幕間:ポチとタマのアルバイト
※サトゥー視点ではありません。(タマ視点)
※1/24 誤字修正しました。
「おい、そこのお前! 雇ってやるから付いてこい」
「別にいらないのです。それに今日はお休みなのです」
「せっかく雇ってやるって言ってるのに、生意気だぞ」
「むりじ~はダメ~?」
ポチと遊んでいたら、犬人の子供達に声を掛けられた。同い年くらいなのに、何か偉そう。
「ごめんね。こいつ、口が悪くてさ」
「ゴンは、可愛い子に意地悪な言い方しかできないダメなヤツなんだ。許してやってよ。僕はケン、こっちの背の高いのがハンっていうんだ」
「なんだよ、2人して」
背の高さで大中小、ハン、ゴン、ケン。3人とも犬人族の男の子。
「可愛いって言われたのです」
「ポチかわいい~」
ポチは可愛い。でも、3人の男の子は、どこか汚れていて可愛くない。
「どうかな? 日当は払えないけど、ちゃんと荷物運びをしてくれたら、御飯をご馳走するよ」
「ごはん! 肉なのです?」
「にく~?」
今日は、ご主人様がばーべきゅーするって言ってた。今から楽しみ。
「分かった。僕達も男だ。今日は肉を奮発するよ!」
「やったー、なのです!」
「いいのかよ、ケン。そんな安請け合いして」
「一人でいい格好しやがって」
いつの間にか、盛り上がる3人と一緒に迷宮に行く事になってた。ポチを一人で行かせるわけにもいかないもの。だって、お姉ちゃんだから。
◇
「ゴン、戻って、一人でそんなに前に出たら危ない」
「へへ~んだ、ゴブリンの一匹や二匹に、びびってんじゃねえよ」
「待ってよ、ゴンにケン。あんまり急いだら運搬人の女の子達が追いつかないよ」
ポチと顔を見合わせる。さっき3人が倒した跳ね芋が入った大袋をポチと2人で持っているだけだから、別に大丈夫。
「大丈夫なのです」
「らくしょ~?」
「そ、そうなんだ」
背の高いハンの方が、息が上がってる。大丈夫?
「うわ、物陰に2匹いた。ハン、お前も一匹引き受けろ。ケン、オレが倒すまで2匹を捌いていてくれ」
「了解。これはきついね」
ゴブリンがキーキーいいながら、3人の男の子達に飛び掛る。
投石で援護したかったけど、迷宮に入る時に「後ろから石を投げちゃダメ」って言われたから投げれない。
だから、応援しよう。
「がんばれ~?」
「頑張れなのです!」
「「「おう!」」」
ゴブリンに噛まれるたびに、血がぴゅーぴゅー出て、すごく痛そう。見ていられないのか、ポチが手の平で目を覆って顔を伏せている。
「手伝う~?」
「だいっ、じょうぅぶ、だ! 安心しろ」
あんまり大丈夫そうじゃない。
「おいっ、そこの犬人! 救援は必要か?」
「助かる! 2匹取ってくれ」
え~、さっきいらないって言ったくせに。
他の探索者達が来たら、素直に手伝ってもらってる。ちょっと複雑。
「分かった! ウササ、右端のヤツを」
「了解!」
ありゃ? ウササにラビビ。ぺんどら育成隊の卒業生達だ。シュピッのポーズでご挨拶。
うう、誰も気が付いてくれない。
「すごい、あっと言う間に1匹倒しちゃったよ」
「知らないのか? あれが『ぺんどら』だよ。青いマントを着ているから、卒業したエリート達だ」
数が減ったゴブリンを、犬人の男の子達が血を流しながら倒しきった。とっても痛そう。ポチが包帯で止血してあげてる。
「ありがとうございます」
「気にするな、困ったときはお互い様だ――えっ?」
あ、ウササがやっと気がついた。もう一度、今度はシュタッのポーズでご挨拶。
「え? タマとポチの姐さん? 何しているんですか、こんな所で」
「あるばいと~?」
「荷物運びのお仕事中なのです!」
ウササが変な顔をしている。お腹痛いのかな?
「2人とも『ぺんどら』の人と知り合い?」
「いえす~」
「知り合いと書いてダチなのです!」
あ、小鬼がいる。
するりんと移動して、ポーチから取り出した小剣で、さっくりと倒す。影小鬼は、いつのまにか近くに来てるから危険なの。
「えっ? タマちゃんが消えた?」
「あ、あそこ!」
気がついたラビビに手を振る。
「そんな影小鬼の接近に気がつかないなんて!」
「しょうじんするる~」
注意してないと危ないよ?
「その剣はどこから?」
「気にしたらまけ~」
「そ、そうなんだ」
あれ? 何か地面が震動してる?
「タマ、何か来るのです」
「いしんでんしん~?」
この震動は、六本足。どた、どたたった、だから、兵蟷螂か鉄鋼蟻かな?
足音の間隔が、ちょっと広いから兵蟷螂のはず。
「たぶん、兵蟷螂の足音~?」
「さすがタマなのです! きっと当ってるのです」
でも、みんなの顔色が変。間違えたかな?
「どしたの~?」
「ポチさんとタマさんこそ、どうしてそんなに冷静なんですか!」
「いつもの御二人ならともかく、普段着に小剣一本じゃ敵うわけないじゃないですか!」
そう? 兵蟷螂って弱いよね? ね?
ポチも不思議そうな顔をしている。
他のみんなは抱き合って、その場で青い顔をして「どうしよう?」とかドウヨウしてる。勝てないなら、逃げた方がいいよ?
「お前ら逃げろ、カマキリ野郎がくるぞっ!」
4人くらいの大人の男の人が駆け抜けていった。
あ~、い~けないんだ~
とれいんダメ、絶対!
「そ、そうだ逃げないと」
「逃げよう、早く立てよ。ゴン、手伝って。ハンを2人で運ぶんだ。ポチちゃんとタマちゃんも、ぼうっとしてないで一緒に逃げよう」
倒さないの?
「倒しちゃうのです!」
「おっけ~」
曲がり角から姿を見せた兵蟷螂は1匹だけ。ポチと視線を合わせて頷きあう。
「ぽち~」
「たま~」
2人で小剣に魔力を通す。
「魔刃」「ご~」「なのです!」
リザみたいに赤い光を残しながら、兵蟷螂の前足をポチと2人でシュパシュパと切っちゃう。関節に上手く小剣を当てると簡単に斬れちゃうの。
足を斬り終わったら急停止して反転。
今度は地面に転がった兵蟷螂の背中を駆けて、脆い首をさっくりと切り落としちゃおう。
てぃっ。
「しゅ~りょ~」「なのです!」
2人で勝利のポーズを取る。
◇
兵蟷螂の肉は美味しくないので、あんまり嬉しくない。
ウササやラビビにも手伝ってもらって、魔核と蟷螂の甲殻を持ち帰った。迷宮の出口で、職員のお姉さんに金貨を一杯貰ったので、皆で肉をいっぱいいっぱい食べた。
もちろん、犬人の男の子達も、一緒。
屋台で買った蛙肉の串焼きは、とっても美味しい。
「いつか僕達も、2人みたいに強くなってみせるよ」
「負けないのです!」
ポチは男の子達に負けない勢いで、肉串を食べ始めた。肉はベツバラだけど、あんまり食べ過ぎるとご主人さまの晩御飯が食べれないよ~?
晩御飯のばーべきゅーは、ムテキにサイキョーでした。まる。
※補足
孤児院建設後~フロアマスター討伐に出発までの間のお話です。