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10-50.階層の主

※アリサ視点です。

※2/11 誤字修正しました。


 れべる140?

 まって、犬の頭の魔王? うそ、そんなの知らない――違う、あれは魔王なんて生易しい相手じゃない。


 そう、あれは神話に記されていたヤツだ。

 世界中の神殿を焼き、地上に降臨していた天使達を喰らい尽くした死神。


 神の軍団と戦い天竜を蹴散らした魔神の使徒。


 それが、どうしてこんな場所に?

 もしかして、わたしがいたから?

 ワタシが……。


 悪い方向にループしようとしたわたしの頭を、あいつが優しく抱き寄せてくれる。

 うん、そうだ皆を守らないと。


 不倒不屈と全力全開を併用して次元の彼方に放逐してやる。

 一回で無理なら何度でも。


 この力をくれた神様が言っていた。

 使用回数の制限は、魂のリミッターだって。

 だったら、わたしの魂を全部つかってもいい、もっとイチャラブしたかったけど、皆や愛しい相手を救えるなら安いものよ。


 今世は悪くなかった。今なら笑って死ねる。できれば来世でも、この楽天的なご主人様の傍に転生したいわね。


 深呼吸して、ユニークスキルを発動――え?


 急に目の前の光景が変わる。

 これはポチの使う瞬動? 一瞬で、わたしはナナ達のいる場所まで移動させられていた。

 わたしの無謀なご主人様は、一人で戦う気に違いない。





 魔王と一緒に転移してしまったご主人様を、空間魔法で探してみたけど見つからない。

 うそ、よく知ってる人ならすぐに見つけられるはずなのに!


「アリサ、階層の主です。一旦、後方に下がります」


 リザの指令で、みんなが後方の安全圏に避難する。

 わたしは、リザの小脇に荷物のように抱えられているが、そんな待遇に文句をいう時間も惜しい。全力で探索魔法を使うが該当なしだ。一度だけ、「全力全開」を使って探索したけど見つからなかった。まるで、この世界から「サトゥー」が消えてしまったみたいだ。


「だめっ、見つからない」

「さっきのは~?」

「魔族みたいにゾワゾワしたのです!」

「違う。きっと魔王」

「そんなっ?!」

「本当ですか? ミーア」


 ミーアには判ったみたい。


「しんぱいむよ~?」

「でも、心配なのです!」


 心配していないのはタマだけみたい。どうしてこの子はここまで信じられるんだろう。

 ルルも真っ青な顔をしているし、リザやナナだって落ち着きを無くしている。


「まったく、落ち着いてるのはタマだけか。深呼吸だ!」


 いつの間にか近くに来ていた師匠連中にどやされた。


「吸ってー吐いてー吸ってー吸ってー吸ってー」


 吸いきれなくて、ぶはっと吐き出してしまった。

 でも、少し落ち着いたかな。


「まったく、盾役はいつも沈着冷静でいろっていっただろうが」

「申し訳ないと謝罪します。マスターの危機に何もできない自分をもてあましていましたと自己分析しました」

「まったく、サトゥーは勝てない相手に玉砕を選ぶようなヤツじゃないだろう? アイツは勝てない相手なら何のためらいも無く逃げられるヤツだ。アンタ達を置いていったのは、まだ魔王と戦うには足りないと思ったのか、アンタ達の力を借りるまでもなく楽勝で倒せると踏んだんじゃないか?」


 うう、理屈じゃないのよ。感情が追いかけたがってるの!


「口止めされてるが、あんた達ならいいだろう。サトゥーは、虚空で万単位のクラゲの魔物を一瞬で倒してみせたぞ? あの冗談みたいな光景を見たらサトゥーの心配なんてするだけ馬鹿馬鹿しいと分かるんだけどねぇ」


 害獣駆除とかいいながらそんな事してたのか……。

 師匠達の話に耳を傾けながらやきもきとしていると、震度3くらいの揺れが断続的に襲ってきた。


「ゆれ~?」

「ぐらぐらなのです!」

「きゃっ、だ、大丈夫かしら?」

「迷宮は頑丈です。この程度の揺れでは崩落しないと断言します」

「この揺れは、ご主人様と魔王が戦っているのでしょうか?」

「たぶん地震じゃないかな。休火山が近くにあったから、あれが噴火したのかも」


 てか、この地震長い。震源地とか想像するのが怖いレベルね。





「ただいま。心配掛けてごめんね」

「おかり~」

「お帰りなさいなのです!」

「「ご主人様!」」

「サトゥー」

「マスター、無事の帰還を祝福します」


 ちょっと買い物に行ってましたみたいな態度でアイツは帰ってきた。

 魔王はどうしたのか聞いたら、あっさりと「倒した」とだけ答えが返ってきた。

 倒したって、あんた、そんな簡単に。そりゃ、怪我どころか服も破れてないけどさ。


 アレって、神話に出てくるようなヤツよ?

 魔王って枠の外側にはみ出てるような規格外な存在なのに……。


「お~、あれが階層の主か。どうする? 日を改めて挑戦するかい?」

「やるっ。みんないけるわね?」


 日を改めるなんてとんでもないわ!

 よかった、皆も頷いてくれた。


 暢気にフロアマスターを眺めるアイツに鼻息荒く宣言して、皆に作戦を説明した。

 わたし達だって一流の探索者だって教えてあげるんだから!


 出現したフロアマスターは、真っ赤な稲妻を体表に纏わせた赤雷烏賊サンダー・スクィッドだ。レベルは59――けっして届かない相手じゃない。水魔法と電撃も厄介だけど、一番やばそうなのは、あの目玉ね。魅了の邪眼みたいだから、早めに潰しましょう。

 でも、幾つか想定していたケースの中では、楽勝な部類に入るわね。中層に出た炎蛇みたいに物理無効の敵じゃないのはラッキーだったわ。


「アリサ、全員配置につきましたと報告します」

「おっけー」


 わたし達が配置につくまでの間に、赤雷烏賊は自分の周りに綿菓子のようなピンク色の靄を浮かべている。どうやら帯電しているらしく、パチパチとはじける音がしている。


 へたに接近戦を挑んだら、感電死して終了だったわけか。

 上層でもフロアマスターだけあって生半可な敵じゃないわね。


 三方に散ったポチ、タマ、リザの三人が、こっちに手を振っている。まったく、フロアマスターに見つかったらどうすんのよ。


「ミーア、砂巨人の準備を始めていいよ」

「ん」


 空間魔法の「格納庫(ガレージ)」に収納してあった大量の砂を地面に放出する。

 この砂を材料に、ミーアが精霊魔法の擬似生命創造で「流砂の巨人サンド・ジャイアント」を創りだす。砂は無くても作れるんだけど、材料を用意しておくと必要魔力が激減するんだよね。流砂の巨人は、電撃や打撃に強いので、序盤の盾役をやってもらおうと思っている。


 ミーアの魔力に反応して、赤雷烏賊が動き出した。


 すかさず、大広間の反対側に待機していたリザが、馬鹿げた大きさの魔刃砲を赤雷烏賊の後頭部に叩き付ける。赤雷烏賊が、一際激しく放電しながらターゲットをミーアからリザに変えて振り向く。


 いやさー、確かに作戦通りなんだけど、リザってば気合い入れすぎ。


 ポチとタマに強化魔法を掛けていたルルが、こっちに戻ってきた。

 私達の護衛役をルルと交代して、ナナが大広間に足を踏み出す。挑発は、まだ早い。ナナが5発の「理槍(ジャベリン)」を赤雷烏賊に叩き込んでターゲットを奪う。


 さらに、ポチとタマが左右から交互に魔刃砲を叩き付ける。こっちはリザと違って常識的な威力だ。そう、それでいいのよ!


 4人で順番に攻撃することで、赤雷烏賊を右往左往させる作戦は上手くいきそう。

 ゲームでもレイドボスのタゲ回しのピンポンってよくやったものよ。


 ようやく完成した流砂の巨人が、のっそりと赤雷烏賊に向かっていく。

 帯電靄を吸収しながら、平気な顔で接近してる。まあ、砂巨人に顔なんてないけどさ。





 一定の距離まで近づいた巨人に、赤雷烏賊が威圧のポーズと共に耳が痛くなるような強力な雷撃を浴びせてきた。


 うっは、耳が痛い。目は手で庇ったけど、耳がキーンとして聞こえないや。今度、防具に一定水準以上の音を遮断する機能を付けてもらおう。


 流砂の巨人は、あれだけの電撃を浴びてなお、平然と赤雷烏賊に向かって歩みを進める。それでも、3割くらい体力を持っていかれてるみたいね。耐雷タイプじゃなかったら、さっきの一撃で沈んでたかも。


 あちゃ、ポチはマトモに見ちゃったのか目を押さえて蹲ってる。他のみんなも耳がやられたみたいだから、しばらくは時間を稼がないとね。


「ミーアは大丈夫?」


 聞こえていないみたいだけどジェスチャーが通じたみたいで、ミーアがコクリと頷く。

 大丈夫みたいね。手信号で巨人を突撃させるように指示する。


 流砂の巨人が、赤雷烏賊に組み付く。赤雷烏賊が、それを嫌がるように触手を巨人に叩き付けるけど、巨人の体を構成する砂にめり込むばかりで有効打は与えられないみたい。


 打撃が効かないのに焦った赤雷烏賊が、苦し紛れにイカ墨みたいな毒霧をはき出すけど、呼吸をしていない流砂の巨人には何の効果もない。


 よっし、思ったより相性が良いみたいね。





 本年は、このお話で終了です。

 来年もよろしくお願いします!


※次回投稿は元旦です。

 年末年始の投稿予定については、活動報告をご覧ください。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 上層のフロアボスは倒されてたきがする
[一言] 狗頭を倒したのが、アリサ達がフロアマスターの前で動揺している隙って言うのが……
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