を引かれて死に掛けのガキのところに連れて行かれた。それを見届けてから、相棒に文句を付ける。

「何しやがる」
「それは俺の台詞だ。相手が誰かも判ってないのか?」

 いっつも俺の事を馬鹿にしやがって、ふん、ペンドラゴンだろ。ぺんどらごん?
 まさか?

「もしかして、迷賊王を退治したメイドの主?」
「どんな覚え方だ――まあ、良い。その人だ。ついでに言うと、太守夫人のお気に入りで、遠国で下級魔族を倒した事もある腕利きだ。迷賊王ごときメイドで充分相手ができるんだろう」

 ふう、危なく二重の意味で首が飛ぶところだったぜ。

「士爵さま、何を? 安楽死は、一応、国法で禁止されていますので」
「違うよ。ただの栄養剤の魔法薬さ」

 えいよーざい? って言うか魔法薬だと? こんな死に掛けのガキに銀貨が何枚もいるような魔法薬だって? そんだけあれば半年くらい喰っていけるじゃねぇか! 貴族の道楽ってヤツぁ……まったく。

「動いたのです!」
「ああ、あとはミテルナ女史に任せよう。この子達は連れて行くけど、何か手続きとかはいるのかい?」

 変態貴族のオモチャか。哀れだが、それでもここで野垂れ死ぬよりは百倍マシだろう。

「いえ、私共の方で、上司に報告しておきますので、そのまま連れて行ってくださって問題ありません。よろしければ、私どもがお手伝いしましょうか?」

 おいおい、相棒ちゃん? アンタ何言ってんの?

「いや、いいよ。ポチ、タマ、そっちの2人を優しく担いであげて」
「はい、なのです!」
「あい~」

 貴族様が断ってくれたお陰で面倒ごとにならなくて良かったぜ。
 なに?! この猫人のガキはいつのまに現れたんだ?

 同僚が慰めるようにオレの肩を叩く。
 何か知らんがムカつくから、同情すんな!

 その日を境に、路地裏で死に掛けるガキ共の姿を見かけなくなった。蔦の館の近くの公園によくうろついてる死にそうな爺婆も見なくなった。誰かが死体を回収しているのか、死にそうなヤツが減ったのか俺には判らない。

 一つ言えるのは、巡回のついでに死体回収なんて仕事をしなくて済むようになったって事くらいだ。



 半月後、見知らぬ3人の少女が詰め所にやってきて、礼を言って帰って行った。
 あんな身なりのいい娘に知り合いは居ないはずなんだが?

 相棒と2人、娘達が礼にと言って置いて行った料理に舌鼓を打つ。
 うん、美味い料理に罪は無い。
※10-42の孤児院に拾われた子供のお話。
 子供を拾ったのはタマでしたが、ポチに変えました。
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